「アルゴスホロウ内で左腕を失ってなお、企業の違法実験の被験者を救出して生還するとは、だいぶ愉快な遠足だったようだな?」
「…………。」
(マスター。玄冬のアンロックを推奨します。この距離なら確実に殺れます。)
(…アンロックだけだ。少し待て。)
「ジークバルトさん。俺は今の暮らしが大切です。守るべきものも増えた。そして大切なものを守る為なら、容赦はしません。」
ジークバルト氏の雰囲気がより鋭利なものとなってきた。
そしてその表情は獰猛な笑みを浮かべている。
「ほう、良い啖呵を切ったな。だが、TOPS財政ユニオンを、カールミンロート家を相手にできるのか?」
「逆に聞きましょう。貴方は虚狩りに準ずる人間を相手にして、名家が体裁を保てるほど余力が残るとお思いで?」
「随分と大きくでたな、命知らずめ。親が泣くぞ。」
「星見家の人達に迷惑を掛けない為には、使える物は虚勢でもなんでも使わないといけませんから。」
お互いに牽制し合いながら、一触即発の空気が張り詰めていく。
さてどう動
「はい!お待ち遠様!」
ドンッと机に置かれたのは熱々の湯気と直接腹を刺激するようなジューシーな肉の香りを立ち上らせた肉定食だった。
料理を置きに来たのは、声から察するにジークバルト氏の母親だろう。
恰幅のいい、まさに食堂のおばちゃんだ。
ジークバルト氏の方には魚定食と枝豆の塩茹でが置かれていた。
「おかわりは自由だからね!何時でも声かけな!」
そう言って厨房に戻って行くのを見届けると、
「……闘争の空気では無くなったな…。」
「……そうですね……。」
二人して殺気を引っ込めて食事を始める形となった。
「まぁ、お前が蹴散らした企業…確かアーキテックグループだったか。うちとは敵対関係にある企業だからな。情報収集に余念が無いから、自然と情報が入ってくる。」
「それでアルゴスホロウ内のことを知ったと?」
「そうだ。さらに言えば、あの合同演習には視察で行っていてな、実は貴様の顔は覚えていたのだ。故に今回の訪問で確証が得られた、と言う訳だ。」
「えぇ……?」
隠していた事実を突き止められたと思ったら、顔バレが原因とは泣けるぜ。
「あの合同演習は実に愉快だった!」
「あんなのは奇襲と奇策を総動員した初見殺しなだけですよ。二度は通じない。」
「何を言っている。軍の戦闘において二度目はまず有り得ない。初見で対応出来なければ死ぬだけだ。むしろあいつらにとってもいい経験だっただろう。イゾルデの奴も悔しそうにしていたものだ。」
思い出し笑いをしている彼は枝豆を頬張りながら、
「貴様が身分を隠しているのは、アーキテックグループからの報復を恐れてか。その判断は正しいぞ、あそこはTOPSの中でも指折りの過激派だ。企業の看板に泥を投げつけた相手に容赦はしないだろうし、星見家への報復も決して不可能では無い。」
魚の塩焼きを箸で突く彼は、今までの俺の行動をそう評価した。
「行方不明のままにしておいた方が懸命だろう。」
「はい…なんかすみません。つい…殺気立ってしまって。」
「構わん、挑発したの此方だからな。まんまとお袋に止められてしまったがな。」
「やっぱりあのタイミングで料理運んできたのはわざとだったんですね。」
「その通りだ。貴様が居なければ、さらに拳骨の一発二発は追加のおかわりがあっただろうよ。」
食事が終わった後、ジークバルト氏から正式に依頼として部隊訓練への参加を要請された。
まぁ、成せばなる成さねば成らぬ何事もってやつか。
や
屋敷を後にする時も「また来るといい。何時でも歓迎するぞ。それと、娘の事を頼む。」と言って貰えた。
とりあえずは事なきを得たって感じだな。
精神的に色々疲れたから帰って休もう。
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さて、メヌ用にお菓子も買ってビデオのレンタルもしたし、家に戻るとするか。
しかし工事の音が凄いな、六分街でそんな大規模な工事してるところなんてあったけ?
騒音を発している現場はうちの近くみたいだな。
騒音でメヌが不機嫌になってなきゃいいが……。
「……は?」
うちのアパートが跡形もなく無くなってる……。
更地になった土地にはクマのシリオンの作業員が忙しなく作業している。
しかも使用されている重機が見た事ない型だ。
何処の会社だ…?
ってか、メヌはどこ行った?
「あら、意外とお早いお帰りでしたのね?」
「まさかこんなに早く顔を合わせるとは思ってなかったよ…エデ。」
黒色の上品なワンピースに身を包んだエデの頭には何故か安全第一と書かれた黄色のヘルメットが乗っていた。
「今度は何をしてるんだ?土建屋にでも転職したのか?」
「いいえ、私はただの出資者よ。自分が住む家の現場なのだもの、直にこの目で見たくなるのが道理ではなくって?」
「何だって?」
自分が住む家…?出資者…?まさか…。
「まさかお前、ここに住む気じゃないだろうな?」
「そう言ったじゃない。ちなみにメヌはゲームセンター?と言うところに居るわ。」
「おいおいおい、うちの家具とか荷物はどうしたんだ?」
「うちの実家に送らせたわ。」
「はぁ……。まったく。」
名家の御令嬢はスケールが違うね。
自分が住む家を突貫工事で建築させるとは…。
「後どれくらいで終わるんだこれ?」
「そうね…。確認してみるわ。」
そう言ったエデは近くを通りかかった作業員に声を掛けた。
声を掛けられた当の作業員は出資者にいきなり声をかけられ、ガチガチに緊張している。
そこにクマのシリオンが助け舟を出してきた。
目元の傷が特徴的な彼がどうやらこの現場の責任者らしい。
彼から話を聞いたエデが此方に戻ってきた。
「後3時間で建物は完成、家具家電の搬送等々で2時間。計5時間といったところね。」
「5時間かぁ。何して時間潰そうかね。」
そうボヤいていると、ヘルメットを取ったエデが軽く咳払いをして、
「なら、私をエスコートしてくださる?六分街…だったかしら、この街に来たのは初めてなの。これから住むのだし、挨拶回りもしておかないと…ね?」
「それもそうか。だが、5時間も時間潰せるかな?そんなにこの街は広くないぞ?」
「大丈夫よ。最後に寄りたい所があるのだけれど、そこならかなりの時間を潰せるはずよ。」
まぁ、エデがそう言うなら良いか。
「…ちなみに俺との関係についてはどう説明するつもりだ?六分街の皆とはそれなりに良好な関係を築いているんだ、信用に傷付く様なことは言わないでくれよ?」
「あら?心外ね。伴侶の心象を悪く言うようなことはしないわ。そうね……ホロウレイダーのチーム仲間とでもしましょうか。」
「それくらいが無難か、じゃあ行こうか。」
エデがスルッと腕を組んできた。
ご満悦そうな笑顔だが、腕に込められた力を見るに離す気は無いらしい。
「一応聞くけど、最後に寄るのはどこよ?」
「野暮なことを聞くのね。デートの最後にはラブホ?なる場所で休憩?するのがポピュラーなのでしょ?」
「……誰だよそんな事言ってたやつ…。」