HUNTER×HUNTERの世界と言っても数多存在する。
二次創作も含めれば無限に等しい。
そのうちの一つで、それは起こった。
1971年。
その世界に転生した者たち、この世界をHUNTER×HUNTERの世界であると認識していた転生者たちの下に、ある一通の手紙が届いた。
手紙の内容はとあるゲームの開催予告と、参加を希望するかの往復はがき。
ゲームの名は、『念能力バトルロワイヤル』
15年後。
『念能力バトルロワイヤル』の主催者は、先月終えたばかりの予選通過者のリストを眺めていた。
「ついに、選ばれし六人が揃った」
黒いスーツに身を包んだ糸目の男性。見るからに胡散臭い雰囲気の彼は、安っぽい椅子に座りながら、やはり胡散臭く笑った。
「各系統ごとに選出された六人。いずれも十数人のライバルを蹴落として勝ち抜いた強者たちだ。ボクの願いを叶えるのに、これ以上の逸材はいないだろうね」
「まさか本当に上手くいくとはな」
そう語りかけてきたのは、机に座る、黒いジャケットを羽織った少女。
「計画を聞いたときは、そんな上手くいくはずがないと思っていたんだがな」
「参加者のモチベーションが持つはずない、だろ? その件についても説明したと思うんだが」
「参加者や脱落者、そして不特定多数の一般人から徴収したオーラと、古の時代に作り出された神器、願望機の譲渡。確かに魅力的だが、手紙一枚で信じるには非現実的な内容じゃないのか?」
「非現実性なんて、彼らはとっくの昔に味わっている。第二の人生、それも創作世界への転生は、君が思っている以上に非現実的なのさ。その上転生者であると見抜かれては、胡乱な嘘だって信じてしまう。この手紙を信じさせるのなんて、簡単なことさ」
何しろ本当のことだからね、と。
男はそう言った。
「……まあ、バカが多い分には問題ないか。貴様は目的を果たせる。私は報酬を手に入れられる」
「見事なギブ&テイクだね。とはいえ君の仕事はこれからが本番なわけだ。期待しているよ」
「分かってるさ」
そう言って、少女はリストを手に取った。
「さて、勝ち残った奴らは────」
◆◆◆◆◆◆
「まずは予選通過おめでとう。ジーラ君」
「オ、ウ」
サヘルタ合衆国某所。
人里離れた研究所の地下に、一人の老博士と、一人の奇妙な少女がいた。
老博士は白衣に眼鏡に白髪とまさに絵に描いたような研究者だったが、少女の姿が異常だった。
手や足、胴の一部などが黒く変色している。残された皮膚は病的なほど白く、人間のそれとはかけ離れていた。
背中には枝分かれした鋭い突起がいくつも生え、極めつけに臀部からは太い尻尾が生えている。
異形。その一言に尽きた。
「しかし、参加者たちも愚かだね。『単純で一途』と言えば聞こえがいいが、殺し合いに馬鹿正直に単独で挑むなど、愚かとしか言いようがない」
「ヒトノ、コト、イエル、カ?」
「我々のは計算高いというのだよ。それとも何か? 他の念能力者を頼ったことを、引け目に感じているのか?」
「オモッテ、ハ、イナイ。シ、タヨッタ、ワケデモ、ナイ」
「そうだな。我々はお互いに利用し合っただけだ。君は優勝のため。私は私作品の最強性を証明するために」
二人は転生者だった。
そして手紙が届く前からの顔馴染みであった。
肉体的には祖父と孫の関係であり、精神的には故郷を同じくする友人であった。
「私の能力による改造、強化を受けた君の雄姿。堪能させてもらったよ。実にすばらしい戦いだった。まさか敵も、絶状態の相手に堅で固めた強化系の自分がミンチにされるとは、思ってもみなかっただろうね」
「ハッ。センシャ、ヨリ、モロイ、ヤツ、ガ、ワルイ」
そう言って、少女は笑った。
開いた口に生えていたのは、鋭く尖った無数の牙。
そしてその隙間から、青い炎が漏れ出ていた。
強化系代表者、ジーラ=ガッドゥ
能力名は【
◆◆◆◆◆◆
「どいつもこいつも、雑魚ばかりかよ」
ヨルビアン大陸東部。
とある犯罪者集団を抹殺し、その屍の上に座り込む、一人の女性がいた。
「骨のある輩と戦えると思って依頼を受けたってのに、これじゃ期待外れだ」
チーパオと呼ばれる民族衣装を着こんだ女性。その手には一本の棍が握られている。それぞれの先端には金属の飾りが付けられていて、そこには神字が彫り込まれていた。
「これなら、この前の予選の連中のほうが、よっぽどましだったぜ」
そうボヤく女性の背後。
屍の山の麓で、動く影が一つ。
生き残りだ。全身をボロボロにされ、所々に火傷を負いながらも、頂の女性を殺すため拳銃を向ける。
「……やめとけよ」
女性は振り返りもせず言った。
「依頼はテメェら組織の壊滅。もうオレの用は済んだ。雑魚をわざわざ殺して回るなんざ面倒だからな、生きてたんなら見逃してやる」
「う、うるさい。よくも皆を、よくもボスを!」
「ヤクの密輸とガキの密売で稼いでんだ、こういうこともあるだろ。オレに傷一つ付けられなかった自分の弱さを呪うこったな」
「クソッ、クソッ、許さねぇ。てめえを絶対許さねェ!」
「じゃあさっさと撃てよ。殺してやるから」
「く、クソッタレがぁッ!!」
引き金の引かれる音。
撃鉄の落ちる音。
火薬の爆ぜる音。
それら全てを塗り潰す轟音が、生き残りの体を貫いた。
「そんな豆鉄砲で
女性が振り返ると、生き残りだった男の皮膚は黒く変色し、全身から煙を立ち昇らせていた。
「ハッ。一撃かよ。やっぱ雑魚は雑魚だな」
そう言って、女性は立ち上がる。
「さぁて、今度こそ戦い甲斐のある奴がいればいいが……じゃなきゃテメェの命を貰うぜ? 主催者さんよ」
好戦的な笑みを浮かべ、女性が懐から取り出した手紙には、『本選開催のお知らせ』と書かれていた。
変化系代表者、カイメラ。
能力名は【
◆◆◆◆◆◆
「皆ザコでバカばっか。人間個人で出せる力なんてたかが知れてるのに」
ジャポン某所、豪華絢爛な日本家屋の中で、巫女服を着た一人の少女が『本戦開催のお知らせ』と書かれた手紙を弄りながら呟いた。
「友情? 努力? 勝利? そんなものは大前提。少年ジャンプ読んでるならやってて当然。だったら何が勝敗を分けるのかって、生まれ持った素質でしょ」
けらけらと笑う少女の背後に、ゆらりと現れる一つの影。
「血統主義はジャンプの基本。親ガチャ外せば負け犬確定。恨むんならガチャ運最悪の自分を恨んでよね」
それは巨大な人型の念獣だった。
袴を履いた上半身裸の男性型念獣。その右手には、巨大な古剣が握られている。
「ねえ。そう思うでしょ? 負け犬さん」
「……ッ!」
少女が語り掛ける先。
開かれた障子の前で、ボロボロの格好の男が立っていた。
男は、先の予選の参加者だった。
具現化系である彼には自身を蘇生させる能力が存在し、それによって彼は蘇ったのだ。
だが、蘇ろうと一度死んだ事実までは覆らない。
彼は敗北者であり、本選参加資格を持っていなかった。
「だから、私を殺して参加権を奪い取ろうって魂胆でしょ? ザコイヌらしい惨めな考えよね。一度負けてもまだ懲りないんだから」
「うるさい! 俺には、俺には優勝しなきゃいけない理由があるんだ!」
「それ私に関係ある? ないよね? 第一勝たなきゃいけないんならなんで負けたのさ。それと、そういう事情は先に話しなさいよ。後出しで事情がどうの言われても知ったこっちゃないし」
「このっ! クソガキがぁ!」
叫びと共に、男が自身の念能力を発動させる。
現れたのは龍の姿をした念獣。周囲の大気を操作し、莫大な大気圧で敵を抹殺する。
「わぁこわーい。怒らないで負け犬さん。全部ホントのことなんだからさぁ」
少女は笑う。
けたけたと、何一つ恐れることなく。
「クソがっ! その余裕顔をぐちゃぐちゃにしてやる!」
嵐が巻き起こる。
荒れ狂う風が屋敷の屋根を吹き飛ばす。
空には暗雲が立ち込め、生み出された暴風を可視化していく。
「くたばれクソガキィッ!!」
「やだよバーカ」
ビル一つ余裕でバラバラにできるほどの暴風が、少女めがけて撃ちだされる。
それに対し、少女は何もしない。
動かしたのは顔と右手だけ。
自分の勝利を確信するかのように、男の惨敗を確信するかのように、彼我の実力差を確信するかのように。
ただ、あっかんベーをした。
そして、少女の認識は正しかった。
荒れ狂う暴風は、静かな斬撃によって両断された。
「────は?」
斬撃は嵐を、そして男の念獣を、断ち切り、破壊した。
「なにが、は、よ。見てわかんない? あんたの念獣は負けたの、私の、我が一族の念獣に、ね」
親指で少女が指さすのは、背後に佇む巨漢の念獣。
その手に握られた、巨大な剣。
「何、をした。何を、一体何を!?」
「教えてあげてもいいんだけどさ……その前に、よくも人の家を壊してくれたよね」
天井を失った屋敷の中からは、晴れ行く雲と、その隙間から差し込む太陽のあかりが、良く見えた。
「乗り込んできたあげく、別荘とはいえ家を吹っ飛ばして。どうオトシマエをつけようか? ねえ負け犬さん」
「……ヒィッ!」
ゆっくりと歩み寄っていく念獣を見て、男は完全に腰を抜かしていた。
「どーせ死んでも蘇るんでしょ? なら──」
「──まずは、百回死んでみようか」
男の悲鳴が途絶えたのは、翌日のことだった。
具現化系代表者、ヒビキ=ゼーウィン。
能力名は【
◆◆◆◆◆◆
「……よくもやってくれましたねぇ」
「…………」
ベゲロセ連邦国。
一人の女性を、十数人の男女が取り囲んでいた。
取り囲む男女に統一性はない。
だが、その中の誰がリーダーであるかは、一目で理解できるだろう。
「生きているのが不思議ですか? 神より賜りし神通力、その一端でございます」
それは一人の男性だった。
来ている衣服は、ある宗教の司祭服に少し似ていた。
だが飾りの多さ、見た目の豪華さは、比較しようもない。
誰が見ても偉く、誰が見ても尊い。そのような意味を込めて作られた装束は、男の権威の証でもある。
「何の用か、と問われる前にお答えしましょう。あなたの本選参加の手紙を渡していただきたい」
「…………」
対する女性は、これまた特徴的な外見をしていた。
背が、高い。
とにかく、高い。
身長240センチオーバー。女性最長記録にはわずかに及ばないが、それでも十分すぎるほどの巨体である。
巨大な体が纏うのは、シンプルな白ワンピース。そして白い帽子。特注サイズであること以外、これといった特徴もない。
「これでも私はある新興宗教団体の教祖を務めておりましてね。信者たちを通じて様々な情報を仕入れています。本選参加の資格についても、ね」
「…………」
「その手紙を持っていること。手紙に記された系統に該当する事。そして手紙に記された日時に会場に到着していること。それが本選参加の条件。それさえ満たしていれば、
「…………」
「さあ、渡していただきましょうか」
「…………」
「まさか、この期に及んで拒否するなんてことは言いませんよね? あなたの念はすでに把握済み。対してこちらは未だすべての手札を晒してはおりません。それに、ここにいる十二人の信者たちは、いずれも我が教団の精鋭。念の実力を含め、プロハンターにも引けはとりませんよ」
「…………」
「勝敗は明らかです。痛い目を見る前に、手紙を渡していただきた──」
「
高身長の女性は、奇妙な言葉で答えた。
その意味を、教祖の男は理解できなかった。だが、それが拒絶の言葉であることは理解できた。
「…………残念です。せめて来世では、その御霊が救われるよう祈りましょう」
男がそう言うと、女性の周りを囲っていた男女の目に殺意が宿る。
そして各々が念能力を発動させる。
拳にオーラを纏わせるもの、オーラが巨大な手の形になるもの、禍々しい刃を具現化するもの、懐からコントローラーを取り出すもの、人差し指を伸ばしピストルのように構えるもの。
その場の全員が、臨戦態勢に入った。ただ二人、教祖の男と高身長の女性を除いて。
「…………ぽぽ」
「あなたの発は理解しています。自らの拳にオーラを纏わせる。強化系と何ら変わりない。せっかくの特質系だというのに、才能の無駄遣いと言わざるをえません。あるいはメモリの無駄使いでしょうか? 何にせよ、我々の敵ではない」
「…………」
女性は未だ、構えない。
「どうしました? 怖気づきましたか? それとも卑怯だと? まあ何でも構いませんが、戦う気がないならさっさと手紙を渡してください」
「
言って、ぐるりと。
女性はその場で一回転した。
両腕を横に伸ばし、手のひらを上にして行われた、回転ラリアット。
オーラを纏った状態で行われたソレは、速度こそ教祖の動体視力を凌駕するほどであったが、その程度の行動に過ぎない。
いかに女性が高身長であろうと、数メートルの距離を保つ信者たちには届かない。
女性の行動は攻撃ですらなく、無駄に終わるはずだった。
だが、実際のところそれは攻撃であり、結果を生んだ。
一回転。
一回転して女性が再び教祖と向き合ったとき、彼女を囲む信者たちは全員死亡していた。
「ぽぽぽ」
「な、何が、何が起こったのです!?」
教祖には見えなかった。
女性が一回転したとき、巨大な鋼鉄の腕が出現し、女性の腕の動きに合わせて旋回したことが。
超高速で横っ面をぶん殴られた信者たちが、一瞬で上半身をひき肉に変えられた様子が。
教祖には、見えなかった。
それが彼と彼女の実力差だった。
「……
「…………ッ! 私を殺しますか! ですが、私を殺しても、信者たちの命を対価にして蘇る! 私は不死身だ」
「
超高速の鉄腕が、教祖に向かって雨のように降り注いだ。
この日、ベゲロセ連邦最大の振興宗教団体が壊滅した。
特質系代表者、ハッシャク。
能力名は【
◆◆◆◆◆◆
「つまり参加証を譲ってほしいと……貴様、そもそも予選に参加してたか? 見覚えがないが」
「しとらへんで。遅刻してもうてな」
アイジエン大陸の某国。そのとある民家で、その二人は対峙していた。
一人はパーカーとズボンをはいた男性。
もう一人は、セーラー服を着た少女。
「いやー、会場行くための船が警備の都合で全便欠航してもうてな。よりにもよって港に王子様が来とったんや。いやーおっちぬ前にカキンの街並み見とこ思ったんが間違いやったわ」
「自業自得だな。もっとゆとりのあるスケジュールを組むべきだ。社会人なら当然だろう。それとも、享年も見た目通りな口か?」
「いや? これでも前世は大往生したで。孫に囲まれ畳の上でってやつや。ハンタの続きが読めへんかったのが唯一の心残りやな」
「ならボケを引きずったか。とにかく参加証はやらん。俺にも願望機を求める理由があるからな」
「どうしてもかいな?」
「どうしてもだ」
「そか……ほな、奪い取るほかあらへんな」
少女のオーラが増大する。
『練』だ。
オーラ増大のスムーズさ。そして放出されるオーラの膨大さ。ただの『練』でも見て取れる情報は存在し、そして少女のそれは彼女が達人の域にあることを物語っていた。
「……くだらんな」
それを理解したうえで、男は嘆息した。
「我々は操作系だ。その長所は自分以外のものを武器にできる事。短所は自分自身は弱い事。確かに白兵能力は必要だろうが、自分から積極的に狙いに行くものではない」
「そうやな。けど油断しすぎとちゃうか? もうお互い二、三歩近づけば殴れる距離やで」
「それが下らないと言ったんだ」
直後、少女は何かに吹っ飛ばされた。
時速にして約六十キロ。絶大な質量による衝撃は、少女の体を窓の外へと吹っ飛ばし、更に三つほどの民家を貫かせた。
「“二、三歩近づけば殴れる”だと? こちらはすでに射程圏内だ。先に動けば先手をとれると思ったか? バカめ」
民家が崩れる。
周囲の地面が、岩が、コンクリートが崩れていく。そしてそれらが寄り集まり、男を飲み込んで一つの塊を成していく。
それは、十メートルを超える人型の巨人だった。
少女を吹っ飛ばしたものの正体、それは民家の外で形成され攻撃の瞬間を待っていた巨人の腕だった。
『これが俺の念能力、【
巨人から、男の声が発せられる。
瓦礫の一部を震わせ、振動によって男の声を外部に出力しているのだ。
『操作系とて白兵能力は必要だ。だがなにも俺自身が強くなる必要はない。操作系は操作系らしく、操作対象に戦わせればいい。俺自身を守らせながら』
巨人は少女が吹っ飛んで行ったであろう方向を見やる。
突然の事態に民家の住人たちが騒いでいるが、念能力者の気配はない。
『……死んだか。あっけないものだな。だが恥じることはない。貴様は俺より弱かった。それだけのことなのだから』
そう言った男の耳に、どこからか地鳴りのような音が聞こえてきた。
(生きていたか。この音は、おそらく能力によるものだろう。俺と同じで瓦礫を操るか? それともまさか地震でも起こすか? どちらにせよダメージは与えた。瀕死の状態で突破できるほど【
瓦礫の巨体はたとえ念能力者であっても破壊困難だし、もし仮に破壊できたとしても、破壊された瞬間その部位が亜音速で敵めがけて炸裂するようプログラムされている。
巨人自身の反応速度も十二分に速い。実際、数十人の能力者が争う予選において、男がかすり傷を負うことも、敵の攻撃を受けそうになることも、一度もなかった。
全て、この分厚い瓦礫の壁によって阻んできた。
故に無敵だと、男は確信していた。
『来るなら来い。真っ正面から、うち砕いてくれる』
そう言って、巨人は構えた。
そして、少女は来た。
巨人は動かなかった。
『────』
数瞬の、間があった。
ガラガラと、巨人の輪郭が崩れ、元の瓦礫に戻っていく。
胸に大きな穴をあけた男は、そのまま瓦礫の中に呑みこまれていった。
「阿呆やなぁ、自分」
崩れ行く瓦礫の巨人の後方、二百メートルほどの場所。
そこに、少女はいた。
その手には、騎士が持つような巨大なランスが握られている。
「速さは強さ。圧倒的質量を用意するのにどデカい的なんて必要あらへん。圧倒的速度さえあれば事足りるわ」
そう言う少女の手から、ランスが消える。
具現化系による具現化物だ。
「操作系も大事やけどな、他の系統も大事やで? 60%もあればカストロさんかてダブル作れんや。隣が放出しかない操作系は、こういうこともせなあかん。来世で活かしや」
そう言って少女は、男を穿つ際に抜き取った『本戦開催のお知らせ』をひらひらと扇いだ。
「あと死んだから教えたるけどな、カキンで足止めされてたちゅう話、ありゃ嘘や」
男は最後まで知らなかった。
少女は確かに予選に遅刻したが、同時に確かに会場に来ていたことを。
絶で身を隠し、互いに殺し合う自分たちを遠巻きに観察していたことを。
自分の能力が、その時点で完全に分析されてしまっていたことを。
男の攻撃は、圧倒的質量によるもの故に手ごたえというものを感じられない。巨人の拳は少女が同速度で移動したため、衝撃を殺されるどころか当たりさえしなかった。
男は全く気づかなかった。
胴体を穿たれ絶命する、その瞬間まで。
「ほなおおきに。アンタの分まで、本選頑張ったるで」
そう言って少女は去った。
一瞬で、瞬く間に。
操作系代表、イワン=ベルゲイ改めジゼル=ビトー。
能力名は【
◆◆◆◆◆◆
「ついに、本選参加者が出そろったか」
バルサ諸島。
その島の一つ、ウルクド王国の宮殿で、玉座に座る男性が一人。
豪華絢爛な衣装、頭上で輝く冠。彼がこの国の王であることは、一目瞭然だった。
「我が王国が建国されてより百年。ついにその時が来たわけだ」
男は笑う。
来るべき戦いが、楽しくて楽しくて仕方がないと。
「この国も、我が民も、そして俺も。すべてはこの時のために用意された。あの狐のような男の欲望を果たすために」
だが、と続ける。
「この俺が、わが国が、だからと言って奴に隷属してやる理由がどこにある! あのような有象無象に従うなど、例え天がそうあれかしと定めようと、この俺が認めはせん」
「いかにも。陛下」
男の言葉に同調するのは。脇に控える四人の騎士たち。
四人とも歴戦の戦士であり、熟練の念能力者。
そして、転生者でもある。
生まれついたときから自らを鍛え続けた精鋭中の精鋭。男が最も信頼するウルクド王国最強の四天王。
「此度の戦の会場は我が領土。すなわち、我が念能力の射程圏内だ。故に、俺の勝利は決まったも同然よ。だが、我が領土を踏み荒らす不届き物を、活かして返す道理もない」
「では王よ。お命じください。我ら四天王、この全ては王の意向を果たすためにございます」
頭を垂らし、忠誠を口にする騎士たち。
その顔に偽りはない。
彼らのそれはままごとではない。
彼らは忠義故に男のために鍛え、忠義故に男のために戦ってきた。
「騎士たちよ。前世を同じくする同胞よ。ウルクドのため、そしてこの俺のため、全ての参加者たちを皆殺しにせよ!」
「「「「御意!」」」」
放出系代表、ビルガス二世。
能力名は【
◆◆◆◆◆◆
「まったく。そろいもそろって、癖の強いメンツばかりだな」
黒いジャケットを着た少女は、読んでいた書類を机に置いた。
「だからこそ、成し得るものがある。ボクの目的を果たすために、これくらいの個性は必要だよ」
「まあいいが……ん?」
何かに気づいた少女が、顔をあげる。
遅れて、主催者の男もそれに倣う。
そこには部屋の外に通じる扉があった。
閉めていたはずのそれは開け放たれ、一人の男が立っていた。
「ケイン・ウィーク。150億ジェニーの賞金首で、『念能力バトルロワイヤル』の主催者、だな」
「そうだけど、君は?」
「名乗るほどの者じゃない。ただの
「ふうん。目的は僕の命かい?」
「そうだ。貴様には1000件以上の殺人、窃盗、脅迫、そしてテロの容疑がかけられている。この上さらにデスゲームなんて始めやがって。ここで死んでもらう」
「それは困った。困ったから、クロエちゃん、よろしく」
「貴様……いや、分かったよ」
嘆息し、クロエと呼ばれた黒いジャケットの少女は、いつの間にか手に握っていた拳銃を、
「無駄だ。俺の能力は自身の無敵化。どんな攻撃も俺には通用しない」
「あっそ」
カチッと、少女は引き金を引いた。
一閃。
深紅の閃光が
「────すばらしい」
「…………」
「すばらしいよクロエちゃん。君はボクの見込んだ通りの能力者だ。君の実力なら、参加者たちを皆殺しにして優勝を奪い取ることも夢じゃない!」
「……満足か?」
「何が?」
「とぼけるな。アレは貴様の仕込みだろ。私が見抜けないとでも思ったか?」
「……いやまさか。バレるとは思ってたよ。ただ、その場で見抜かれるとも思ってなかったね」
「私を侮るな。下らん仕事をさせたんだ、追加で五千万払え」
「はいはい。クロエちゃんはがめついんだから」
そう言うと男は懐から小切手を取り出し、金額の欄に五千万と書いた。
「はいどうぞ。報酬分は期待してるよ。七人目の参加者さん」
「仕事は果たすさ。報酬分はな」
七人目の参加者。
特質系。クロエ=イワイテ。
能力名は、【
◆◆◆◆◆◆
そして。
1986年、八月。
バルサ諸島のウルクド王国にて、ついに『念能力バトルロワイヤル』が始まった。