〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた 作:肉と米と愛
眩しい………
先も見えない闇の中。
路頭に迷う俺に一条の光が差し込む。
34歳住所不定無職。
実の兄弟達に突如として部屋に乱入され、命より大切なパソコンを壊され、その挙句家からも追い出された俺は、喧嘩をする二人のカップルを、暴走するトラックから助け、その生涯を終えた。
……はずだった。
気づけば俺は、何もない真っ暗な空間に閉じ込められていた。
差し込んでいた光は徐々に大きくなっていき、ついには暗闇だった空間全てを覆い尽くす。
それと同時に、何やら声が聞こえ始めた。
『ーーーー!!』
『ーー!』
聞き馴染みのない声に戸惑う余裕もなく、明るかった空間が歪み始める。
『ーーー』
『ーーーー!』
視界がクリアになると、俺の目の前には巨大なメロンをお持ちの金髪美女が……
うおッ!
とんでもないサービスを受けてしまったぜ。
死にかけているにも関わらず、俺は呑気にそんな事を考える。
『ーーーッ!』
金髪美女の横から、見るからにDQNっぽい茶髪の男が飛び出してきた。
「あうあー、うーあー」
体を起こし、ここはどこか、あなた方は誰なのかを聞こうとしたが、うまく呂律が回らない。
結果として口から出てきたのは、声とも判別のつかない音だった。
見知らぬ場所、見知らぬ人達。
その奥から、さらに二人が現れる。
訳の分からない状況に混乱していると、茶髪の男に体を持ち上げられた。
嘘だろ……?
百キロを超える俺の巨体を、こうも軽々と……
体の自由が効かない為、抵抗ができない。
それをいい事に、男は俺を真上に上げ、満面の笑みでこちらを見てくる。
殺される……!
俺は体を必死に動かそうと試みるが、やはり動かない。
「………あ?」
その時、宙に垂れ下がる俺の腕が目に入った。
その腕はとても小さく、弱々しく、それでいてブヨブヨしている。
まさか……!
その小さな腕を見て、俺の頭に一つの可能性が出てくる。
俺……赤ん坊……?
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「ルーディアちゃ〜んパパでちゅよ〜」
「もうあなたったら、ルーディアが怖がったらどうするのよ」
赤ん坊に生まれ変わった事に気づいてから、数ヶ月が経過した。
最初は生まれ変わり……言わば『転生』という事実を飲み込めなかった俺だが、流石に一ヶ月もすれば、嫌でもその現実を突きつけられる。
無論、嫌などという考えは断じてない。
そして、薄々気づいてはいたが、ここは日本ではないらしい。
窓から見える壮大な草原からして、ヨーロッパあたりだろうか?
最初は何を言ってるのかわからなかったが、数ヶ月もすれば、大体の言語は理解できてきた。
まず、今俺の目の前にいる金髪でボッキュッボンなスタイルをした美女の名はゼニス、俺の母親だ。
前世の俺ならその姿を拝んだだけで、米の一杯や二杯は余裕で食べれるのだが、不思議と今は興奮はしない。
その横で滑稽な変顔をしている茶髪の男がパウロ、俺の父親だ。
そして素性の知れないメイド服を着た美女、リーリャ。
彼女もまた豊満なモノをお持ちしているが、それを拝んでいると何やら怪訝そうな顔をされてしまうので、当分は抑える事にしよう。
そして最後に、パウロの横からヒョコっと現れた小さな少年。
「父さん、俺にも抱かせてください」
「ダメだ、ルディにはまだ早い」
俺の兄、ルーデウスだ。
見た目からして、三……四歳ぐらいだろうか?
パウロに似た茶髪の髪と、母親譲りの整った顔をしている。
見た目の割には、結構流暢に言葉を話しているが、ただ単に発育がいいのだろうか?
父母兄、俺の四人家族に、メイドが一人。
メイドを雇っていると言うことで、お金に余裕があるとは思っているのだが、今のところ、電化製品などは見当たらない。
まあそれに関しては、動けるようになってからじっくり探索するとしよう。
今俺のすべき……というかできることは、一日中横になって、泣いて、漏らして、言語を学ぶくらいしかないのだから。
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半年が経った。
半年も経てば、ハイハイをできるようになってきた。
今まで碌に動けなかった鬱憤を晴らすが如く、俺は家の中を動きまくった。
家の中を探索して、分かった事が二つある。
まず、この家にはパソコンはおろか、電化製品を一つも置いていないのだ。
メイドを雇う余裕はあるのに、電子レンジ一台すらないとは……
まずそもそも、ここに電気が通っているかの問題だが。
パソコンと共に生きてきた俺にとって、ネットを断つというのには大いなる苦痛が伴った。
しかし、そんな苦痛が霞んでしまうほど衝撃的な事実を、俺は知ってしまった。
「はーいルーディアちゃん、そろそろお着替えしよっか」
ゼニスにされるがまま、俺は服を脱がされ、全裸になる。
やはり……ない。
パソコンよりも、俺と共に長く苦しい人生を歩んできた、俺の相棒が……
……いや、遠回しに言っても仕方がない。
結論から言わせてもらおう。
俺は、女の子に転生していた。
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薄々気づいてはいた。
名前がルーディアという、ちょっと女の子らしさを感じられるものだったし、オシメを変えてもらう時も、どことなく違和感を感じていた。
しかし、いざ自身が女であるという事実が突きつけられると、俺の心は不安定なものとなってしまった。
その後数日は、母乳すらあまり飲む気になれず、ただ呆然と外を眺める日が続いた。
ああ、我が友セリヌンティウスよ。
一度も使う事もなく人生を終え、運良く第二の人生を手に入れたと言うのに、我が友は永遠に辿り着かない場所へと消えてしまった。
兄弟とも言えた我が友無き人生は、酷く色褪せていた。
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事態が好転したのは、そこから約一週間が経った頃だった。
母に半ば無理矢理母乳を飲ませられ、いつものように窓の向こうにある草原を眺めていた。
「ルディ!もっとこう速く!」
「はい……!」
外で聞こえるその大声に、俺の目が自然に動く。
そこには、風でなびく草に紛れ、木刀を振りかざす父と兄の姿が……
……何やってんだあいつら。
早めの厨二病と、遅めの厨二病が同時に発症でもしたのか?
上半身裸で剣を振り下ろすパウロの肉体が、汗で輝いている。
その横で父の真似をするルーデウスの剣捌きは、素人の俺から見ても、あまり上手いとは言えない。
まあまだ子供だし?
これから練習してけば全国も夢じゃあ……
……いやいや、何マジになって観察しちゃってんの俺。
見てるこっちが恥ずかしく……
「あ……」
バタッ!
体勢を変えようとした俺は、足を踏み外し、乗っていた椅子から転落してしまった。
「ちょっと!大丈夫!?」
キッチンにいたゼニスが駆け寄り、近くの椅子に俺を座らす。
「もう、目を離した隙にすぐに消えちゃうんだから」
すいやせんね、何せ今は傷心中でして……
「あまり痛くなそうだけど、念の為に……ね」
ゼニスが俺の頭に手をかざす。
「神なる力は芳醇なる糧、力失いしかの者に再び立ち上がる力を与えん──ヒーリング」
おいおいなんじゃそりゃ……
この国の『いたいのいたいの飛んでいけー』はそんな感じなのか?
そんなヘンテコなおまじないじゃ、治るものも治ら……
その瞬間、俺の頭から深緑の光が走る。
え……?
ジンジンときていた頭の痛みがスッと引き始める。
嘘だろ……?
「ほら、痛くなくなったでしょ?」
「どうした、ゼニス?」
開いていた窓の外から、パウロが顔を出す。
「あなた聞いて!ルーディアが椅子から落ちたのよ!」
「まあ赤ん坊ならよくある事じゃねえか、ルディもそうだっただろ?」
「……呼びました?」
いい感じに汗をかいたルーデウスが玄関から入ってくると、リーリャが気を利かせて彼にタオルを渡す。
「ルディも、ちょっとはルーディアの心配をしなさい」
「してますよ、母さんの庭の手入れぐらいね」
「ブッ!」
ルーデウスの言葉に、パウロが吹き出した。
そんな姿を見て、ゼニスがパウロを睨みつける。
「ああすまんゼニス、でもいいじゃないか。それぐらい元気があった方が、こっちも安心だろ?」
パウロはそんなゼニスを胸に手繰り寄せ、力強く抱きしめた。
おいおい、子供達の前でイチャイチャしないでくれよ……
しばらく何も言わなかったゼニスだが、やがて大きなため息を吐く。
「……もう、本当呑気なんだから」
ゼニスはそのまま俺をベビーベットに入れると、パウロと共に二階へ上がっていった。
ギシッギシッ
しばらくすると、上から軋む音が聞こえ始める。
まったく、若いのはお盛んだねぇ。
ルーデウスは再び外へ出ていき、リーリャはキッチンでゼニスが残した洗い物を片付けている。
ベビーベットの中に取り残された俺の頭に、先程の光景が鮮明に思い出される。
剣を振るう父と兄。
魔法を使う母。
そう、ここは地球……元いた世界とは違う。
34歳職歴ナシ住所不定童貞ニート。
そんな俺が歩む第二の人生は、剣と魔法がひしめく夢の世界だったのだ。
こんな世界を何度望んだか……
そんな希望の世界で、俺は生まれたんだ。
女の子に産まれたのがなんだって言うんだ。
後悔しかなかった前世。
今世では、悔いなく、そして本気で生き抜こう。
ベビーベットで横になる俺は、そう強く誓ったのだった。