〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた 作:肉と米と愛
一万字くらいのを投稿しようと思ったのですが、流石に長すぎると思い分割することにしました。
日を開けてまた投稿させてもらいます。
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パーティーが終了してしばらく。
一通り問題を片付けたフィリップは、自身の部屋に一人の男を招き入れていた。
「やるねぇ、じゃあここはどうかな?」
フィリップは卓上に置かれたチェスに興じながら、貼り付けたような笑顔を崩さない。
「では、ここに」
フィリップの対面に座っているルーデウスは彼が次に行う一手を読んでいたかのように、迷うことなくチェスを動かした。
ルーデウスの神技とも言える一手により、絶え間なく動いていたフィリップの手が止まる。
「おっと、これは困ったね。少し考える時間を貰ってもいいかな?」
「構いませんが、そこから俺に勝てる未来がありますかね?」
ルーデウスは当然の結果だと言わんばかりに、フィリップに冷たい視線を送った。
「それは、やってみるまで分からないよ」
口ではそう言っているが、実際のところ、フィリップが今の盤面を覆すことはほぼ不可能に近い。
この一手を間違えれば、緩やかな敗北へと追い込まれるだろう。
子供に負ける。
幾度となくチェスを嗜んできたフィリップにとって、それは絶対に避けたいことであった。
「…………」
長考するフィリップを横目に、暇を持て余したルーデウスは、手前側に置いてある駒をいじり始める。
そこから、しばらく時間が経った後。
フィリップは顎に手を乗せながら、大きなため息を吐いた。
「本当に、ルーディアを置いてブエナ村へ帰ってしまうのかい?」
フィリップの口から出てきた言葉は、降参ではなく、全く別の話題だった。
「幼い妹達の世話をしなくてはいけないので」
全く関係のない話を振られても、ルーデウスは動じることなく駒を興味深そうに見つめている。
「嘘だね」
しかし、フィリップが次に放った言葉に、ルーデウスの手が止まった。
「………」
「そんな理由なら、わざわざルーディア達に秘密にして欲しいなんて私に言わないはずだ。つまり、君がブエナ村に戻るのには、もっと深い訳があるんだろう?」
フィリップが考えた推理に対し、ルーデウスは沈黙する。
「大丈夫さ、ここでの会話は他言しない。もし私がこの話を"うっかり"漏らしてしまったなら、君も私の秘密を広めてしまえばいい」
今日のフィリップは、いつもよりも口数が多い。
酒が回っているのもあるが、なにより、彼自身もルーデウスがここを離れる理由について興味があったのだ。
「…………」
しばらく黙り込んでいたルーデウスだが、やがて諦めたのか、その肩をゆっくりとすくめた。
「ルーディアは天才です」
ルーデウスの手が、駒から紅茶の入ったマグカップへと移り変わる。
「剣術はからっきしですが、魔術に置いて右に出る者はいないでしょう」
「そうだね。私も理解しているよ」
フィリップは変わらない表情でルーデウスを見つめている。
「そして何より、彼女は人が自然に近づきたくなるような優しさを持っている………だから……」
ルーデウスの持っていたマグカップが、一瞬震えた。
「俺は、彼女の横にいるべきではない」
そしてルーデウスは、冷たく、いつもの彼とは考えられないほどか細い声で呟いた。
「………どうしてだい?」
事態が思ったよりも深刻なことに気づいたフィリップが、諭すような声で尋ねた。
他人の事など気にも留めていないであろうルーデウスが、ここまで弱気になっているのだ。
フィリップが心配するのは必然だろう。
「エリオットと戦って気付いたんですよ。ルーディアを守るのに必要なのは、力なんかじゃなくて、彼女に並ぶくらいの優しさなんだって」
「…………」
「でも俺は、その優しさを持ち合わせていません。力だけを持って生まれました」
ルーデウスは笑みを浮かべるが、その笑みにいつもの不気味さは微塵も感じられない。
むしろフィリップは、憐れみさえ感じた。
「笑えませんか?涙も流せず、心から笑うことすらできない、人の皮を被った怪物が、他人を守ろうとしているんですよ?」
バキッ!
ルーデウスが持っていたマグカップが割れ、中に入っていた紅茶が、彼の服へと飛び散る。
「ああ、すいません。少し熱くなってしまいました」
「構わないよ。それで君の気持ちが晴れるのなら」
フィリップはやや自暴自棄になっていたルーデウスを咎めることなく、ただ静かに座っていた。
そんな彼の姿を見て、ルーデウスは冷静さを取り戻し、大きく深呼吸をする。
「とにかく、明日中には帰れるよう準備をしておきますから、フィリップさんは馬車の手配をお願いします」
居心地が悪いと感じたルーデウスは、部屋を出ようと椅子から立ち上がった。
「まあ待ちなさい。勝負はまだ終わっていないよ」
しかし、フィリップは彼を引き留め、再び椅子へ腰掛けさせた。
「話は大体分かった。つまり君は、あの優しくて強いルーディアの側にいれば、彼女の成長を妨げてしまいかもしれないと考えているんだね?」
「………ええ、そうです」
少し間を置いて囁くように答えるルーデウスを見て、フィリップは笑った。
「ハハ!やっぱり、君はパウロとは全然似てないね」
それはフィリップの本心から出た笑いだった。
「……笑うほどのことですかね」
愉快そうに笑うフィリップを見て、ルーデウスは不満そうな表情を浮かべる。
「ああすまない。あまりにあいつと似つかないものだから」
フィリップはひとしきり笑い終えた後、それまで止まっていた腕を動かし始めた。
「でも私はね、ルーディアには君が必要だと思うんだ」
フィリップの言葉に、ルーデウスの眉が少し動く。
「君はルーディアの兄だ。それは他の誰にも成り代わることのできない、大切な存在だ」
「………」
「ルーデウス、私から一つ、君にこの社会を上手く生きていくコツを教えてあげよう」
フィリップは卓上に置かれたチェスを持ち上げ、ある一つの場所へと移動させた。
「………ッ!」
その一手に、ルーデウスは思わず目を見開いた。
敗北がほぼ確定していたフィリップ。
そんな彼が置いた一つの駒で、勝利への活路が僅かに開いた。
逆にルーデウスは、敗北への道筋が開き始める。
「思い詰められた時は、他の視点から物事を考えるといい」
フィリップの細い眼差しが、ルーデウスに向けられる。
「君はルーディアの兄、その唯一無二の『持ち味』を活かしてみなよ」
別の視点から物事を観測し、自身の持つ最大の持ち味を利用する。
それは、フィリップが人生で得た教訓だった。
グレイラット家という上級貴族として生まれ、幼い頃から闇渦巻く政界に関わってきた。
血を分けたはずの兄弟との、薄汚い権力争いに負け、人質としてエリオット以外の息子を王都へ連行された彼の、戒めとも言える。
(持ち味を、活かす………か……)
ルーデウスはフィリップから言われた言葉を、心の中で復唱した。
彼の中で何か足りなかったはずの何かが埋まった。
「……そうですね。持ち味は、最大限活かさなくてはいけませんね」
〜〜〜ルーディア視点〜〜〜
どうも、ルーディア・グレイラットです。
突然ですが、私……俺は今、二度目の貞○の危機に晒されています。
相手はあのエリオット。
直接的に言われたわけではないが、女の子に"一緒に寝よう"なんて言ってきたのだ。
少なからず、やましい考えは持っているだろう。
『…………』
時刻は12時を回っただろうか?
部屋に入ってから大体30分が経った。
今はエリオットと並んで、ベッドに腰掛けている。
お互い何も話さない、ピクリとも動かない。
ここで"そろそろ寝ましょう"の一言でもかけてしまいたいが、それを言う勇気も出ない。
「………」
ハッキリ言おう、エリオットはイケメンだ。
母親譲りの情熱的な赤髪に、父親譲りの整った顔立ち。
前世だったら超人気俳優とかになっていただろう。
とにかく、風呂にも入ってなさそうな盗賊集団よりも、美男子のエリオットに初めてを奪われるほうが何倍もマシだ。
しかし、体は女の子でも俺の心は中年のおっさん。
男と恋愛なんてしたくないし、そんなことするのはもっと嫌だ。
だがエリオットが俺に好意を持ってくれているのは素直に嬉しい、期待には応えてやりたい。
どうしたものか……
「……なあ、ルーディア」
思考を巡らせる俺に、エリオットは静かな声で話しかけてくる。
「………はい」
「俺、最近変なんだ。なんと言うか、その……ルーディアのことを見たり考えたりすると、体が熱くなってくる……」
エリオットはやや早口になりながら、自分の手を俺の手に乗せた。
「なあ……ルーディア」
「………はい」
「絶対に幸せにするから、俺の気持ちを、受け止めてくれないか?」
「それってどういう………ッ!?」
次の瞬間には、俺はベッドに押し倒されていた。
エリオットの荒い吐息が、俺の顔にかかる。
彼の顔は熟した果実のように赤く染まっており、その目は獲物を捉えた猛獣のように光っていた。
「エ……エリオットさん?」
「ルーディア、欲しいんだ……!」
ああやばい!
この状況は非常にマズイ!
「エリオットおかしいです!何か変な物でも食ったんじゃないですか!?」
「分からない……けど、もしかしたら、お祖父様が飲ませてくれたお酒のせい…………かも」
oh……
やってくれたなあの変態ジジイ!
恐らく、その酒の中に媚薬かなんかが入ってたんだ。
自分が獣族のメイドとする為に入れたんだろうが……酔った勢いでエリオットにも飲ませてしまったんだきっと!
「……ちなみに、どれくらい飲みました?」
「一口ぐらいしか……飲んで……ない」
やばい、エリオットの目がさらに凶暴な生物みたいになってきてる。
一口でこの効果、なんて恐ろしい媚薬だ……
どうする?
組み伏せられているから、抵抗は出来ない。
魔術で吹き飛ばしてもいいが、エリオットが大怪我を負う可能性もある。
ええいクソ……!
どうにでもなれい!!
俺は押さえつけられた手のひらをエリオットに向け、
ビュンッ!
「ッ!」
エリオットは衝撃波に巻き込まれ、そのまま本棚へと衝突する。
ガタガタ!
書庫室から借りてきた本の数々と、先日ロキシーから貰った魔人語について書かれた本が、エリオットの頭部へと落ちていく。
「痛……!」
「エ、エリオットの変態!どすけべ!!」
俺は思いつく限りの罵声をエリオットにぶつけた。
「………」
しかし、頭に本の角がクリーンヒットしたエリオットは、既に気絶している。
やべ……
流石に強すぎたか?
いやでも、これくらいじゃないとエリオットは離せなさそうだったし……
よし……!
逃げよう。
俺は本に埋もれたエリオットを放置し、部屋から抜け出した。
今晩は誰かの部屋で寝かしてもらおう。
「………」
自分の部屋から遠く離れたところで、エリオットの事が少し気になったが、まあいい。
考えるのは、明日の俺に任せよう。
おやすみなさい。
アニメで『日記』、とうとう出ましたね……!
この世界のルーディアの日記を書くのが楽しみで仕方ない。