「───虚狩りに任命された星見雅氏は対ホロウ6課を設立。当課の課長として、今後も対ホロウの最前線で活躍していくとの事です。次のニュースです。TOPSの────」
ビジネスホテルを借宿にして数日。
市街地に発生したホロウはアルゴスホロウと名付けられ、あの馬鹿でかいエーテリアスは異常共生体レルナと命名されたそうだ。
彼女…、雅がこれを殲滅。その功績によって星見家三代目当主と同じく虚狩りに任命されたんだな。
なんだか後始末をやらせたみたいで申し訳なさを感じる。
顔を見せて謝罪のひとつでもしたいところだが、現在TOPS傘下の企業と敵対中だ。
手段を問わない連中が相手である以上、星見家に迷惑を掛けたくないから、顔を出すのも憚られる。
「この人、知ってるの?」
後ろを振り返るとようやくベッドから抜け出した同居人のシリオンが立っていた。
名前はメリュジーヌと言うらしい。
ホロウ内で助け出したから数日、毎朝眠そうに欠伸をしている所を見るに、随分と朝に弱いらしい。
「おはよう、寝坊助さん。なんでそう思った?」
「何となくそう思っただけ。ねぇ〜ご飯まだ〜?」
後ろから顎を右肩に乗せてごはんの催促をしてくる彼女は、やはりTOPSの違法な人体実験の被験者だった。
彼女曰く、人を人と思わない非道な実験が幾つも行われていたらしい。
その中でもエーテル適性が高かった彼女は、幼少期に孤児院から引き取られてからずっと実験室の中で育ったそうだ。
そんな劣悪な環境で育ったせいか、年齢の割に背が低く発育もそこまで…
「今なんか失礼なこと考えてたでしょ?」
後ろから回された両腕が首を絞め上げようとしてくる。
背中に当たる柔らかな感触……意外とあるな?掌サイズだと思ってたのに。
「まさか。これからどうするか思案していたところさ。」
「ふーん?あのAIが提案したようにホロウレイダーになるんじゃないの?」
「これでも治安官だぞ?違法行為を取り締まる側が違法行為に走っちゃ駄目だろう?」
流石に散々取り締まってきたホロウレイダーに堕ちるのは勘弁して欲しい。
「えぇ〜?僕のこと拉致しておいて今更?」
「拉致言うな、保護と言え。ホロウレイダーになるのは最終手段だ。」
『訂正。マスターは治安局からMIA認定され、既に治安局から除名されています。なので、マスターは「元」治安官となります。』
「…ま?」
俺ってMIA認定されたん?
「MIAって何?」
『MIAとは作戦行動中行方不明の略称です。治安局のデータベースにアクセスして確認したので、間違いありません。』
「ハッキングだろそれ。普通に犯罪すんなや。バレたときのリスクはどうすんだよ?」
『そのようなリスクは軽微なコラテラルダメージです。そもそもハッキングはバレないようにしてあるのでむしろノーダメです。』
親父の遺したAIが優秀過ぎて泣けてくる…。
「じゃあ何も問題ないんじゃない?」
メリュジーヌがするりと俺の膝の上に座ってきた。長い銀髪が視界の大半を埋め尽くしていて、テレビのニュースが見れないんだが???
「ここ、落ち着くんだよねぇ。暖かいし。」
「おーい、視界を塞ぐな。ニュースが見れん。」
なんだか随分と懐かれたというか、なんと言うか。
距離感がバグってる。
実験室では録に会話する相手もなく、ある意味ずっと孤独に過ごしてきたことを考えると仕方ないことかもしれない。
人肌が恋しいのだろうな。
「…ねぇ、黒鐵って良く鈍感とか朴念仁とか言われない?」
「なんでさ?」
『マスターを言い表す表現として唐変木、昼行灯などが挙げられます。』
「最近起動したAIと世間知らずのドラゴン娘に言われたくないわ。」
しかし治安局から除名か…。TOPSから圧力が掛かっているのか…?
これから生きていくのにはまず手に職を付けてお金を稼がないといけない。
何時までもホテル暮らしは無理だから、何処か格安のアパートでも借りるか?
「死んだことになっている人間が仕事に着いたり、アパート借りたりするにはどうすれば良いか。ハイペリオン、何か案はあるか?」
『提案。身分を偽装して今後生活をするべきかと。既に金さえ払えば身分を問われないアングラなアパートを確認、予約しています。身分証の発行については、役場にアクセスし、偽の身分証を発行してあります。そろそろ郵送で届く頃かと。』
「あの、勝手に進めないで貰えます?」
外堀がガンガン埋めた立てられてやがる…!
「流石ハイペリオン。仕事早いねぇ。」
『恐縮です。』
ってかいつの間に仲良くなってんのよ2人は?
メリュジーヌが膝の上に座りながらこちらに向き直った。
至近距離でまじまじと見るとどえらい美人な顔してるよな。
「ほらほら、ホロウレイダーになっちゃいなよ!」
『肯定。マスターはホロウレイダーにならなくては今後の生活は立ち行きません。』
良い笑顔のメリュジーヌとハイペリオンに対し、
「い、いやいや!他にも仕事っていっぱいあるし?俺の仕事の適性とかほら、色々あるんじゃないかなって。」
と反論するも、
『マスターは治安局以外に就職した経験はなく、身に付けた技能もホロウ内での探索や戦闘に特化したものばかりです。他の職業に付いても役に立たないかと。』
「これらを活かすにはホロウレイダーしかないし、手っ取り早くお金を稼げるよ?」
と論破されてしまった。
……やるしかないのか……散々ボコって取り締まり、ケツを蹴り上げてホロウから追い出してきたならず者、ホロウレイダーに堕ちるしかないのか……!
とりあえず飯買ってくるか………。