「ふぅーーー…腹上死するかと思った……。」
結局筋弛緩剤の中和が済むまで間、ひたすら貪られ搾り取られた。
しかしそのままやられっぱなしは性に合わないので、中和が終わった途端に形勢を逆転させ、半ばお仕置きのような形で苛めぬき、ノックアウトしてやった。
ふっふっふ…攻めだけ強くても守りが弱ければこんなもんよ…。
……さて、メリュジーヌになんて言い訳しようか…?
とりあえず疲労感半端ないから寝て、明日の朝考えよう。
メリュジーヌは起きるの遅いし。
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翌朝。
「おはようノワール。昨日はお楽しみだった?」
…言い訳を考える時間もなく懺悔の時間が来たようだ。
白色のキャミソールに黒色のホットパンツを履いたメリュジーヌは確信に満ちた表情だ。
まるで犯人のトリックを暴いて追い詰めた探偵の様な雰囲気さえ感じる。
これは下手な言い訳はできないな…。
「おはようメリュジーヌ。随分と早起きだな?」
「話を逸らすのは、犯人が言い逃れをする時の常套句。つまりノワールは今、後ろめたい気持ちがあるから話を逸らそうとした!」キリッ
メリュジーヌはどこからともなく取り出した眼鏡を着け、俺の周りをゆっくり歩いている。
「私は以前からエデからノワールへの好意に気付いていた。そして彼女の性格上、隠れてコソコソすることは無い。故に堂々とノワールを襲う可能性は高かった!」
…なんかアニメかドラマの影響を受けたんだろうか、話し方まで探偵みたいになってる。
「そこで私は考えた。襲わせちゃっても良いじゃない、と。」
「まーてまてまて!ストップ!ちょっと待って!」
「えぇー?これからいい所なのに。」
なんだが頭痛が痛くなってきた…。
口ばしを尖らせて抗議するメリュジーヌを尻目に目頭を抑える。
「何故そう考えた?」
「うーん…ノワールってさ、意外と優しいじゃん?見ず知らずの誰かを助ける為に、命を掛けて戦ってくれる位には。」
「なんだよ、藪から棒に…。」
「それってさ、助けられた側としては色々思うところがあるの。私の知らないところで命掛けてるのかなって。」
「……ホロウレイダーは命懸けの仕事だぞ。」
「知ってる。けど心配にはなるんだよ?だから、繋ぎ止めておく楔が必要だと思ったの。」
楔…?
「命懸けの仕事なのは分かってる。それでも生きて帰ろうって思える様な何かが必要だってね。」
「ふむ、成程一理あるな。」
「だから、ノワールを愛する人を増やせばきっと重しになって命懸けの行動も減るかなって。」
んん…?理屈が合ってるような、そうでもないような…?
メリュジーヌの瞳からハイライトが消えて濁ってる。
「はいっ、それでは推理に戻ります!エデの性格と行動を高度な頭脳戦によって予測した私は先手を打つことにしました。」
「その先手とは?」
「良い質問だね助手くん!ズバリ、ノワールを襲う機会を与えると言うものさ!」
犯人が助手になってますよーガバガバ設定探偵さーん?
…ん?そう言えば昨日の夜エデが「機会を譲ってくれると言っていたのに…」って言ってたなぁおい!
「つまり!私は昨日ノワールとエデがそーゆー事をすると知っていたのだよ!これが私のアンサーだ!」
「教唆犯!?」
メリュジーヌのこめかみを両手の拳で挟みグリグリと捻りあげる。
メリュジーヌの身体は軽いからそのまま持ち上げてやった。
「痛い痛い痛い痛い!?」
「……朝から何をやっていますの……?」
部屋から起きてきたエデが訝しげに見ていた。
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朝の乱痴気騒ぎも一段落したので、皆で朝食を頂くことにした。
朝食をテーブルの上に並べて食卓を囲んでいるとふと気になったので聞いてみた。
「エデ、身体の方は大丈夫か?」
「えぇ、問題無いわ。」
食パンにベーコンと目玉焼きを載せて食べるエデの顔はやや赤くなっている。
メリュジーヌはニヤニヤしながら
「昨夜はお楽しみだったね〜?」
とエデを揶揄うが、エデはあっけらかんとした表情で、
「勿論、存分に愉しませてもらいましたわ。改めて、機会を譲ってくれた事に感謝を。」
「…まぁ、うん。それなら良かった。」
神妙な顔で頷くメリュジーヌ。
「いや良かねぇよ?まじで終わったかと思ったんだからな?除け者にされると流石に堪えるぞ?」
なんか勝手に色々決められていたのは釈然としない。
「だって……。」
なんか含みのある感じだな、メリュジーヌ。
「エデだけ愛称で呼ばれてるのずるい……。」
「それはこいつがそう呼ばないと返事しないっていう幼稚な行動「ふんっ」ガッ…拗ねたからだ。」
机の下で脛を思いっきり蹴られた。
そういう所が幼稚なんでしてよ?
「つまり、メリュジーヌも愛称で呼んで欲しいと?だから俺だけ除け者にしたと?」
コクコク。
メリュジーヌは食パンを頬張りながら首を縦に振っている。
なんかリスみたいで微笑ましいな。
「ちなみに愛称は考えたのか?」
「色々考えたんだけど、やっぱノワールに考えて欲しいなって。……だめ?」
瞳をウルウルさせて上目遣いで見てくるメリュジーヌ。
うーん……。
「ちょっと変則的だが、メヌでどうだろう?」
「メヌ…うん!」
「良いんじゃないかしら。可愛らしい名前ね。」
メリュジーヌをメヌと呼ぶことになったが、まさか愛称で張り合うとは思わなかったな。
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「1週間、お世話になりましたわ。」
エデが荷物を纏めて玄関先に立って別れの挨拶をしてきた。
メヌが物悲しい表情をしているのを見て、エデも少し寂しそうだ。
最初はいがみ合うばかりかと思ったけど、存外仲良くなってくれたもんだ。
「裁定官にはなれそうか。」
「えぇ、なってみせますわ。」
才能もあり、自己研鑽を欠かさない彼女なら問題なく裁定官を務めることができるだろう。
「人手が欲しければ連絡してくれ、何時でも力を貸そう。」
「ふふっ、そんな事を言われてしまうと些事な案件でも呼んでしまいますわよ?」
「なら、些事を終わらせた後はデートにでも洒落込もう。」
「もう…。」
ようやく少しだけ笑ってくれたな。
エデは初めて出会った時と同じように流麗な所作でカーテシーをした。
「ではご機嫌よう、ノワール様。メヌも、夜更かしは程々にね。」
「あぁ、達者でな。」
「うん、またね。」
玄関ドアが閉まる音が静かに響いた。
この1週間はあっという間だったな。
このアパートの1室も妙に広く、もの寂しく感じてしまう。
さて、感傷に浸るのも悪くないが、依頼主に報告しないと。
『はいは〜い、照ちゃんだよ。稽古は無事終了した?』
「えぇ、今帰っていきましたよ。彼女に足りなかったものはある程度補うことは出来たかと。」
『うんうん、ありがとね〜。この件のお陰で無事あの子も裁定官に任命されるよ。』
「それは嬉しい話ですが、俺に話しても良い内容なので?」
『まぁいずれは分かる話だし、ノワールさんも気になるだろうから、先に伝えちゃっても良いかなって。で、エデちゃんとはどうだったの?』
うげ、やっぱり追及してくるよなぁ…。
「その件については、色々物申したいところでは有るんですが。」
『ごめんねぇ。まさかエデちゃんが貴方にあそこまで首ったけだったとは思わなくて。あの日以来、ずっと貴方のことを調べたり、考えてたみたいでね。自分自身の感情を持て余してるなぁ〜って。』
「そう…ですか…。」
エデにはもうちょっと優しくしても良かったかもしれないなぁ。
『エデちゃんから報告を聞いた時はびっくりしたもん。』
「俺も心臓が止まるかと思いました。」
『お腹の上で?』
「いきなりド直球の下ネタはビビりますって。」
腹上死とか嫌だわ。
てか意外とそう言うこと言うのね…。
『あ、そうそう。カールミンロート家現当主、ジークバルト・カールミンロートからお呼び出しが掛かってるよ。』
「まぁ、ですよねぇ…。」
エデの行動を嬉々として後押ししていたとは言え、娘が見初めた相手が気にならない父親は居ない、と言うことか。
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翌日。
新エリー都中心部にある高級住宅街。
その中でも一際でかいお屋敷の門の前。
俺はそこに一人でポツンと立っていた。