〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた 作:肉と米と愛
〜〜〜パウロ視点〜〜〜
「………ヒック!」
外は眩しいほど明るい。
今は……ちょうど昼になったくらいか?
昨日の夜から飲みっぱなしだったから、時間感覚が狂ってるな。
いや……飲み始めたのは昨日の朝だったか……
まあいい、今はだれも俺に文句を言ってくる奴なんていない。
居てくれやしねぇ……
「はあ………」
意味の分からない魔力災害に巻き込まれ、家族と散り散りになって早一年。
未だに家族の足取りは掴めていない。
今はたまたま側に居て助かった娘のノルンを連れて、同じように魔力災害に巻き込まれたフィットア領の人々を救出する毎日が続いている。
しかし、全員を助けられる訳じゃない。
救出してもすぐに死んでしまった者や、既に遺体となって見つかる者も少なくない。
妻ゼニスの実家であるラトレイア家の協力を得たとはいえ、犠牲者がゼロになることはない。
「………」
こんな生活を続けていけば、いつか家族は見つかるんだろうか?
全員が無事に生きて、再び食卓を囲むことができるんだろうか?
『おかえりなさい………』
死体となって帰ってきた息子を渡した時の遺族の声が、今でも鮮明に思い出せる。
もし、子供達が死体になって俺の元に帰って来た時、俺は果たして正常でいられるだろうか?
もし………家族の一人でも欠けて帰ってきたなら……俺は………俺は……
「団長!!」
そんなことを考えていたら、俺の一人飲みの邪魔をする奴が出てきやがった。
「ヴェラ。何の用だ?」
露出度の高い服装を着たヴェラが、焦ったような顔で俺の肩を掴んできた。
「人攫いです!何者かは分かりませんが、小人族の男女が、私達が助けた子供を攫おうと襲ってきました!」
「何……?」
人攫い。
ついにこの比較的安全なミリシオンでも人攫いが起きたのか……
クソ。
余計な面倒事を増やしやがって。
「分かった。案内してくれ」
ヴェラは頷きだけを返すと、俺達は酒場を飛び出すように出ていった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
辿り着いた場所は、ミリシオンでは珍しい廃れた教会だった。
「ぐあッ!」
「ぶへッ!」
中から嗚咽するような声が次々と聞こえて来る。
「団長、こっちです!」
ヴェラに連れられ裏口から教会へ入ると、数人の男達が倒れていた。
こいつらは、俺と一緒にフィリップ領捜索団を結成した仲間達だ。
「うう……団長……」
「すいません……俺達がついていながら……」
「大丈夫だ。お前らは休んでろ」
仲間達に労いの言葉をかけると、俺は視線を前に向ける。
「ル……飼い主。やっぱりこれ、外しても良いか?」
「ダメですよ狂犬!正体がバレてはいけない。これはヒーローの鉄則です!」
そこには、ヴェラの報告通り、小人族と思われる二人の男女がいた。
顔には……女モノの下着をつけていやがる。
気持ちの悪い輩どもだ。
しかし、この声……どこかで……
「団長!」
「……ああ、分かってる」
まあいい。
知り合いだとしても、人攫いを生業としているなんてロクでもない奴らに決まってる。
今は気分が悪い。
早いとこコイツらをぶった斬って、もう一回飲み直そう。
ズザッ!
俺は剣を抜き取り、素早く敵の方へ走った。
「ッ!離れてろ!」
小人族の赤い髪をした男が前へ出ると、俺は剣を振り下ろした。
ガキン!!
しかし、俺が振り下ろした剣は男の剣によって受け止められる。
ヒュン!
そして男の頭上から、先の尖った岩が俺に向かってきていた。
「チッ!」
俺は咄嗟に体を後ろへ倒すと、岩の先端が俺の顎を掠める。
やはり、体格に合わない杖を持っているあの女は魔術師か……
腕の立つ剣士に、遠距離からカバーをする魔術師。
それに連携も申し分ない。
やりずれぇな。
スブン……!
「何!?」
相手を観察していると、いつの間にか地面が沼のように沈み始めた。
これは、泥沼か……!
状況を理解する間にも、俺の足はどんどんと底なし沼にはまったように沈んでいく。
クソ!
「面倒くせぇんだよ!」
俺は口に剣を咥え、地面に両手をつけ四つん這いになった。
「北神流……!?」
男が戸惑った一瞬の隙をついて、俺は全力疾走で走り出す。
『ッ!?』
剣士と魔術師のタッグと戦うのは初めてじゃねぇ。
冒険者時代の喧嘩ではよくあったことだ。
そしてその対策も、俺は熟知してる。
何よりもまず最初に狙うのは、鬱陶しい魔術師からだ。
口で剣を咥えたまま、魔術師の女へと突進していく。
「ヒッ!」
女は恐怖から目を見開きながらも、俺との間に巨大な石壁を作り出した。
こりゃあ凄え。
結構なやり手のようだな。
けどよ……
俺は腰にかけていたもう一つの短剣を取り出し、作り出された壁に向けて振り下ろした。
バキ……
石壁は容易く壊れた。
そりゃあ一瞬で生成した分、作り方は雑になるよな。
終わりだ。
左手で口に咥えた剣を取り、女に向け放とうとした、その瞬間だった。
「ルーディア!危ない!!」
ガタ……
俺は持っていた剣を落とし、反射的に男の方を向いた。
ルーディア?
男の周りを見渡すが、どこにもルーディアの姿は見当たらない。
なんでだ?
なんでこいつは、ルーディアの名前を知っていやがんだ?
………まさか。
俺はゆっくりと、女の方を振り返る。
「父……様……?」
女モノの下着の中から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
小人族の……いや、人族の少女が、その下着を外した。
そこに立っていたのは…………
「ルーディア…………?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
場所はミリシオンの宿屋『門の夜明け亭』の横に点在する酒場。
常に喧騒に包まれている酒場だが、今日は一段と静かであった。
『………』
酒場の一番隅に座っている三人の人物。
「……ルーディア」
ルーディアの正面に座っていたパウロは、囁くような声で口を開いた。
「父様、お久しぶりです」
それに比べ、返答をしたルーディアの声には活力がある。
パウロはその声を聞き一瞬だけ目を逸らすが、再び自分の娘と向かい合った。
「まあ、なんだ、ルーディア………よく生きていてくれたな」
パウロの声には、やはり気力がない。
声だけではない、見た目も随分と変わった。
頬はげっそりとやつれ、目の下にはクマがあり、無精髭を生やしている。
「ええ……まあ……」
変わり果てた父に、多少の動揺はしながらも、ルーディアは子供らしい表情を浮かべていた。
(なんでパウロがここに?)
ルーディアは混乱していた。
ここミリシオンはアスラ王国からかなり遠くに位置している。
ミリス神聖国がアスラ王国の次に大きな国とは言え、わざわざ足を運ぶ必要もない。
「その……父様はどうしてここに?」
ルーディアの問いに、パウロは意外そうな表情を浮かべた。
「どうしてって、伝言を見ただろ?」
そう、パウロは大陸各地に伝言を残していた。
魔力災害に自分達が巻き込まれた事。
信頼できるルーディアとルーデウスは後回しにして、自分は他の家族を捜索する事。
かつての冒険者仲間に協力を要請していた事。
パウロが伝えたかった情報は、すべて伝言に記されていた。
しかし、魔大陸で生活をしていたルーディアは、その伝言に目を通してはいなかった。
「なあルーディア、お前、今までどうしてきたんだよ?」
「どうと言われても、全く大変でしたよ」
ルーディアも聞きたいことは山ほどあったが、ひとまずは自分が体験したすべてを話すことにした。
突然魔大陸に飛ばされ、そこである魔族に助けられた事。
そこで冒険者となり、エリオットと共に一年という月日をかけてここへ来た事。
話し始めるうちに、ルーディアのテンションが高くなり始めていく。
「大森林では、色々とおもてなしをされて、今思い返せば良い思い出ーーー」
「もういい」
パウロはイライラした声で、ルーディアの言葉を遮った。
「お前がこの一年ちょっとの間遊び歩いていたって事は、よく分かった」
パウロの言葉に、笑みを浮かべていたルーディアの顔が一瞬曇る。
「それは………」
「なあルーディア、遊び歩いていたのは構わねぇがよ、その間に、なんで魔大陸で他に転移した奴らの情報を集めなかったんだ?」
苦笑いを浮かべるルーディアを、パウロは少しばかり敵意のある目で睨みつけた。
黙り込むルーディアに、パウロは鼻で笑うように息を吐く。
「ハッ!
人も探さず手紙も寄越さず、やってたのはカッコいい貴族の騎士に守られるお嬢様ごっこか?
オマケに強力な護衛まで付いてるときた。
それでミリシオンに来て最初にやった事が、パンツを被って正義の味方ごっこ、ふざけてんのか?」
パウロ自身も、途中から自分が何を言っているのか分からなくなってきた。
(俺は、何を言っているんだ?)
ただ、生きていてよかった。
それだけでよかったのに、口から出てくるのはルーディアを貶すようなことばかり。
「団長、いくらなんでもーー」
「お前……いい加減にしろよ……」
その時、ルーディアの隣で沈黙をしていたエリオットが、初めて口を開いた。
「黙って聞いてれば、ルーディアの苦労も知らないで……」
「なんだエリオット?まだカッコいいカッコいい騎士気分が抜けてねぇのか?」
「この……ッ!」
エリオットが椅子を立ち上がろうとするのを、ルーディアは片手で制止した。
「やめてください父様、なんでそんなに突っかかってくるんですか?」
ルーディアの顔には、少し苛立ちが見えていた。
「なんでだと?聞きてぇのはこっちの方だ」
ドン!
パウロはそんなことお構いなしに、机を勢いよく叩きつける。
「お前がそうやって遊び歩いている間、俺がどれだけ苦労したか、分かってのか!!」
「団長、それぐらいにしといてあげましょうよ……!」
その時、パウロの近くで立っていたヴェラが、パウロの隣に近づいた。
「まだ小さい子供じゃないですか」
「親子のことに口を挟むんじゃねぇ」
「ですが………」
その様子を見て、ルーディアは薄く笑った。
「父様だって、本当は何もしてないんじゃないですか?」
「ああ?」
パウロのルーディアを見る目が、さらに険しくなる。
「その女の人は誰なんですか?近くにそんな綺麗な女の人がいること、母様やリーリャは知っているんですか?」
「………知らねぇよ。知ってる訳ねぇだろ」
パウロは拳を強く握りしめた。
「なるほど、災害で巻き込まれた人を探すとは名ばかりに、本当はそうやってお気に入りの女性を漁るのが目的なんですね。これじゃあ、新しい妹か弟ができる日も時間の問題ーーー」
ボコッ!!
次の瞬間、ルーディアは宙に浮いていた。
ガタ!
ルーディアはそのまま地面に倒れる。
その顔は、赤く染まっていた。
「え……?」
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇぞ!ルーディア!」
今起きた出来事を理解するのに、ルーディアは少しの時間を要した。
(俺は……殴られたのか)
ルーディアは、パウロに殴られたのだ。
それも本気で……
「このクソ野郎!!」
ドゴッ!
放心状態のルーディアの前に立つパウロに、エリオットの拳が炸裂する。
パウロは地面に倒れ、エリオットは馬乗りになりながら、パウロを殴り続けた。
ボコッ!
「何も知らない癖に!」
「ぐッ……」
バコッ!
「ルーディアがどれだけ苦しんだか!」
「うッ……」
バキッ!
「家族と会うことを、どれだけ待ち望んでいたか!」
エリオットの拳は、パウロの血で染まっていくが、それでも彼の怒りは止まることを知らない。
「それでも親かよ!父親かよ!」
恨めしそうな目で睨みつけくるパウロに、エリオットは拳を空高くかざした。
「そんなことも分からないお前なんか!ルーディアの父親じゃーー!」
「やめてぇぇ!!」
その時、馬乗りになっていたエリオットが、何者によって突き飛ばされた。
エリオットが横を見ると、自分の身長の半分ほどしかない少女が、目に涙を浮かべながら立っていた。
「お父さんをいじめないで!」
「違……始めたのはこいつなん……」
涙ながらに訴えてくる少女に、エリオットが反論しようと口を開きかけた。
しかし、ルーディアが彼の腕を掴んだことで、それは妨害される。
「エリオット、もう……行きましょう」
「なんでだよルーディア!最初に突っかかって来たのはこいつなんだーー」
「もういいですから……!」
そこまで言われて、エリオットはようやく周りが見えてきた。
『………』
酒場にいる全員が、刺すような視線をこちらへと向けていることに。
ここにいる全員が、フィットア領捜索団、言うなれば、パウロの仲間達だ。
自分達の仲間は、ここにはいない。
ルーディアはそれを理解していた。
実の父親でさえも、今の自分に敵意を向けている。
その事実が、ルーディアの心を蝕む。
「……分かった。行こう、ルーディア」
エリオットは顔をしかめながら、隣にいたルーディアの肩を支え、酒場の出口へと歩いていく。
最後に、ルーディアが酒場を後にする前に、彼女はパウロの方を向き、呟くような声で答えた。
「すいません……父様。やっぱり私は……あなたの娘には、なれませんでした……」
ここから数話は、ルーディアに絶望を与えまくろうと思います。
ルーデウスの登場は、もう少し先です。