偽・虚狩り〜ホロウレイダー堕ちをかました元治安官〜 作:初楼
「羊飼いさん、カールミンロート家についての情報がほしい。」
「カールミンロート家か、最近TOPS絡みの案件が多いからな。目を付けられたのか?」
「まぁ、そんな所だ。」
六分街のカフェにて、羊飼いからカールミンロート家の情報を提供して貰っている。
(マスター。私に任せて貰えばものの数分で当主のスキャンダルまで丸裸ですよ。)
(お前は切り札なんだ。こうして情報屋から情報を入手したって痕跡を残す事で、お前の存在を隠すことができる。
本当に必要な時は頼むよ。)
(分かりました。)
ハイペリオンは不満気だが、本当の切り札は最後まで伏せておくものなのだ。
「カールミンロート家は代々TOPS財政ユニオンの中枢に位置する名家だ。TOPSの中でもかなりの武闘派だな。力こそ正義って感じで、後継者も血縁からじゃなくて完全な実力主義で決めているらしい。」
羊飼いがタブレット片手にスラスラと情報を読み上げている。
「現当主はジークバルト・カールミンロート。元クランプスの黒枝の裁定官で、今はTOPS内の各企業に警備員を派遣するTOPSの警備部門の元締めだ。愛妻家で、子供は3人。好物は妻が作った肉じゃが。嫌いなものは賄賂と軟弱者。趣味はガーデニングとゴルフだ。最近だと人参を育てているそうだ。」
「え?そこまで情報を?流石は羊飼「全部TOPSのホームページで公開されてる情報だぞ?」…おい。」
良くも悪くも豪快な人物ってことか。
「なら、その家族については?」
「家族については完全に情報が秘匿されている。何かと狙われる立場にあるからな、ある意味当然だろう。」
羊飼いはタブレットを机に置いて意味深な視線を向けて
「ノワール。あんたは確かTOPSが嫌いだったと思ったが、どういう風の吹き回しだ?最近はTOPSに連なる名家からの名指しの依頼が多いじゃないか。」
と聞いてきた。
まぁ、最近はライオネル氏からの依頼が幾つかあったからな。
「受ける依頼については問わないって言ったろ?それにTOPSも一枚岩じゃない。幾つかの派閥が有ってその中には好感を抱ける人も居たってことさ。」
「……そうか。くれぐれもTOPS内の勢力争いに首は突っ込むなよ?お前さんのような信頼出来るホロウレイダーは貴重なんだから。」
TOPS内の勢力争いに巻き込まれれば、場合によって消されかねないってことか。
…半ばタイムフィールド家の勢力って思われてもおかしくないかも…。
「忠告感謝するよ。また依頼が有れば連絡をくれ。」
「勿論だ。これで俺は失礼するよ。」
そう言って羊飼いはコーヒーを飲み干して去っていった。
さて、俺も帰りますかね。
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自宅アパート前に見覚えのある人影が見えた。
印象的な赤いドレスを身にまとった馬のシリオンが、赤色のキャリーケースを持って佇んでいる。
えぇ……?
あ、チラッとこっち見たな、完全に身バレしてる感じだ。
「あの〜、お嬢さん?資料を渡す日はまだのはずなんだが…?」
「………。」ツ-ン
なんか腕組みしてそっぽ向いてやがる。
耳が後ろにやや倒れて、右足で地面をかく仕草もしている。
尻尾もユラユラと揺れている。
「エーデルフラウ・カールミンロートさん?」
「……………。」プイッ
もしかして怒ってらっしゃる?あれ?資料データの引渡しは1週間後のはずだったんだが、日付間違えたか?
「……エデ。」
「ん?」
なんか小さい声で言ったな。
「エデ、と呼んでくださらないと返事しませんわ。」
あーそう言えば、そんなこと言ってた気がする。
「分かったよ、エデ。一体何の用だ?」
「勿論、手合わせに来たのですわ。」
……手合わせ……?資料は………?
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「どうぞ、粗茶です。」
「あら、本当にお粗末なお茶ね。」
「……ふんっ。」
メリュジーヌがお茶の入った湯呑みを机にゴンッと置いて台所に戻って行った。
なんかすげぇ不機嫌だな。
「…で、手合わせってどういうことだ?資料の提出は1週間後だし、そもそも何故ここが分かった?」
「情報屋から情報を買いましたわ。」
羊飼いめぇ……。今度しめてやるか。
ホロウ内で仮面をしてても、匂いや声で意外と身バレするらしい。
特にシリオンは五感が鋭いから、割と気付く奴は気付くそうだ。
「そして手合わせについては、クランプスの黒枝からの正式な依頼でもありますわ。」
「正式な依頼…?お前との手合わせが?…父親に無理くり捩じ込んで貰ったのか?」
「あら、此方の事について既に調べているのね。残念ながら父は直接関係ないわ。黒枝のボスから貴方に鍛えてもらうよう言われたのよ。」
「裁定官のトップからか。」
エデの説明によると、ポーセルメックスの研究施設の件は世間に公開されることなく終わるらしい。
ただ、TOPS内での序列というか格付けが下げられるという処分が内々で決まったようだ。
ポーセルメックスも大企業だし、TOPS内での地位もそれなりだから、今回の件で失脚とはならなかったのは残念だ。
で、本件の報告には当然、俺のことも含まれる訳で。
俺に興味を持った黒枝のボスが、裁定官候補のエデに対して稽古を付けて欲しいとのこと。
並の者では彼女の怪力に歯が立たず、稽古の相手にすらならいとか。
何で部外者の俺にと思ったが、どうやらTOPS内でそれなりに話題になっているらしい。
タイムフィールド家が重用する最優のホロウレイダー。
依頼の達成率が非常に高く、依頼主への礼節を弁えてる。
何よりも戦闘技能がずば抜けて高く、TOPS内でも取り込むか排除するかで、意見が割れている。
なんとも耳が痒くなるような評価を頂いているみたいだ。
「ボスはTOPS内での勢力の均衡が崩れないか心配しているわ。現にポーセルメックスとタイムフィールド家に対して影響を与えている貴方が今後どういった動きをするのか。その見極めも兼ねている訳よ。」
「むしろその見極めがメインだろ。」
「なので、私もしばらく貴方の部屋に宿泊させて貰うわ。」
「はいぃ?」
「何それ!?」
台所で話を聞いていたメリュジーヌも驚いて出てきた。
「こんな高飛車な人と一緒に暮らせないんだけど!?」
「あら、それなら貴方が部屋を出れば良いのでは無くって?」
「はぁ〜!?」
メリュジーヌとエーデルフラウ。
水と油みたいに合わないなぁ。
メリュジーヌの意見を尊重したいところだが、この依頼を
蹴って黒枝に睨まれるのも困る。
それに…エデはあんな挑発するようなことを言っているが、やっぱり緊張しているみたいだな。
耳が少し震えているし、尻尾もやや落ち着きがない。
表情も取り繕っているが、依頼を受けて貰えるか不安って感じだ。
不安に苛まれた心を必死に隠しているところが、助けたばかりのメリュジーヌを彷彿とさせた。
……メリュジーヌは六分街の皆に良くして貰っている。
だが、メリュジーヌ自身が何処か遠慮している節がある。
本音で話せる相手は居ないだろう。
今エデと本音で言い争っているのが珍しいくらいだ。
メリュジーヌにも良い刺激になるかもしれない。
「分かった、依頼を受けよう。」
「えぇ!?本当に!?」
「…えぇ、依頼を受けてくださってありがとうございます。」
メリュジーヌはぐぬぬと唸っているが、此方の意見に異を唱えるつもりは無いみたいだ。
エデは澄ました表情をしているが、内心で安堵しているのが分かる。
「とりあえず、空いてる部屋を使ってくれ。稽古については明日からだ。」
「分かりましたわ。早速荷解きをさせてもらいますわ。」
「そういや荷物はキャリーケース1つだけか?」
良いとこのお嬢様なんだし、後からダンボールが何個も送られてくる可能性があるんだよなぁ。
「勿論ですわ。カールミンロート家の一員たる者、その身ひとつで戦場を生き抜くこと。余計な荷物は持たない主義ですわ。」
「余計な荷物もってるじゃん。」
とキャリーケースを指差すメリュジーヌ。
「殿方の自宅に宿泊するのだから、最低限の準備をするのが礼儀でしてよ。確か白がお好き…だったかしら。」
頬を赤く染めつつ意味深な笑みを浮かべるエデ。
どちらかと言えば黒派なんだが…。
メリュジーヌが意味深な笑みを浮かべるエデを見て
「…?……!えっ!?なに!?浮気なのっ!!??」
「してねぇよ!見え透いた挑発にのんな!」
「あら、あんなに激しく動いていたのに…。」
「………。」スンッ
おーい、メリュジーヌ?…こいつ、息してねぇ…!