黒鐵は星見家に引き取られた養子だった。
彼の父と私の父は仲が良く、良く屋敷にも遊びに来ていた。
引き取られた経緯は旧都陥落の際、彼の父が亡くなり、私の父が彼を引き取ったのだ。
私も母を失い、彼は父を失った。
お互に肉親を無くした者同士、その悲しみを振り払うかのように修行に没頭した。
私は刀の扱いを、彼はあらゆる武具の扱いを。
幸い、屋敷の倉庫には数え切れない武具が収められていた。
そしてこれらの武具の殆どは彼の父が鍛え上げたのだと言う。
元々は黒鐵も刀の扱いを一緒に学んでいたのだが、いつの間にか他の武具も扱うようになったのだ。
修行と称して良く模擬戦をやっていたのだが、私が勝ち越すようになってから刀をめっきり使わなくなってしまった…。
最終的には直刀に落ち着いたが、色々と試行錯誤していたのだろう、鎖鎌や三節棍にまで手を出すとは思わなかった。
そんな彼と修行に明け暮れた日々は、私の母を失った悲しみを和らげてくれた。
亡くなった母を思い枕を濡らす夜には、良く彼の布団に潜り込んだものだ。
慌てふためく彼の腕を枕にして、その温もりを感じながら寝れば、不思議と悪夢に魘されず朝を迎えることができた。
朝起きてからは、髪の毛を梳くのを強請りもした。その時に髪の毛は長い方が好きだと言っていたから、当時の私は髪の毛を伸ばすことを心に決めたのだった。
食卓を一緒に囲む時間もとても良かった。
旧都陥落以降、食が細くなっていた私は、彼につられて食べる量が少しずつ戻っていった。
彼は白米が好きで、良くおかわりをしていた。
私も負けじとおかわりをしたが、食べきったご飯の量で勝てたことは一度も無かったな。
修行で共に汗を流した後にシャワーを浴びる彼の元へ突撃したこともあった。
女中達に何度も防がれたが、一度だけ突破し風呂場に入り込んだときの彼の悲鳴は、まさに絹を裂くような悲鳴だったのを覚えている。
今思えば羞恥心の欠片もない行為であったが、一時も離れたく無かったのだ。
結局、風呂上がりにドライヤーで髪の毛を乾かしてもらうことを条件に、風呂場に突撃することを辞めることにした。
そうやって共に育ってきた彼が、MIA…。
最後に何を話しただろうか。
治安局にいるということは、命を掛けた現場に向かうこともある。
そして彼は私よりも、少しだけ弱い。
こうなる可能性が有ることは予見できたはずなのに、どうして無条件で彼が無事でいるなどと、今まで楽観視できたのか。
そんな当たり前のことが分かっていれば、もっと……。
後悔先に立たず…ということなのだろう…。
アルゴスホロウの異常共生体エーテリアス「レルナ」は実の所満身創痍だった。
コアを複製していたのは、真のコアに大きな損害を受けそれを隠匿するためであり、苦し紛れの最後の足掻きだった。
現場にいた調査員や治安局、防衛軍のもの達だけでは、レルナ二あそこまでの損害を与えることはできなった。
間違いなく黒鐵によってもたらされたものだ。
彼の功績が評価されることがないのであれば、勲章などに価値を見出だせない。
虚狩りの叙勲式など、参加するに足らないものだ。
そんなものよりも私は、ホロウを……私から母を、黒鐵を奪ったホロウを。
ホロウそのものを滅することの方が余程重要だ。
故に私は、新エリー都市の刃となる。
虚狩りの叙勲式の時、黒鐵はビジネスホテルでぐっすり寝ています。