偽・虚狩り〜ホロウレイダー堕ちをかました元治安官〜 作:初楼
「エデちゃん、その人はまだまだ本気を出してないよ〜。エデちゃんにはちょっと荷が重いかも。」
俺と彼女…エデと呼ばれた馬のシリオンの女性の間に現れたのは、背の低い兎のシリオンだった。
一見して可愛らしい見た目と声だが、その手には無骨な大剣が握られている。
「照(ザオ)、私では勝てないと?」
「うん。私が見てもちょっと底が見えないというか、まだまだ隠し持っている手札が有りそうって感じかな。後照ちゃんって呼んでね?」
どうやら相手の上司的な立ち位置の人物らしいな。
この場を納めてくれるならありがたい話だ。
(ハイペリオン、ハッキングの進捗は?)
(現在81%となります。)
「それに〜、エデちゃんは目的をちゃんと理解してる?今回はポーセルメックスに対する監査の事前調査。資料の回収だよ?この人と戦う事じゃないよ〜?」
「それは…分かっていますわ。」
彼女は上司に注意されてバツが悪そうにしている。
何やら説教されているうちにハッキングが完了すれば良いんだが…。
「回収する資料の媒体は問わないって言ったよね?書類でも良いけど、例えばハッキングでコピーしたデータとかね?」
そう言ってザオと呼ばれた兎のシリオンが此方を見てくる。
ハッキングしてるのばれてーら。
「自己紹介がまだだったね。私はクランプスの黒枝、照(ザオ)だよ。宜しくね、ノワールさん?」
クランプスの黒枝…!TOPSの内部監査部門の裁定官とかとんでもない大物が現れたな。
しかも名前と顔(仮面)を覚えられているときた。
「TOPSの裁定官サマがなんの要件だ?」
「エデちゃんに襲われていたところを助けてあげたんだから、そのお礼が欲しいなって。等価交換だよ。」
「何が等価交換だ、そっちの手勢で襲わせといて。そう言うのはマッチポンプって言うんじゃないか?」
「ふぅん?あんまり手荒な真似はしたくないから、穏便に済まそうって話なんだけど、良いの?こんな所で時間掛けちゃって。依頼主と合流したいんじゃない?」
ライオネル氏の事についても把握済みってことか。
つくづくTOPSの情報網は末恐ろしいな。
「…分かった、取引に応じよう。ただし、条件としてタイムフィールド家への責任追及は無しにしてくれ。ここの人体実験は完全にポーセルメックスの独断だ。」
「その件については、裁定に考慮すべき事項として報告させて貰うよ。」
ふぅ、とりあえず最低限の譲歩は引き出せたな。
こういった腹の探り合いは苦手なんだよなぁ。
「とりあえず人体実験の資料データはコピーしているが、手元に渡せる媒体が無くてな。後日に手渡ししたいんだが、何処に連絡したらいい?」
「そう言う事なら、こっちから君のアカウントに連絡させて貰おうかな。必要なら正式にクランプスの黒枝から依頼という形にするよ。」
「なら依頼ということにしてくれ。こっちも好き好んでTOPSと敵対したい訳じゃない。」
そう言うと照はにっこり笑って
「流石、タイムフィールド家のご当主が贔屓にしてる最優のホロウレイダー。ならず者とは思えない丁寧な対応だね。」
最優のホロウレイダーってなんだよ?
「この方が最優のホロウレイダー?」
「そうだよ、エデちゃん。要注意敵対人物に指定されていたでしょ?」
え?要注意敵対人物?
「指定された人物とは不用意に戦闘せず、穏便に事を済ませること。何故なら戦闘になった場合、此方側も作戦に支障が出るほどの損害を被る可能性がある為、だったかしら。」
「そうそう。でもエデちゃんすぐに突っかかって行っちゃったね。相手との戦力差はしっかり感じ取らないと。正直照ちゃんだったら、まともに戦わないかなぁ。」
なんかすげぇ危険人物に認定されてますこれ?
「このスカートの中を覗くような人がそこまで強いと?」
「それはエデちゃんがスカートで上段蹴りしたからでしょ?」
そうだそうだ、もっと言ってやれ。
「ん〜じゃあ、ノワールさんとのやり取りの窓口は、エデちゃんに任せるね。」
「はぁ!?」
はぁ!?
「だってこの人と戦って楽しかったんでしょ?自分の力が届かなかったノワールさんに興味が湧いたんじゃない?それに黒枝になるにはこういう対応経験も必要だよ。」
「…ぐっ……むぅ……分かり、ましたわ。」
えぇ、不承不承だけど了承しちゃったよ。
「確かに、貴方との戦いに心踊ったのも事実。今まで私と戦って平然としているのは貴方が初めて。スカートの件についても、こちらにも非があることを認めましょう。
そして、そこまでの力を持ちながらホロウレイダーに身をやつしている貴方に興味が湧きました。」
彼女は此方に向き直り、流麗な所作でカーテシーをし、
「私の名前はエーデルフラウ・カールミンロート。TOPSに名を連ねるカールミンロート家の次期当主よ。以後お見知りおきを、ノワール様。エデとお呼びくださいな。」
そう言って不敵な笑みを浮かべるのだった。
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「…という訳で、クランプスの黒枝候補に対する試験というか実習とバッティングしましてね。施設からの離脱に時間が掛かったんですよ。」
数時間後、衛非地区にある港でライオネル氏と無事合流し、事の顛末を伝えていた。
「そんなことが…。まさか裁定官が来るほどの事態に発展していたとは思わなかったよ。」
「えぇ、全くです。ポーセルメックスの実験データについては、後日提出を求められましたが、タイムフィールド家への責任追及については考慮して貰えそうです。」
「そこまでして危険な橋を渡らなくても良かっただろうに。だが、裁定官と交渉してくれたことは非常に感謝している。」
ライオネル氏の顔はやつれているが、その頭の中では本件をどう利用するか思考を巡らせていることだろう。
「そう言えば、あの子…柚葉はどうなりました?」
「彼女はタイムフィールド家で保護したよ。今はお抱えの医者を呼んで診てもらっている。」
「今後はどのようにするつもりで?」
「タイムフィールド家の養子として迎えるつもりだよ。歳の近いアリスにとっても良い刺激にもなるだろうからね。」
良かった。
タイムフィールド家であれば心配することも無いだろう。
「えぇ。彼女のこと、宜しくお願いします。」