左腕に接続された義手が変形していき、杭と射出機構が形成されていく。
射程はゼロ距離。威力は文字通り必殺。
当てれば対象を粉砕するリーサルウェポンって訳だ。
「これも命名しろってか、流石に後にしてくれよ?事態は急を要するんだから。」
『不本意ですが、承諾します。ホロウから脱出した後の楽しみに取っておきます。』
なんだろうね、ハイペリオンの命名に関する拘りは。
「後どれくらいで来る?」
『巨大エーテリアスとの接敵まで、残り1分23秒。』
遠くから聞こえていた轟音がこちらに近づいてくる。
あの巨体でえぐい速度出すじゃないよ、まったく。
倒れている少女を比較的無事な店の中に隠しておく。
パイルバンカーの威力が如何程かによるけど、余波の影響を受けない場所に居てもらわないとな。
『接敵まで、残り10、9、8…』
商店街の道路上に戻り、集中力を極限まで引き上げる。
周りの音が遠く、間延びするように聞こえ、視界に映る景色が静止したかのように見えてくる。
スーパースローカメラで撮影した映像のように処理される視界に瓦礫を巻き上げながら迫ってくる触手が入ってきた。
まずは邪魔な触手の露払いと行こう。
鞘に納刀した刀の柄に手を置き、居合の構えを取る。
全身の筋肉から分厚いゴムを引き伸ばすかのような異音が聞こえてくる。
今の俺に出せる、渾身の一撃。この一太刀で邪魔な物を全て切り伏せる!!
鞘内部に内包されたエーテルエネルギーが鞘走りとともに解放され、爆発的な速度で迸る。
その速度を落とさず柄を右手で掴み、肉体に溜め込んでいた運動エネルギーを足して更に加速させた斬撃が、眼前に迫っていた触手の波を一瞬で消滅させていく。
触手が剥がされていったその奥に、一際禍々しい球体が露出していた。
『マスター。あれがコアであると推測されます。』
「了解!さぁ、でかいのを食らわせてやんよ!!」
左手の義手に形成された杭を全力でコアに叩き込むと、 抵抗感なく突き刺さった。
「ハイペリオン!」
『対象の固有振動数を算出…いけます。』
瞬く間にコアに亀裂が入り、全体に広がっていく。
『警告。コア内部でのエーテルエネルギーが増加、分裂しています。』
「どういうことだ?」
コア内で増加分裂?
とりあえずコアから離れて様子を見よう。
『解析の結果、この巨大エーテリアスは現在、コアを分裂させようとしています。』
「コアが複数あるエーテリアスってありかよ……。」
不死身かこいつ。
だが、このエーテリアスの動きを停止させたのなら、やることはひとつだ。
「戦略的転進と行こう、ハイペリオン。要救を担いでホロウの外に出るぞ。」
『了解しました、マスター。次こそはこの巨大エーテリアスを確実に仕留められる武装を製造してみせます。』
一撃で屠れなかったことを根に持っているらしい。
「期待してるよ。次が無いことを祈りたいけどね。」
商店内に寝かせていた少女は未だに起きない。これだけドンパチやってんのに起きないとは…。
ここまで来ると存外図太い神経してるのかもな。
少女の華奢な身体を抱え、暫く歩くとホロウの境界へ辿り着いた。
『ここの出口付近には生命反応はありません。』
「了解、誰かに見つからない内にずらかるとするか。」
まずはビジネスホテルにでも行くかね。
違法な人体実験の被験者の保護、明らかにロストテクノロジーな武装、TOPSの人間との対立。
これから先、治安局には戻れない。戻っても周りに迷惑を掛けるだけだし、保護した少女の引き渡しとか要求されそうだし、なんなら俺自身がロストテクノロジーと繋がった身なので、解剖とかされそう。
今後の身の振り方、考えないとなぁ……。
青衣先輩には悪いことしちまったな。直接謝りにいけないことが残念だ。
────────────────────────
捜査報告書
都市秩序部特務捜査班青衣
先に発生した暴走ホロウ(アルゴスホロウ)における、治安局所属の治安官星見黒鐵巡査のMIA(作戦行動中行方不明不明)
について、下記の通り報告書する。
…………
鎮静化されたホロウ内を検索した結果、発生地点中心部の倉庫付近において同巡査のものと思しき左腕を発見。
…………
生存している可能性は著しく低い状況ではあるものの、同巡査の死亡を確認していないことから、MIAと判断。
…………
備考:同ホロウから救助されたTOPS傘下企業アーキッテクスの専務スネイル・オーフェイスの証言によると、ホロウ内で巨大エーテリアス(異常共生体エーテリアスレルナと思慮)との戦闘があった模様。
尚、同人については、違法な人体実験、違法薬物の取引等の嫌疑が掛けられており、現在身柄を拘束するべく逮捕状の請求が進められている。