さよなら天さん ~今度こそナッパを倒す~ 作:鈴木デストロイヤー
ヨークシンの夜。
街の各所で。
銃声が響いていた。
悲鳴。
爆発音。
怒号。
マフィアと警官たちを相手に。
幻影旅団が暴れている。
◇
セメタリービル。
クロロは。
窓の外から響く音へ。
静かに耳を澄ませていた。
銃声。
破壊音。
人々の悲鳴。
仲間たちが奏でる。
鎮魂曲。
クロロは。
ゆっくりと両腕を上げた。
まるで。
見えない楽団を指揮するように。
頭に浮かぶのは。
ウブォーキンさん。
誰よりも戦いを好み。
誰よりも豪快に笑い。
何より。
強さを求め続けた男。
――ウブォーキンさん。
クロロの手が。
静かに動く。
◇
同じ頃。
セメタリービルから。
かなり離れた場所。
フランクリンは。
マフィアたちへ向け。
両手を突き出していた。
念弾が。
次々と放たれる。
道路。
車。
壁。
人間。
まとめて。
撃ち抜いていく。
そのうちの一発が。
たまたま。
道路脇にいた老人へ当たった。
「…………」
老人の胸に。
大きな穴が開いた。
そのまま。
仰向けに倒れる。
フランクリンは。
気づかなかった。
周囲には。
撃つべき相手が多すぎた。
◇
数秒後。
老人が。
起き上がった。
◇
フランクリンは。
まだ撃っていた。
念弾が。
マフィアを薙ぎ払う。
その背後。
死んだ老人が。
黙って歩き始める。
ふらふらと。
それでも。
確実に。
近くに倒れていた。
一人のマフィアの死体へ向かって。
そして。
後ろから。
抱きついた。
ガシッ。
◇
「…………」
フランクリンが。
ようやく気づいた。
さっき撃った老人だった。
胸に穴が開いている。
死んでいる。
その死体が。
別の死体へ抱きついている。
「…………」
フランクリンは。
少し見た。
死後の念。
そう考えるのが自然だった。
だが。
何をしているのかは。
まったく分からない。
◇
セメタリービル。
クロロは。
静かに目を閉じた。
外から響く音を。
一つ一つ。
確かめるように。
指揮していく。
そして。
右手を。
ゆっくりと高く上げた。
◇
老人だったものが。
マフィアの死体へ。
強く抱きつく。
そして。
声がした。
『さようなら天さん……』
フランクリンの眉が。
わずかに動いた。
「…………?」
『どうか死なないで』
「…………」
フランクリンは。
老人を見る。
マフィアの死体を見る。
もう一度。
老人を見る。
「天さん?」
◇
クロロが。
静かに口を開いた。
「ウブォーキンさん」
一拍。
「貴方に捧げるレクイエムです」
高く上げていた手を。
静かに。
振り下ろした。
◇
その瞬間。
遠くの夜が。
白く弾けた。
◇
轟音。
◇
クロロの手が。
振り下ろされた位置で。
止まった。
◇
街の向こう。
巨大な火球が。
建物を呑み込みながら。
一気に膨れ上がっていく。
「…………」
◇
数秒遅れて。
衝撃波が届いた。
セメタリービルの窓ガラスが。
一斉に砕け散る。
爆風が。
室内へ吹き込む。
クロロの髪とコートが。
激しく揺れた。
それでも。
クロロは動かない。
ただ。
燃え上がる街を見ている。
◇
先ほどまで。
聞こえていた。
銃声。
悲鳴。
破壊音。
仲間たちが奏でていた。
ウブォーキンさんへの鎮魂曲。
◇
そのすべてが。
たった一度の轟音に。
掻き消されていた。
◇
「…………」
クロロは。
ゆっくりと手を下ろした。
◇
少しして。
通信機から。
声が入った。
『団長』
フィンクスだった。
「何だ」
『……フランクリンがいた辺り、消し飛んだぞ』
◇
クロロの目が。
わずかに細くなった。
もう一度。
遠くの火球を見る。
「連絡は?」
『つかねえ』
「…………」
◇
クロロは。
答えなかった。
◇
ウブォーキンさんを失った。
だから今夜。
仲間たちと。
鎮魂曲を奏でていた。
◇
そして。
その鎮魂曲の最中に。
今度は。
フランクリンがいた場所が。
跡形もなく吹き飛んだ。
◇
「…………」
◇
クロロは。
燃え上がる街を。
静かに見つめていた。
◇
今夜。
もう一曲。
必要になるかもしれなかった。