〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた 作:肉と米と愛
パウロと別れてから、数ヶ月が経過した。
数ヶ月も経てば、気持ちもだいぶ落ち着いてきた。
以前のようにはいかないが、まあまあ楽しい旅を続けている。
「凄いぞルーディア!見ろよあの竜!」
「エリオット危ないです危ないです!」
崖から顔を出すエリオットの服を、俺は冷や汗をかきながら必死に引き戻す。
足元は絶壁、雪が積もっているとはいえ、落ちればまず助からないだろう。
『ギャァァァス!!』
かといって崖の上を進もうとすれば、上空から無慈悲に攻撃を仕掛けてくる赤竜の餌となってしまう。
俺達は今、そんな危険と隣り合わせの『赤竜の下顎』という渓谷を渡っている。
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ここに来るまでに、特に大きな出来事はなかった。
唯一あったとすれば、シーローン王国というロキシーが家庭教師として滞在していた場所で、しばしの足止めを食らったぐらいだ。
そこでパックスとかいう馬鹿な王子に危うく襲われそうになったが、俺がパウロの娘だということが分かると、急に平謝りを始めてきた。
ザノバとかいうイカれてるとしか言えない人形オタクとも友達になれたし、特に悪い気はしなかったのだが、パックスが去り際にしていた独り言が、少し気になる。
『パウロの娘……つまり、ルーデウス、あやつの妹……ということなのか……?』
結局、最後まで聞けずじまいだったが、何故パックスの口からルーデウスが出てきたのだろうか?
面識があるのならば、出会ったのは転移事件後のはず。
つまり、ルーデウスもこの地へ足を運んだ可能性があるということ。
いつ?
何故?
そもそも、生きていたのか?
俺の頭の中から、溢れんばかりの疑問が湧いてくるが、それも全て家に帰れば分かることだ。
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はしゃぎ回るエリオットを何とか抑えつけ、赤竜の下顎をそろそろ抜けようとした時だった。
そいつらは、普通に歩いてきた。
分かれ道のない、ただの一本道を……
銀髪、金色の瞳、白いコートを身に着けている男。
そして、男の横にいたのは、仮面を被ったこの世界では比較的珍しい黒髪の少女。
特段おかしな所はない。
黒髪の少女の顔に、少し見覚えがあるくらいだが、それも気のせいだろう。
俺達と同じ、ただの旅人。
しかし、隣にいたエリオットとルイジェルドは歩みを止め、エリオットは俺の腕を力強く掴んできた。
「エリオット……?」
猛烈な吹雪にも関わらず、二人の顔からは尋常ではないほどの汗が垂れている。
「ルーディア……絶対に動くな。エリオットもだ」
ルイジェルドはそう呟くと、手に持っていた槍を強く握り締めた。
カツ………カツ………
向こう側から歩いてきた二人は、何食わぬ顔で俺達の横を通り過ぎていく。
別に何も起きないじゃないか。
二人は、何をそんなに怯えているんだ?
ズザ……
「ん……?」
その時、通り過ぎたはずの男の足が止まった。
『ブモォォォォォ!!』
それと同時に、先程まで大人しかった水牛が、狂ったように暴れ始めた。
ザザ!
水牛は旅の道中で買った荷物を乗せたまま、奈落へと落ちていく。
「お前は……ルイジェルド・スペルディアか」
男はそんなことを気にも留めず、ルイジェルドの名を呼んだ。
ルイジェルドの名前を知っている……彼の知り合いなのだろうか?
「そっちは、エリオット・ボレアス・グレイラットだな」
男はエリオットの名を呼ぶと、俺の方へと視線を向ける。
「お前は……知らない顔だな」
あら酷い。
ルイジェルドもエリオットも知っていて、俺のことだけ知らないのか。
仲間外れは悲しいよ。
「貴様は何者だ!なぜ俺の名前を知っている!」
「なんで俺の名前も知ってるんだよ!」
二人は男の方を振り返らずに叫んだ。
どうやら、二人の知り合いではないらしい。
冒険者から二人を知ったのなら、俺のことも知っているはずなのだが………不気味だな。
「奇妙なところで会ったが、まあいい」
男はそれだけ言うと再び俺達が来た道を歩き始めた。
「いいの?」
男の隣にいた少女が、首を傾げて聞いた。
「今の時点では仕方がない。邪魔したな」
しかし、男は意味深な言葉だけを返した。
少女はそれ以上言及せず、黙って男の背中についていく。
「待ってください」
しかし、俺は二人を呼び止めた。
エリオットとルイジェルドが、信じられないという表情を浮かべて俺を見る。
なんだよ、別にいいだろ?
あっちだって俺達を呼び止めたんだから、こっちだってそれをする権利はあるはずだ。
「なんだお前は?」
こちらを振り返った男の声には、不思議と威圧感がある。
「どうも、私はルーディア・グレイラットという者です」
「グレイラット家の者か」
「そうです。それで、あなたのお名前をお聞きしても?」
俺が尋ねると、淡々と続いていた男の言葉が、一瞬だけ詰まった。
「………オルステッドだ」
オルステッド
聞いたことがないな。
「二人とはお知り合いなんですか?」
「いや、まだ知り合ってはいない」
まだ?
言っている意味がよく分からないな。
「ところで、どこのグレイラット家の者だ?親の名前は?」
オルステッドと名乗る男は、奇異なものを見るような目で俺を睨みつけている。
「パウロ・グレイラット……です」
もう、父と呼んでいいのかは分からないけどな。
「ん?」
パウロの名前を口に出すと、オルステッドの表情が、一瞬だけ変わった。
「パウロにそんな名前の娘はいないはすだ。ノルンとアイシャの二人だけのはず……」
おお、なんだ?
パウロとも繋がりがあるのか?
それとも、エリオット達と同じように、オルステッドだけが知っている感じなのか?
恐らくは後者だろう。
他人からパウロの娘じゃないと言われると、なんかこう、結構胸にくるな……
カツ……カツ……
男は不思議そうな表情を浮かべながら、ゆっくりとこちらへ歩いくる。
「それ以上近づくな!」
いつの間にかオルステッドの方を向いていたルイジェルドが、その槍を構える。
「………お前、目を逸らさないな」
オルステッドはルイジェルドを一瞥することなく、俺を凝視していた。
「だって相手と話すときは、目を合わせないと失礼じゃないですか」
俺は何もおかしな事は言っていない。
相手と話すときは目を見る。
これは前世でも今世でも常識だ。
確かにこいつの目つきはめちゃくちゃ怖いが、目を逸らすほどではない。
「………最後に一つ聞く。
お前、
オルステッドから出た言葉に、俺は思わず目を見開いた。
人神。
俺の夢の中に度々現れて、妙に胡散臭い助言を垂れてくるあの野郎を知っているのか?
「あります!たまに夢に出て来て………」
その刹那、向かい側にいたオルステッドの姿が、一瞬にして消えた。
そして右目の予見眼に写ったのは、真っ白なコートを着た男に腹を貫かれる、俺の姿だった。
ドゴッ!!
次の瞬間、横にいたルイジェルドが俺の前に現れ、向かってくるオルステッドの腕を槍で受け止めた。
反応する間もなく、俺はエリオットにフードを掴まれ、後ろへと後退させられる。
「やはり、ヒトガミの……使徒だったか」
「逃げろ!ルーディア!!」
ルイジェルドが叫び終えると、彼は持っていた槍を凄まじい速さでオルステッドに突きつけた。
オルステッドはその攻撃を素手で軽く受け流す。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
ルイジェルドが放った槍が、幾千もの残像となってオルステッドへ襲いかかる。
「………」
しかし、その全ての攻撃が、オルステッドの素手によって弾き返された。
ドゴッ!
槍を引く、ほんの僅かにも満たないその隙を狙って、オルステッドの手刀がルイジェルドの横腹にめり込む。
「ゴホッ!」
ゴリュ……!
槍から手を離したルイジェルドの腹に、オルステッドの手刀が追い打ちをかける。
バコッ!!
倒れ込んだルイジェルドの顔に、オルステッドの右拳が炸裂した。
「ブハッ!」
ルイジェルドは宙を何回転も回りながら、地面へと落ちる。
ルイジェルドが攻撃を仕掛けてから倒れるまで、5秒も経っていない。
ルイジェルドはその場に倒れ込み、動かない。
「ああ………あ……」
気づけばオルステッドは俺の目の前に立ち、変わらぬ表情で俺を睨みつけていた。
「………ヒッ!」
ゆっくりと上げられたオルステッドの手が、ありえないほど鋭利な刃物のように見えた。
「はあぁぁぁぁ!!」
倒れたルイジェルドを見て、エリオットはすかさずオルステッドへ突進していく。
ガシ………
しかし、エリオットが振り下ろした剣は、片手でいとも容易く受け止められた。
ドゴッ!
顔面を吹き飛ばされ、剣を離したエリオットは壁へとめり込む。
「エリオット!!」
「随分と腕が上達しているな。これもお前の仕業か?」
俺は杖をオルステッドに向け、
だが次の瞬間には既に、俺はオルステッドに首を掴まれていた。
「ガハ………」
首を掴まれたまま俺は宙へと持ち上げられる。
苦しい………
俺は必死にもがき、オルステッドの体を蹴る。
全く動かない、巨大な岩みたいだ……
ググ……
本当にやばい……首が……折られる。
「死ぬ前に伝えておくがいい。龍神オルステッドは、必ずお前を殺すとな」
首を掴むオルステッドの腕が、さらに強くなる。
死ぬ。
「エリオット………助けて………」
バコッ!
俺を掴んでいたオルステッドの横顔に、何者かの拳がぶつけられた。
「おらぁ!!」
エリオットだ……
エリオットの拳が直撃しても、オルステッドの顔には傷一つ付いていない。
「なんだ?まだ動ける……」
バサッ!
オルステッドが横を向いたと同時に、エリオットは俺を掴んでいたオルステッドの腕を殴った。
オルステッドは手を離し、俺は地面へと落ちていく。
「ルーディア!」
自由落下する俺を受け止め、エリオットは後ろへと後退した。
「エリ……オット……」
声が出ない……
喉を潰されたのか?
「ルーディア、お前だけは……絶対に助けるから」
近くの壁に俺を置くと、エリオットはオルステッドの方へと歩いていく。
ああダメだ……行っちゃダメだ!
あいつと戦って勝てるはずがない。
「ダメ……逃げて……」
手を動かそうと必死になるが、腕が全く上がらない。
「諦めろ。お前の骨は既に砕けている。これ以上動けば、内臓に骨が突き刺さる」
「俺が諦めたら、お前はルーディアを殺すだろ」
「当たり前だ。ヒトガミの使徒は殺さねばならん」
エリオットの問いに、オルステッドが即答する。
「じゃあ、お前が死ぬまで戦ってやる……」
「剣も持たずにか?」
エリオットの剣は、遠く離れた場所の地面に突き刺さっていた。
そうだ、今のエリオットには剣もない。
早く逃げろよ……
エリオットだけでも………
「神なる力は………芳醇なる糧、力失いしかの者のに再び………立ち上がる力を与えん『ヒーリング』」
「ッ!?」
エリオットはそう呟くと、胸に当てていた彼の手が、深緑色に光った。
『ヒーリング』?
嘘だ、エリオットが使えるはずない。
だって、俺はあいつに、治癒魔術なんか教えちゃいないんだぞ?
「見よう見まねでやったけど、これを簡単に使えるルーディアは、やっぱりすごいな……」
見よう見まねだと?
確かに、俺は治癒魔術だけは詠唱して行っていた。
だけど、誰から教えられてもいないのに、ただ俺が使っていたのを見て、覚えたってのか?
「治癒魔術まで使えるとはな………」
オルステッドは興味深そうな目でエリオットを睨む。
「だが、『ヒーリング』で折れた骨を治すことはできん。せいぜい出血が止まる程度だろう」
奴の言う通りだ。
『ヒーリング』じゃ表面の傷は治せても、内部まで完全に癒すことはできない。
つまり、エリオットはまだ重症なんだ。
「それで十分だ」
なのにこいつは、息を切らしながらも俺の前に立ち、オルステッドから目を逸らさない。
「エリオット………」
「ルーディア、大丈夫だ」
「絶対に、負けないから」
危険が及ばないところで隠れてるナナホシさんーーーやっぱりオルステッド怖い