私と彼女の物語   作:柚村たか

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かなり思いつきで書いてしまいました。見切り発車です。




 私の人生は、思い返すと病院での思い出がほとんどだ。何の病気だったかはなぜか思い出せないが、長い闘病生活の末、20歳という若さで幕を閉じたことは覚えている。

 

 身体が弱かった私は、よく風邪も引いたし、少し運動した次の日は熱も出たし、日光の下に長く晒されるなんてことは一度も無かった。だから遊園地に行ったことも、旅行に行ったこともなく、基本的にはベッドの上で本を読むことがほとんどだった。

 

 家族は私を大切にしてくれていたし、僅かだが友人と呼べる人もいた。でも、本当に自分自身の心の中をさらけ出せる存在は、もしかしたらいなかったのかもしれない。

 

 本当は外で遊び回りたかった。友人と学校帰りに寄り道してみたかった。学校行事をクラスメイトと楽しんでみたかった。家族と旅行に行ってみたかった。毎日自宅で料理を食べて、お風呂に入って、今日あったことを話して、自分の部屋の自分のベッドで眠りたかった。

 でも、そんなことを口にしてしまえば、きっと両親を悲しませてしまう。きっと友人を悲しませてしまう。だから私は、決して自分の願いを言うことはしなかった。

 

 そして、私はその生活を続け、先ほども言った通り20年で人生の幕を閉じたのだ。

 

 

 そう、そのはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グスッ⋯⋯、パパ⋯⋯ママ⋯⋯」

 

 

 グズグズと鼻を垂らしながら泣いている少女。多分⋯⋯少女だ。私はなぜか、彼女を()()()()()()()()()()状態だ。

 意味がわからないと思うが、私も正直よくわかっていない⋯⋯。

 

 彼女の視界は、私の目の前でまるで大きなスクリーンのように映し出されているし、彼女が聞いている音は、スピーカーから流れているかのように聞こえている。泣いているからか視界はぼやけているため、今はあまりよくは見えないが。

 そして不思議なことに、私にはこの少女の気持ちが全て手に取るようにわかる。感じる⋯⋯というより、私の中に情報として流れてきているというような感覚だ。

 

 どうやら今顔面を涙と鼻水で濡らしているこの小さな少女は、両親の葬儀に参加しているところらしい。彼女の両親は、不慮の事故で亡くなったのだそうだ。この少女自身がきっと明確な理由を理解していないからだろう、『なぜかパパとママがいなくなった』くらいの情報しか私には流れてこないが、彼女の視界が映し出している情報と、彼女の耳に入ってくる情報から、今はこの少女の両親の葬儀であることがわかった。

 だからだろう、彼女はとにかく悲しかった。あの大きな父の手でもう一度頭を撫でてもらいたい。母に優しく抱きしめられてぬくもりを感じたい。そう思っているのに、もうその2人はいないということに気付いてしまったのだ。

 

 それにしても、この小さな少女は、この年齢にしては静かに泣く子供だなと思う。もっと声を出してわんわん泣くのが子供らしい泣き方であると感じるが、少女は小さく父と母を呼びはするものの、声を殺して静かに涙を流している。

 なんだかその様子が逆に痛々しく、流れてくる感情がグサグサと己に刺さってくる気がする。

 

 そんな涙が止まらない少女のことは気にされることはなく、葬儀は滞りなく進んでいく。私の生前は火葬だったが、どうやらここでは土葬のようだ。

 そして葬儀が終わる頃には、少女は涙が枯れたのか、呆然としているようだった。

 

 そこからは彼女の視覚と聴覚を頼りに周りの状況を確認することができた。誰かは分からないが、男性と女性に手を引かれてやってきたのは、どうやら孤児院らしい。この少女の親族は、この子の面倒を見ることはしない選択をしたようだ。

 

 きっとあまり理解していない少女は、孤児院の先生につれられるまま、自分の部屋に通され、汚れていた身体を丁寧に洗ってもらい、あたたかい食事を与えられた。

 どうやらこの孤児院の先生は、優しい人間のようだ。それにホッと胸をなで下ろしたのは私だけで、この少女は目の前に出されたご飯を食べようとはしなかった。段々と湯気が消えていく食事を眺めながら、私はこのよくわからない状況になって、初めて口を開いた。

 

 

 

『⋯⋯ご飯は食べたほうがいいんじゃない?』

 

 

 別に、この少女に届くとは思っていなかった。この状況だ、届くわけがないくらいに感じていたのだ。しかし、どうやら私の思い描いていたこととは全く別の方向でことは進むらしい。ずっと黙っていた少女が、ガバリと顔を上げたのだ。

 

 

「だ、だれ⋯⋯?」

 

 

小さな声でそうつぶやいた少女の言葉に、私は耳を疑った。今、この状況で、何かを言ったとしたら私以外には誰もいない。⋯⋯もしかして、この子は⋯⋯。

 

 

『⋯⋯私の声が聞こえるの?』

「き、きこえる⋯⋯。あなたはだれ⋯⋯?」

 

 

聞こえるの!?ともう一度大きな声で尋ねると、少女はもう一度こくりと頷いた。

 

 

 

 

 

 そう、これが、私と彼女の出会い。

 

 

 私と彼女の、物語の始まりだった。

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