〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた   作:肉と米と愛

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十歳の誕生日

 

 

 

 

 

あれから、二年の月日が流れた。

 

 二年だよ?

 日に直すと、なんと730日。

 いやぁ、本当に、時間ってのは過ぎるのは早いねぇ。

 もう少しだけそばにいるとは言ったが、まさか二年も滞在することになるとは、自分でも驚きだ。

 

 だが、決して辛いわけではないし、むしろ楽しい毎日を過ごせている。

 エリオットは、あれからさらに勉強熱心になったし、剣術の腕もぐんぐんと伸びている。

 

 フィリップやサウロス達も、俺に気を利かせているし、正直、ブエナ村にいた頃よりも生活は楽だ。

 

 しかし、俺みたいなマイナス思考人間には、十の幸せよりも一の不幸が心への影響が大きいのだ。

 

 「はあ………」

 

 「ルーディア、どうした?」

 

 手のひらサイズ火球弾を出しているエリオットが、俺の顔を覗き込んできた。

 

 「体調でも悪いのか?」

 

 「そういうのじゃないんです………ってエリオット!前です前!」

 

 エリオットが出していた火球弾が、地面へと垂直に落ちていく。

 

 「せいッ!」

 

 俺は咄嗟に地面へ水弾を放つ。

 

 パシュ……!

 

 木材の床へ落ちる火球弾が、ギリギリのところで蒸発した。

 

 「………」

 

 燃え移った箇所は……ない。

 床が少し黒くなってしまったが、とりあえず屋敷が燃えカスになる未来は免れた。

 

 「ふう……」

 

 俺はそこでようやく安堵のため息を吐き、その場に尻餅をついた。

 

 「ルーディア、ごめん……」

 

 「いいんですよ。エリオットの気を引いた私にも責任があります」

 

 エリオットは頭を下げ、申し訳なさそうにしている。

 

 こうやって最近は、自分がやったことに対してすぐ謝れるようにもなったのだ。

 当たり前のことだが、大人になってもできない奴は多い。

 俺もそのうちの一人だった。

 

 

 

 

 ……少し脱線してしまったな、話を戻そう。

 

 最近の不幸……というか悩みは、何を隠そう、ルーデウスの事だ。

 いや、特段喧嘩したとか、そういう訳ではない。

 あいつと喧嘩して勝てるはずもないからな……

 

 俺は今、ルーデウスととても気まずい関係になっていた。

 ルーデウス自身がどう思っているかは知らないが、最近のルーデウスは明らかに俺を避けている。

 

 一緒に飯を食べる時も、たまたま書庫ですれ違った時も、ルーデウスは何も言わず、ただ俺を静かに見下ろし、そのままどこかへと行ってしまう。

 元々口数の少ないルーデウスだ。

 考えすぎだと言われればそれでまでだが、少なくとも以前はもっと会話があった。

 

 「はあ……」

 

 やはり、この屋敷に滞在することを決めた俺を恨んでいるのだろうか?

 確かに俺の勝手な我儘だし、恨まれても仕方ないことだとは思うが、あのルーデウスがそんな理由で拗ねるなんてあるのか?

 

 「本当に大丈夫か?」

 

 俺は目の前で首を傾げる、ルーデウスと同い年の少年を見つめた。

 エリオットもだいぶ落ち着いたとはいえ、考え方や行動はまだ幼稚で、足らない部分も多い。

 

 そう考えると、ルーデウスもまだ十二歳の少年だ。

 いくら大人っぽいとはいえ、流石に彼の事を高く評価し過ぎていたのかもしれない。

 まあ何か喧嘩をした訳でもないし、いつかは根負けして、あっちから話しかけにくるだろう。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ルーディア!十歳の誕生日おめでとう!!』

 

 「………え?」

 

 

 ある日の夕方、少し広い会場のような場所で、エリオットから美しい花束を差し出された。

 

 周りには彼の家族や、使用人達が並んでいる。

 

 「ルーディア、おめでとう」

 

 再びエリオットがそういうと、俺はやっと理解した。

 

 「あ……そうか。もう私、今日で十歳なんだ……」

 

 今日は、俺の十歳の誕生日パーティーなんだ。

 

 

 

 

 

 ここ最近、エリオット達の異変に気がつかなかった訳じゃない。

 いつも俺のそばにいるエリオットがちょくちょく姿を消したり、使用人達が頑なに厨房へ入れてくれなかったりと、思い返してみればおかしなことが多々あった。

 

 でもまさかそれが、俺の為に用意されたものだなんて……

 感無量だ。

 

 普通の子供なら、花束を渡された時点で号泣もんだろう。

 しかし俺の中身はとっくに成人を迎えている。

 

 泣くべき場面なんだろうが、涙が出てこない。

 でも普通に感謝するだけじゃあ、頑張ってくれたみんなに申し訳ないし……

 

 仕方ない。

 ここは一芝居打つとするか。

 

 「うぅ……」

 

 俺は袖で目元を覆うと、水魔術で目から涙を溢れさせる。

 

 「ル、ルーディア……!?」

 

 そして、そのままエリオットの胸に倒れ込んだ。

 

 「エリオット……ごめんなさい。私、こんなの初めてで……」

 

 エリオットは困惑し、周りで拍手を送っていた人達は呆然とした表情で俺を見ている。

 

 やべ、流石に演技がクサすぎたか?

 

 ……まあいい。

 今さら引き返せないし、このまま行くところまで行ってしまおう。

 

 「エリ……エリオット、ありがとうございます……!」

 

 「き、気にするなよ……お前はもう俺の家族みたいなもんだろ……?そうですよね、お父様、お祖父様」

 

 言い訳をするようにエリオットはフィリップの方を見る。

 しかし、最初に声を上げたのは、フィリップではなくサウロスだった。

 

 「せ、戦争じゃぁ!

 ノトスん所と戦争じゃあ! 

 あのピレモンをぶっ殺して、ルーディアを当主に添えるぞ!

 フィリィップ!アルフォォンス!ギレェェィヌ!

 わしに続けぇぃ!

 まずは兵を集めるぞ!」

 

 吠えるようにそう言うと、サウロスは持っていた酒瓶を振り回し暴走を始めた。

 

 全く、この人はすぐ感情的になる……

 その原因を作ったのは、紛れもなく俺なんだが……

 

 「ち、父上、抑えて!抑えてください!」

 

 フィリップはそんな暴走列車サウロスの両脇を掴み、これ以上暴れさせまいと必死に抑えている。

 

 「フィリィィップ!邪魔立てするか!貴様とてあんなクソタワケより、ルーデウスが当主になった方がいいと思うであろうが!」

 

 「思いますけど!戦争はまずいです!ゼピロスとエウロスも敵に回します!」

 

 「関係ないわい!この腰抜けが!わし一人でも勝ってみせる!離せ、離せぇぇえい!」

 

 しばらくして、フィリップはサウロスを引きずりながら会場を後にした。

 サウロスのせいで雰囲気が少し気まずくなり、エリオットが咳払いをする。

 

 「お、お祖父様は置いておいて、今日はルーディアの為に、すごいプレゼントを用意したんだ!」

 

 「プレゼント?」

 

 誕生日プレゼント!

 それもエリオットから、一体何だろうか?

 彼の性格から考えると、短剣とかを渡してきそうだが……

 彼もだいぶ成長した。

 女心というものが、少しは理解できているだろう。

 

 となると、俺が欲しいものか。

 ……あ、もしかして。

 

 「もしかして、父様達がここに?」

 

 俺がそう言うと、笑顔だったエリオットの顔が曇る。

 

 「……パウロさんは、最近、森で魔物が活性化しているから手が空いてないらしてくて……ゼニスさんも、子供が急に高熱をだしたから来れないって……」

 

 エリオットは申し訳なさそうな顔で答えた。

 

 ああ、なるほど。

 それなら仕方ないな。

 

 パウロはあれでも、村の人達から頼りにされてるし、ゼニスやリーリャだって、まだ五歳にもなっていない子供の方が心配だろう。

 

 仕方ない、仕方ないけれど………

 顔くらいは、見たかったなぁ。

 

 「そうですか……」

 

 特に気にする事なく反応したつもりなのだが、目に溜めていた水弾が鼻に入ってきたせいで、詰まったような声になってしまった。

 

 「……ごめん」

 

 そのせいで、エリオットは顔をさらにしかめた。

 

 ごめんエリオット。

 こんな空気にするつもりじゃなかったのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バサッ!!

 

 その時、近くで俺を見ていたヒルダが、俺を強く抱きしめた。

 

 「ああ!なんて可哀想な子!!」

 

 「ーーー!!」

 

 ゼニスやリーリャを超える胸に挟まれ、声が出せない。

 なんて危険なブツを持っているんだ!

 

 「ルーディア、あなたはもう私達の子よ!」

 

 「ちょ、苦ひぃですぅ……」

 

 ダメだ、窒息させられる。

 

 「養子……いえ!エリオットと結婚しなさい!!」

 

 「なッ!?お母様!?」

 

 ヒルダの顔がエリオットに向き、俺はようやく呼吸するスペースを確保できた。

 

 危ねぇ……!

 胸に挟まれて死ぬなんて誉れ高いが、俺はまだ死にたくない。 

 それにしてもすんごい事を言うなこの人。

 

 エリオットは顔を少し赤らめていた。

 

 「エリオット!あなたうちのルーディアに何か不満でもあるの?」

 

 「ルーディアはまだ十歳です!それに、彼女にはルーデウスだっているじゃないですか!」

 

 「だったらルーデウスも家族に迎え入れるわ!」

 

 完全に熱が入ってしまったヒルダを止めることができる者などいない。

 

 「ルーディア、あなたもそれがいいわよね!!」

 

 「え、えぇ……」

 

 勘弁してくれ。

 俺には帰りを待つ家族と親友がいるんだ。

 確かにここでの生活は楽しいが、俺にも都合というものがあってだな……

 

 「はいはい、ヒルダ、次は君か……!」

 

 俺があたふたしている間に、フィリップが颯爽と現れ、ヒルダの腕を掴む。

 

 「あなた離して!ルーディアは私達の子よ!」

 

 「そんなこと言ったら、私がパウロに殺されてしまうよ」

 

 「でも、あんな男にあの子を任せられないわ!離して!離しなさぁぁぁい!」

 

 抵抗虚しく、連れ出されるヒルダが消え、再び会場が気まずい雰囲気が漂う。

 

 「あ、えっと……」

 

 「エリオット様……こちらです」

 

 その場に立ち尽くしていたエリオットに、執事であるアルフォンスがローブに包まれた杖のようなもの差し出した。

 

 エリオットは杖を受け取ると、そのまま俺に近づいてくる。

 

 「はい!これが俺達からの誕生日プレゼントだ」

 

 エリオットから、杖を渡される。

 俺は少々戸惑いながらも、包まれていたローブを取り外した。

 

 バサ………

 

 真っ黒なローブが地面に落ち、包まれていた中身が露わになる。

 

 「わぁ……」

 

 中身を見て、俺は思わず感嘆の声を上げてしまった。

 

 俺の身長と同じくらい長い杖。

 そしてその先端には俺の頭ほどの魔石が取り付けられている。

 

 一目見ただけで分かる、これは相当高いヤツだ。

 

 「このたび、ルーディア様の為に世界中からありとあらゆる極上の素材を集め、アスラ王国で随一の杖製作師に作らせた物でございます」

 

 「おぉ………」

 

 やはり高級……いや、超高級品だったか。

 それも、俺の為に特注で作ってくれた杖……

 

 「銘は、『傲慢なる水竜王(アクアハーティア)』」

 

 「おお!!」

 

 それに名前もカッコいい!

 厨二心をくすぐるなぁ。

 

 「ルーディアは凄い魔術師だからな。それに合うぐらいの杖は必要だろ」

 

 「エリオット……」

 

 そんなことまで考えていてくれたのか……

 

 やばい、本当に少し、涙が出てきた……

 

 「ありがとうございます、こんな高そうな物まで……」

 

 「値段なんて気にするな。それよりも、パーティーを楽しもう」

 

 エリオットは恥ずかしそうにしながらも、曇り一つない笑顔を俺に見せてくれる。

 

 「………はい!」

 

 そうだな。

 最高のパーティーは、まだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 「今日は、本当にありがとうございました」

 

 最高に楽しかったパーティーが終わり、すっかり暗くなった廊下をエリオットと並んで歩く。

 

 「気にするなよ。ルーディアには、いつも世話になってるから」

 

 「そうですか?ふふ」

 

 照れくさそうに話すエリオットを見ると、俺の中の乙女が反応してしまう。

 

 それにしても、本当に楽しいパーティーだった。

 出された料理も、途中で始まった余興も全てが面白く、見ていて飽きなかった。

 

 何より、俺がこの館の人達に認められていると実感できて、安心した。

 

 断言できる。

 今までで一番幸せだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………」

 

 でもただ一つ、本当に小さなことだけれど、心残りがあるとすれば……

 

 ルーデウスがあのパーティーに一度も現れなかったことだろう。

 

 楽しい雰囲気に水を差すようなことはしたくなかったから、気にしないようにしていたが、やはりどうしても気になってしまう。

 

 誕生日パーティーにも顔を出さないなんて、これは相当怒っているのではないか?

 兎にも角にもだ。 

 これ以上この状況を長引かせるわけにもいかない。

 

 明日あたりにでも、あいつの部屋にでも行くとするか……

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 気づけば、俺の部屋の近くまで来ていた。

 

 「あれ……?」

 

 しかしそこで、俺は異変に気づいた。

 ドアの前の床に、何か置いてある。

 

 「ルーディア、俺の後ろに……」

 

 エリオットも床に置いてあるそれに気づいたのか、俺の前に出た。

 

 「エリオット、気を付けてくださいね」

 

 「分かってる」

 

 エリオットは護身用に持っていた短剣を手に取り、俺もついさっき貰った『傲慢なる水竜王』を構えながら周囲を見渡す。

 

 近くに人の気配はない。

 そして、エリオットが床に置いてあった『何か』を手に取る。

 

 俺はエリオットの肩に顎を乗せ、彼が手に取った『何か』を見た。

 

 『………本?』

 

 エリオットが手に持っていたのは、本だった。

 それも結構分厚めの。

 

 「何か書いてあるぞ」

 

 「本当ですか?ちょっと見せてください」

 

 エリオットから本を受け取り、持っていた蝋燭を本に近づける。

 

 「これは………」

 

 『アスラ王国魔術教本』

 

 本の表紙には、そう書かれていた。

 そして俺は、この本を知っている。

 

 ブエナ村でロキシーに魔術の教えをもらっていた時に、彼女からこの本の存在を教えられた。

 

 『このアスラ王国には、沢山の魔術について詳しく書かれた、アスラ王国魔術教本という本が存在します』

 

 話を聞いた俺は、その本に少し興味が湧いた。

 しかし、この本は数が非常に少なく、手に入れるだけでも、最低でもアスラ金貨五十枚は掛かる。

 日本円に換算すると、大体500万円だ。

 

 そんな大金になるような代物が、俺の部屋の真ん前に置かれていたのだ。

 喜びを越えて恐怖でしかない。

 

 一体誰だ?

 そもそも俺がこの本を欲しがっているのを知っているのは、ロキシーぐらいしかないはずだ。

 

 「おい、何か落ちてるぞ?」

 

 その時、後ろにいたエリオットが肩を叩いてきた。

 

 エリオットが手に持っていたのは、ハンカチだ。

 そして不思議なことに、俺はそのハンカチにも見覚えがあった。

 

 「それは、兄様の……」

 

 ルーデウスと共にブエナ村を発つ前に、彼はゼニスから同じようなハンカチを渡されていた。

 いや間違いない。

 これはルーデウスの物だ。

 

 何故こんなところに?

 ルーデウスの部屋はここから少し離れたところのはずなのに………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………まさか」

 

 俺の頭の中に、ある一つの考えが浮かんできた。

 いや、そんなことはないだろう。

 

 しかしすぐに、俺はその考えを捨てた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 置いてあった本は、とりあえず俺が預かることにした。

 持ち主が分からないが、このまま放置するわけにもいかないだろう。

 

 とりあえずは明日、ルーデウスにハンカチを返して、話すついでに聞いてみるとしよう。

 

 俺は机の上に本とハンカチを置き、扉の前で待っていたエリオットの元へ戻る。

 

 「エリオット、何度も言いますが、今日は本当にありがとうございました」

 

 「………ああ」

 

 エリオットに頭を下げる。

 

 「それでは、おやすみなさい」

 

 そうして、そのままドアを閉じようと壁に手をかけたその時。

 

 閉じようとしていた俺の手を、エリオットが掴んでいた。

 

 「エリオット……?」

 

 エリオットは顔を下に向け、その場から動こうとしない。

 

 「ーーーか?」

 

 そして、ギリギリ聞こえないくらいの声量で、何かを呟いた。

 

 「え?なんですか?」

 

 俺は彼に近づき、耳を傾ける。

 

 ドクン……ドクン……

 

 エリオットの心臓の鼓動が早まっているのが分かる。

 

 「あの、ルーディア……」

 

 「はい、なんでしょうか?」

 

 「もし、その、よければなんだが………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺と、一緒に寝てくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

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