〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた 作:肉と米と愛
「違う!もう一回同じ事をやってみろ!」
「わ、私はル、ルーディア・グレイラットだニャン!」
俺は両手で髪をポニーテールのように掴み上げ、必死にそう叫んだ。
「よくやった!この館への滞在を許す!!」
フィットア領の領主、サウロス・ボレアス・グレイラットは、満足そうに頷くと、部屋を後にした。
扉が勢いよく閉まると同時に、俺は膝から崩れ落ちる。
とんでもねぇ……
サウロス……まさに嵐のような男だった。
「相変わらず物騒な方ですね」
椅子に座り、用意された紅茶を飲んでいるルーデウスが呟く。
サウロスの真横にいてもバレなかったそのステルス特性を、俺にも少し分けて欲しいものだ。
「アルフォンス、お客さんかい?」
嵐が過ぎ去った部屋の中へ、一人の男が入って来た。
サラリとした茶髪の、なんとも線の細い軽そうな男。
そして、この男が館にいるということは、俺はまたボレアス流の挨拶を見せなければならないか……
「は、初めまして、私はルーディア・グレイラットだニャン……」
クソ!
なんだよこの尊厳破壊行為!
「へえ、良くできているね。それは父さんから教えてもらったのかな?」
「は、はい」
男は少し笑いながら、俺の前に近づく。
「君がルーディアか、話は聞いているよ。私はフィリップ・ボレアス・グレイラット。このロアの町長をしている者だ」
フィリップ、こいつが例の暴れん坊、『山猿』を産み出した男か……
「そこに座っている君は、ルーデウスかな?」
フィリップは椅子に座るルーデウスに視線を向けた。
「ええ、愚かな妹に無理矢理連れてこられた男、ルーデウス・グレイラットと申します」
ようやく席を立ち上がったルーデウスが、いかにも貴族がしそうなお辞儀を披露する。
おい、俺はそんな挨拶教えられてないぞ?
誰に教えてもらったんだ?
リーリャか?
「久しぶりだね。と言っても、君はあまり覚えていないだろうが」
フィリップはにこやかな笑顔を崩さず、ルーデウスの対面に座った。
俺もそれに合わせるように、ルーデウスの隣に座る。
「それで、話はどこまで聞いたのかな?」
「はい、五年間ここで山……エリオット様の家庭教師を務め切れれば、魔法大学への入学資金を援助してくれると」
「へえ、それで?」
「え、これだけですが」
俺の返答に、フィリップは"それだけ?"と言いたげな表情を浮かべた。
「……なるほどね」
しかし、すぐにいつもの表情に変わったフィリップは、今度は何かを考え込むように視線を落とす。
「君は何か報酬とか、欲しいものはないのかい?」
「……俺ですか?」
フィリップの視線が、ルーデウスの方へ向いた。
しかし、話を振られるなんて思ってもいなかったルーデウス。
元々俺の付き添いで連れてこられたんだ。
欲しいものなんて特にないのだろう。
部屋はしばらくの間、静寂に包まれる。
「じゃあ一つ」
ルーデウスが何かを思い出したように声をあげた。
「この館に、書庫はありますよね?」
「ああ、あるけど、どうしてだい?」
「その書庫にある本の貸し出しの許可をください」
「………え?それだけかい?」
「はい」
ルーデウスがそう答えると、フィリップが大きなため息を吐く。
「はあ……パウロの子供達と聞くから、もうちょっとがめつい子を想像していたんだけどね」
「あんなダメ男みたいな子供が二人もいたら、母さんが壊れますよ」
「……ふふ、それもそうだね」
そしてそのままにこやかな笑みに戻ると、椅子から立ち上がった。
「はっきり言って、君達にあまり期待はしていない。パウロの子供だから、試してみようってだけだ」
「そりゃ、ハッキリといいますね」
「なんだいルーディア、自信でもあるのかな?」
それはない。
だが、ここまで来てもうそんな事言えないだろう。
「会ってみないことには何も……」
「それもそうだーーーー」
「お父様!!」
その時、部屋の外から怒鳴るような声が聞こえた。
「どこですか!?」
その声の主は声に負けないぐらいの大きな足音を立てながら、こちらへと近づいてくる。
ドンッ!
声が扉の目の前までくると、扉は凄まじい勢いで開かれた。
苛烈。
入って来た少年の姿を見て、最初に感じた。
同時に恐怖した。
俺の体中に点在する全ての細胞が、今すぐ逃げろと避難信号を出している。
俺がたとえ超のつくマゾヒストだったとしても、彼に近づくなどという無謀な選択はしない。
間違いない。
こいつがエリオット・ボレアス・グレイラットだ。
「朝からギレーヌが見当たらないのですが、どこにいるのです………か」
赤毛の少年の視線が、フィリップから俺へと向けられる。
『………』
互いに何も言わず、ただ静かな時間だけが過ぎていく。
表情がうまく読み取れない。
何考えてんだ?
とりあえずは挨拶を……
「あなたが『山猿』ですか」
その時、隣で座っていたルーデウスが席を立ち上がった。
空気読め馬鹿野郎!!
死ぬぞ!?
「なんだと?」
ルーデウスの発言により、エリオットは眉をひそめる。
「フィリップさんの息子と聞いていたので、どんな方かと期待していたのですが、これでは、本当に息子かどうかも怪しい」
嘲笑するルーデウスを見るエリオットの目が変わっていく。
あの目は、完全に敵意を向けている目だ。
ソマル達が俺をボコボコに痛めつけられた時も、あいつらはこんな目をしていた。
ルーデウスがエリオットの目の前に迫り、自分より少し背の低い彼を見下ろす。
「俺はルーデウス・グレイラット、あなたの遠い遠い親戚です。馬鹿なあなたでもそれくらいはーーー」
バコッ!
次の瞬間、エリオットの強烈な一撃が、ルーデウスの顔面に向けて放たれる。
「兄様!!」
あ、確実に終わった……
この威力、顔面がとんでもないことになってるんじゃないか?
人を散々馬鹿にしてきた自分のせいとはいえ、これはやりすぎ……
「………」
しかし、次に俺の視界に映っていたのは……
エリオットから放たれた拳を、右手で軽く止めているルーデウスの姿。
「この程度ですか?『山猿』」
先程まで薄ら笑いを浮かべていたルーデウスの顔は、冷め切った表情へと変化していた。
「チッ……!この……!」
エリオットはすかさずもう片方の手で殴りかかろうとする。
「往生際が悪いです」
ドン!
しかし、それよりも速く放たれたルーデウスの拳が顔面に当たった。
「うッ!」
エリオットはそのまま地面に倒れ、白目を剥いて気絶してしまった。
「兄様、何やってるんですか!?」
何やってるんだこの大馬鹿野郎は!?
フィリップの前だぞ!?
たとえフィリップがこの場にいなくても、この町の領主の息子に暴力を振るうなんて、ありえない。
「何って、早速この危なっかしい子供に躾をしてあげたんですよ」
「兄様がそうさせたんじゃないですか!」
ルーデウスは自分のしでかした行動を自覚してない。
俺は咄嗟に、隣に立っているフィリップの方を見た。
フィリップは何も言わず、ただ倒れたエリオットの姿を眺めている。
「フィリップさん、今の俺の行動、問題はありますか?」
「………ないね」
ルーデウスが尋ねると、フィリップは少し間を置いてそう答えた。
え、いいの?
お宅の息子さん、今白目剥いて倒れちゃってますけど……
「君達はエリオットの家庭教師だ。だから私から君達の教育方針に口出しするつもりはない。自由にやってくれて構わないよ。ただね………」
フィリップがルーデウスと俺の肩を掴み、耳元に近づく。
「私の息子は、これぐらいじゃあ諦めないよ」
脅しともとれるその言葉に、俺は思わず背筋が凍ってしまう。
「だったら、何度でも躾けるまでですよ」
「ふふ、その態度、私は好きだよ」
ルーデウスの肩を満足そうな顔で叩くと、フィリップは部屋を後にした。
部屋に残されたのは、俺と兄と、そして床に寝そべる貴族のお坊ちゃま。
「じゃあ、また絡まれるのも面倒なので、俺は用意された部屋に戻りますね」
「あ……ちょッ!」
バタン……
ルーデウスは逃げるように部屋を出て行った。
何が"何度でも躾けるまで"だ。
逃げてんじゃねぇかよ……
執事とか言っていたアルフォンスもいつの間にか消えていた。
「全く……どいつもこいつも」
俺は倒れていたエリオットを膝の上に乗せ、治癒魔術をかける。
つくづく可哀想な奴だ。
哀れみを感じた俺は、エリオットの髪をそっと撫でる。
「う……うぅ……」
その時、倒れていたエリオットがうっすらと目を開き始めた。
「おはようございます」
「うわッ!」
エリオットは情け無い声を上げながら、俺の膝から離れる。
「だ、誰だよ……」
エリオットの顔が少し赤く染まっている。
「初めましてエリオット様。私は先程のルーデウス・グレイラットの妹、ルーディアと申します」
俺はルーデウスがフィリップに見せていた貴族流の挨拶を、見様見真似でやってみた。
「ルーディアって……あ!さっきの奴は!?どこだ!?」
そう言って戸惑いながら周りを見渡すエリオット。
「……ッぷ!」
その姿を見て、俺は思わず吹き出してしまった。
「な、何がおかしいんだよ!」
エリオットはさらに顔を赤らめ、恥ずかしそうに俺を睨む。
しかし、不思議と俺はその目が怖くない。
むしろ、もう少しおちょくってやろうって気持ちが強くなっていく。
「エリオット様って、面白いんですね!」
ルーデウスがあんなに人を馬鹿にする理由が、少し分かった気がする。
エリオットに対して二人が持った感想。
ルーデウスー遊んでみたけど単純な馬鹿で期待外れ、早く家に帰りたい。
ルーディアー最初は怖かったけど、案外可愛いとこあるじゃん。ちょっと家庭教師楽しみ。
エリオットが二人に持った感想。
ルーデウスー喧嘩吹っ掛けられて怒り爆発。でも負けた。夜襲を計画中。
ルーディアー年下で生意気な奴。でもなんか胸が熱くなってくる。あいつが使う魔術に興味が湧いた。