相変わらず世界は終わってるけど、俺の風がまだ折れてくれない(年中無休) 作:るっかっみー!
正直に言うと、最初はそこまで印象に残る相手じゃなかった。
入学してすぐの頃、山田玲央という男子生徒の第一印象は「そこそこ器用で、そこそこ真面目」程度のものだった。B級能力者は決して珍しい存在じゃない──むしろ、この学院では実戦の主力層として頼られる立場だ。E級やD級に比べれば重宝され、A級ほどの突出した力はなくとも、汎用性と安定感で現場を支える。そういう意味では十分優秀な部類のはずなのに、玲央はどこか目立たなかった。良く言えば安定型、悪く言えば没個性。それが最初の私の評価だった。
その評価が変わり始めたのは、彼と坂田俊久の模擬戦を、初めて間近で見た時だった。
A級の俊久が本気で放つ爆炎を、玲央は真正面から受け止めていた。普通なら、防御に徹して耐えるだけで精一杯のはずだ。でも彼は違った。防ぎながら、隙を探しながら、確実に一手ずつ相手の防御を崩していく。結果的に負けてはしまったけれど、あの試合を見て、私は少し考えを改めた。
ああ、この人、ランクだけじゃ測れないタイプなんだ、と。
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私が氷結領域の展開範囲を無理に広げようとしていたあの日、玲央に見つかった時は正直気まずかった。誰にも言うつもりのなかった過去の話まで、気づけば口にしてしまっていた。
前回の氾濫で、私は自分の力不足を痛感した。A級判定を受けていながら、実戦の混乱の中でうまく力を発揮できず、守れたはずのものを守れなかった。それ以来、誰にも本音を漏らさないようにしてきたつもりだった。涼しい顔をして、余裕がある風を装って。
なのに、玲央にはあっさり見抜かれてしまった。
「透子もか。俊久も昨日、一人で訓練場にこもってた」
あの一言だけで、私は自分が一人で空回りしていたことに気づかされた。悔しいけれど、それは事実だった。
翌朝、玲央が私たちを教室の隅に集めた時のことは、たぶんこの先も忘れないと思う。
「一人で抱え込んで、バラバラに突っ走っても意味ないだろ」
真っ直ぐにそう言われて、最初は反発したくなった。A級としての矜持もあったし、素直に頷くのは癪だった。でも彼の言葉には、変な気負いも上から目線もなかった。ただ純粋に、みんなを心配しているのが伝わってきた。
俊久はA級で、実力だけで言えば玲央よりずっと上のはずだ。それなのに、あの場をまとめていたのは玲央だった。力の強さとは別の種類の強さを、彼は持っている。そのことに、私はあの日、初めてはっきりと気づかされた気がする。B級は貴重な戦力ではあっても、A級のように場を統率する立場を期待されることは少ない。それなのに彼は、誰に頼まれたわけでもなく、自然とその役割を担っていた。
「一人より、みんなでやった方が、なんだかんだ楽しいだろ」
あの時、少し照れくさそうに笑いながらそう言った玲央の顔を、私はなぜかよく覚えている。強がりでも建前でもなく、本気でそう思っているのが分かる笑い方だった。
正直、B級であることに、玲央自身はどう思っているんだろう、考えることもある。A級の俊久と並んでいても、劣等感なんて欠片も見せない。むしろ、堂々と自分の立ち位置を受け入れているように見える。
「ランクなんて、いずれお前は追いついてくるだろ」
俊久がそう言うのを、以前聞いたことがある。冗談交じりではなく、本気でそう信じている口調だった。そしてその言葉を、玲央も否定しなかった。認めているとも、驕っているとも違う。ただ、自分のペースで、自分の速度で強くなっていくことを、当たり前のように信じている。そんな感じがした。
私にはない強さだ。私は常に、自分がA級であることに見合う結果を出さなければ、と焦り続けてきた。だからこそ、玲央のそのマイペースさが、時々羨ましく見える。
氾濫の周期が短くなるかもしれない、という話を聞いてから、私たちはようやく一つのチームらしくまとまり始めている。俊久も、私も、美咲も、それぞれ違う形で不安を抱えていたけれど、玲央がそれに気づいて、声をかけてくれたおかげだ。氾濫当日も、なんとなくこのよにんで行動するんだろうなと、みんな薄々感じ始めていた。
正直、まだ彼のことを全部理解できているわけじゃない。もっと言えば、彼自身、自分の強さの正体をまだきちんと言葉にできていないんじゃないか、とすら思う。
それでも一つだけ確かなことがある。
山田玲央という人間は、傍にいるだけで、周りの人間の焦りや不安を、少しだけ和らげてくれる。そういう不思議な力を持っている。
それは風の誓いなんて名前の能力よりも、よっぽど得難いものなんじゃないか──そんなことを、私は最近よく考えるようになった。
窓の外を見ながら、そんなことをぼんやり考えていると、当の本人が呑気な顔で教室に入ってくるのが見えた。
「おはよう、透子」
「……おはよう」
素っ気なく返しながらも、私は少しだけ、口元が緩むのを止められなかった。