〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた 作:肉と米と愛
アルスが生まれてから、大体一年が過ぎた。
我が子は順調に育っている。
むしろ順調に育ち過ぎて、最近は私もエリナリーゼも手を焼いている。
「アルス〜どこにいるの〜?」
狭い小屋の中で目を離すと、アルスはすぐにどこかへ行ってしまう。
最近は一人で歩き始めた為、なおさら厄介だ。
でも、叱れない……
だって、天使のように可愛いんだもの。
「ママ……ママ!」
「ああ……私の可愛いアルス!」
笑顔で私の足元に抱きついてくるアルスを見るだけで、口元が緩んでしまう。
「親馬鹿ですわね」
そんな私の姿を見て、エリナリーゼは優しい表情を浮かべる。
アルスという眩しすぎる光が、再び私の心に火を灯してくれた………
この子だけは、絶対に守る。
この子は、もう誰にも渡さない……
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「そろそろ、旅を再開しましょうか」
アルスに夕食を食べさせている最中に、対面に座っていたエリナリーゼが真剣な顔で私に告げた。
「あ………」
エリナリーゼの言葉で、私は自分がここにいる目的を今一度思い出した。
ラノア魔法大学。
すっかり頭から抜け落ちていた……
「暖かいこの時期を逃してしまったら、また一年ここで過ごすことになりますわ」
「私はそれでも構いませんが……」
私がそう言うと、エリナリーゼは首を横に振った。
「ルーデウスをこれ以上待たすのは、あんまりですわ」
「………」
それを言われたら、何も返せない。
ルーデウス、彼は今も私達の到着を待っている。
今思い返せば、手紙の一つでも送っておけば良かった……
「あなたの体力も戻ってきましたし、旅をしても支障はあまり出ませんわ」
「でも……アルスが……」
そう、今はなによりアルスがいるのだ。
一歳になったとはいえ、旅に同行させるにはまだ心許ない。
「ルーディア、頼みますわ……」
「あなたをルーデウスの元へ早く送り届けること、それがわたくしにできる、唯一の償いなんですの……」
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エリナリーゼに説得され、ラノア王国を目指して旅を再開した私達。
当然、その道のりは決して楽なものではなかった。
北方大地は凍えてしまいそうなほど寒く、アルスを連れている私達では野宿することができない。
何日も馬を走らせ、村の住民に頼み込んで、家に泊まらせてもらうこともあった。
そんな苦しい旅を続けて数ヶ月。
「やっと………やっと着いた」
とうとう私達は辿り着いたのだ。
ここ、ラノア王国に……
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「さて、エリナリーゼさんはこれからどうしますか?」
ラノア魔法大学の正門に着いた私は、隣にいるエリナリーゼに尋ねた。
「わたくしも大学に入ろうと思っていますの」
「え?」
意外だった、エリナリーゼは魔術にそこまで関心はないと思っていたのに。
「エリナリーゼさんも魔術にご興味が?」
「あら、勘違いしないでくださいまし。わたくしがここに在籍したい理由は別にありますの」
別の理由ねぇ。
まあでも、本人は少し楽しそうだし、今は好きなようにさせておこう。
別に私の邪魔になるわけではないし………
ドン……
その時、後ろから歩いてきた誰かと、私の肩がぶつかった。
その衝撃で、私はアルスを抱えたまま前へ倒れそうになる。
「危ない!」
しかし地面に倒れる前に、エリナリーゼが私の体を支えてくれた。
「………」
アルスもスヤスヤと眠っている。
良かった……怪我はなさそう……
「ちょっと!いきなり何するんですの!」
エリナリーゼは後ろに振り向き、私とぶつかった相手を責め立てた。
「あら、ごめんなさい」
体勢を整えて、私もエリナリーゼの方を向く。
そこに立っていたのは、エリナリーゼと同じ金髪の女性だった。
しかし、その女性の顔の半分は、包帯でぐるぐる巻きにされていた。
「今は時間がないの、さよなら」
女性は私に頭を下げると、門を通り過ぎて大学の中へと走り去っていった。
「何なんですの今の?ありえませんわ!」
「まあまあ、アルスに怪我はなかったですし、こんな門のど真ん中で立っていた私達にも非がありますよ」
これでもしアルスが怪我をしていたら、私もエリナリーゼみたいにキレ散らかしていたんだろうが、結果としてアルスは無事だったんだ。
こちらにも非はあったし、今回は我慢しよう。
「とりあえず……行きましょうか」
「………全く、あなたは優しすぎますわ」
やや不服そうなエリナリーゼと、天使のような顔で寝ているアルスを連れて、私はラノア魔法大学へと足を運んだ。
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大学内を散策していると、教頭であるジーナスに声をかけられた。
今は応接室のような場所に案内され、色々と話をしている。
「いやぁ、それにしても可愛いお子さんですねぇ。お名前は何と言うのですか?」
「アルスって言うんです。それはもう可愛くて……」
我が子を自慢するように言いながら、私はアルスに頬を擦り寄せた。
「ママ!」
アルスは嬉しそうに私の胸に顔をうずめる。
ああ、なんて可愛いの!
「お子さんもお元気そうで何よりです。お兄様もきっとお喜びになられるでしょう」
その光景を微笑ましく見ていたジーナスが、そんな言葉を口にした。
「そうですわ、ルーデウスは今どこにいるんですの?」
思い出したかのように、エリナリーゼはルーデウスの話を持ち出す。
「それは私にも分かりません。彼は多忙ですからね……」
しかしジーナスから返ってきたのは、曖昧な答えだけだった。
「それとこの学校には、あなたと同じく無詠唱を使える子も在籍しているんですよ」
話を切り替えるように、ジーナスは私の方を向いた。
無詠唱か……
当たり前のように使っていたけど、確かこの世界ではかなり珍しいんだっけ?
「それはすごいですね」
「ええ、明日の入学式に来ていただければ、その方にも会うことが可能ですよ」
入学式なんてのもあるのか。
意外としっかりした学校なんだ。
想像以上にちゃんとした学校だと思い、少し胸が高鳴るのを感じた。
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そんなわけで、今日は入学式だ。
「エリナリーゼさん……ちょっとスカート短すぎじゃないですか?」
今はエリナリーゼと学校の隅で、お互いの制服が似合うかどうかを確認している。
「あえてやっているんですの。こうすれば、年頃の男の子が自分から寄ってくるでしょう?」
エリナリーゼは限界まで短くしたスカートを、ヒラヒラと揺らしながら微笑んだ。
「……そういうものですかねぇ?」
ここは学ぶ場所であって、見知らぬ若者と関係を持つ場所ではないんですが……
私に危害があるわけじゃないから、別に構いはしないけど……ちょっと心配だ。
そんな風に話し合っていると、新入生と思わしき人達が、ぞろぞろと食堂へ移動し始めていた。
「行きましょうエリナリーゼさん。みんなもう移動しています」
「あら、もうそんな時間ですの?」
私はアルスを抱えたまま、移動する新入生達に紛れ込む。
赤ん坊を連れた新入生なんて、当然目立つ。
私はいろんな人からの視線を向けられた。
私としては、あんまり見ないでほしい。
恥ずかしいし……
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食堂のような場所へ移動した私達は、視線を避けるため、入り口の隅に座った。
ここならあまり視線は通らないし、アルスが泣いたとしてもすぐに退出できる。
席へ座ると、いよいよ本格的な入学式が始まった。
校長先生による元気いっぱいの挨拶。
ジーナスから大学での活動内容や校則など、大体が前世と同じような感じのものだった。
私の周りにいた人達も、そんな話をつまらなそうに聞いていたり、隣の人と楽しそうに話していた。
やっぱり世界は変わっても、人は変わらないんだなぁ。
「続いて、生徒会長より、新入生への言葉」
アルスを膝に乗せボーッとしていると、いつの間にか入学式は終盤を迎え、締めである生徒会長からの話になっていた。
やばいやばい。
せめて最後くらいは真面目に聞いておかないと……
教頭の言葉で、食堂の奥に続く道から、三人の少年少女が歩いてくる。
先頭に立つのは綺麗な金髪を持つ少女。
編みこみの入ったサラサラのロングヘア。
服装は俺たちと同じ、新しい制服だけど、歩き方からすでに気品がにじみあふれている。
その背後を歩く少年と………少女……?
一人はすぐに男だと分かったけど、もう一人の方は判別がしにくい。
白髪にサングラスをかけた人物……
見た目では男か女か見分けがつかない。
「あれ、アリエル様じゃない?」
「え?じゃああの人が『無言のフィッツ』?」
「ルーク様〜!」
周りにいた女子生徒達が、黄色い声を上げ始める。
どうやらあの三人は人気らしい。
私は誰一人として知らないけど……
この感じだと、あの三人はアリエルという少女が生徒会長なのかな?
どんな人なのか、気になるなぁ。
私は期待を持ちながら、アリエルが話すのを待った。
しかし壇上のそばに来たというのに、いつまで経っても三人は、誰も話さず、動こうともしない。
その異常を察知したのか、周りにいた生徒達はヒソヒソと何か話し始める。
「一体どうしたんだ?」
「アリエル様が生徒会長だろ?なんで何も話さないんだ?」
生徒達が騒ぎ始めたのを確認すると、アリエルがようやく壇上の真ん中に立った。
「皆様ご機嫌よう。ラノア魔法大学で生徒会副会長を務めさせていただいております、アスラ王国第二王女、アリエル・アネモイ・アスラと申します」
『おお……!お?』
待ち侘びたかのように生徒達が歓声を上げようとするが、何かに引っかかったように全員言葉を詰まらせた。
私もそのうちの一人だ。
え、副会長?
生徒会長じゃあ……ないの?
「大変申し訳ございません。生徒会長はただいま取り込み中でして……」
アリエルは額に汗を垂らしながら、申し訳なさそうに頭を下げる。
「今しばらくお待ちをーーー」
「いやぁすいません。寝坊しました」
その時、アリエル達が現れた廊下から、何者かが声を上げた。
生徒の視線が、その声の持ち主へと移る。
そこに立っていたのは、二人の男女だった。
「………」
そして女性の方を、私とエリナリーゼは知っている。
私と門でぶつかった張本人だ。
彼女の頭には、包帯がまだ巻かれている。
「記念すべき日に、みなさん申し訳ありません」
そしてニコニコと笑みを浮かべながら、壇上へと近づくもう一人の男。
私は、その男をよく知っている。
「ママ……?」
膝の上にいるアルスの言葉さえ耳に入らなくなるほど、私の視線は男に釘付けだった。
エリナリーゼも、きっとそうだっただろう。
ずっと探していた。
ずっと求めていた。
男は咳払いをすると、壇上に両手を置き、その口を開いた。
「改めまして皆さん。ご入学おめでとうございます。
ラノア魔法大学生徒会会長、ルーデウス・グレイラットです」