〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた   作:肉と米と愛

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母親になった日

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 --中央大陸北部--

 ラノア王国に点在するラノア魔法大学

 

 そこは種族、身分、年齢を問わず、魔法を学びたい意欲と一定の金を支払えば、誰でも入ることのできる世界最大級の魔法学校である。

 

 そんなラノア魔法大学で生徒会副会長を務めるアスラ王国第二王女、アリエル・アネモイ・アスラは、机に置かれていた資料を眺めていた。

 

 「ルーディア・グレイラット……ですか」

 

 その資料には、ルーディアという少女の経歴が事細かに書かれている。

 

 「五歳で水聖級魔術師、しかも無詠唱って……」

 

 「確かに本当ならすごいですし、お声がけをしたいところですけど……」

 

 アリエルの傍に立っていた、彼女の側近であるエルモアとクリーネも資料に目を通し、苦笑いを浮かべた。

 

 「作り話も、それだけ盛ると逆に面白いな」

 

 アリエルの守護騎士ルークが言い切ると、エルモア達は彼に同意するように首を縦に振る。

 

 「しかし嘘と完全に断定できないのが、また面白いところですね」

 

 しかし、椅子に腰掛けているアリエルだけは、屈託のない笑みを浮かべてそう言った。

 

 「それでアリエル様。この話を持って来た張本人は、どこにいるのですか?」

 

 「彼ならいつも通り寝ていますよ。だからフィッツを行かせました」

 

 アリエルの言葉に、ルークが呆れるようにため息を吐いた。

 

 「全く……相変わらず呑気な男だ」

 

 

 

 

 

 ガチャ………

 

 「連れて来ました」

 

 やや息を切らして入って来たのは、白髪のエルフ……フィッツだ。

 

 「いやはや、すいませんね皆さん」

 

 そして、フィッツの後ろから悠々とした表情で男が顔を出した。

 

 ルークとよく似た髪色の男は、ニコニコと笑顔を浮かべたまま部屋へと入る。

 

 「おい、もう昼過ぎだぞ?」

 

 「いやぁ申し訳ない。なんせ今は目覚まし担当が不在でして………」

 

 「ふふ……では、私がその代わりを務めてあげましょうか?」

 

 申し訳なさそうに頭を掻く男に、アリエルは冗談混じりに尋ねた。

 

 「いや結構です。王女様にそんな雑用任せられませんよ」

  

 「あら、身分などここでは関係ないではありませんか。それに、今一番この学校で力を持っているのは、生徒会長のあなたです」

 

 男は"それもそうですね"と笑いながら、一番奥に置かれた椅子に腰掛ける。

 そう、この男こそが、ラノア魔法大学の生徒で最も権力を持つ、生徒会会長なのだ。

 

 「それで?資料は読んでいただけましたか?」

 

 男の問いかけに、資料を手に持っていたアリエルが頷く。

 

 「ええ、にわかには信じがたい内容ですが……」

 

 「全て真実ですよ。アリエル様」

 

 アリエルがそう言うと、部屋の前に立っていたフィッツは割り込むように口を開いた。

 

 「彼女はその経歴以上の実力を持っています」

 

 アリエルは普段口出しをしないフィッツが、自分の話を遮ってまで発言する姿に、少しばかり興味が湧き始める。

 

 「フィッツまでそんなことを言うなんて……ルーディア・グレイラット、一体どんな人物なのでしょうか」

 

 「兎にも角にもです」

 

 男が人差し指を立てる。

 

 「ルーディア・グレイラットをラノア魔法大学へ特別生として迎え入れる。その事に異論はありませんね?」

 

 男の問いかけに、全員が頷く。

 その反応を見て、男の口角はさらに上がった。

 

 「理解ある判断に感謝します。では早速教頭に推薦の許可を貰い、こちらへ来てもらう事にしましょう」

 

 「待て待て!」

 

 話を終えて立ち上がろうとする男を、ルークは慌てて制止した。

 

 「水聖級魔術師とはいえ、まだ十五にもなっていない少女だろう?そんな彼女に、ここまで一人で来いと?」

 

 ルークの言い分はもっともである。

 いくら危険の少ないアスラ王国といえども、旅の道中で人攫いに遭遇せず、ここまで辿り着ける保証はどこにもない。 

 

 加えて旅をするのはまだ成人前の少女、盗賊達から見れば恰好の的だ。

 

 「一人で来させるなんて、俺は一言も言っていませんよ」

 

 しかし、男はそんな質問を見越したかのように、詰まることなく答えた。

 

 「大丈夫ですよ。頼れる知り合いを一人、既に向かわせましたから」

 

 

 

〜〜〜ルーディア視点〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 「ルーディア様、体調はどうですかな?」

 

 早朝

 テントの中へ入って来て早々、アルフォンスが心配そうに尋ねてくる。

 

 「…………」

 

 私はそんな彼の気遣いを無視して、ベッドの隅で小さく丸まっていた。

 

 あの日、私の前からエリオットとギレーヌが消えた。

 きっと、私に失望したんだ。

 私がもっと上手くやれていれば、エリオットは私を見放さなかったかもしれないのに……

 

 「ルーディア様……」

 

 アルフォンスは小さな声で私の名を呼ぶと、いつものように食事をテーブルに置いた。

 

 「辛いお気持ちなのは十分に承知しておりますが、まずは何か食べなければ」

 

 ………ふ。

 男のあんたに、一体何が分かるんだよ。

 大切な人に見放され、孤独になった私の気持ちなんて、分かるはずないだろ。

 

 もう、何もしたくない。

 何かをすればするだけ、物事は悪く進む。

 頑張る理由も、気力も、もう私には………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ちょっとそこの殿方、ルーディア・グレイラットという少女がどこにいるか知りませんかしら?」

 

 テントの外で、誰が私を探す声が聞こえてくる。

 

 「ルーディア様のお知り合いでしょうか?」

 

 アルフォンスはその声に反応するように、テントから出ていった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 「あなたがルーディアですわね」

 

 しばらくすると、テントの中に一人の女性が入って来た。

 

 「………」

 

 「わたくしの名前はエリナリーゼ・ドラゴンロード。パウロの元パーティーメンバーですわ」

 

 エリナリーゼと名乗るその女性は、とても美しいエルフだった。

 

 「はあ………」

 

 しかし、そんな女性を目の前にしても、私は気の抜けた返事しか返すことができない。

 

 「事情は先程聞きましたわ。随分と辛い旅をしてきたようですね」

 

 「………」

 

 口を開かない私の横に、エリナリーゼは静かに座った。

 

 「今日はそんなあなたに、嬉しいお知らせを持って来ましたのよ」

 

 そう言って、彼女は一枚の封筒を私に手渡す。

 

 「これは……」

 

 「まあとりあえず、読んでみなさいな」

 

 エリナリーゼに促され、私は恐る恐る封筒を破り、中に入っていた手紙を読み始める。

 

 

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『ルーディア・グレイラット様。

 

 はじめまして。

 『ラノア魔法大学』で教頭をしておりますジーナスと申します。

 

 あなた様の噂は、ラノア王国にも響き渡っています。

 無詠唱魔術を使いこなす凄腕の冒険者。

 調べてみると、なんとあの水王級魔術師ロキシーの弟子というではありませんか。

 

 その素晴らしい魔法技術をさらに磨くおつもりはありませんか?

 ラノア魔法大学は、あなたを特別生として招く用意があります。

 特別生は授業免除かつ学費免除。

 本校の蔵書や設備を使い、好きに研究等をなさっていただく立場の生徒です。

 

 ぜひ一度ご挨拶させて頂く機会をいただけませんでしょうか。

 

 突然のご依頼で恐縮ですが、ご検討いただけたらと存じます。

 何卒よろしくお願い申し上げます。

 

 ラノア魔法大学教頭 ジーナス・ハルファス』 

 

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 「…………」

 

 手紙を読み終えた時、私はいつの間にか体を起こし、立ち上がっていた。

 

 ラノア魔法大学。

 かつての私が行こうと思っていた、世界屈指の魔法学校。

 そんな場所からの突然の推薦。

 

 なぜ?

 確かに私は、冒険者としては名を挙げていた方だ。

 だけど、そんな場所からわざわざ推薦状が届くほどではない。

 

 「裏にも書いてありますわよ」

 

 「裏………」

 

 エリナリーゼに指摘されて、私は手紙の背面に続きが書かれていることに気づいた。

 

 『あなたの親愛なる兄、ルーデウス・グレイラットも、あなたの入学を待ち望んでいます』

 

 「兄様……!」

 

 ルーデウス・グレイラット。

 何度確認しても、手紙にはそう書かれている。

 

 「わたくしが今日ここへ来たのは、あなたを安全にラノア魔法大学まで送り届ける為ですわ」

 

 ルーデウスが、魔法大学にいる?

 おかしい……

 

 私の知るルーデウスは魔術なんかに関心はない。

 それどころか、魔術を馬鹿にするような発言をよくしていた。

 そんな彼が、今は魔術を学ぶ最高峰の場所に在籍している。

 

 エリナリーゼという女性も少し怪しい……嘘である可能性もある。

 

 「それでどうしますの?行かないのでしたら、あなたをパウロの元へ送り届けますし……」

 

 「行きます……」

 

 でも私に、選択の余地はなかった。

 

 「兄様に……会いたいです……」

 

 パウロの所には……行きたくない。

 かといってこの場から逃げ出しても、行く当てはない。

 

 だったら、もう選べる道は一つ。

 エリナリーゼを信じて、ラノア王国へ向かう事だ。

 

 胸にある膨大な不安と、その中に現れた一筋の希望を抱えながら、私はエリナリーゼと再び旅をすることを決意した。

 

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 一緒に旅をして分かったのは、エリナリーゼは『いいお母さん』だったという事だ。

 

 優しくて、そこら辺の冒険者よりもずっと強い。

 知識も豊富で、旅慣れていた気になっていた私に、冒険者としての生き方、戦い方なんかをよく教えてくれた。

 

 「そこ、細木があって危ないですわよ」

 

 振り向く余裕なんてないはずなのに、わざわざ先頭で立ち止まって危険を知らせてくれるその背中は、母であるゼニスを彷彿とさせる。

 

 そして、これは旅の中で聞いた話なのだが、エリナリーゼはロキシーと面識があるらしい。

 ロキシーは魔力災害に巻き込まれた私達家族を探すため、エリナリーゼと共に、わざわざ危険な魔大陸まで渡航してきてくれたらしい。

 

 「ロキシーがあなたの無事を祈る姿を見るたびに、あなたがどれだけ彼に大切に思われていたかが伝わってきましたわ」

 

 エリナリーゼの話から、彼が私達のために全力を尽くしてくれているのが、私にも伝わってくる。

 

 今度会ったら、彼の大好きな甘い食べ物をご馳走してあげよう……

 

 

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 妊娠(それ)に気づいたのは、旅を始めて数ヶ月が経過した時だった。

 

 「妊娠……ですわね……」

 

 道中で高熱を出し、近くの村で看病をしてくれていたエリナリーゼは、そう判断した。

 

 「妊娠………」

 

 熱で頭が回らない私に、その単語が強く印象に残った。

 

 嘘……

 到底信じられることではなかった。

 後にも先にも、そういう行為に及んだのはエリオットとの一回だけ。

 

 つまりあの一夜で、私は子供を身籠もったのだ。

 

 妊娠……その意味を理解すると同時に、とてつもない不安が押し寄せてきた。

 

 私の中に、もう一つの命が宿っている……

 

 その感覚が、私には怖くて仕方がなかった。

 

 「………何も怖がることはありませんわ、ルーディア」

 

 そんな思いをエリナリーゼに打ち明けると、彼女は微笑みながら私の頭を撫でてくれた。

 

 「あなたにはわたくしが付いています。あなたはただ、生まれてくる子供の無事を願っていればいいんですわ」

 

 その言葉に、乱れていた私の心が少しだけ落ち着いた。

 

 「ありがとうございます……エリナリーゼさん」

 

 私が感謝すると、エリナリーゼは私のお腹を摩る。

 

 「ふふ、あなたを見ていると、妊娠した時のゼニスを思い出しますわ」

 

 エリナリーゼの口から、そんな言葉が出てきた。

 そういえば、ゼニスも冒険者として活動している途中に、ルーデウスを妊娠したんだっけ……

 

 「その時の母様は、どんな感じでした?」

 

 「どうもこうも、あなたと同じように毎日不安に駆られていましたわ。事あるごとに"私は母親なんかになれるのかしら……"なんて呟いていましたわよ」

 

 「………そうですか」

 

 私はそんな話を聞いて、少しばかり安堵できた。

 そうか……ゼニスも同じ気持ちだったんだ。

 

 私と同じように悩んで、苦しんでいたんだ……

 不安なのは、私だけじゃないんだ。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 ラノア王国へ向かう直前に、私達は活動を一度休止することにした。

 

 お腹もだいぶ大きくなり、著しい体力の低下が見られた私に、北方大地の寒さは耐えられないとエリナリーゼが判断したのだ。

 

 今まで蓄えてきたお金で、私達は小さな小屋を借りた。

 近くには村が複数あり、出産の際にはエリナリーゼが医者を呼んできてくれるそうだ。

 

 「ルーデウスの時は雪が吹き荒れる時期に産まれましたからね。暖かい時期に産めるのは運が良かったですわ」

 

 エリナリーゼの言う通り、出産の前に冬が終わって本当に良かった。

 

 『キャハハ!』

 

 村に買い出しへ向かっている途中、子供達が元気に遊び回っている光景が目に入った。

 

 「………」

 

 お腹にいる子も、あれくらい元気に育ってくれるだろうか。

 まず私は、子供を産むことができるのだろうか?

 

 気持ちもだいぶ落ち着いたとはいえ、完全に不安がなくなったわけではない。

 

 こんな時に、家族の誰かが居てくれれば……

 

 エリオットが……そばに居てくれれば……

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその時は、突然訪れた。

 

 ガタ……!

 

 「うぅ……!」

 

 夕食を食べ終え椅子に座っていると、急にお腹が痛くなってきた。

 

 「ルーディア!どうしましたの!?」

 

 痛い……

 

 「産まれる………」

 

 私は、本能的に理解した。

 

 「予想よりもだいぶ早いですわね!すぐに医者を呼んできますから、少しだけ耐えていてくださいまし!」

 

 エリナリーゼは部屋着のまま外へと飛び出して、私は小屋に一人残される。

 

 十分も経たないうちに、エリナリーゼは近くの医者を連れて戻ってきた。

 

 「もういつ産まれてもおかしくないわ……」

 

 医者は苦しむ私のお腹を触ると、そう呟いた。

  

 そうか……本当にもう、産まれるのか……

 

 そしてそこから、本格的な地獄が始まった。

 

 

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い

 

 今まで経験した痛みを、遥かに凌駕する激痛。

 あの痛みを、私は生涯忘れることはないだろう。

 

 「ルーディア……!耐えなさい!」

 

 そばで私を鼓舞するエリナリーゼ。

 そんな彼女の腕を、力強く握りしめる。

 

 ボキ……

 

 「……ッ!」

 

 握りしめていた彼女の腕から、骨の折れる鈍い音が聞こえる。

 

 それでもエリナリーゼは、顔を顰めながら、私のそばで寄り添ってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おぎゃあ!おぎゃあ!おぎゃあぁ!」

 

 激痛を耐え凌ぎ、ようやく私の地獄が終わった。

 

 「元気な男の子だよ!」

 

 医者は性別を確認し終えると、抱きかかえていた我が子を、私の横にそっと置いてくれた。

 

 私の子は、彼に似た赤い髪をしていた。

 

 「頑張りましたわね。ルーディア」

 

 折れた片腕を垂らしたまま、エリナリーゼが私の頭を撫でてくれる。

 

 途端に、私は涙が溢れてきた。

 その涙は安心と喜びからきたものだった。

 

 元気に生まれてきてくれた。

 それだけで、私の今までの苦労が報われた気がする。

 

 すやすやと眠ってしまった我が子を、私はそっと抱き上げる。

 

 「アルス………」

 

 涙を垂らしながら、私はその子の名を、噛み締めるように呟いた。

 

 

 

 

 




エリナリーゼの口調が少しおかしいかもしれません。
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