化け物が紳士的なのは不気味だって…神秘的の間違いでは?
創作とはそういうもので御座いましょう?おや?
口調が変わっていることにお気づきになられましたか?人間は目ざとい生き物なのですね。
それは置いておきまして、誰かがお見えに…
化け物「これはこれは。こんな雨の中に、お嬢様がお一人とは」
少女「……だれ?」
化け物「はて。あたくしで御座いますかい?」
化け物「ただの化け物で御座いますよ」
少女「……化け物?」
化け物「えぇ、化け物で御座います」
少女「……怖くないの?」
化け物「おや、お嬢様。怖がっていただけるので?」
化け物「それは困りましたなぁ。あたくし、怖がられるのには慣れておりますが、こう真正面から怖がられますと、少々照れてしまいますぜ」
少女「変なの」
化け物「よく言われます」
少女「ふふ」
化け物「おやおや。ようやく笑いましたな」
少女「……笑ってない」
化け物「これは失礼。あたくしの見間違いで御座いました」
化け物「ところで、お嬢。帰らなくてよろしいので?」
少女「……帰りたくない」
化け物「はて」
少女「帰ったって、誰も私のことなんか見てないから」
化け物「なるほど」
化け物「それでは、お嬢様」
少女「なに?」
化け物「今だけは、あたくしが見ておきましょう」
少女「……え?」
化け物「何も難しい話では御座いませんよ」
化け物「帰りたくないのであれば、帰らなければよろしい。泣きたいのであれば、泣けばよろしい。何もしたくないのであれば、何もしなくて結構」
少女「……そんなのでいいの?」
化け物「そんなもので御座います」
化け物「人間様は、どうにも難しく考えすぎる」
少女「じゃあ、あなたは簡単に考えてるの?」
化け物「えぇ」
少女「何を?」
化け物「化け物ですから」
少女「それ、答えになってないよ」
化け物「おや、ばれてしまいましたか」
化け物「冗談で御座います」
化け物「さて、お嬢様」
少女「どこ行くの?」
化け物「傘を探して参ります」
少女「でも……」
化け物「このままでは風邪を召してしまいますからな」
少女「あなたは?」
化け物「あたくしですかい?」
化け物「化け物が風邪を引くかどうか、はて、あたくしにも分かりませんな」
少女「じゃあ一緒に入ろうよ」
化け物「おや」
化け物「お嬢様、それはつまり」
少女「なに?」
化け物「あたくしと一緒に帰る、と?」
化け物「そうですか」
化け物「では、参りましょうか」
少女「どこへ?」
化け物「さあて」
化け物「帰る場所が決まっていないのでしたら、まずは歩いてみるといたしましょう」
少女「それでいいの?」
化け物「えぇ。人生、ではありませんな」
化け物「あたくし、化け物ですので」
少女「またそれ?」
化け物「これは失礼」
少女「ねえ」
化け物「なんで御座いましょう、お嬢様」
少女「明日もいる?」
化け物「おや」
化け物「随分と先のお話をなさいますな」
少女「だめ?」
化け物「いえいえ」
化け物「明日もいるかどうかなど、化け物のあたくしには分かりません」
少女「……そっか」
化け物「ですが」
化け物「明日もお会いしたい、と願うくらいは構わないでしょう」
少女「……うん」
化け物「では、そのように」
化け物「おや、お嬢様」
少女「なに?」
化け物「少しばかり、雨が近くなったようですな」
少女「雨が近くなるって何?」
化け物「さあ?」
化け物「化け物の言うことで御座います。お気になさらず」
少女は呆れたように笑った。
それから、化け物の差す傘の中へ少しだけ近づく。
雨はまだ降っている。
帰る場所も、明日のことも、何一つ決まってはいない。
それでも少女は、もう一人ではなかった。
化け物は何も言わず、少女の歩幅に合わせて歩いていく。
やがて二人の姿は、雨の向こうへと消えていった。
その夜、少女は初めて思った。
明日も雨ならいいのに、と。