〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた 作:肉と米と愛
家庭教師になってから、約一ヶ月が過ぎた。
今のところ、エリオットは真面目に授業を受けてくれている。
『山猿』と言われていたので少し心配していたが、地頭は決して悪くはない。
算術や読み書きも、嫌々そうにしながらもちゃんと聞いてくれてるし、内容もよく覚えている。
特に魔術の授業に関しては、率先して質問したりしてくれるのだ。
そのおかげでエリオットは、僅か一ヶ月足らずで初級の
ルーデウスが未だ一つも魔術を覚えていないことを踏まえると、かなり良い出だしだ。
やはり何事も努力と、それに取り組もうとする意欲が大事なのだ。
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「ルーディア!戦いの最中に余計なことを考えるな!」
ギレーヌに振り下ろされた木刀が、俺の頭に直撃した。
「痛い!」
俺はその場に座り込み、頭を抱える。
イッテェ……!
「戦いでは一瞬の油断が勝敗を分ける。肝に銘じておけ」
「は……はい……」
俺は最近、ギレーヌから剣術の稽古に付き合ってもらっている。
ソマル達との一件、そしてエリオットとの初対面で、俺は魔術だけを伸ばしていてもダメなことに気づいた。
相手との距離がある前提で戦う魔術は、一気に距離を詰めてくる剣術と相性が悪い。
一度近づかれてしまえば、詠唱をする隙もなくやられてしまうだろう。
俺は無詠唱で魔術を使用できるとはいえ、最低限身を守れるようにはなりたいのだ。
そんな思いで習い始めた剣術の稽古だが、あまり芳しくない。
そもそもこの世界は、ギレーヌをはじめとした化け物じみた奴が多すぎる。
あのパウロでも、前世であればトップアスリートとして世界で名を轟かせることができただろう。
それに比べて、俺は………
たまらずため息が出てしまう。
「ところでルーディア、エリオットはどこに行った?」
「………また抜け出したんですか?」
そしてもう一つ、剣術以外で、俺が最近頭を悩ませていることがある。
エリオットとルーデウスの関係だ。
ルーデウスがエリオットを倒して以来、エリオットは事あるごとにルーデウスに戦いを挑むのだ。
それもいきなり、何の前触れもなく。
ある時は食事中に、ある時は読書中に……
俺が一番怖かったのは、俺とルーデウスが寝ている時に、木刀を持ったエリオットが目の前に立っていた時だ。
あの時は恐怖のあまりお漏らしをしそうになってしまった。
まあしてないんだが……
そんな場所を選ばず戦いを挑むエリオット。
しかし、相手は手強い。
ルーデウスは向かってくるエリオットを全て正面から叩き潰した。
それも一度も攻撃を喰らうことなく、余裕を持って……
「そろそろ諦めがついてくれると嬉しいのですが……」
ギレーヌも同じようなことをエリオットにされたらしいが、数回倒すと大人しくなったらしい。
同い年だから悔しいのか、ただ単にルーデウスが気に入らないのか。
どちらにしても、本当に心臓に悪いので、やめてほしい限りだ。
〜〜〜エリオット視点〜〜〜
気に入らない。
ルーデウス・グレイラット。
あいつがとにかく気に入らないのだ。
馬鹿にされるのは、これが初めてじゃない。
同い年の奴に倒されるのだって、何回かあった。
だけど、ルーデウス。
あいつだけは違う。
俺が今まで会ったどんな奴らにも、あいつは属さない。
それがこの上なく不気味なのだ。
この初めての感情を振り払うにも、俺はあいつに勝たなくてはならない。
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書庫。
あいつはいつもここに籠っている。
何をしてるかは知らない。
興味もない。
今日、俺がここに来た目的は一つ。
ルーデウスを倒す、ただそれだけ。
あいつを倒して、この慣れない感覚を晴らしてやる。
俺は中にいるあいつに気づかれないよう、静かに扉を開いた。
予想通り、あいつはこちらに背を向けた状態で本を読んでいる。
積み上げられた本に囲まれている。
今なら、背後から近づいても気づかないはずだ。
俺は用意していた木刀を手に持ち、あいつへと静かに近づいていく。
一歩ずつあいつに迫っていく度に、心臓の鼓動音が大きくなっていくのが分かる。
あと少し……あと少し……
そしてとうとう、あいつのほぼ真後ろのところまで移動できた。
これなら……やれる……!
高鳴る心拍を抑え、木刀を真上に上げる。
終わりだ!!
ブンッ!
パシュッ……
しかし、木刀が届く寸前、あいつは読んでいた本を閉じ、そのまま木刀を挟み込んだ
「………は?」
嘘だろ……
今度こそ、完全に決まったはずーーー
ドゴッ!
次の瞬間、俺の視界は天井に変わっていた。
それと同時に、腹部から強烈な痛みが襲ってくる。
「ぐ……」
「これで二十三回目、いい加減飽きて来たんじゃないですか?」
ルーデウスは俺を見下ろしながら、持っていた本を机に置いた。
「あなたは俺より遥かに弱い。そんなことすら理解できないんですか?」
「………」
もちろん理解している。
俺はこいつより、圧倒的に弱い。
だから背後から奇襲なんて小狡いやり方をしているんだ。
実際、俺はそれで自分よりも格上の奴を倒してきた。
ギレーヌだって、一度は俺の奇襲に不覚を取られていた。
だけどこいつは………
「………でだ」
「はい?」
「なんで……強い……」
思わず口に出してしまった。
「………なるほど。強くなりたいんですね?」
ルーデウスはその場に座り込むと、俺の額に人差し指を当てる。
「だったら、強くなる理由を見つけてください」
「理由?」
強くなるのに、理由なんているのか?
「理由を見つければ、自ずと実力はついてきます」
そう言って不敵な笑みを浮かべるルーデウス。
やっぱりこいつ、不気味だ。
「見つけるには、どうすればいい……」
「それぐらいは、自分で考えてください」
ルーデウスは立ち上がり、書庫の扉へと歩き始める。
「あと、ルーディアには手を出さないでくださいよ?」
「はッ!?」
部屋を出ていく寸前に、ルーデウスがニヤニヤと笑みを浮かべながら俺を見下ろす。
「誰があんなブス……!!」
「ではさようなら」
「あ!待てーー」
バタン……
部屋の扉が閉まり、俺は残された書庫で一人となる。
クソ……
好き勝手言いやがって……
腹の痛みに耐えながら、ゆっくりと体を起こす。
「強くなる理由………」
よく分からないが、それを見つければ、俺はあいつを超えられるのだろうか?
じゃあ、あいつの強くなる理由って、一体なんだ……?
……ダメだ、考えれば考えるだけ頭が痛くなってくる。
まずはルーディアのところへ行って、治癒魔術を掛けてもらおう。
そう思い、俺も部屋から出て行こうとした時。
ルーデウスが座っていた机が視界に入った。
本を手に取り、書かれている文字をなぞってみる。
「………読めねえ」
読み書きを最近習い始めたが、それでもルーデウスの読んでいた本は、俺には全く理解できないものだった。
いや、そもそもこの本に書かれている文字は、人族の言葉じゃない。
それにしては、文字の羅列が無茶苦茶すぎる。
それも俺が取った本だけではない。
積み上げられた本の全てが、人族ではない他の種族の言語だ。
中には、お父様が使っているのを見たことがある獣人語もあった。
ルーデウス、あいつは一体………
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「エリオット様!どこに行っていたんですか!?」
中庭に戻って来て早々、ルーディアが俺の元に駆け寄って来た。
「どこでもいいだろ」
「何にも良くありません!おかげで私はギレーヌにみっちりしごかれて………あれ?」
ルーディアが殴られた俺の腹部を見る。
「まさか、また兄様に戦いを仕掛けたんですか?」
「………違う」
「やりましたね?」
「………ああ」
ルーディアの圧に押され、俺は白状してしまう。
なんでこんな女のガキに………
バサッ!
ルーディアが突然、俺の服をめくってきた。
「おいッ!」
ルーディアの奇行に驚き、俺は彼女の頭に鉄拳を下そうとする。
「あぁもうほら、痣になっちゃってるじゃないですか」
「や、やめ……!」
しかし、ルーディアが腹部をベタベタと容赦なく触り始めるので、俺はその場に固まってしまう。
「動かないでくださいよ?治癒魔術が使えませんから」
「……んん」
服に潜り込むルーディアを見ると、胸の奥がモヤモヤする。
この感情は、なんだ?
分からない……
突然家庭教師として来たルーディアとルーデウス。
こいつらは、一体何者なんだ……?