〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた 作:肉と米と愛
空を見上げると、まだ薄暗い夜だった。
「起きたか」
少し気怠い体を起こすと、ルイジェルドが焚き火を囲みながら、下を向いていた。
「ルイジェルドさん……傷は大丈夫なんですか?」
「ああ、もう大丈夫だ」
ルイジェルドが答えると、俺の視線は無意識に横を向く。
「……エリオット?」
横には、壁にもたれかかりながら寝ているエリオットがいた。
寝息を立てているにも関わらず、彼の手には剣が力強く握られている。
「エリオットは、俺が気を失っている間、一人でお前を守り抜いていたんだ」
「そう……だったんですか」
エリオットは、オルステッドに腹を貫かれていたはずだ。
でも今目の前にいる彼には、傷一つ付いていない。
誰かが治療してくれたのだろうか?
俺はゆっくりと立ち上がり、壁にもたれかかっていたエリオットを横に倒し、膝の上に乗せた。
懐かしい。
初めてエリオットと会った時も、こんな感じだったな。
「エリオットはもう、立派な『戦士』だ」
焚き火の奥で座っていたルイジェルドは、薄い笑みを浮かべていた。
「ええ、知ってます。エリオットはやっぱり凄いです」
ルイジェルドの言葉に頷き、エリオットの頭を撫でる。
エリオットは凄い。
心の底からそう思う。
もし俺が男として生まれたとして、彼のように頑張ってこれただろうか?
いや、絶対にできなかっただろう。
俺は、そんなエリオットが………
「ルーディア……?」
視線を下に落とすと、薄く目を開いたエリオットが俺を見上げていた。
「生きてる……のか?」
「……ふふ」
その言葉に、俺は少し笑ってしまった。
「お馬鹿ですね、エリオット。死んでたら、今あなたの頭を撫でていませんよ」
やっぱり、いつものエリオットだ。
「そうか………そうだよな」
バサッ!
言い終える前に、エリオットは俺を抱きしめてきた。
「生きてる……」
俺のお腹に顔をうずめるエリオット。
「エリオット、殴りますよ」
エリオットの頭に拳をそっと乗せるが、彼はそれでも、腕を離そうとしない。
「全く……今回だけですよ?」
男に抱きつかれただけで、吐いてしまいそうなほどに感じていた不快感を、今は不思議と感じない。
それどころか、エリオットから伝わってくる体温が、匂いが、俺の心を落ち着かせてくれる。
なんなんだ、この感情は……
まさか…………な?
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赤竜の下顎を抜けてからは、平和な旅が続いた。
魔大陸を横断した俺達には、少なくともそう感じた。
魔物は少なく、現れたとしてもせいぜいEランク程度の弱い個体。
旅の終わりが近づいてきたことに安心すると同時に、どこか虚しさを感じた。
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そして、とうとう辿り着いた。
「………」
いや、帰って来たのだ。
俺が生まれた場所、ブエナ村に……
「本当に、何もないな……」
隣に立っているエリオットが、俺に聞こえないくらいの声で呟いた。
木や草は枯れ、川は乾き切り、まるで世界から色が消えてしまったようだった。
「………」
今、俺が立っている場所は、俺が暮らしていたはずの家。
『ルーディア!その木にぶら下がっちゃいけません!』
母のゼニス……
『ルーディア!たまにはお父様の剣術でも見てみるか!』
父のパウロ……
『ルーディア様、お食事の準備はもうできておりますよ』
メイドのリーリャ……
『ルーディア、外は慣れましたか?』
そして、兄のルーデウス。
みんなが確かに居たはずなのに、もうここには、何も残っていない。
あんなに待ち遠しかった故郷。
家族とまた食卓を囲めると、信じていた。
そう、信じていたのに………
ドサ……
ふらつく俺の肩を、エリオットが片手で支えてくれた。
「ルーディア、大丈夫か?」
「……ありがとうございます。そうですね、大丈夫じゃ……なさそうです」
それだけ言うと、エリオットは頷きだけを返した。
俺はそのままエリオットに支えられ、ルイジェルドの待つ丘へと戻っていった。
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「故郷に、帰って来たんだな」
丘の上に到着すると、こちらに背を向けていたルイジェルドが、振り返ることなくそう言った。
「はい。本当は、もっと綺麗な場所だったんですけどね」
「そうか……見てみたかったな……」
そこからしばらくの間、三人で何もない荒野を丘から眺めていた。
曇り空、荒れ果てた大地、人はおろか、動物すらいない。
そんなクソみたいな景色を眺めて、数分が経った頃だろうか。
「もう、お守りは必要ないな」
ルイジェルドが、荒野を見ながら呟いた。
『………』
俺とエリオットは、何も言わなかった。
お互いに分かっていた事だ。
ルイジェルドが俺達の旅に同行したのは、俺達を守り、故郷へと送り届ける為だと。
そして目的を遂げた今、ルイジェルドがここにいる理由も、なくなってしまった。
「世話になった」
「世話だなんて、私は何もしていませんよ」
「そうだ、世話になったのはむしろ、俺達の方だ」
俺とエリオットが否定すると、ルイジェルドもまた、首を横に振った。
「そんなことはない。お前達は愚直な俺に、進むべき道を教えてくれた」
ルイジェルドはその場で片膝をつき、持っていた荷物を地面へ置く。
そして彼は、その荷物の中から、ある物を取り出した。
それは俺が彼の為に作った、ルイジェルド人形だった。
「俺は全てを覚えているぞ」
ルイジェルドは、優しい笑みを浮かべている。
「ルーディア、お前はスペルド族である俺に恐れる事なく、救いの手を差し伸べてくれた」
「………」
「エリオット、お前はスペルド族の俺を友達と呼び、慕ってくれた」
「………」
ルイジェルドが、俺とエリオットの頭に、手を乗せた。
「俺を救ってくれたのは、お前達だ」
そうしてルイジェルドは、俺達の前からいなくなってしまった。
俺を気にかけてくれた大切な仲間が、一人欠けてしまった。
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ルイジェルドと別れた俺達は、彼が置いていってくれた荷物を馬に乗せ、ロアの町へと向かった。
本来ならブエナ村からロアの町までは半日以上はかかる。
しかし、森や川が消滅し、迂回の必要もなくなった今、数時間ほどでロアの町へ向かうことができた。
ロアの町へ到着すると、そこら中にテントが張られていた。
前世でも、こういう光景をテレビなどで見たことがある。
紛争などで行き場を失った人達が暮らす場所……前世でいう、難民キャンプみたいだ。
「ブエナ村よりはマシだけど、ここも酷いな」
「そうですね……」
人は大勢いるが、その全員の目に光はない。
「とりあえず、中央を目指しましょう………か……?」
俺はそんな人だかりの中で、見覚えのある人物を見つけた。
あの銀色の長い髪に、ドルディア族特有の耳、あれは……
『ギレーヌ!!』
俺とエリオットが同時に名を呼ぶと、ギレーヌはすぐにこちらを振り返る。
「エリオット!ルーディア!」
俺とエリオットは馬から飛び降りると、ギレーヌへと駆け寄る。
「二人、よく無事でいてくれた……!」
ギレーヌは俺達を抱きしめると、震える声でそう言ってくれた。
「ご無事で何よりです。エリオット様、ルーディア様」
「アルフォンス!」
近くのテントから顔を出したのは、サウロスの執事であるアルフォンスだ。
「二人とも、無事で良かった……!」
しばらくギレーヌと再会の抱擁を交わした後、アルフォンスに促され、俺とエリオットはテントの中へと案内された。
バサ……
テントの仕切りを閉めたアルフォンスが、咳き込みをする。
「まずはエリオット様、よくぞご無事で………」
「前置きはいい。教えてくれ、誰が死んだんだ?」
アルフォンスは言い終える前に、エリオットは結論を言うよう促した。
少し間を置いた後、アルフォンスは苦しそうな表情を浮かべた。
「サウロス様、フィリップ様、ヒルダ様。お三方とも、現在行方不明になっております」
行方不明……
「つまり、どこかで生きているってことですか?」
俺の問いに、アルフォンスは首を横に振る。
「分かりません。しかし、ギレーヌの情報によると、フィリップ様とヒルダ様は共に紛争地帯へ転移し、その後何者かに連れ去られたと……」
アルフォンスの横にいたギレーヌは、エリオットに深く頭を下げた。
「すまないエリオット。私が、もう少し早く駆けつけていれば……」
「やめてくれ、ギレーヌのせいじゃない」
エリオットは下を向いたまま腕を組んだ。
「それで、これからどうするんだ?」
「現在、ロアに仕えていた兵士を派遣し、紛争地帯周辺の捜査を行っております。エリオット様は一度王都へ赴いて頂き、フィットア領復興のため、他のグレイラット家へ協力の要請を………」
「おいアルフォンス!」
アルフォンスの言葉を遮り、ギレーヌが声を上げた。
「エリオットを、あんな屑どもが巣食う王都へ行かせるつもりなのか!?」
「それしか道はないのです、ギレーヌ。王都へおられるジェイムズ様が動かない以上、フィットア領の現状を知り、正統な血筋を持つエリオット様が動く他ありません」
「ふざけるな!」
淡々と答えるアルフォンスに、ギレーヌは机を力強く叩きつける。
「エリオット、こんな奴の言うことを聞く必要はない。ルーディアを連れて逃げろ」
「では、領民はどうなさると?」
「知らん!お前がなんとかしろ!!」
ドン!
「静かにしろ!」
黙り込んでいたエリオットが叫ぶと、言い争いをしていた二人はその声に押されるように口を閉じた。
隣で手を握っていた俺も、少し心臓が跳ねるのを感じた。
「少し、一人にさせてくれ」
エリオットは頭を抱えて、再び黙り込む。
『………』
そんなエリオットを見て、アルフォンスとギレーヌは、何か言いたげな表情をしながらもテントを後にした。
「エリオット……」
「ルーディア、悪いけど、少し周りを見て来てくれ……」
「………はい」
エリオットの冷たい声に負け、俺は振り返ることなく、テントを後にした。
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夜になり、やることもないはずなのに、俺はベットの上で眠れずに座っていた。
行方不明者リストに、家族やシルフの名前があることを確認し、ひとまずは安心できた。
まだ生存が確定したわけではないが、生きているかもしれないという望みが出ただけで、今は大満足だ。
今の問題は、これからのことについてだ。
俺はこれから、何をすればいい?
パウロには勘当され、帰る場所もなくなってしまった。
ゼニスやリーリャ、ルーデウスの居場所も分からない。
「………」
それなら、エリオットについて行こう。
エリオットと一緒に居れば、一人にはならない。
少なくとも、身寄りのない今の俺には、それしか道はない。
ザザ………
「ルーディア、起きてるか?」
静かだったテントの外から、エリオットの声が聞こえてくる。
「ええ」
俺が応答すると、エリオットがテントの中へと入って来た。
彼の服装は、いつもと変わらない。
「実は、話したいことがあるんだ」
そう言って、エリオットは俺の横に座った。
「もう、大丈夫なんですか?」
「ああ、だいぶ落ち着いたよ」
互いに視線は合わさない。
しばらく無言の状態が続いたが、やがてエリオットが、ゆっくりと口を開く。
「………あのな」
何故だろう。
とても嫌な予感がする。
「旅に出ようと思うんだ」
「旅……?」
反復すると、エリオットは小さく頷いた。
「俺は馬鹿だからさ、王都に行っても、とても役に立てるとは思えない。だったら旅に出て、その馬鹿を補えるぐらい、強くなろうと思ってな」
旅か……
それはいいな。
「それはいいですね。だったら、早速準備を……」
「いや……」
立ち上がろうとする俺の手を、エリオットが引き留めた。
「ルーディアは、ここで待っていて欲しい」
「嫌です」
俺は反射的に、そう返してしまった。
「何でですか?私が嫌いなんですか?」
「違う、嫌いなんかじゃない」
エリオットは、難しい顔を浮かべている。
嫌だ……なんでいきなり……
「このままルーディアと一緒に居たら、俺はまたお前に甘えてしまう……」
「そんな……」
嫌だ。
ルイジェルドも居なくなってしまったのに、エリオットまで俺の前から去ってしまったら、俺はまた一人になってしまう……
「嫌です……そんなの、絶対に認めません」
俺は、エリオットをベットに押し倒す。
「もう、一人はうんざりなんです……」
エリオットの胸に頭を当てて、涙ながらに懇願した。
「………」
「どこにも行かないでください……」
子供じみた言葉が溢れ出して止まらない。
俺はエリオットよりも、ずっと大人のはずなのに……
「ルーディア……ごめん……」
縋るように求めても、エリオットの考えは変わらない。
彼はきっと俺を置いていき、どこか遠くへと旅立ってしまうだろう。
それだけは、どうしても嫌だ……
彼がいなくなったら、本当に俺は独りになる。
彼のそばに居たい。
その為なら………
「ル、ルーディア……!?」
エリオットの上に跨り、俺は服を脱ぎ捨てた。
「エリオット、私はもうあなたの物です。だから、好きにしてください」
その為なら、体だって捧げれる。
それはエリオットだから、ずっとそばで守ってくれた、彼にだからできるんだ。
「ルーディア!やめてくれ……!」
エリオットは頬を赤らめながらも、俺から離れようと必死にもがく。
「こんなの、後で絶対後悔する。それに、約束まであと二年はあるんだ……!」
約束……?
ああ、まだ覚えていてくれたのか。
だけど……
「もうそんなこと、どうでもいいじゃないですか」
暴れるエリオットの手を押さえつけ、耳元で小さく囁いた。
「ねぇエリオット、これは、ヒルダ様から教えていただいた言葉なんですけど………
私、エリオットの子猫が欲しいニャン」
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揺れる視界の中で、俺は気づいた。
エリオットの、小さいながらも硬く強い手を握りしめて、ようやく気づけた。
今まで曖昧にして、避け続けていた事実。
割り切れていなかった考え。
俺は………私はもう……
『女』なんだ……
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目が覚めると、テントの隙間からは光が差し込んでいる。
私は祈るように、縋るように、仰向けになっていた体をそっと横に向けた。
隣に、もう彼はいなかった。
筋肉痛に近い痛みに耐えながら、体をそっと起こす。
ベットの奥にあるテーブルの上には、置き手紙だけが残されていた。
『ごめん、ルーディア』
簡潔にそれだけ……
グシャ……
手紙を破り捨て、私は涙を浮かべながら、ベットへと倒れ込んだ。
「嘘つき………」
守ってくれると、誓ってくれたのに……
あんなに頑張って、引き留めたのに……
結局彼は、私から離れていった。
結局、私はまた一人になった………
地の地に落ちた絶望のルーディア!
もうここから落ちることはない!
あとは上がるだけさ!
次回 ルーデウスがとうとう動きます。