〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた 作:肉と米と愛
〜〜〜エリオット視点〜〜〜
やってしまった………
大量の本の中で目覚めた俺は、果てしない絶望に直面した。
俺は、ルーディアを襲ってしまった。
それも獣みたいに……
あの時は、本当にどうかしていた。
ルーディアの事しか考えられなかったし、ルーディアがどうしようもなく欲しかったんだ。
しかし、頭の中でいくら言い訳を考えたって、本人に言わないのでは意味がない。
とりあえず、早くルーディアに謝らなくては……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ルーディアを探すため、日が昇るよりも前に部屋を飛び出した俺は、ルーディアが居そうな場所を片っ端から探し始めた。
食堂、厩、大広間。
俺が知っている全ての場所を探してみたが、そこにルーディアの姿はなかった。
探し始めて小一時間。
俺はある部屋へと辿り着いた。
ルーデウスの部屋だ。
もしかしたら、ここでルーディアが寝ているかもしれない。
ルーデウスとはあの決闘の後から一度も話してはいないが、恐らく………大丈夫だろう。
ルーディアが俺に襲われたと言っていなければの話だが………
キィ………
俺は慎重に、ゆっくりと部屋のドアを開ける。
ドアから顔だけを出すと、そこには椅子に座って何かを書いているルーデウスがいた。
珍しい……ルーデウスがこんな早くに起きているなんて。
いや、ずっと起きていたんだろうか?
「ここにルーディアは居ませんよ」
部屋へ一歩踏み出すと、こちらに背を向けているはずのルーデウスが声を上げた。
「………そうか」
久々に聞くルーデウスの声に、俺は少し恐怖心を抱いた。
ルーディアが居ないのなら、ここに長居する必要もない。
そう思って、俺は部屋のドアを閉めようとした。
「まあでも待ってくださいよ。少し話をしましょう」
その時、何かを書き終わったのか、ルーデウスは伸びをしながら俺の方を向いてきた。
ルーデウスの目の下には、少しクマができている。
やはり、ずっと起きていたんだろう。
「あいにく椅子は一つしかありませんが、まあそこのベッドにでも座ってください」
俺は言われるがまま、ベッドの上に座る。
ルーデウスは椅子を俺の対面に移動させた。
「話は聞きました。ルーディアに夜這いを仕掛けたんですよね」
「………ああ」
やはり、ルーデウスは既に知っていたのか……
殴りかかって来ると想定していたが、ルーデウスの口調から怒りは感じられなかった。
「殴らないのか?」
不思議に思った俺は、思わずそんな事を聞いてしまった。
「ええ、今からあなたに聞く質問の返答が、俺の望むものだったらの話ですが」
つまり、殴るかも知れないってことか……
次に、ルーデウスはポケットからある袋を取り出した。
「ッ!」
ルーデウスが袋を開けると、中からは大量の金貨が出てくる。
こんな大金……一体どこから……
「ルーディアにはね、同い年の友達がいるんですよ」
ルーデウスは溢れんばかりの金貨を片手で鷲掴みにする。
「ルーディアには劣りますが、無詠唱で魔術を扱える優秀な子です。貧しい家に生まれた身ではありますが、それもこの金があれば済む話です」
ルーディアの友達、前に聞いた事がある。
名前は確か……シルフ……だったか?
元々、そいつと魔法大学へ行く為にここに来たんだったよな。
「あなたはどうなんですか?」
ルーデウスは俺を見つめ、落ち着いた声で尋ねてきた。
「ルーディアに夜這いを仕掛けたということは、彼女と人生を添い遂げる覚悟があるんですよね?」
「………」
「あなたはルーディアに、どんな利益をもたらすことができるんですか?」
そこまで言われて、俺はようやく気づいた。
こいつは、俺を見定めているんだ。
俺が本当に、ルーディアを守り抜く覚悟があるのかを、ここで確かめるつもりなんだろう。
俺の返答次第で、ルーディアとのこれからが決まる。
下手したら、ルーデウスに殺されてしまうかも知れない。
だけど、嘘はつきたくない。
「……ない」
その一言で、俺を見るルーデウスの目が変わった。
刺されるような視線を向けられ、俺は一瞬戸惑ったが、勇気を出して再び口を開いた。
「俺はそのルーディアの友達みたいに、無詠唱で魔術を使うことなんて出来ないし、気の利いた言葉をかけてやることも出来ない。けど………
彼女が、好きだ………」
それは俺の口から出た、嘘偽りのない真実。
そしてこれからも変わることのない、揺るがないことだった。
「…………」
ルーデウスはしばらくの間、睨むようにこちらを見ていたが、やがてゆっくりと椅子から立ち上がった。
バシッ!
「痛ッ……!」
次の瞬間、俺はルーデウスに頭を殴られていた。
痛い……痛いが……ルーデウスから振り下ろされた拳に、不思議と敵意は感じられない。
「やはり馬鹿と話すのは疲れますね。時間の無駄でした」
そのまま服の襟を掴まれ、俺は廊下へと放り出される。
「もしルーディアが欲しいのであれば、俺と父さんに勝ってからにしてください。無論、その間にルーディアが他の男と幸せになっているかも知れませんがね」
それだけ吐き捨てるように言うと、ルーデウスは勢いよく扉を閉めた。
「……なんだ」
今日のルーデウスは、何か変だ。
いつものように冷酷というか、得体の知れなさが抜けている。
それどころか、俺はあいつからどこか親しみやすさを感じた。
俺が話していない間に、何かあいつの心を変える出来事でもあったんだろうか?
「あ、エリオット……」
床に座ったままの俺を、誰かが呼ぶ声が消えた。
「ルーディア……」
横を向くと、そこにはルーディアが立っていた。
俺はすぐさま立ち上がり、ルーディアに頭を下げた。
「ごめんルーディア!あれは……俺が少しおかしくなってて……!」
「分かってますよ。私も少し、あなたに手荒なことをしてしまいましたし」
しかし、俺が想像していたよりもルーディアの顔は晴れていて、その頬はほのかに赤くなっている。
「エリオットの気持ちも、私には十分に伝わってきました。だから……その………あと五年、五年待ってください」
「え……?」
五年……
五年経ったら、なんなんだ?
「私が成人する十五歳になった時、エリオットがまだ私を好きでいてくれていたのなら。その時は………」
「その時は……?」
バシンッ!
俺が復唱するのと同時に、ルーディアの平手打ちが俺の顔に飛んできた。
「ぶへッ!」
え?
痛……
「私に言わせないでくださいよ!!」
ルーディアが、さらに顔を赤面させる。
「とりあえず、あと五年です!五年ですからね!?」
「あ…ああ……」
「じゃあおやすみなさい!」
そのまま背を向けて歩き去っていくルーディアを、俺はただ眺めることしかできなかった。
再び静寂に包まれた廊下で、ルーディアの言葉を思い出す。
「五年……か……」
後五年待てば、ルーディアが俺を認めてくれるということなのだろうか?
ではその五年の間に、俺は何ができる?
ただルーディアの側にいるだけでいいのか?
ダメだ。
そんなの絶対に許されない。
強くならなければ……
頭も悪く、気を遣ってやることもできない俺が唯一出来るのはそれだけだ。
剣を握って振る。
ルーディアを守り抜く。
それだけが、俺がルーディアの側に居ていい理由なんだから。
〜〜〜ルーディア視点〜〜〜
翌日
朝食を食べ終えた後、俺はエリオットはロアの町から離れた場所にある草原に訪れていた。
もちろん、後ろからはギレーヌがついてきているため、人攫いに遭う心配はない。
「ここら辺でいいでしょう」
俺はピクニックバスケットを片手に、草原のど真ん中に座り込んだ。
「随分と遠くに来たな」
その横に立つエリオットは、俺が貰った『
「ええ、これくらい離れていないと、ロアの人達に迷惑が掛かっちゃいますからね」
今日俺達が、こんな何もない草原に足を運んだのは、今エリオットが持っている『傲慢なる水竜王』を使い、水聖級魔術である『
ただでさえ、『豪雷積層雲』は周囲への影響が大きく、農作物に被害を与える可能性がある。
それを水魔術の威力を何倍にも底上げする『傲慢なる水竜王』を使って発動するのだ。
これくらい離れなければならないのは当然だろう。
「何度も言いますが、『豪雷積層雲』を私が詠唱している間は、絶対に私の側から離れないでくださいね?」
「分かってる」
「分かった」
本当に分かってんのかこいつら?
………まあいい。
そして、できればこの場にルーデウスも連れてきて、あいつに魔術の素晴らしさについて教えてやろうと思ったんだが……
残念ながら俺がどれだけ顔面を叩いても、あいつは寝息を立てて起きなかった。
昔から一度寝ると自分から起きるまで絶対に目覚めないからな、仕方ない。
全く、寝顔だけは可愛いんだけどな、あいつ。
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ピクニックバスケットに入っていた昼食を食べてしばらく。
そろそろ始めてもいいだろう。
「じゃあエリオット、杖をください。そろそろお披露目といきましょう」
「おお!やっと見れるのか……!」
エリオットはやや興奮気味になりながら、俺に杖を手渡す。
やっぱり重い……
まだ子供の俺は両手を使ってやっとだ。
帰ったら、ちょっと筋トレでも始めてみようか?
「では、いきます」
俺はその場で、大きく深呼吸をする。
無論、『豪雷積層雲』は既に無詠唱で発動することができる。
しかし、今回はあくまでもパフォーマンスとして魔術を見せるのだ。
演出はド派手な方がいい。
「はぁぁぁぁぁ!集えよ魔力!雄大なる水の精霊にして、天に上がりし……あれ?」
両手で『傲慢なる水竜王』を天に掲げ、『豪雷積層雲』を詠唱しようとした、その時だった。
「空の色が……変わっていく……?」
青く澄んでいた空が、禍々しい色へと変色していった。
茶色と紫を混ぜたような気味の悪い色だ。
「凄まじい魔力だ……!」
ギレーヌは眼帯を外し、濃緑の色彩を持つ眼で空を睨みつける。
「なんなんだあれは……?」
「分からんが、とりあえず館に戻ってフィリップ様達に報告をーーー」
ヴォッ!
次の瞬間、視界の端から真っ白な光のようなものが飛び込んできた。
「エリオット!伏せろ!!」
ギレーヌが叫び終える前に、エリオットは俺を抱えて前方へと倒れ込む。
頭上から吹き抜けるような突風が発生し、俺は反射的に目を閉じた。
「ルーディア!大丈夫か!?」
「ええ、お陰でなんとか……」
風が過ぎ去り、ゆっくりと目を開ける。
「貴様は何者だ!」
目を開けると、腰にかけていた剣を抜いたギレーヌが、白い学生服のような服を着た金髪の男と、剣を打ちつけ合っていた。
「我は光輝のアルマンフィ。ペルギウス様の命により、この異変の発生源を断つため参上した」
「ペルギウス……?」
ペルギウスって、前に聞いたことがある。
確か、『魔神殺しの三英雄』の一人だ。
そんな偉人の配下が、なんで俺達のところに……
「エリオット!ルーディアを連れて下がっていろ!」
ギレーヌはアルマンフィと名乗る男に敵意を剥き出しにしながらも、冷静に俺達を戦場から遠ざけようとしてくれた。
「女、どけ。その小娘を殺せば、異変が止まるやも知れん」
しかし、どうやら男の目的はギレーヌではなく、この俺のようだ。
しかも今こいつ、俺を殺すって言わなかったか?
「あたしは剣王ギレーヌ・デドルディア。あれとあたしらは関係ない。退け!」
「お前が剣王だと?」
疑いの声をかける男に、ギレーヌは剣を見せつけた。
「我が剣術の師、剣神ガル・ファリオンと、ドルディアの名誉に誓う」
ギレーヌの気迫ある名乗りにより、男は持っていたダガーのような物を後ろへしまった。
「………フン、よかろう。事実でなかった場合、後日ペルギウス様が沙汰を下す」
「唐突に襲ってきて謝罪もなしか!」
空の方を向く男に、ギレーヌはやや声を荒げる。
いいぞギレーヌ!
これは紛うことなき正論だ。
案外頭いいじゃんギレーヌ!
「こんな場所で怪しいことをしている方が悪い」
しかし男は反省するどころか、こちらに非があると抜かしてきやがった。
子供みたいなこと言いやがって。
……クソ、訳がわからない。
まずは状況を整理しよう。
魔術をお披露目しようとしたら、空が変色し、唐突に男が襲ってきた。
その男は本にも載るような伝説の英雄の使いだと言う。
そんな有名人が突然俺を殺しに掛かってきた。
どうやらこの空の異変を起こしたのが俺だと思っているらしい。
もちろん違うが……
ああダメだ!
一向に理解できない!
「ルーディア!あれは!?」
その時、エリオットが突然空に向けて指差した。
エリオットの指差す方を向くと、白い柱のようなものが地面へ伸びていっていた。
ズン!
そして柱が地面に触れたその瞬間、その柱は急速に周りを飲み込んでいく。
草も、木も、地面さえも。
柱は止まることなく俺達の方へ向かって来る。
「エリオット!ルーディア!」
アルマンフィはいつの間にか消え、ギレーヌはこちらへと向かって来る前に柱に飲み込まれた。
「………あ」
これは、ダメだ。
死ぬやつだ。
死ぬのか?
こんなところで、まだ十歳になったばかりなのに……
走馬灯のように記憶がよぎる中で、ある一人の少年が頭に浮かんできた。
ルーデウス……
そうだ、まだルーデウスとも、ちゃんと話し合えていないんだ。
嫌だ……死にたくない……!
「ルーディア!」
膝から崩れ落ちる俺を、エリオットが覆うように俺を包み込んだ。
「お前だけは!絶対に守る!!」
その言葉がエコーのように耳に響きながら、俺の視界と意識は真っ白に塗り潰されていった。
大変申し訳ないのですが、魔大陸編については、かなり飛ばそうと思っています。次回のお話はミリス大陸での話になります。
魔大陸でのルーディアを見たかった方々、大変申し訳ありません。