相変わらず世界は終わってるけど、俺の風がまだ折れてくれない(年中無休) 作:るっかっみー!
1.炎と風
俺──山田玲央は地面を蹴り、右手を大きく振り抜いた。掌から放たれた圧縮風刃が、訓練場の空気を切り裂きながら真っ直ぐに飛んでいく。
「甘い!」
親友──坂田俊久の声が響いた瞬間、風刃は炎の壁にぶつかり、鍔迫り合うように拮抗した。俊久が纏う炎はただ熱いだけじゃない。触れたものすべてを塵に変えるほどの密度を持っている。それが奴の能力──爆炎だ。
「相変わらず馬鹿げた威力だな、それ」
俺は歯を食いしばりながら風刃に力を込め直した。訓練場の砂が焦げた匂いを漂わせていた。
「B級のくせに、押し返してくるなよ」
俊久がにやりと笑う。声には余裕があったが、額には汗が浮かんでいた。ランクの差があっても、こいつが本気で俺を格下扱いしたことは一度もない。
「うるせえ。ランクの差なんて関係ねえって、いつも言ってんのはお前だろ」
「そうだったな」
俊久の炎が一段階、密度を増す。俺は両手を広げた。周囲の空気が呼応するように渦を巻き始める。風の誓い──これが俺の能力だ。風を意のままに操り、時に刃に、時に盾に、時に翼に変える。器用さでは誰にも負けないと思っている。
「来いよ、玲央」
俊久が拳を握ると、周囲の温度が一気に跳ね上がった。陽炎のように景色が歪む。
俺は地を蹴り、風をまとって加速した。空気を切り裂きながら、俊久の懐へと踏み込む。
「──そこか!」
俊久の炎が拳と共に振るわれる。俺はそれを紙一重で躱し、風の刃を至近距離で放った。轟音と共に爆風が巻き起こる。
「ちっ」
俊久が僅かに体勢を崩す。だがそれも一瞬、すぐに体勢を立て直し、炎の腕を鞭のようにしならせて反撃してきた。俺は風の盾を張り、衝撃を斜めに受け流す。それでも威力を殺しきれず、地面を数メートル滑った。
「まだ動けるだろ、お前は」
俊久が挑発するように言う。信頼しているからこそ出る言葉だと分かっていた。手加減なしで来るのは、俺がそれを受け切れると信じているからだ。
「当たり前だ」
俺は風をまとい直し、今度は真上から仕掛けた。旋回しながら降下し、俊久の防御の隙を突くように連続で風刃を放つ。一撃、二撃と炎の壁を削り、三撃目でついに防御の一角を崩した。
「なっ──」
俊久の表情が僅かに強張る。俺はその隙を逃さず、風をまとった拳を叩き込んだ。爆音と共に俊久の体が後方へ弾かれる。
「──っ!」
だが俊久はすぐさま炎を纏い直し、体勢を立て直しながら不敵に笑った。
「今のは、悪くなかったぞ!」
「まだ、終わってねえよ!」
俺たちは互いに構え直した。息は上がり、汗が滲む。どちらの攻撃も、もう一歩踏み込めば決定打になる。そんな緊張感が張り詰めていた。
結局、決着がつく前に訓練の終了を告げるサイレンが鳴り響いた。俊久が炎を消し、肩をすくめながら近づいてくる。
「今日はここまでだな」
「……次は、ちゃんと決着つけるぞ」
「上等だ」
俊久が手を差し出してくる。俺はその手を掴み、引っ張られるようにして立ち上がった。
「お前、本当に強くなったよな」
俊久がぽつりと呟く。冗談交じりではなく、どこか真剣な響きがあった。
「A級のお前に言われてもな」
「ランクなんて、いずれお前は追いついてくるだろ。少なくとも俺はそう思ってる」
その言葉に、俺は少しだけ照れくさくなって視線を逸らした。
俊久との模擬戦は、もう数えきれないほど繰り返してきた。ランクの差はあっても、俺たちの関係は中学の頃から変わらない。
この国に「能力者」と呼ばれる人間が現れ始めたのは、今から三十年ほど前のことだと言われている。原因は未だに解明されていない。ある日突然、人々の中に特殊な力を発現させる者が現れ、それは瞬く間に世界中へと広がっていった。
能力にはE級からS級までの等級が存在する。これは単純な威力だけでなく、制御の精度、応用の幅、そして戦闘における汎用性などを総合的に評価した指標だ。E級はごく限定的な力しか持たず、日常生活の補助程度にしか使えないことが多い。一方でS級ともなれば、たった一人で戦況を覆すほどの力を持つとされている。
俺たち能力者は、その力を制御し、正しく使うための教育を受けることが法律で義務付けられている。俺と俊久が通うこの「桜庭能力者育成学院」も、そうした専門教育機関のひとつだ。全国に数十校存在する育成校の中でも、桜庭は歴史が長く、卒業生の多くが対魔物部隊や治安維持機関で活躍していることで知られていた。
俺たちがこうして日々鍛錬に励んでいる理由は、単なる自己研鑽のためだけではない。
三ヶ月に一度、どこからともなく「魔物」と呼ばれる異形の存在が、大量に出現する現象が起きる。発生の法則も原因も、いまだに完全には解明されていない。ただ確かなのは、その度に多くの街が被害を受け、命を落とす人間が後を絶たないという事実だけだ。
能力者は、その脅威に対抗できる数少ない存在として、否応なく戦いの最前線に立たされることになる。俺たちが強くなろうとするのは、いずれ訪れるその時のために他ならない。
夕陽に照らされる俊久の横顔を見ながら、俺はぼんやりと思う。
次の魔物の大量発生まで、あと──どれくらいだろうか。
すぐかきます