あれから7日間、エデの実践稽古はラマニアンホロウ内で行った。
教えたのは主に相手の虚を突く方法と気配遮断の仕方。
エデに足りないのは戦闘を優位に進めるための技術だ。
なので、ホロウ内でひたすら組手をやった。
意外だったのが、メリュジーヌも稽古に参加すると言ってきたことだった。
メリュジーヌ、実は戦えたらしい。
いつの間にか飛行をサポートする補助翼と剣身を展開できる籠手を購入していた。
戦闘スタイルはエデと真逆の超スピードタイプ。
補助翼を使用した飛行は音速を超えた速度を叩き出し、クイックターンやクイックブーストなどのマニューバもお手の物だった。
唯一弱点と言えば紙装甲なので、一撃を貰うだけでダウンするくらいか。
いやでも強くね?
実際エデといい勝負をしていた。
超スピードで翻弄してくるメリュジーヌに対し、カウンター狙いでエデは迎え撃った。
最初はメリュジーヌが勝っていたが、エデが徐々に速度に慣れてきたのか、カウンターを当てれるようになり、結果勝率は五分となった。
「はぁ、はぁ…疲れた…。」
「えぇ…同感ですわね……。」
「2人ともお疲れ様。休憩にしよう。」
稽古を終えて地面に座り込んでいる2人にスポドリを渡しておく。
今回の稽古でエデの戦闘技能が向上したようで安心した。
やっぱ実戦に勝る稽古は無いってことだな!
「何で…あんなに生き生きしているのかしら……?」
「きっと…ドSだからだよ…。人を苛めることで興奮するんだ……。」
「そうなんですの……?」
「そうだよ…。昨晩だって「もう一本組手やるか?」なんでもありませ〜ん…。」
まったく、仲良くなるのは良いが、余計なことを言わないで欲しいもんだ。
むしろ苛められて悦んでいたのはそっちだろうに…。
─────────────────────────
1週間の実践稽古は無事終了した。
メリュジーヌもこれを機にホロウ内での活動に参加するようだ。
そこで話に挙がったのが、チーム名についてだった。
俺は今までソロで活動していたが、ホロウ内はチームで動く者も多い。
メリュジーヌも今後一緒に活動するならチーム名も必要になってくるだろう。
幾つか候補に挙がったのが、
アヴァロン(メリュジーヌ案)
マキシマム(エデ案)
アルビオン(メリュジーヌ案)
等々だった。
なかなかチーム名が決まらない内にメリュジーヌがソファで寝てしまった。
流石に7日間の稽古で疲れが蓄積していたようだ、かなり深く寝入っている。
机にエデが入れてくれたコーヒーもあったが、カフェインだけじゃ起き続けられなかったか。
「ちょっとメリュジーヌを部屋に運んでくるよ。」
「…えぇ、私も少し席を外しますわ。」
メリュジーヌを抱えて部屋に入り、ベッドに寝かせてから布団を被せる。
その寝顔はいつにも増して美しく、神秘的とさえ言える程だ。
しばらくの間メリュジーヌの頬を撫でたり、髪の毛を梳いたりした後、満足したのでリビングに戻ると
「……やっと戻ってきましたのね。メリュジーヌが起きてそのままおっぱじめたのかと思いましたわ。」
黒色のネグリジェだけを身に纏ったエデが立っていた。
耳や尻尾が忙しなく動いており、顔は紅く染まっている。
その豊満な肢体と恥じらいの表情につい魅入ってしまった。
「ゴホン。エデ。お前は良いとこのお嬢様だぞ。メリュジーヌから俺に好意があると何となく聞いていたが、自分をもっと大切にするべきだ。」
「本当に優しいのね…。視線は私の身体に釘付けなのに、そうやって気を遣ってくださる…。でも、乙女の覚悟も尊重して欲しいものですわ。」
そう言ってエデが眼前まで歩いてくる。
上品な刺繍と黒色の薄い生地に包まれた胸を見下ろす形になってしまう。
で、でかい…!視線が胸の谷間に落ちていく…!
…?
異様に昂っている自分に気付き、ハイペリオンに自己診断プログラムを起動させると
(マスター。体内から媚薬成分及び筋弛緩剤を検出。端的に言って一服盛られましたね。)
「あら、ようやくお気付きになったのね。先程のコーヒーにこう、ドバッとね?」
や ら れ た !!
不味いぞ…。TOPSの名家のご令嬢しかも次期当主に手を出したら、そのまま消されるか、弱味を握られて馬車馬のようにこき使われるか、どちらにせよろくな事にならないぞ…!
「め、メリュジーヌっ!!起きろぉ!!」
「ふふっ、勿論メリュジーヌのコーヒーには強力な眠剤を入れさせて貰いましたわ。機会を譲ってくれると言っていたのに、一向に寝てくれなかったのでつい。一晩は起きませんわ。」
エデは上品に微笑んでいるが、その瞳は笑っていない。獲物を前に全力で狩りを全うする狩人の目だ。
「カールミンロート家は代々強者と婚姻を結ぶことで力を付けた。それ故に強者の血を求めるのよ。私、貴方の血に酔っていますわ。」
「狩人が血に酔ったらそれは獣なんじゃないか…?」
「我が家では狩りに優れ、無慈悲で、血に酔っているのが良い狩人と言われているわ。それに…人は皆獣よ…?」
そう言ってエデが正面から抱き着いてきた。
押し当てられ柔らかく潰れた胸の感触と、鼻腔をくすぐる薔薇の様な香りに理性が削られていく。
「ひ、引き返したまえ…!」
「嫌よ。」
さらにぎゅっと腕に力を込めるエデ。
密着感が増して体温が直に伝わってくる。
「周囲の状況を見極めて布石を打つ。相手の意識外から攻める。この1週間で貴方に教わったことよ。どう?」
「出来れば戦闘で活かして欲しいところ…っ!」
やばっ、身体を完全に拘束された…!
素の身体能力はエデの方が圧倒的に上、筋弛緩剤を飲まされたこの状況では抜け出せない…!
(ハイペリオン!筋弛緩剤の成分だけでも中和してくれ!)
(…現在成分を解析中…しばらくお待ちください…。解析完了。中和まで残り52分。)
ガッテム!
その間に美味しくいただかれちまう!
「むぅ…。まだその気になってくださらないのね。後一押しってところかしら。一体何が嫌なんですの?」
「今お前に手を出したら、俺を信用してお前を預けてくれた依頼主(照さん)に顔向けできない。さらに言うとお前の父親に消されそう。」
今の仕事は信用信頼で成り立っているようなもんだ。
武力だけでどうにかできる仕事ならここまで気を遣わない。
臆病者と呼ばれようと構わないっ!
今の生活を守るためなら、男として失望されるような据え膳全拒否だってやってみせる…!
「まぁ、そんな事を気にしていたのね。照と実家には既に報告済よ。お父様は早く孫の顔が見たいと仰っていましたわ。」
「なん…だと……?」
「それに貴方、勘違いしているわ。貴方が私に手を出すのではなく、私が貴方を食べるのよ?よろしくって?」
こうして哀れな獲物は狩人に美味しく頂かれましたとさ。
我ら血(性癖)によって人となり、人を越え、また人を失う。
(自らの性癖を)知らぬ者よ。
かねて血(性癖)を恐れたまえ。