「やぁ、あんたが連絡をくれたノワールだな?」
「あぁ、そうだ。宜しく頼む、羊飼いさん。」
翌日、ランダムプレイで会員カードを作った後、六分街にあるカフェのテラス席でハイペリオンが依頼を取り付けた相手…「羊飼い」と接触していた。
パッと見、冴えないおっさんだが、情報屋としての腕は確からしい。
ホロウレイダーとして活動していく際の名前はランダムプレイで咄嗟に出たノワールにした。
無駄に凝った名前よりは覚えやすいし。
「ホロウレイダーに転職したんだって?ホロウ内で活動したことは?」
「まぁ、一身上の都合でな。ホロウ内での活動経験は…ざっと300時間くらいか?」
「……本当か?ふーむ。その左腕、義手だな?体格的にもかなり厳しい鍛え方をしていたようだし、大方防衛軍とかでドンパチやってた類いの人間だな。負傷を理由に退役とかか。」
「詮索するのはマナー違反なんじゃないか?」
…情報屋も侮れないもんだな。
この短時間である程度見抜いてくるとは。
「すまんすまん。これは期待の新人だと思ってつい…な。
そんなに睨まないでくれ。」
思わず視線が鋭くなっていたみたいだ。
「とにかく、ホロウ内での活動には慣れている。どんな依頼でも構わない、仕事が欲しいんだ。」
「良いねぇ。新人だけども仕事の選り好みはしないと。最近の若い新人はやれ、エーテリアスと戦うだの、ホロウで一攫千金だの、大言壮語が過ぎるもんでね。君みたいな堅実なタイプは珍しいんだ。」
「だろうな。ホロウレイダーってのはそんなのばっかりだ。」
取り締まったホロウレイダーにまともな奴は殆ど居なかったなぁ……。
時折頭のおかしい奴とかいたし。
なんだよ、「スロー スロー クイッククイック スロー」って、社交ダンスじゃねえんだよ。
勝手にご友人呼ばわりしてきたし、火炎放射器振り回すし酷い目にあったもんだ。
「どうした?なんか遠い目をしているが…。」
「いや、大丈夫だ、遠い過去の記憶がチラついただけだ。」
「それPTSDって言わないか?」
「大丈夫だ、問題ない。それより一番良い依頼を頼む。」
「おっとそうだったな。今俺の手元にある依頼で一番良いのは……これだな。」
羊飼いは手持ちのタブレットをスクロールし、依頼の内容を確認している。
「ヴィジョン・コーポレーションからの依頼だ。内容はラマニアンホロウ内のエーテリアス掃討。なんでも近々大規模な工事をこのラマニアンホロウで行うらしい。その前準備として、エーテリアスを指定数討伐してくれとの内容だ。色々なところに公示してるばら撒き依頼ってやつだ。ノワール、あんたは経験豊富みたいだが、肩慣らしには丁度良いんじゃないか?」
「了解した。あー、ちなみにキャロットデータとか、ボンブの貸出とかはやってるか?」
『(マスター、私と言う超有能AIがありながら他所のボンプを頼るのですか?)』
「(お前は有能過ぎるからいざって時に頼らせてもらうさ。ここでこう言って置かないと後で怪しまれることになる。)」
『(そういうことでしたら何も問題ありません。)』
こいつ…直接脳内に語りかけてきやがって…。
「そうだなぁ、あるにはあるが…それならプロキシを紹介しよう。最近新進気鋭のプロキシが居てな。腕は良いぞ、俺が保証する。」
プロキシかぁ。まぁ、道案内して貰うだけだし、騙して悪いがされてもハイペリオンが最悪何とかしてくれる。
「分かった。そのプロキシに道案内をお願いしよう。」
「決まりだな。パエトーンって名前のプロキシだ。現場で落ち合ってくれ。」
────────────────────────
「貴方がノワールさん?パエトーンだよ、よろしくね。」
「羊飼いから聞いているよ。ノワールだ、宜しく頼む。」
依頼で指定されたラマニアンホロウ内で人語を喋るボンプと出会った。
声的に若い女性だろうか?ボンプの声帯モジュールにない声だな。
お手製の声帯モジュールに改造したのか?
「だいぶカスタムしてるんだな、そのボンプ。それなりに年季の入った型番のやつだろ?」
「へぇ、分かるんだ。もしかしてボンプに詳しい?」
「ある程度はな。しっかしどこかで見た事ある様な…?」
オレンジ色のスカーフ…最近見た気がするんだが…。
「そ、それよりエーテリアスの反応だよ!ここから3時の方向、数は5体、距離は約30メートル。どうする?一体ずつ仕留めるなら…「仕留めてこよう。」え?ちょっ」
周囲のコンテナに義手からワイヤー射出して飛び上がり、エーテリアスの数と位置を確認する。
いるのは通常のエーテリアス、人型で片腕が異形の刃になっているやつだな。
そのまま真上から強襲するか。
着地の衝撃でエーテリアスを吹き飛ばし、その隙に槍を生成する。
最初に起き上がったエーテリアスに片手突きを放ち、その胴を穿つ。
後ろから飛びかかってきた2体は横薙ぎで纏めて両断。
残り2体が左右から挟撃を仕掛けてきたので、槍を地面に刺して固定し、腕力だけで空中に身を投げる。
空振った1体を空中で引き抜いた槍で地面に縫い付け、着地の勢いを殺さずもう1体に肉薄し、殴り飛ばす。
「こんなもんだな。肩慣らしにもならない。」
「大丈夫!?ってえぇ?!もう仕留めたの!?」
後ろからパエトーンが追いついてきた。
「すごいな、あの距離からエーテリアスの位置が分かるのか。羊飼いの言っていた通り、優秀なんだな。」
「いやいや!ノワールさんの方が凄くない!?こんなにあっさり倒しちゃうなんて…。」
ボンプが身振り手振りで感想を伝えてくれる。
「これくらいは朝飯前ってね。よし、この調子でどんどんやろうか。」
「勿論!ここら辺一帯のエーテリアスを殲滅しちゃおう!」
────────────────────────
「やり過ぎちゃったね……。」
「やり過ぎたかもな……。」
依頼にあったエーテリアスの討伐依頼数は20。それ以上は別途追加報酬ありだったので、調子に乗ってエーテリアスを片端からしばき回していたところ、半径10Km圏内からエーテリアスの反応が消えてしまった。
「全部で何体倒したんだろうな?途中から数えるの諦めてたわ。」
「えっとね、今集計してるんだけど……全部で238体だよ。」
お、それなりに倒してたな。追加報酬は218体分か。結構いい値段になるんじゃないか。
「追加報酬は1体につき5000デニーだから、259万デニー!!?」
「基本報酬が10万デニーだから269万デニーか、胸が熱くなるな!」
「すっごーい!これだけあれば暫くお金のことは気にしなくて良さそう!っていうかノワールさん!身体の方は大丈夫?侵食の影響とかは?」
「ん?ああ、問題ないよ。侵食耐性は人一倍高いらしくてな、それなりの時間はホロウ内で活動出来る。」
本当はハイペリオンお手製防護マスクのお陰でもあるんだけどな。
「それで…報酬の件なんだけど…。」
「ん?折半でいいだろ?」
「良いの!?エーテリアス倒したのはノワールさんだよ?」
「それはエーテリアスの位置を迅速かつ的確に伝えてくれたパエトーンのお陰でもある。遠慮すんな、これからも良しなにってな。」
「じゃあ、ご厚意に甘えさせてもらうね!また依頼があったら連絡しても良い?」
正直プロキシを侮っていたな。ここまでホロウ内での活動が楽になるとは…。
「勿論だ、連絡待ってるよ。」
こうしてパエトーンと共にラマニアンホロウを出たのだった。
────────────────────────
翌日。
「お前達やり過ぎだぞ……。ヴィジョン・コーポレーションから苦情がきた。こっちを財政難にさせる気かって。」
「大手企業なんだからこれくらいでケチ言うなよ、みみっちいなぁ。」
六分街のカフェで羊飼いからクレームがきたが、追加報酬に上限を設けなかったのが悪い。
「まあでも助かったよ。ヴィジョンとの報酬の交渉してくれたんだろ?」
「当然だ。俺の出した依頼で損はさせたくない。」
なんだかんだと言って律儀だよな。
しかも大企業相手に交渉できる当たり、実は相当なやり手なのかもな。
「で、どうだったパエトーンは?」
「プロキシに対する認識がガラッと変わったよ。あそこまでホロウ内での活動が楽になるとは思わなかった。個人的に連絡先も交換させて貰ったよ。」
「そいつは上々だ。あいつらは優秀だが、まだ若い。目を掛けてやってくれ。それじゃあ失礼するよ。」
あいつら…?
そう言えば、ホロウ内でよく分からない謎のビデオテープの様なものを見つけたから、ランダムプレイで見てもらうと思ってたんだ。
注文してから時間が経ったせいか、ぬるくなったコーヒーを飲み干してランダムプレイへ向かう。
店のドアを開けるとアキラの姿はなく、代わりに紺色の髪の女の子が店番をしていた。
「済まない。店長のアキラはいるだろうか?」
「いらっしゃいませ。この前会員カード作ってくれたお客さんだよね。確か名前は…」
「ノワールだ。」
「えっ!あ、いや、ノワールさんね!お兄ちゃん呼んでくるから適当に待ってて!」
お兄ちゃん…アキラの妹か。
家族経営ってやつか。
妹がバックヤードに引っ込んだ代わりにレジに経ったのはオレンジ色のスカーフを巻いたボンプだった。
あっ
「お待たせノワールさん。何か用が?」
バックヤードから出てきたアキラに恐る恐る尋ねてみる。
「なぁ、お店のボンプってここ以外でも働いてる?」
「いや、特にそんなことは無いけれど、どうしたんだい?」
アキラの額にうっすら汗が滲んでるな…。
これは当たり…か?
「あー、ぶっちゃけると俺はホロウレイダーやってるんだか、この前店のボンプと非常に酷似したボンプと一緒にホロウで依頼をこなしたんだ。」
「そ、そうだったんだ。身体を鍛えているみたいだし、ホロウレイダーと言われて納得だ。」
アキラの目が泳ぎ始めたな。
しかもバックヤードの方に視線が移ってる…。
「しかもそのボンプはプロキシが直接操作しているように見えた。ホロウ内外での通信が可能だなんて聞いた事無いが…その時聞こえた声が、どうもお前さんの妹の声と似ていたんだ。」
「他人の空似ということもあるし、声が似ていることもあると思う。」
まだシラを切るつもりらしい。
「この前ちらっと見えたバックヤードにはやたら画面や機材が多かったよな?羊飼いも言っていたよ、あいつらは優秀だがまだ若いって。」
ここまで証拠が揃えばほぼ間違い無いだろう。
アキラはじっとこちらを見てくる。
「お前さん達がパエトーンだな?」
「ご明察のとおり、僕達がパエトーンだ。」
「そっか、なら今後とも宜しくな。」
「…僕達を責めないのかい?」
アキラは何やらバツが悪そうにしているが、あれか。
自分達だけ一方的に知っていたことに罪悪感でも感じてるのかね。
「責める理由がない。プロキシ業も立派な裏稼業、基本的に隠すが吉だろ。」
「そう言って貰えると助かる。後前回の依頼の報酬についても感謝を。お陰で暫くは節約しないで済みそうだ。」
「気にすんなって、そっちにも色々と事情が有るんだろうし。」
「しかし、まるでドラマの探偵か治安官に詰問されているかのような凄みがあったよ…。」
「まぁ、昔取った杵柄ってやつだ。」
アキラと談笑していると、バックヤードから妹の方が顔を出してきた。
「お兄ちゃん…?大丈夫そう…?」
「ああ、大丈夫だとも。今後とも宜しくって話をしたところさ。ノワールさん紹介するよ、妹のリンだ。」
「改めましてリンです。この前はありがとね。」
「ノワールだ。ホロウでも色々と世話になると思うが宜しくな。」
こうしてパエトーンとの交流を終え、初めての依頼は成功したのだった。
メリュジーヌ「メインヒロインの出番は!?」
A:(しばらく)無い(かも)です。