「ねぇねぇ!フライドポテト、美味しそうだね!」
「朝っぱらから良くそんなの食えるなぁ。」
メリュジーヌは白色のTシャツに黒色の短パンというラフな格好で歩いている。
その手にはコンビニで買ったフライドポテトLLサイズと炭酸飲料のペットボトルが握られていた。
揚げたてのフライドポテトを頬張り満面の笑みを浮かべている。
なんでもジャンクフードを食べてみたかったらしい。
まぁ、長年実験室に囚われていた事を考えるとむしろ当然と言えるかもしれないな。
「ん〜!おいひいね!これっ!」
「口の中のもの呑み込んでから喋ろうな?」
尻尾を出していたらブンブン振っているんだろうなぁ。
メリュジーヌは今、翼と尻尾を服の中に隠している。
ドラゴンのシリオンなんて珍しいから、TOPSの連中が探し始めたらすぐに見つかるだろう。
角だけを出しているなら鬼のシリオンに見えなくもないだろ。
髪型もポニーテールに変えており、印象もガラッと変わっている。
結い上げられた髪の下から覗くうなじが実に良い。
ポニーテールは良いぞぅ。
「何か邪な視線を感じたような?」
「お前さんを探してる連中でもいたんじゃないか?ちっとそこら辺の店に入って視線を切るか。」
そもそも非合法な実験の被験者だ、写真が記録として残ってるか微妙だし、何ならホロウ内で死んだと思われててもおかしくない。
一応念の為万が一に備えて変装(髪型を変えるだけ)して貰っているだけで、他意はない。
ないったらないのだ。
今歩いている街……確か六分街?だったか。ここにあるアパートで契約する予定なので、周辺の確認も兼ねて散策していたが……ここの店にするか。
二階建ての建物で、一階が店舗、二階が居住スペースって感じだな。
店名はRANDOMPLAYか、何の店だろうかね?
「ここに入ろうか。」
「そうだね、丁度食べ終わったことだし。」
指に着いたフライドポテトの油を舐めとったメリュジーヌと共に店内に入っていく。
店内には所狭しとビデオテープが置かれていた。
「なるほど、ビデオ屋か。」
「ビデオってあの映画をテレビで見れるようにしたやつ?」
「あながち間違っちゃいないな。他にもアニメとかドキュメンタリー番組とかもあるぞ。」
「へぇ〜。」
メリュジーヌが興味深そうに棚に陳列されたビデオテープの品定めをしていると、レジの方から
「いらっしゃい。どんなビデオをお探しかな?」
と店員から声を掛けられた。
年齢は20後半位だろうか、歳の割には落ち着いた雰囲気のある青年だった。
「あぁ、どんなお店かと思って立ち寄ったんだ。近くのアパートに引越してくる予定でね、周りの散策をしていたところなんだ。」
「なるほど。この六分街に新たな住人が来た訳だ。歓迎するよ、盛大にね。見ての通り、うちはビデオレンタルをやっていてね、今なら会員カードを作るとお得なポイントが追加で貰えるんだ。」
「盛大な歓迎をどうも。でもうちにビデオの再生機を置くかどうか「この映画見てみたい!!」…。アパートの契約をしたら会員カード作らせて貰うよ。あと近くにビデオの再生機が買えるお店があれば紹介して欲しい。」
「勿論。店を出て左にあるお店を尋ねるといい。エンゾウという人がお店をやっていてね。僕の名前を出して貰えば、それなりに融通は効くはずだ。」
そう言って青年は手を差し出してきた。
「僕はアキラ。ここランダムプレイの店長だ。今後とも宜しく。」
「宜しく。俺は…ノワールだ。」
あっぶねぇ、普通に名前を名乗るところだった。咄嗟に偽名を決めちゃったが、仕方ない。
今後はノワールと名乗るとしよう。
差し出された手と握手すると、意外と強い力で握り返してきた。
見た目に寄らず、鍛えてるのだろうか?
「そちらのお嬢さんは?」
アキラがメリュジーヌに視線を向けたのだが、当の本人はビデオテープに夢中のようだ。
「こいつはメリュジーヌ。ちと世間知らずなもので、済まない。」
「良いんだ。ビデオに夢中になってくれるのはビデオ屋冥利に尽きるというものだよ。」
アキラの顔を見ても特に気分を害した様子もない。
なんと言うか、好青年って感じだな。
「じゃあ、これからアパートの契約だからもう行かせてもらうよ。メリュジーヌ!そろそろ行くぞ。」
「あれ?会員カードは?作って貰わなきゃレンタルできないんでしょ?」
駆け寄って来たメリュジーヌの手元には1、2、3……7本のビデオテープがあった。
さもありなん。
「こういった会員カードの作成には個人情報が必要なんだ。これからアパートの契約するんだから、そこの住所を登録しないと二度手間だろ?」
「そっか。じゃあ店長さん、このビデオテープ取って置いてね。」
「ああ、分かったよ。早めにレンタルしに来てくれると助かるよ。」
そう言ってアキラは店の奥に入っていった。
アキラが入っていったスタッフオンリーの扉の向こうには、オレンジ色のスカーフを巻いたボンプと大きなディスプレイがちらっと見えたな。
…やっぱり大画面で見た方が迫力あるよなぁ。
普通サイズのテレビじゃメリュジーヌが満足してくれない気がする…。
アキラが紹介してくれたお店に期待だな。
────────────────────
「お兄ちゃん?そのビデオテープは何?あんまりお兄ちゃんの趣味とは違うやつばかりだけど?」
「これかい?さっきお店に来たお客さんがレンタルしたいからって取り置きを頼まれたんだ。」
「へぇ〜!どんな人だったの?」
「近々付近のアパートに引越して来る男女2人組さ。男性の方は黒髪を首後ろに一つ縛りで纏めた人でね、身体も鍛えているみたいだし、なんと言うか鋭い雰囲気が有るけど悪い人では無さそうだ。もう一人は、身長の低い女性でね、白色髪をポニーテールにした活発なシリオンだったよ。ビデオに興味津々といった感じで、これらを選んでくれたんだ。勿論会員カードも作ってらう予定だ。」
「良いなぁ〜。そんな太っ腹なお客さんなら、私も呼んでくれれば良かったのに 。」
「君はイアスの調整をしていただろ?パエトーンとして活動していく上で、イアスとの接続はとても大切だ。しっかり頼むよ。」
「それくらい分かってるってば。ってどうしたのお兄ちゃん?考え事?」
「さっきのお客さん、何処かで見た事があるような気がするんだ。それなりに昔のような気がする…。」
「まさっかぁ〜。他人の空似か、デジャブってやつでしょ?」
「何となくだけど、彼を見たと言うより彼に似た人を見た、と言う方がしっくりくる…気がする。」
「何それ?親兄弟とか、親戚的な感じ?」