〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた 作:肉と米と愛
「ロアの町に出されていた依頼から来ました。ロキシー・ミグルディアと申します」
いかにも魔術師って感じの帽子をつけた青髪の少年が挨拶をすると、ゼニスとパウロは苦笑いを浮かべた。
まあ、言いたい事は分かる。
「随分と、その……」
「こんな小さいのが家庭教師?」
ゼニスが言い終える前に、庭でリーリャと花の手入れをしていたルーデウスが声を上げた。
「あなたに言われたくありません」
ロキシーは不機嫌そうにルーデウスを睨みつける。
「すいませんうちの子が……ほらルディ!謝りなさい」
俺を抱えているゼニスが呼びかけるが、ルーデウスは気づかないフリをしている。
「……まあ構いません。よくある事ですから」
「よくある……ですか」
返しずらい返事に、ゼニスは苦笑いを浮かべる。
コンプレックスだと思っていたのだが、意外とそこは割り切るんだな。
見た目は、中学生くらいだろうか?
ロリ、ジト目、無愛想三つ集まればパーフェクト。
もし男でなく女だったのならば、ぜひ嫁に欲しかった。
「それで、僕が教える生徒はあの子ですか?」
ロキシーは庭に座るルーデウスを見る。
「本人からは、あまりやる気があるように見えないのですが」
「違いますよ!魔術を教えて欲しいのは、この子です!」
ゼニスは抱えていた俺をロキシーに見せつけるように前に出す。
「こ、こんにちは……」
ロキシーは一瞬驚愕の表情を浮かべたが、やがて大きなため息を吐いた。
「……たまにいるんですよね、ちょっと周りより成長が早いからって、すぐに自分の子供を天才とか言ってしまうバカ親。今回もハズレですか……」
後ろを向いて呟くロキシー。
もしもーし?
聞こえてますよロキシーくん。
「何か?」
「い、いえ何も……」
ゼニスの不気味な笑みに圧倒され、ロキシーは縮こまる。
「ですが、そちらのお子様には、まだ魔術の理論を理解できるとは思えませんが?」
「大丈夫よ、うちの子はとっても天才なんだから」
ゼニスのバカ親発言に呆れたのか、それとも諦めたのか、ロキシーは再度ため息を吐く。
「分かりました、やれる限りの事はやります」
こうして、俺達の家に、家庭教師ロキシーが誕生したのだった。
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「知っているとは思いますが、魔術には幾つかの系統があります。例えばーーー」
ロキシーの授業は、とても為になる。
魔術本で得た知識で、俺は魔術という仕組みを理解した気になっていたが、こうやってプロからの話を聞いてみると、色々と勘違いがある事が分かってきた。
まず、俺が当たり前のようにしていた詠唱なしで魔術を使用する事、これはかなり異常であるらしい。
プロのロキシーですら詠唱を短縮するのが精一杯なのに、俺はそれをなしで発動可能。
いやぁ、無詠唱魔術師か……
悪くない響きだなぁ。
そりゃもちろんありますもんね、転生した俺だけの『力』。
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午前はロキシーから魔術の理論を受け、午後から実践訓練となる。
どちらも分かりやすいし、為になる。
心なしか、一緒にいる時間が増えるほど、彼の笑顔も増えている気がする。
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「へへ、ルディ!なかなか腕が上がってんじゃねえか!」
ロキシーと魔術の実践をしていると、庭の方ではいつもそんな声が聞こえてくる。
バシンッ!
木刀同士が打ち合い、弾けるような音が響く。
「………」
軽口を叩くパウロとは対照的に、ルーデウスは無言で、やや不機嫌そうな顔をしながら剣を振っている。
「そこだッ!」
パウロの振りかざした木刀が、ルーデウスの横腹に迫った。
ヒュッ!
ルーデウスは子供らしからぬ跳躍力でそれをかわし、パウロの頭目掛けて脚技を繰り出す。
「グヘッ!」
ルーデウスの脚が首に直撃し、パウロの体がよろける。
お!これはいけるんじゃないか?
ルーデウスはすかさずパウロに木刀を振り下ろした。
スカ……
しかし、ルーデウスの放った木刀は、パウロの肩を掠めるだけだった。
バコッ!
「う……」
その隙を逃さず、パウロはルーデウスを木刀で吹き飛ばした。
ルーデウスはそのまま空中へ飛び上がり、地面へ倒れ込んだ。
「はあ……はあ……」
庭に立ち尽くすパウロの荒い呼吸音が、うるさいくらいに聞こえてくる。
「負けてしまいましたか、今日はいけると思ったんですがね」
「そうですね……」
ロキシーが悔しそうな顔をして呟いた。
ロキシーはここ最近、ルーデウスの事をよく見ている。
俺も魔術実践の合間に見ていただけだが、その少ない時間の中でも、彼の頑張りはよく伝わっていた。
パウロに何度打ちのめされても、ルーデウスは挫ける事なく立ち向かっていく。
そんな彼を応援したくなるロキシーの気持ちも、分からんでもない。
ロキシーは横になるルーデウスに近づく。
「ルーデウスさん、今治癒魔法をかけてあげますね」
そうやってロキシーがルーデウスに手をかざした、その瞬間だった。
バチンッ!
「え?」
ルーデウスはロキシーの手を弾き返し、跳ねるように立ち上がった。
「やめてください。施しを受けたようで、気分が悪いです」
ルーデウスが座り込むロキシーを見下ろしながら、冷たく言い放った。
「ルディ!それはねぇだろ!」
呼吸が整ったパウロが、ルーデウスの肩を掴む。
「ロキシーは、お前の為を思ってやろうとしてくれたんだぞ!」
「だったら、それが余計なお世話だって事、教えてあげてくださいよ」
「……!」
ルーデウスの反論に、パウロの口が閉じる。
「……もういいです」
ルーデウスは吐き捨てるようにそう呟くと、木刀をその場に捨てて、家の中へと戻っていった。
「なんなんですかあれ!」
俺の心から、抑えきれない怒りが溢れ始める。
なんて奴だ!
人が親切を仇で返しやがって!
兄とて許せん!
「大丈夫ですか師匠!」
「……いえ、気にしていませんよ」
ロキシーは作り笑いを浮かべてそう言うが、その表情に、怒りがさらに膨れ上がる。
早めの思春期なのかなんだか知らんが、ここはこの俺……いやこの私がガツンと言ってやろう!
「私、ちょっと兄様のところに……」
俺がそう言いながら家に入ろうとすると、パウロに腕を掴まれた。
「なんですか父様?」
「ルーディア……」
パウロは俺の腕を掴んだまま、顔を顰める。
「ルディを、許してやってくれねぇか……」
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『ルーディア!五歳の誕生日おめでとう!』
見るだけでヨダレが垂れてきそうなご馳走に囲まれながら、俺の五歳の誕生日パーティーが始まった。
この世界では、毎年誕生日を祝うと言う行事はない。
その代わり、五歳、十歳、十五歳になる節目に、盛大なパーティーを開くのだ。
そして今日は俺の五歳の誕生日。
この世界で二度目のパーティーだ。
一度目のパーティーはルーデウスの五歳の誕生日、あの時の俺はまだ赤ん坊だった為、ろくに楽しめなかった。
その分を取り返す為にも、今日は沢山楽しもう。
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「ふふ、ルーディア?」
「母様、なんですか?」
食事を終え、片付けの手伝いをしていると、満面の笑みを浮かべるゼニスに呼ばれた。
「私とお父さんから、ルーディアにプレゼントがあるのよ」
「本当ですか!?」
来ました来ました!
誕生日パーティーの醍醐味、プレゼント!
さあさあ、二人は何をくれるのだろうか?
「まずは俺からだな!」
パウロは用意していた箱を取り出すと、中からヒラヒラの服を取り出した。
これは……ドレス……?
「どうだ!可愛いだろ?」
「あ、ありがとうございます……」
パウロからドレスを渡され、思わず苦笑いを浮かべる。
燃えるように赤い派手なドレス、普通の女の子なら、目を輝かせて喜ぶだろう。
普通の女の子……ならな。
「ロアの町にいる知り合いから譲ってもらったんだ。まだ数回しか使ってないから、新品も同然だぜ?」
人の誕生日プレゼントに、他人のお下がりを渡すとは……人の心とかないんか?
まあこの世界じゃあ、普通の服も高価そうだし、そう考えれば、これはかなりレアなプレゼントに当たるのだろう。
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その後、ゼニスからは本を、ロキシーからは魔術の効果を上げる杖を貰った。
「本当は初めて魔術を使えた弟子に贈る物なのですが、ルーディアは元から魔術を使えていましたからね。渡すタイミングを逃してしまいました。すいません」
「そんな、ありがとうございます。師匠!」
俺はロキシーに飛びついた。
ふふ、どうだ。
可愛い愛弟子にこんなことされたら、師匠としても悪い気はしないだろう。
「ちょ、ルーディア、何をしてるんですか!?」
案の定、ロキシーの顔はみるみるうちに赤くなっていった。
ふふ、やはり年頃の男の子は弱い。
「ちょっとルーディア!そんなはしたない事してはいけません!」
ゼニスは慌ててロキシーから俺を引き離そうとするが、俺は彼から絶対に離れないよう腕をガッチリと挟んだ。
「流石は俺の娘だな!」
「あなた!感心してないで手伝って!ごめんなさいねロキシー」
「い、いえ、僕はぜ…全然大丈夫です」
弾けてしまいそうなほど赤くなったロキシーを見ると、俺の心に潜むワルーディアがさらに活発になってしまう。
「もう、一体誰に似たのかしら……」
「お母様とお父様、どっちも濃く受け継いでいますよ〜」
右手でピースをすると、不満げだったゼニスの顔が和らぐ。
「そうだな、自慢の娘だぜ全く!」
パウロが笑うと、釣られてみんなも笑いだした。
ただ一人、椅子に座っていた兄を除いて。
「くだらない……」
聞こえるか聞こえないかどうかの声量で呟いたルーデウスの声により、部屋は一気に静まり返った。
雰囲気をぶち壊した事を気にも留めず、ルーデウスは真っ暗になった窓の外を眺めている。
「ルディ、今なんて言ったの?」
静寂に包まれた部屋の中で、ゼニスの声が響く。
「別に、何も言っていませんが?」
「言いなさい」
シラを切ろうとするルーデウスを、ゼニスは逃さない。
その事を悟ったのか、ルーデウスはゼニスの方を向き、ため息を吐く。
「魔術なんてくだらないって言ったんですよ」
今度は、全員が聞き取れる声で言った。
「なんで、そんな事を言うの?ルーディアが頑張っている姿、あなたも見ていたわよね?」
「見てましたよ、そりゃあ熱心に練習してますよね。意味のない事を」
ドン!
パウロが突然机を叩き、ルーデウスの元へ向かった。
「ルディ、一緒に風呂に入ろう。今日はもう疲れただろ」
パウロはルーデウスの腕を掴み、部屋から出て行こうと扉へ向かう。
「あなた」
しかし、扉の前には既にゼニスが立ち塞がっていた。
「ルディ、謝りなさい」
ゼニスはルーデウスの前に座り、両肩を掴んだ。
「ロキシーとルーディアに、魔術がくだらないなんて言った事を、謝りなさい」
ゼニスのあんな怖い顔を、俺は初めて見た。
「正しい事を言っただけなのに、なんで俺が謝らなきゃいけないんですか?」
「正しかったら、人を傷つけてもいいの?」
ルーデウスは今度は大きなため息を吐き、俺とロキシーを睨んだ。
「母さんはルーディアに甘いですね。俺はただアドバイスを……」
「謝りなさい!」
ゼニスの怒号に、ルーデウス以外の全員が跳ね上がった。
俺が怒られている訳ではないのに、額から汗が滲み出る。
それなのに、ルーデウスは表情一つ変えず、ゼニスを見ていた。
「……そうですよね、ルーディアは父さんと母さんの間に産まれた、『望まれた子』ですもんね」
その言葉に、ゼニスの目が見開かれる。
「なんで……」
「母さんと父さんに多大な苦労を掛けた俺みたいな『忌み子』とは大違いーーー」
バシッ!!
次の瞬間、パウロの平手がルーデウスの頬を力強く打った。
ルーデウスはテーブルに巻き込みながら倒れる。
「馬鹿な事言ってんじゃねえぞ!ルディ!」
ルーデウスの鼻からは血が流れ落ち、右の頬は真っ赤に染まっていた。
「………」
にも関わらず、ルーデウスの目からは涙の一雫も落ちてこない。
「ルーデウス様……!」
リーリャがそばに近づこうとするのを、彼は手で止めた。
「……そうです。そうやって父さんは、力で俺を抑えていればいいんです」
ルーデウスはゆっくりと立ち上がると、一人で部屋から出ていってしまった。
部屋に残されたのは俺達と、床に散らばる余っていた料理の数々。
楽しかったはずの誕生日は、いつの間にか見る影もなくなっていた。
俺はただ、何が起きたのか理解できず、その場に立ち尽くす。
ルーディア・グレイラット五歳の誕生日パーティーは、最悪な形で終了した。