「まったく…モクモグ…私を差し置いて…モクモグ…こんな高級料理店に来るなんて…モグモグ…悲しくなっちゃうなぁ…モグモグ。」
「飲み込んでから話そうな、行儀悪いぞ?」
「気にしなくて良いのよ。貸切なのだし、マナーを気にするような人は居ないわ。」
メヌにはエデと2階でご休憩していたことはバレてないようだ。
後少しで現場の作業も終わる頃合いだし、ここで時間を潰していこう。
メヌはアルバイトで疲れたのか肉料理ばかり食べて、エデは優雅に紅茶を飲んでいる。
「そういえばメヌはエデから話を聞いているのか?」
「聞いてるよ。うちのアパート買い取って邸宅にしちゃうって話。凄いよねぇ、あれだけの時間で建築できちゃうなんて。」
「あそこは白祇重工と言う会社なのだけれど、お父様が何かと贔屓しているところなのよ。特殊な重機とクマのシリオンによる圧倒的な作業効率化を突き詰めた会社ね。旧都陥落後に経営難に陥ったのだけれど、お父様がこっそり支援したらしいわ。」
「へぇ〜モグモグ」
旧都陥落後に経営難か……そりゃそうなるよな。
旧都陥落の影響を受けていない人間は殆どいないだろうし、会社にしても大なり小なり影響があったってことか。
「そろそろ時間か、会計してくるよ。」
「待ちなさいな、出資者に会計を求めるような愚か者はこの店にはいないわ。ねぇ、店長?」
「お嬢様の仰る通りでございます。何時いかなる時でもお気軽にお越しください。」
「あっはい。」
店長の声がするまで後ろにいることに気が付かなかったぞおい…。
気配遮断のレベルが一店舗の店長にしちゃ高過ぎないか…?
───────────────────────
アパート跡地に戻るとそこには小綺麗な邸宅がそびえ立っていた。
中庭こそ無いものの、ダウングレードしたカールミンロート家本邸みたいだな。
ここに住むのかぁ。
「てかさ、この件について一切聞いて無かったんだけど?」
「そうね、下手に伝えて雲隠れされても困るし、兵は神速を貴ぶ、と言うでしょ?」
「ほんと強引だよな。」
「褒め言葉として受け取っておきますわ。生活水準が上がるのだから良しとしなさいな。」
邸宅の前で駄弁っていると、現場責任者を名乗るベンと言うクマのシリオンから書類のサインを求められた。
めっちゃ強面だが、作業着に汚れが無く柔軟剤の香りがすること、胸ポケットにある使い古されたボールペン、言動の端々から繊細で落ち着いた性格が伺える。
土木作業員なら作業着が汚れていて当然だし、恐らく身嗜みを整えてからここに来たんだな。
書類とベンの説明によると、この邸宅の所有者はエデとなるが、管理人は俺になるそうだ。
つまり実質的な名義人は俺ってことらしい。
何やら法律がどうとか言ってたけど詳しいことは分からん。
とりあえず住めるならいいや。
雅の修行に付き合って三ヶ月ほど山篭りや無人島に遭難したりした時に比べれば雲泥の差というもの。
「しっかしまぁ、こんな大掛かりなことして。そんなに一緒に住みたかったのか?」
「……勝手に話を進めたことについては謝罪しますわ。でも…そうね…メヌが羨ましかったから……。」
「うん?私?」
話を聞いていたメヌが首を傾げているの見て、エデは少し罰の悪そうな顔をしている。
「彼と…ノワールと一緒に住んでいることが羨ましかったわ。初めてよ、誰かに嫉妬するなんて。あの一週間だけで終わらせることは、とてもできなかったわ……。それほどあの一週間は素敵なものでしたの…。」
傲慢不遜を地で行くエデがしおらしそうにしているのは珍しい。
今回の件については自分でもどうかと思うくらい性急にことを進めたってことか。
……まぁそこまで想われているのは悪い気はしないし、ここでクドクドと文句を垂れるのは宜しくない。
「揶揄ってごめんな。俺もこれからエデと一緒に過ごせるのは嬉しいよ。身銭まで切ってくれてありがとうな。」ナデナデ
「…………………ヨロシクッテヨ」
「ちょっと直球に言い過ぎ。エデが服と同じくらい赤くなっちゃったじゃん。」
「そうか…?」
確かにここまでストレートに好意や感謝を素面で伝えたのは初めてだったか。
「ほ、ほら家財も搬入しているのだから、中を確認しましょう?」
エデに促されるままに邸宅の中に入ると、調度品とかも搬入されていた。
部屋の数もかなり多いし、何人暮らしを想定しているだろう?
これを管理するのか…骨が折れそうだ。
ハウスキーパーでも雇うか…?
「ちなみに本邸から何人かメイド達を来させて、実質的な管理をさせますわ。」
「至れり尽くせりだな…。」
「メイドさんが来るんだ?見てみたいな〜。」
「色々見て回りたいと思うが、まずはそれぞれの自室を決めようか。」
「はーい。」「ええ。」
俺の部屋は最上階である三階の真ん中にある大きめの部屋となった。
管理人なのだから一番広い部屋にしろとメヌとエデから猛プッシュを受けてこうなったのだが、絶対何かに付けて俺の部屋に集まる腹積もりだなこれ。
自室での荷解きが終わったので、改めてジークバルト氏に電話しよう。
『おう、ノワールか!新しい家は気に入ったか?』
「まさか家まで建てて貰えるとは思いませんでしたよ。」
『だろうな!…俺も今朝聞いて腰を抜かすかと思ったぞ。もし娘が悪い男に貢ぐようなことになっていたらうちの財政は赤字になっていたかもな!』
「これ、現在進行形で貢いでません?」
『悪い男ではないから大丈夫だろう?その分の仕事はしてくれると期待しているぞ。』
「勿論、ご期待に添えるよう微力ながら尽くさせて貰いますよ、総長殿。」
『良い心意気だ!先にうちの部隊ロット・ヴァッフェでのコールサインを貸与しておこう!先日空きができたラッキーナンバーのW13(ヴァッフェドライツェン)だ!復唱!』
「W13!…先日空きができたって不吉じゃありません?」
『まぁ、お前さん用に急遽追加したコールサインだからな!先日空きができたと言うのも嘘では無い。』
部隊でのコールサインってそんなホイホイ追加できるものだっけ?
『さて、次の部隊訓練は愉快な遠足になりそうだ。準備を怠るなよ?』
「了解です、総長。」
さて、ジークバルト氏にお礼も言えたし、風呂にでも行こうかと思ってタオルの準備をしているとドアがノックされた。
「ノワール?今大丈夫?」
「良いぞ。」
どうやらメヌが部屋を訪ねて来たみたいだ。
メヌもこれから風呂に行くつもりだったのか、白色のタンクトップに黒のホットパンツという部屋着とバスタオルを持っていた。
髪型はポニーテールにしていて、毛先が揺れる様子をつい目が追ってしまう。
そして目線は毛先から後頭部、うなじ、肩と移っていき、実は意外とある胸や張りのある臀部に吸い寄せられてしまった。
「あ、ノワールもこれからお風呂に行く感じ?私も同行しよう。」
「あぁ、って一緒に入るつもりか?」
「そうだけど?」
さも当然と言わんばかりの表情を浮かべるメヌはこちらの視線の動きに気付いていながら、一緒のお風呂を提案してきたようだ。
「だってエデとはご休憩したんでしょ?」
「バレてたか…。」
「宿泊可能な高級料理店だったじゃん。だから私もお風呂で色々お世話して貰おうかなって。」
「色々ってなんだよ?」
「それは勿論…ね?」
メヌがおもむろに抱き着いてきた。
鼻腔をくすぐる香りと押し付けられた胸の感触によって自らの性欲が高まるの感じる…!
「ほら…こっちもやる気満々みたいだし…お姫様抱っこでお風呂まで運んで?お風呂で…しよ?」
「…またのぼせても知らないぞ?」
抱き上げた華奢な身体に手を這わせ、感触を愉しみながら風呂場へ向かった。
一時間後、メヌはまたのぼせたのだった。