眼前にそびえ立つ巨大な鉄門が、重い金属音を立てて開いていく。
屋敷の中庭には一人の初老男性が仁王立ちしていた。
仕立ての良いスーツの上からでも分かる程筋肉モリモリマッチョマンだ。
ジークバルト・カールミンロート。元クランプスの黒枝の裁定官で、現TOPS財政ユニオンの警備部門のトップ。
一線を退いてなお、衰えを感じさせない風貌を見て、エデと親子だなと改めて思った。
「良くぞ来てくれた!歓迎しよう盛大にな!」
差し出された右手は硬く分厚く、歴戦の猛者としての風格が滲み出ている。
その右手は万力のようにギリギリと力を込めてきた!
ここで臆する訳にもいかず、此方も敬意を込めてありったけの力を込めて握り返す。
「ほう!中々やるな!うちの役たたず共にも見習わせたいものだ!」
「お褒めに預かり恐悦至極…!」
この人…握手で触れた掌から合気を仕掛けて来てやがった…!
何も知らずに握り続けていたら、その場で姿勢を崩されていたなこれ。
極限まで鍛え上げられた肉体と熟達した技術。
引退してこれ程とは…!
「なるほど、うちの娘が見初めた訳だ。俺と10秒以上握手して立ち続けられた奴は、数える程しかいないぞ!」
「恐縮です…。元々は防衛軍に居たんですね?」
ようやく手を離して貰えた…。
無駄の無い肉体の鍛え方、声の張り方、醸し出される雰囲気から察するに軍隊上がりだと推測できる。
そりゃあ強い訳だ。
「そこまで見抜けるか!どうだ、うちの部隊に来ないか。タイムフィールドの伊達男より優遇してやるぞ。」
「ライオネル氏には贔屓にして貰ってますし、何より彼の在り方を私は尊敬しています。なので、謹んでお断りさせてもらいますよ。」
「ふん。極めて高い武力を持ち、賄賂に靡かず信義に厚い。あの伊達男が最優と評する訳だ。」
「過分な評価を頂いています。」
てか最優のホロウレイダーって言い出したのライオネル氏だったんだ……。
「よし!屋敷に入れ!色々と話したいことがある!」
そう言って中庭を通って屋敷に入っていくジークバルト氏の後に着いて行き、屋敷の中に入ると、最低限の装飾品と赤を基調とした内装が目に入ってきた。
質実剛健を地で行くであろうカールミンロート家らしい
屋敷だな。
彼が案内した先はでかい食堂だった。
ん?食堂……?
そんな俺の疑問を感じたのか、
「ここはうちの部隊の役たたず共に飯を提供している場所だ。味は保証するぞ、好きな物を頼むといい。」
「ちょっとジーク!お客さんが来るなら先に言ってていつも言ってるでしょ!」
食堂の奥から威勢の良い声が聞こえてきた。
「現当主を呼び捨てとは……。」
「気にするな、うちのお袋は詰まるところ食堂のおばちゃん、と言うやつだ。」
「成程…納得です。」
彼は苦笑いしながら調理スペースの方にヒラヒラと手を振り、手馴れた様子で注文していく。
それに習ってメニューを確認すると、肉料理、魚料理、麺類、サラダ、スープ等々があるようだが、どれもかなり量が多い。
「この今日のおすすめ肉料理定食スープ付きでお願いします。」
「あいよ!テーブルに持って行かせるから待ってな!」
「ありがとうございます。」
テーブルの方を見ると彼は既に座っていた。
コップを用意してあるところを見るに、此方の分を用意してくれたらしい。
対面に座ると彼は予め用意していたジョッキのビールを一口飲んでから話し始めた。
「娘の件については、迷惑を掛けたな。あれはかなりのじゃじゃ馬でな。気性難、と言ってもいい。とにかく家族以外でまともに話せる奴は殆ど居なかった。」
そう言って話すジークバルト氏から精神的な疲労が滲みでている。
余程娘のことで相当気を揉んでいたのだろう。
「学校でも周囲から畏怖され、孤立していた。俺の血を濃く受け継いだからだろうが、あの覇気だ。並の奴では近づくことすら出来んだろう。」
「確かに、一目見て只者ではないと感じましたよ。」
「学校を卒業してからはうちの部隊で面倒を見ていたが、それでも周りに馴染めない様子は変わらなかった。」
学校は周囲との関わり方を学ぶ場でもある。
そこで孤立していたら、そりゃ周りとの関わり方も分からない訳だ。
そして我を通すだけの力があるならじゃじゃ馬にもなろうってもんだ。
「それでもグレずに真っ直ぐ成長したのは、貴方の教育の賜物では?」
「俺はかくあるべし、と背中を見せていただけだがな。この背中を追っかけてくれたことがせめてもの救いだ。だから古巣を頼ってエデを預けた。あそこなら娘より強い奴がいるはずだからな。」
エデがクランプスの黒枝にいた経緯は力が強過ぎるが故の孤独…か。
彼はさらにビールを一口飲んで苦笑いしながら、
「夕飯時にいきなり手篭めにしたい相手が出来たなど言われた時は、家族全員が一斉に吹き出したもんだ。聞けば相手はホロウレイダーと言うし、別に女もいると言う。」
「………。」
「そう苦虫を噛み潰したよう顔をするな。…娘からそんな話が出たのは初めてでな、根掘り葉掘り聞いていけばあのライオネルめが自慢していたホロウレイダーだと分かってな。俺も少し興味が湧いた。」
「だから娘に稽古を付ける体で遠回しな依頼をした訳ですね?」
「そんなところだ。そしたらあのじゃじゃ馬は一昨日の夜に連絡を寄越してな。自分は伴侶を見つけたので、今後お見合い話は一切不要、とのことだ。」
「おぅ…。」
「なに、娘に手を出した責任を取れと言うつもりはないさ。貴様が居ようが居まいが、次期当主はエデだからな。だがまぁ、良心の呵責を感じるのであれば、今度うちの部隊の訓練にも付き合ってくれ。」
うーん、今後も良いように使われそうな予感があるが、
変に責任追及されるよりはましか。
「まぁ、部隊経験の無い私で良ければ…。」
「そうか?治安官時代に防衛軍との合同演習で一個大隊を壊滅させた話は聞いているぞ、星見家の坊主。」