さよなら天さん ~今度こそナッパを倒す~ 作:鈴木デストロイヤー
試験開始前。
地下の会場には、すでに多くの受験者が集まっていた。
ヒソカは、その中にいる一人の老人へ目を止めた。
白髪。
痩せた身体。
かなりの高齢だ。
強そうには見えない。
だが。
立ち方も、呼吸も、妙に洗練されている。
長い年月を鍛錬に費やした人間の身体だった。
ヒソカは老人へ近づいた。
「お爺ちゃん、強いの?♣」
老人が見る。
「さあな」
「試していい?」
「構わん」
ヒソカが笑った。
「死ぬかもしれないよ?」
老人は少しだけ考えた。
「殺すなら、きちんと殺せ」
「…………」
ヒソカの笑みが深くなる。
「面白いね♦」
◇
老人は上手かった。
拳も。
足運びも。
間合いの取り方も。
だが。
弱い。
あまりにもオーラが少ない。
数度の攻防の末。
ヒソカのカードが老人の喉を裂いた。
老人が倒れる。
動かない。
ヒソカはしばらく死体を見ていた。
「…………」
何も起きない。
背を向けた。
その時。
背後で物音がした。
振り返る。
老人の死体が立っていた。
「……死後の念♠」
死体が走り出す。
ヒソカはカードを投げた。
首が飛ぶ。
止まらない。
腕を斬る。
脚を斬る。
胴体を裂く。
それでも。
肉片が這ってくる。
「…………」
足へ。
背中へ。
肩へ。
次々とまとわりつく。
剥がしても、また来る。
やがて。
老人だったものが、背後からヒソカへ抱きついた。
耳元。
口だった肉片から。
声がした。
『さようなら天さん……』
ヒソカが眉を寄せる。
『どうか死なないで』
「……誰?」
光が弾けた。
◇
ヒソカが目を開けた。
白い場所だった。
少し離れたところに、老人が座っている。
「やあ♣」
「お前か」
ヒソカは老人を見る。
「ボク、死んだみたいだね」
「そうか」
「さっきのは?」
老人が答える。
「《さよなら天さん》だ」
「他人に殺された後にだけ発動する。一度きりの発だ」
「へえ……」
「他の発は生涯使えん。生前の念も本来の一割までだ」
ヒソカが少し笑う。
「ずいぶん重い制約だね♠」
「ああ」
「何年かけたの?」
「九十年」
「九十年?」
「十歳から感謝の正拳突きを続けた。突いた回数だけ威力が上がる」
ヒソカが老人を見る。
「そこまでして、何をしたかったの?」
「ナッパを倒したかった」
「ナッパ?」
「漫画の登場人物だ。餃子が自爆しても倒せなかった」
ヒソカが少し考える。
「じゃあ、さっきの『天さん』も?」
「ああ。天津飯だ。同じ漫画の登場人物だ」
「それを再現するために九十年?」
「ああ」
ヒソカは数秒黙った。
「……そのナッパって、実在するの?」
「しない」
「…………」
その時。
少し離れたところに、四人の姿が現れた。
ゴン。
キルア。
クラピカ。
レオリオ。
四人とも周囲を見回している。
レオリオが自分の身体を見る。
「……おい」
クラピカが答える。
「おそらく、私たちも死んだようだ」
「はあ!?」
キルアがヒソカと老人に気づいた。
「……あいつら、試験会場にいた奴だな」
ゴンも見る。
「あ、本当だ」
四人が近づいてくる。
レオリオがヒソカを見る。
「何があったんだよ?」
ヒソカは老人を指差した。
「この人が爆発したんだよ♣」
「は?」
老人がヒソカを見る。
「威力はどうだった」
「ボクまで死んだんだから、かなりのものじゃない?♦」
「ナッパを倒せそうだったか?」
「知らないよ」
老人は少しだけ残念そうに黙った。
レオリオが眉を寄せる。
「……ナッパって誰だよ」
ヒソカが笑った。
「漫画の登場人物だって♠」
沈黙。
レオリオが老人を見る。
「…………」
老人も見る。
「…………」
「ふざけんなクソジジイ!!」