「ハイペリオン!要救までの最短ルートと脱出ルートの算出を頼む!」
『了解。玄冬の性能であれば、瓦礫、エーテリアスの触手等の障害物の一切を切り捨てて直線距離の移動が可能です。』
胸中に渦巻く様々な感情を押し殺して、腰に差した鞘から黒刃を抜き放つ。
…再現とは言え、また無尾を抜くことになるとはな…。
いや、今考えるのは辞めよう。要救の救助が最優先だ。
眼前に迫る触手を抜き放った黒刃をもって、切り捨てる。
腕に衝撃が残るが、やれる!
次々に迫る触手を捌きつつ、前方にある瓦礫を切り崩して、要救の所まで駆けつけることができた。
瓦礫の下に埋もれていたのは、シリオンの少女だった。
どうやら気絶しているようだし、安全地帯まで運んでしまおう。
刀を鞘に戻し、居合の構えを取る。
四方八方から押し寄せてくる触手は、前の直刀なら捌くことは出来なかっただろう。
刀身から吸収したエーテルエネルギーが鞘内部で爆発的に循環しているのが感じられる。
脳裏に浮かぶのは星見家の才媛。彼女の才能は天井知らずで、こと刀に関しては他の追随を許さない。そんな彼女の抜刀術は今でも目に焼き付いている。
「今なら再現率60%ってところか。」
この巨大なエーテリアスを消滅させることは叶わないが、眼前の脅威を打ち払うには十分過ぎる。
「玄冬…抜刀!!」
抜き放った刃を滑らせるように走らせる。
八閃。
迫っていた触手は全て切り落として刀身を鞘に収める。
『マスター、脱出ルートの算出終了しました。6時の方向約10km付近にある商店街に向かってください。』
「了解だ!すぐに向かう!」
倒れていた少女を背中に担ぎ、のたうち回る触手に背を向けながら走り出す。
崩れた建物や捨てられた車両が散乱する道路を走り抜け、商店街に辿り着いた。
『サーチ完了。付近にエーテリアスの反応はありません。』
「分かった。引き続き周辺の警戒を頼む。」
『勿論です、プロですから。』
変なフラグ立てんなやと思いつつ、改めて要救の容態を確認する。
歳は15歳位だろうか、白い髪は長く、立った状態でも膝裏位までありそうだ。
額から2本の角が生えているから鬼のシリオンかと思ったが、腰からコウモリを彷彿とさせる翼があり、細長い尻尾はトカゲのように鱗に覆われている。
服装は簡素な白い病人服ではあるが、首、手首、足首に拘束具らしき革製のバンドが巻かれている。
これは……。
『要救は何らかの人体実験を受けていたと推測されます。』
「そうだな…。腕に注射痕も複数ある。」
一体どんな実験を受けていたのか。栄養状態も芳しくないことからも察するに余りある。まるでモルモット扱いだ。
「きっとTOPS傘下の企業による違法な人体実験だ。最近になって何やら薬物の取引をしていたみたいだが、この子の実験にも使われていたのかもしれない。」
はらわたが煮えくり返りそうになるほどの感情が込み上げて来る。
だが、当の企業は既に瓦礫の山と化している。優先順位を間違てはいけない。
……噂によると、治安局内にもTOPSの息がかかった者もそれなりにいるらしい。
このまま連れて帰るのは流石にまずいかもしれない。
そんなことを考えていると、突然無線機に通信が入った。
あれだけの戦闘でも故障しなかったらしい。
『黒鐵!聞こえ──か!応答─よ!』
この声は青衣先輩か。
「こちら黒鐵。現在要救一名を救助中。そちらの状況は?」
『こっ──の──状況─芳し──な─。防────軍──総──撃──すぐ──てった────。』
駄目だ。ノイズが酷くて聞き取れない。
『推測。恐らく防衛軍による総攻撃が行われると可能性があります。』
「それだ。ならすぐにホロウ外へ撤退しないとな。」
そう呟いたところ、
「まっ、待ってくれ治安官!私達も助けてくれ!!」
商店街の店に避難していたであろう数人がぞろぞろと出てきた。
その服装を見るに、どこかの技術職ってところか。
「いつまで経っても声を掛けてこないんで、避難したくないのかと思いましたよ。」
俺たちが来た時には既にここへと避難していたみたいだ。
リーダーと思しき中年男性が汗を流しながらこちらに向かってきた。
「いやぁ、どうしても回収したかった忘れ物があってね。しかし防衛軍の総攻撃が開始されるとあっては流石に避難しようと言うものだよ。」
「だが、不幸中の幸いとでも言おうか。救援に来てくれた治安官が、その忘れ物を回収してくれていたとは!誰からの指示かね?君の昇進に口添えしようじゃないか。」
そう言ってシリオンの少女に視線を向ける。
涼しい顔で下衆の極み中年じゃねえかこいつ。
やっぱり治安局にいるな、TOPSの協力者。しかも人事に干渉できるような上の階級に。
「この子はこちらで保護した要救助者です。然るべき保護者の元へ引き渡します。」
「その保護者が私だと言っているのだよ治安官。それは我が企業が買い取った資産だ。わざわざH.A.N.Dのエーテル適性検査の資料を買い取ってまで探し出した最高峰のエーテル適性の持ち主だ。」
………。
「この子の両親は?」
「居ないさ、孤児院の出身でね。大方捨てられたのだろう。」
「そんな哀れなそれに!衣食住を与え!我が企業の研究に貢献できる栄誉を与えた!そんな私は実に素晴らしい里親だとは思わないかね!」
……………。
「さぁ、返したまえ。それは君のような下っ端治安官が触れていい物ではない!」
後ろにいた部下達がそれぞれ銃器を取り出してこちらに向けてきた。
「私はこの研究の成果をもってTOPSの頂きを登り詰める!私が!私こそが企業だ!!その邪魔をするのなら消えろ、治安官!!」
…………………………下衆野郎が。
「べらべらとよく喋るな、ここはプレゼンの会議室じゃないぞ?」
「っ!!!やれぇ!!」
その場から飛び上がって射線を全て外し、建ち並ぶ商店の壁面を走り抜ける。
放たれた銃弾は壁に弾痕を残すのみで、一発もこっちには当たらない。
『マスター。ホロウ内に多数の反応を検知。恐らく防衛軍の攻撃部隊かと思われます。攻撃開始までの時間を計算中。』
「了解だ、手早く済ませよう。」
銃の弾倉が空になり、リロードをするタイミングで一気に距離を詰める。全員が一斉射撃とか素人感丸出しなこいつらに、負ける道理はない。
一人ずつ峰打ちで、或いは拳で地面に沈めていく。
全部で13人、残りは下衆野郎だけだ。
「な、何故だ!?13対1だぞ!?」
その場に尻もちを着いていた男に手錠を掛ける。
所詮は権力を振りかざすだけの人間だったな。
「数だけ揃えた烏合の衆に、何を期待していたのやら。
とりあえずあんたの身柄は公妨で拘束させてもらう。話の続きは署にいるお友達にも聞かせてやってくれ。」
「わ、私は企業だぞ…、こんなこと…許されるはずが…」
項垂れる男を尻目に、未だに目覚めない少女の方へ駆け寄ろうとした時だった。
轟音と共に商店街の天井が崩落した光景を最後に意識が落ちてしまった。
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「くっそ、意識が一瞬落ちちまった。ハイペリオン!状況は!?」
『現在防衛軍が巨大エーテリアスと交戦中。防衛軍の存在を察知したエーテリアスによる先制攻撃の余波で、商店街の天井が崩落したようです。』
崩落の寸前に少女を庇えたのは良かったが、まさか意識が飛ぶとはな。流石に疲労が無視できない域にまで達しているらしい。
『先程拘束した下衆は部下を連れて逃走しています。追跡しますか?』
悪運の強いやつだな…。まぁ、いいか。
「追跡はしなくていい。それより防衛軍とエーテリアスの戦闘状況を教えてくれ。」
『了解。現状は芳しくありません。先の先制攻撃で防衛軍は総崩れ、エーテリアスは未だ健在です。』
「要救の搬送を優先する。後どれくらいで脱出できそうだ?」
『残りおおよそ5kmとなります。…警告。巨大エーテリアスが防衛軍の攻撃を無視してこちらに接近中。』
「おいおい…まじかよ。」
脅威となりそうな防衛軍は初手で殆ど潰したから、残りの脅威となりそうなこっちを潰しに来たって訳か。
本当にエーテリアスかあれ?知能高くない?
「あのぶっとい触手を全部切り捨ててもすぐに再生するし、一撃で消し飛ばすような超火力が必要だなぁ…。」
玄冬で切り続けてエネルギーを貯めたとしても、それだけの火力を叩き出すには溜めがいる。
そして要救がいる状況、触手の再生スピードを鑑みるに溜める隙がない。
後一手足りないのだ。
このまま要救を連れて脱出もできなくはないが、そうしたら残った防衛軍の方にさらなる被害が出るかもしれない。
『提案。義手に内蔵した武装の使用を提案します。』
「義手に?どんな武装だ?」
『生成した杭を対象に突き刺し、固有振動数を特定。特定した固有振動をエーテルエネルギーと共に伝播させて対象を粉砕するものです。』
ガチのパイルバンカーですか、ハイペリオンさん?