「……やっちまった……。」
タイムフィールド家の正門から出た途端、膝から崩れ落ちてしまった。自分の節操の無さに呆れると言うか泣けるというか…。とうとう歳下相手にやっちまったなぁ…。メヌやうちのメイド達から言われた言葉が頭の中から消えない。俺は…超絶倫色欲大魔神だったのか……。
ライオネル氏も、柚葉とアリスも望んだ事とはいえ、自らの行いを恥ずべき……と思ったのだが、何時だかメヌから言われた「助けられた側の気持ちについて」というのを思い出した。特に柚葉は境遇がメヌと酷似しているし、命の恩人に何も返せないまま終わりたくないという気持ちは理解できる。
自らの行いを正当化まではしなくとも、恥じて自責の念に囚われるのは柚葉とアリスにも失礼か。
「よし、帰ってまずはメヌとエデに相談するか。」
「崩れ落ちたり、急に立ち上がったり、道端でスクワット、かな?」
「!?」
背後から声を掛けられるまで気付かなかった…だと!?
すぐさま反転して振り返るとそこには淡いブロンドヘアーに白色のレオタードを身に着け、赤と黒のハサミを持った気怠げな雰囲気の女がいた。な、なんでこいつが……?
「なんでこんな所をほっつき歩いているんだ?黒枝の切り札が。」
「勿論仕事だ、よ?ボスから直々のお電話があったから、流石にもう無視はできない、よね。」
フィオニー・ラファエラ。クランプスの黒枝の裁決官の一人で、黒枝の切り札。そして現場を引っ掻きまわすトラブルメーカー。
治安局と裁決官は現場がバッティングする事がままあるが、こいつが出張ってきた現場で混迷を極めなかった現場はない。そして此方が逮捕するはずだった被疑者を強奪或いは殺害されたことも数知れず。治安官にとってフィオニー・ラファエラは悪魔の代名詞と言えるだろう。
「貴方、物知りなんだね?あんまり裁決に出てこない私を知っているなんて、実はファン、だったり?サインいる?」
「結構だ。お前の所業は界隈では有名なんでな。何が目的だ?」
「そっか、残念。じゃあ仕事の話をするね。貴方の身柄を拘束させて貰う、よ?」
「その理由を聞いてるんだよ!」
高速で突いてきたハサミの切っ先に義手を滑り込ませて受け流し、距離を取ろうとバックステップを踏むが、悠々と追い付いて来た。が、その空いた一瞬があれば武装を展開できる!
ハイペリオンで構築した刀を腰に構え、鞘から刃を抜き放ち迎撃する。ハサミを分離させた二振りの剣による剣撃を全て弾き返し、体勢を崩した相手に斬撃を飛ばす。が、斬撃をするりと躱したフィオ二ーは未だ健在だ。実に厄介だな。腰部のブースターで動きが補助されているおかげか、無理な体勢からでも無理矢理身体の機動を変えることができるみたいだ。常人なら一瞬で酔うか、骨折するか、そんな変態機動をやってのけるこいつは、分かっていたが強い。
「ふーん。エデちゃんと、照ちゃんが言ってた通り、強いんだ、ね。こっちが攻撃してるのに、カウンターで体勢を無理矢理崩されるのは、新感覚♡……かも?うーん?」
「そいつはどうも。」
ちっ、早くも見抜かれたか。俺のパリィは相手の体幹にダメージを与えるもので、相手が攻めれば攻める程に隙を晒す事になる攻性防技なんだが、補助ブースターで飛ぶやつには効果が薄いな。
「ねぇ、もしかして前にも会ったこと、ある?」
「さぁな?」
実際は前にも戦った事がある。大魔王ことセヴェリアンの部下だった時にだ。犯罪組織の隠れ家が判明し、治安局の総力を挙げての検挙計画を練り、当時警部補だったセヴェリアン指揮の元、総勢50名の治安官が導入された。その現場に裁決のために乱入してきたのがフィオニーだった。
勿論現場は大混乱。セヴェリアンと俺以外の治安官は全員深度三熱傷により行動不能になり、犯罪組織のメンバーは逃走。セヴェリアンも負傷していたし、俺も手持ちの武装を全て焼き溶かされた。
そこで俺はセヴェリアンに撤退指揮を任せ、単独でフィオニーに突撃、タックルすることで諸共ホロウにダイブした。
その後は、ホロウ内で拾った武器、崩れそうな廃墟など使えるものは全て総動員して、斬殺、撲殺、射殺、圧殺、轢殺、絞殺、水責め、電気責め、爆破、考えうる限りのありとあらゆる方法で攻略を試みたが、結果、フィオニーを三日間ホロウ内に足止めすることしか出来なかった。
その間にセヴェリアンが部隊を再編成、犯罪組織への追撃戦を行ったが、主要メンバーを何人か逃してしまう結果に終わった。
一見すると虚弱貧弱太腿ムチムチ女だが、瀕死になると発動するリザレクションがあまりにも無法過ぎて、死にゲーのプレイヤーに攻略されるボスの気持ちが理解出来てしまった。
だが、今は手持ちの武装が前とは一味も二味も違うぞ。それにやつの不死性にも弱点がある。瀕死になる頻度が多くなる程、復活までのリチャージ時間が長くなる。つまり何度も瀕死に追い込み続ければ、一旦逃げるだけの時間が稼げるようになるということだ。
「ハイペリオン。玄冬…抜刀!」
『拘束制御術式号解放、第三号、二号、一号。状況A、マスターによる承認認識、眼前の敵完全沈黙までの間、能力使用限定解除開始。』
………………。
「ハイペさん?この前見た吸血鬼の映画に影響されたな?」
「あ。そのセリフ…私もその映画、見たことあるよ。ホラーと言うより、スプラッタだったけど、アクションは見応えあった、ね。」
「…………………さぁやろうか!」
キンッ
「………な…に…!?」
いっそ場違いな程軽い金属音が響いた。その音に気付くと同時に身体が右側に傾いていく中、視界の端に義手が宙を舞っていた。ハイペリオンが…斬り落とされた…!?神経接続されたハイペリオンが切断された激痛もあり、身体が極限状態に追い詰められたのか、周りの風景がスローモーションに見える。驚いた表情のフィオニー、その視線の先にはフードで顔を隠した人物がいた。フードには穴が二つ空き、そこから黒い毛並みの長耳がピンと出ている。
そしてその人物が持つ獲物は武骨な日本刀。鞘には指紋認証によるロック機構が付けられている。
間違いない…「骸討ち・無尾」だ…。つまり俺は…
雅に斬り捨てられたのだ…。