〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた   作:肉と米と愛

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真実②

 

  

 

 「助けましょう!」

 

 唖然としていたギースに声を掛けると、ルーディアは牢獄の扉の前に移動した。

 

 「助けるったって、外に出るための鍵もねぇぞ?」

 

 「それは大丈夫です」

 

 ルーディアは牢獄の中に落ちていた土の塊を拾い上げた。

 土の塊はルーディアの手の中で形を変え、数秒後には鍵の形状をした物へと変化する。

 

 「本調子ではありませんが、魔術も使えるようになってきました」

 

 「おお!そりゃ頼もしい!」

 

 閉ざされていた扉が開き、ギースはルーディアを抱えながら、向かいの橋へと飛び上がった。

 

 ビキ……

 

 「くぅぅぅ!」

 

 床へ着地すると同時に、ギースの足から嫌な音が鳴る。

 

 「大丈夫ですかギース!」

 

 「へへ……こんなの朝飯前だぜ」

 

 ギースは顔を引き攣らせながらも、ルーディアを静かに床へ下ろした。

 

 「それよりも見ろよ、先輩の服と杖が置いてあるぜ」

 

 「ギース……ありがとうございます」

 

 自分のことは後回しでいい。

 その意味を理解したルーディアは、迷うことなく自身の装備が積み上げられた場所へと向かう。

 

 下を見れば、自分を痛めつけていた獣族達が顔に恐怖を貼り付けながら逃げ惑っている。

 

 (……助けなきゃ)

 

 今は、恨み言など垂れている場合ではない。

 

 デッドエンドの掟その1 子供を見捨てるな。

 

 エリオットやルイジェルドと、胸を張って肩を並べられるように……

 彼女は壁に立てかけてあった杖を、力強く握りしめた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 『嫌ァァァァァ!!』

 

 泣き叫ぶ獣族の子供を、盗賊達は愉快そうな笑みを浮かべながら追い回す。

 

 「おい!暴れる奴は殺してもいいんだよな!?」

 

 「ああ、ここにガキは腐るほどいるからな。従順な奴だけを連れていけ」

 

 「そうか!ならこいつは殺してもいいよなぁ!」

 

 盗賊の一人が、逃げ場をなくした獣族の少女に、鋭利な短剣を持ちながら近づいていく。

 

 『やめてくれ……!私の娘なんだ……!』

 

 少女へ近づく男の足に、肩を抉られたドルディアの戦士がしがみついた。

 

 「何言ってんのか分かんねぇよ気持ち悪りぃ!」

 

 ドン!

 

 男は戦士を足で蹴り飛ばすと、再び少女へと歩いていく。

 

 『嫌………お父さん……』

 

 「安心しな嬢ちゃん。一瞬で終わらせてやるからよ」

 

 不気味な笑みを浮かべ、男が剣を天高く持ち上げる。

 

 「来世は人間に生まれてこいーーー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チュン!!

 

 『え……?』

 

 その時だった。

 

 振り上げていた男の腕が、消えていた。

 

 「は?」

 

 男が足元へと視線を落とす。

 そこには、先程まで高く掲げていた自身の腕が転がっていた。

 

 「あ……あぁ…あぁぁぁぁぁ!!」

 

 男の情け無い叫び声が、大森林に響き渡る。

 

 「どうした……ッて、なんだ!」

 

 声につられて駆けつけてきた盗賊達の上から、大量の水が降り注いできた。

 

 「雨だ!!」

 

 そう、雨だ。

 

 大森林に突如として降り始めた大雨が、炎に包まれた森を鎮めていく。

 

 「何でいきなり雨が降ってくんだぁ?」

 

 「そんなの一つに決まってんだろ!この森ん中に腕の立つ魔術師が潜んでだよ!」

 

 盗賊の一人が声を荒げ、大森林に響く声で叫んだ。

 

 「魔術師を探して殺せ!!どこかにいるはずだ!!」

 

 盗賊の考えは当たっていた。

 

 少女を襲っていた男の腕を吹き飛ばしたのも、大森林に大雨を降らせたのも全て、橋の上で走り回っている一人の魔術師の仕業だった。

 

 「はあ……はあ……!」

 

 ルーディアは呼吸を荒げながら、不規則に繋げられた橋の上を走り回っていた。

 

 (ダメだ。子供を救い出しながら盗賊達を追い出すには、俺一人じゃ全然足りない!)

 

 叫び声がする方向へ向かっていき、子供を連れ去ろうとする盗賊を上から岩砲弾で撃ち込む。

 そのあまりに非効率的なやり方では、全員を救うなど到底不可能だ。

 

 「あ……!」

 

 無我夢中で走っていると、橋の奥から盗賊の一人が現れた。

 

 「いたぞ!魔術師だ!!」

 

 (まずい!)

 

 ルーディアは後ろへ振り返り逃げようとするが、既に反対側の橋にも盗賊が待ち構えていた。

 

 「殺せ!」

 

 盗賊達は左右から剣を持ってルーディアに向かっていく。

 ここから地面まではかなり離れている為、下へ飛び降りることもできない。

 

 (クソ……!死ぬ!)

 

 ルーディアは剣が自身へ振り下ろされる寸前に、その目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 ザシュ………

 

 「ごほッ……!」

 

 しかし、その剣がルーディアを切り裂くことはなかった。

 

 ルーディアは薄く目を開け、目の前の光景に唖然とする。

 

 「あなたは………」

 

 「久しぶりだなぁ、飼い犬」

 

 目の前で盗賊の一人を切り伏せていたのは、ルーディアがこのドルディアの里で悲惨な仕打ちを受ける原因にもなったであろう男、ガルス・クリーナ本人だった。

 

 「あ……兄貴……なんで……」

 

 「あーうるせぇ。使えねぇ馬鹿はここで死んどきな」

 

 ガルスは切り伏せた盗賊を橋から落とすと、ルーディアの奥にいたもう一人の男を睨みつける。

 

 「おい、お前もあいつ見てぇになりたくなかったら、今すぐガキを解放しろと他の連中へ伝えてこい」

 

 「嘘だろ兄貴!?元々兄貴がガキを攫えって………」

 

 ヒュン!

 

 ガルスが放った短剣が、ルーディアの頬を掠め、男の腕へと突き刺さる。

 

 「ぐああぁぁ!!」

 

 「状況が変わったんだ。さっさと行ってこい!」

 

 ドスの効いたガルスの声に怯え、男は走りながらどこかへと去って行った。

 

 「なんなんですかあなたは!?」

 

 ルーディアはガルスに杖を向ける。

 

 「おいおい、せっかく助けてやったのに、ひでぇじゃねぇか」

 

 「質問に答えてください!」

 

 ルーディアの怯えた目を見て、話し合いの余地はないと察したガルスはため息を吐いた。

 

 「手紙だよ手紙。攫ったガキを連れ戻してお前さんを助けてたら、多額の報酬を貰えるんだよ」

 

 「なんですかそれ……そんなの、信じれるわけないじゃないですか……」

 

 ルーディアはガルスの無茶苦茶な行動を理解できず、彼を睨みつける他なかった。

 

 「信じてもらわなくて結構。俺は金さえ貰えればそれでいいからな」

 

 ガルスはそのまま立ち尽くすルーディアの横を通りすぎ、薄らと笑みを浮かべる。

 

 「よかったな飼い主。お前さん、命拾いしたぜ?」

 

 「………」

 

 ルーディアは動けなかった。

 こいつには勝てない、

 ルーディアは、本能的にそう理解したのだ。

 

 「野郎ども!さっさとズラかるぞ!!」

 

 『へい!!』

 

 ガルスの叫び声と共に、下にいた盗賊達が次々と暗闇へ消えていく。

 

 「じゃあな、英雄(ヒーロー)気取り」

 

 そして、目の前にいたガルスが、視界から消えた。

 

 ザァァァァァ

 

 天から降り注ぐ雨が、ルーディアの疲れ切った体を絶え間なく打ちつけている。

 

 「う……」

 

 ルーディアは吐き気を感じ、その場に力なく座り込んだ。

 

 「先輩!どこだぁ!?」

 

 遠くから、ギースの叫び声が聞こえてくる。

 

 「居た……ッておい!大丈夫か!?」

 

 「ギース………うッ……」

 

 ギースがそばに来ると、ルーディアは橋の下に向かって吐き始めた。

 

 (魔力を……使いすぎた)

 

 魔力の流れを抑えつけられた体で、無理矢理魔術を行使したのだ。

 ルーディアの体は既に限界だった。

 

 「すぐに助けを呼んでやるからな!持ち堪えてくれよ先輩!」

 

 「ありがとう……ござい……ます……」

 

 ルーディアはギースに抱えられたまま、静かに意識を落とした。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 そこからルーディアが目覚めたのは、盗賊集団の襲撃から数日が経った時だった。

 

 目を覚ましたルーディアに、ドルディアの戦士達は心からの謝罪を行なった。

 

 しかし当然、そんなことで彼らがルーディアにした非道な行いが許されるはずがない。

 少なくとも、エリオットにとっては、到底許すことのできない所業であった。

 エリオットの暴走を止めるルイジェルドも、今回ばかりはエリオットの気が済むまで放置することにした。

 

 最終的にルーディアがエリオットを止めていなければ、危うくドルディアの戦士達は全員死ぬところだった。

 

 ルーディアとしては、こんな場所から一刻も早く旅立ち、この忌々しい記憶を頭から消してしまいたかった。

 

 だがタイミングの悪いことに、大森林は雨期に入り、少なくとも3ヶ月はここに留まらなければならない。

 

 結果的に、ルーディアは自身を散々痛めつけた獣族の住人達と数ヶ月の間、屋根を共にしていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜パウロ視点〜〜〜

 

 

 

 

 

 「これが、俺が知るルーディアの大森林での旅だ」

 

 ギースは積み重なった酒を眺めながら、長い語らいを終えた。

 

 「………嘘だ」

 

 思わず、声に出てしまった。

 

 「そんなはずねぇ。だって、あいつは大森林で色々ともてなされたって……」

 

 「それは多分、お前を心配させねぇ為についた嘘だろうな」

 

 嘘?

 ルーディアが俺に、心配を?

 そんなはずない。

 

 「ふざけんなよ、俺が子供に心配されるほど、情けねぇって言いてぇのか?」

 

 「………お前よ、最後に自分の顔見たのはいつだ?」

 

 ギースは俺の顔を見ると、少し間を置いてそう言った。

 

 「何でいきなりそんなこと……」

 

 「いいから答えろよ。最後に顔を見たのはいつだ?」

 

 「………覚えてねぇ」

 

 俺がそう呟くと、ギースは白々しそうにため息を吐く。

 

 「今のお前は、誰が見たって哀れに見えるぜ。自分の娘に気を遣わせちまうぐれぇにな」

 

 ギースにそう言われて、俺は自然と自分の顎に触れた。

 触っただけで分かるほどに、髭が伸びている。

 

 そう言えば、最後に剃ったのはいつだったか……

 

 「今すぐルーディアに謝りに行って、そしてもっかい話し合えよ。じゃなきゃお前、一生後悔することになるぜ?ルーデウスの時みてえによ」

 

 「………」

 

 冒険者時代、思い出したくもねぇあの記憶が蘇ってくる。

 

 『嫌よ、ルーデウス……』

 

 ゼニスのあの声が、頭から離れねぇ……

 もうあの声を、ゼニスから聞きたくねぇ。

 

 「ギース、金はそっちにつけてもいいか?」

 

 「ああ、任せとけよ。さっさとあの子のところに行ってこい」

 

 ルーディアに謝ろう。

 そこから話し合うんだ、もう一度。

 そして今度は、ちゃんと話を聞こう。

 

 父として、もう一度ルーディアを抱きしめられるように………

 

 すぐさま立ち上がり、酒場の出口へと向かっていく。

 しかし酒場を出る直前に、ギースの呟くような声が、何故か俺に聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「まあ、もう手遅れってことも、あるかも知れねぇがよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜ルーディア視点〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 ミリシオンから遠ざかっていく景色を眺めながら、改めて実感する。

 

 俺は、また逃げた。

 

 パウロの敵意に満ちた目を見て、俺はまた、問題から目を背けた。

 

 「ルーディア、本当に行ってよかったのか?」

 

 同じ馬車に乗っていたルイジェルドが、諭すような声で話しかけてくる。

 

 「いいんだよ。あんな奴はルーディアの父親なんかじゃない」

 

 ルイジェルドの問いに、隣にいるエリオットが、俺の手を握ったまま答えた。

 

 「もう……終わった話なので……」

 

 「………そうか」

 

 ルイジェルドはそれだけ呟くと、持っていた槍の手入れを始めた。

 いつもは何かとアドバイスをくれるルイジェルドが何も言わないのは、彼なりの気遣いなのだろう。

 

 「ルーディア、あんな奴の言うことなんか気にすんなよ?」

 

 「ありがとうございます……エリオット」

 

 エリオットがフォローを入れてくれるが、今はどちらかというと、あまり話しかけないでもらいたい。

 

 『お前がこの一年ちょっとの間遊び歩いていたって事は、よく分かった』

 

 パウロの、あの失望したような声が、今でも鮮明に思い出せる。

 

 俺は頑張った。

 努力して生き残ってこれた。

 

 でもそれじゃあ、パウロは満足できなかったんだ。

 俺を信頼して、俺ならもっと上手くやれると、信じてくれていたのに……

 

 俺は、呑気にエリオット達と自由気ままな旅をしていたんだ。 

 

 ごめん、パウロ……

 俺はあんたの思い描いていた、立派な娘にはなれなかった。

 

 「………」

 

 俺は無意識に、エリオットの肩に頭を乗せる。

 

 「………」

 

 エリオットは何も言わず、握っていた俺の手をさらに強く握り返してくれた。

 

 たったそれだけで、彼の優しさが伝わってくる。

 

 そんなエリオットの横顔を見て、少しだけ、ほんの少しだけ、生きる気力が湧いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

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