〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた 作:肉と米と愛
〜〜〜パウロ視点〜〜〜
夜、俺は昨日とは違う酒場で目を覚ました。
目の前には、自分でも驚く量の酒が入っていたコップが転がっている。
随分と飲んだな。
こりゃあ、明日起きるのは昼過ぎくらいになるだろう。
「うッ………」
『すいません……父様。やっぱり私は……あなたの娘には、なれませんでした』
頭痛と一緒に、嫌な記憶を思い出しちまった。
クソ、気に食わねぇ……
あんなに長々と、それも楽しそうに魔大陸での旅を語っておいて、家族を探すのには頭が回らなかったってか?
ふざけやがって。
挙句、エリオットを手懐けて自分はお嬢様のように手厚い介護を受けてるときた。
俺がどれだけ心配したかも知らねえで……
クソ……クソ……クソ!!
ドン!
俺は持っていた酒を机に叩きつける。
騒がしかった酒場は一瞬にして静まり返り、気まずさだけが残った。
ああクソ、またやっちまった。
場所を変えて、もう一回飲み直すか……
そう思い、残っていた酒を飲み干そうとしたその時だった。
「よう、探したぜ」
懐かしい声が、俺の横を通り過ぎる。
「ハッ!?ギース!」
顔を上げると、かつてのパーティーメンバーであるギースが立っていた。
「てめぇ!今までどこにーー」
「おお!なんだなんだ?相変わらず不機嫌そうだな」
ギースは悪びれもせず、さも当たり前かのように俺の正面に座った。
「おい姉ちゃん!俺にもこいつと同じの一つ!」
ギースの登場により、酒場は再び活気を取り戻し始める。
「パウロ、おめぇ明日ギルドに顔だせよ。面白い奴らに会えるぜ?」
「ルーディアだろ?」
俺が即答すると、ギースは意外そうな表情を浮かべた。
「お、なんだ!もうルーディアに会ったのか!」
「………ああ」
「なんだ?せっかく会えたにしちゃ、顔色が優れねぇぜ?」
ギースはいつも通り顔をニヤニヤさせながら、俺の隣の席に移動してくる。
こいつは昔からそうだ。
人の顔色を伺うのがうまい。
「何があったんだ?話してみろよ」
「………ああ」
ギースから酒を手渡され、俺はゆっくりと事の成り行きを話し始めた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「………ていうことがあったんだよ」
俺は一通り話を終えると、側に置いてあった酒を飲み干した。
いつもは話の途中に相槌を打ってくるギースは、今回は全くと言っていいほど静かに話を聞いていた。
「……こりゃあ、ちょっとまじいかもな」
話を聞き終えたギースが、少し冷や汗をかきながらそう呟いた。
「今では俺もちょっと言い過ぎたとは思ってる。けどよ、あいつだって楽しい冒険をーーー」
「違う」
ギースは俺の言葉を遮り、強調するように言った。
「ああ?何が違うんだよ?」
「根本的なとこからだよ。ルーディアはそんな甘っちょろい旅なんかしてねぇ。少なくとも、俺が見ていた限りはな」
「はあ?どういうことだよ」
そこからギースが語り出したのは、ルーディアから聞いたものと全く違う物語だった。
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ギースがルーディアと初めて会ったのは、大森林ドルディアの里だった。
「おい……なんだよこれ……」
使っていたイカサマがバレ、牢屋へと入れられたギースは、目の前の光景に目を疑った。
「………うぅ」
そこにいたのは……
獣族に身ぐるみを剥がされ、力なく倒れていたルーディアだった。
体中が痣だらけで、所々に切り傷のようなものも刻まれている。
「おい!大丈夫か!」
まだ十五も迎えていないような子供が、見るも無惨な状態になっているのを見て、ギースはすぐさま彼女に駆け寄った。
震えているルーディアに、ギースは自身が着ていた服をかける。
「冷てえ……」
ルーディアの肌に触れると、その体が異様なほど冷たくなっていることに気づいた。
(冷水でも浴びせられたのか?)
何故そんなことを?
そもそも、何故こんな子供が牢屋へ入れられている?
疑問に思う余裕など、ギースにはなかった。
このままいけば、この少女は確実に死ぬ。
初対面で面識なぞ一度もないが、小さな少女をここで見殺しにすることなど、ギースには出来なかった。
『おいそこの兄ちゃん!この嬢ちゃんが今にも死にそうなんだ!手当てしてやってくれ!』
ギースは獣族語で、近くにいた獣族の青年に訴えた。
『………』
バシャッ!
しかし青年から返ってきたのは、冷たい視線と、冷たい水だった。
『冷てッ!おい!いきなり何すんだよ!』
『……戦士長を呼んでくる。変なマネはするなよ?』
青年はギースを睨みつけながらそう言うと、何処かへと消えてしまった。
「なんなんだよあいつ……嬢ちゃん、すぐ助けてやるからな!」
ギースがルーディアに声をかけるが、彼女から返ってくるのは、酷く掠れた呼吸音だけ。
(持ち堪えてくれよ……死人が出た場所で寝るなんざ勘弁だからな……)
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そこから数十分ほどが経ち、先程の青年が屈強そうな男を連れて戻ってきた。
男は牢の前まで来ると、倒れているルーディアを見下ろす。
『あんたが戦士長か!?早くこの嬢ちゃんを助けてやってくれ!』
『ああ、分かっている。まだ死んでもらっては困るのでな』
男が手を上げると、後ろにいた青年は束ねられたスクロールを持ちながらルーディアに近づいた。
『族長の寛大さに感謝しろ。このクズ』
治癒魔術が込められたスクロールの上にルーディアを乗せると、青年が吐き捨てるように言った。
青年が手をかざすと、スクロールに書かれていた魔法陣が光り、ルーディアの体に刻まれた傷が癒えていく。
しかし、その光はルーディアの体が完全に治癒する前に消えてしまった。
体にはまだ無数の痣と切り傷が残っている。
『おい、傷はまだ治ってねぇぞ?』
『暴れてもらっては困るからな。意図的に止めさせたのだ』
『何?』
何でもないことのように答える男に、ギースは顔をしかめた。
先程よりも良くなったとはいえ、ルーディアの表情には、まだ苦痛が残っている。
事情など全く知らないギースにとって、今のルーディアの扱いはあまりに酷いものだった。
『事情は知らねぇけどよ、いくらなんでもやり過ぎじゃねえか?こいつはまだて子供だぜ?』
ギースが不満そうな顔で言うと、男はギースを睨みつけた。
『……罪人の分際であまりでしゃばるな。お前はそこで族長の決断が決まるまで、大人しく待っていればいいのだ』
「…………」
ギースは男の威圧に怯み、その場に固まってしまう。
『そこの女のように、衣服を脱がされていないだけマシだと思え』
そうして吐き捨てるようにそれだけを言い残すと、男は何処かへと去って行った。
青年は再び牢屋の前に立ち、剣を床に突き立て監視を始める。
(全く、訳が分からねぇ……)
ギースは悪態を吐きながらも、狭い牢獄の中で、静かにルーディアの目覚めを待つのだった。
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翌日の昼間。
暇を持て余したギースが、周りを歩いている住人の数を数えている最中に、ルーディアは目覚めた。
「嬢ちゃん!目が覚めたか!」
ギースが声を掛けると、ぼんやりと開けていたルーディアの目が、突如として恐怖へと変わった。
「ヒッ!」
ルーディアは狭い牢獄の端へ移動し、ガクガクと体を震わせる。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!私は何も知らない!何もやってない!」
ギースを見つめるルーディアの顔は、酷く青ざめていた。
「お……おい、大丈夫か?」
ギースはそんなルーディアの様子を見兼ね、彼女に近づいていくと、彼女は狂ったように暴れ始めた。
「嫌!来ないで!もう殴らないで!!」
「落ち着け嬢ちゃん!俺はお前さんに危害を加えるつもりは……ぐぇッ!」
暴れ回るルーディアの足が、ギースの顔面に直撃する。
「痛ぇ!」
後ろへと倒れ込むギースを見て、ルーディアはようやく落ち着きを取り戻し始めた。
「あ……え?」
ルーディアの前にいる男には、獣族特有の耳が付いていない。
それに話し方も獣神語ではなく、聞き馴染みのある人間語だ。
(こいつは……獣族じゃ……ない?)
冷静になったルーディアは、ようやくその事実を理解することができた。
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「えっと、ギースさん。ご迷惑をお掛けしてしまい、本当にすいませんでした……」
互いに牢獄に閉じ込められている身だという事を認識したルーディアは、ギースに頭を下げた。
「いいんだよ、当然のことをしたまでさ。それよりもよ……」
言葉を詰まらせたギースの視線が、ルーディアの下半身へ落ちる。
「ズボンもいるか……?」
「あ……!」
ルーディアは咄嗟に下半身を両手で隠す。
「大丈夫です……」
「遠慮すんなって。そんな姿じゃこの狭い牢屋すら移動しづれぇだろ?」
そう言ってルーディアに自身のズボンを渡し、ギースは下着一枚になってしまった。
「ギースさん。本当にすいません……」
ルーディアは申し訳なさそうな表情を浮かべ、再びギースに頭を下げる。
「子供がそんなしけた面すんじゃねえよ。それとさんは付けなくていいし、敬語もやめてくれ」
「でも………」
「それよりも、なんで先輩はこんな獣族だらけの森に囚われてるんだ」
「先輩……?」
突然の先輩呼びに、ルーディアは思わず首を傾げた。
歳は三倍近く離れ、加えて命を救ってくれた恩人からそんな呼び方をされたのだ、当然の反応だろう。
「俺よりも長くここに滞在してるんだし、そう呼ばせてくれよ」
「はあ……」
ルーディアには少し意味が理解できなかったが、そういうものだと割り切ることにした。
やがてルーディアは、自身がここに入れられる原因となった出来事を、ポツポツと語り始めた。
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事の始まりは、ガルス・クリーナと名乗る男を助けたところからだった。
とある理由で船への乗船が困難となってしまったルーディアは、ガルスからのある依頼をこなす代わりに、船へ乗せてもらえる事となった。
しかし、その道中で事件は起きた。
ルーディアの仲間であるスペルド族の男が、盗賊集団と争いを始めたのだ。
子供を何よりも大切にするスペルド族の男は、獣族の子供たちを奴隷として売り捌こうとしていた盗賊集団を皆殺しにし、子供たちを救出しようと考えた。
当然ルーディアは仲間である男に協力し、結果的に子供の大半は無事助けることができた。
だが、彼女の甘すぎるほどの優しさが裏目に出てしまう。
ルーディアは自分達が襲撃した盗賊たちの拠点に、まだ救出できていない者がいると考え、あろうことか一人でその場所へと向かってしまった。
そこで鉢合わせたドルディアの戦士長であるギュエスに盗賊集団の一味であると誤解され、ルーディアはドルディアの里であるこの場所へと連れてこられた。
連れてこられたその日から、ルーディアの地獄は始まった。
盗賊一味だと勘違いしていたドルディアの戦士達は、ルーディアから盗賊たちの居場所を吐かせようと尋問を始めた。
着ていた身ぐるみを全て剥がした彼女に、ある日は冷水を浴びせ続け、ある日には縄に吊し上げ、鞭で彼女を痛めつけた。
そうしなければならないほどに、ドルディアの戦士たちは焦っていたのだ。
次々と謎の失踪を遂げる獣族の子供。
盗賊の居場所を掴んだ時には、そこは既にもぬけの殻、見つかるのは獣族の子供と思われる無残な死体のみ。
そんな絶望的な状況で唯一手に入れた手掛かりは、盗賊達が居たであろう拠点に潜んでいた人族の少女。
さらに場所からドルディアの里で大切に育てられていた聖獣も見つかり、彼女への疑いの目はさらに強まってしまっていた。
大森林にしか自生しない魔力の流れを止める薬草を飲まされ、魔術もろくに使うことができないルーディアは、知るはずのない盗賊達の居場所を延々と尋問される地獄を味わうのだった。
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「後は、吊し上げの最中に獣族の住民が、私を見て殴りかかってきたりーーー」
「分かった分かった!もう勘弁してくれ!聞いてるだけで胸が痛くなってくる」
思い出したくもない記憶を語るルーディアよりも先に、ギースが音をあげた。
「ひでぇ話だ。嬢ちゃんは何も悪くねぇってのによ」
「あんなところに一人で居て、怪しむなというのも無理がありますが……」
ルーディアの目が再び曇り始める。
「……まあなんだ、お互い理由は違えど、ここに入れられちまったんだ。先輩の仲間が助けに来るまでの間、仲良くやっていこうぜ」
それを察知したギースは、楽観的に状況を見てルーディアの気を紛らわそうとした。
「それに先輩がその調子なんだ。しばらくはあいつらも乱暴なことはしてこないだろうぜ」
頭の弱い獣族でも、ここまで衰弱したルーディアから情報を聞き出そうとはしないだろう。
少なくともギースはそう踏んだ。
「………そうですね」
ルーディアはそんなギースの考えに肯定しつつも、心の中では未だに不安が拭えきれずにいた。
しかし、これ以上ギースに迷惑をかける訳にもいかない。
「では改めて、しばらくの間お世話になります。ギース」
そうやって彼女は、不安に怯える自分に『気づかないフリ』をした。
彼女はまた少し、自分を傷つけた。
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「ーース!ギース!」
牢獄に囚われて数日。
珍しく声を荒げたルーディアによって、ギースは目覚めた。
「なんだぁ先輩……まだ夜だ……ん?」
そして目覚めて早々に、ギースは異変に気づく。
いつもなら比較的涼しいはずの夜が、今夜は少し暑い。
それに、何か燃やしたような匂いもしてくる。
「ギース!どうしましょう……!」
ギースは、重い瞼を開く。
そして、目の前に広がる光景に、思わず息を呑んだ。
「おいおい……嘘だろ……」
『お父さん!お母さん!』
『助けてぇ!』
ギースの視界を埋め尽くしていたのは、真っ赤に燃え上がる炎と、人族の男達に連れて行かれる獣族の子供達。
「なんだこりゃ……」
大森林ドルディアの里は、一夜にして炎と混沌に包まれた。