〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた   作:肉と米と愛

3 / 8
ルーデウス・グレイラットという人物

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 床に散らばった料理を片付け、ルーデウスを除いた家族でテーブルを囲む。  

  

 「ルーディア、すまん。お前の誕生日パーティーだったってのに……」

 

 パウロが俺に向かい頭をテーブルに擦り付けた。

 

 「やめてください、父様は何も悪くないじゃないですか」

 

 「ロキシーもごめんなさいね、わざわざこの村に来てもらったのに、あんな事言われるなんて」

 

 「大丈夫ですよ、これも良くある事ですから。ですが……」

 

 ロキシーは一瞬戸惑う表情をしたが、覚悟を決めたのか、大きく深呼吸をした後、ゼニスに聞いた。

 

 「ルーデウスの言っていた、『忌み子』とはどういう意味なのですか?」

 

 『忌み子』

 

 その言葉に、ゼニスとパウロの表情が暗くなる。

 

 「ああいえ、やっぱり今のなしで……」

 

 二人の表情を見てまずいと感じたのか、ロキシーは咄嗟に訂正した。

 

 しかし、パウロは首を横に振る。

 

 「いいんだ。いつかは、ルーディアにも話さなきゃいけないと思っていたしな、いい機会だ」

 

 「あなた……」

 

 ゼニスは不安そうな目でパウロを見る。

 

 「今言わなきゃ、一生言えないかもしれない」

 

 パウロはゼニスにそう呟くと、ポツポツとルーデウスの話を語り始めた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『黒狼の牙』

 

 かつて名を馳せたS級冒険者パーティー。

 

 メンバーは六人。

 剣士二人、戦士とシーフ、僧侶と魔術師が一人ずつ揃ったバランスの取れた構成だった。

 

 そしてパーティーの中に、パウロとゼニスは所属していた。

 

 最初は女癖の悪いパウロに、半ば無理矢理連れてこられたゼニスだったが、日を追うごとに仲を深め、いつの日か仲間という関係を超えるものへと進展した。

 

 ……いや、進展してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっかけは、ゼニスの妊娠だった。

 

 そもそも、冒険者として活動する中で、旅の仲間が妊娠してしまうのは決して珍しい事ではない。

 

 そういう場合、そのメンバーの妊娠期間が終了するまで冒険者を休止するか、残ったメンバーで依頼を受けるのがメジャー。

 

 しかしパウロは、パーティーを抜ける事を望んだ。

 ゼニスと共に、残りの人生を謳歌したいというのだ。

 

 もちろん、他のパーティーメンバーからは猛烈な反対を受けた。

 パウロと他に関係を持ったメンバーの二人は特に。

 ああだこうだと揉めているうちに、いつの間にかゼニスは出産を終えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その子の名をルーデウス。

 

 そして子供を産んだことで、パーティーを抜ける口実を失ってしまったパウロ。

 

 そこで彼が考えたのは、逃亡だった。

 

 逃亡前夜、パウロは残りのメンバーと激しく言い争いをしていた。そして夜中に酒を飲ませ、皆が寝静まったタイミングを見計らい、パーティーを抜け出した。

 

 しかし、赤子を連れた長旅、S級の腕前があるとはいえ、簡単な道のりではなかった。

 

 獰猛な魔物に襲われ、盗賊集団に目をつけられながらも、パウロとゼニスは必死に生き延びた。

 

 そしてようやくロアの町へと辿り着くことができ、今に至ると言う訳だ。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 「父様、最低ですね……」

 

 「………んん」

 

 パウロから話を聞き、最初に出た言葉はそれに尽きていた。

 

 ろくでもない男だとは思っていたが、まさかここまでとは……

 

 ルーデウスがああなってしまっても仕方がない。

 

 「まあ、冒険者同士が駆け落ちするというのは、僕も何度か見ましたが、子供を産んだ後に逃げるのは、初めてですね」

 

 ロキシーも少しドン引きのご様子。

 

 「後悔してもしきれないわ。あの子に、あんな重荷を背負わせちゃって……」

 

 ゼニスは顔を下に向けたまま、動かなくなってしまう。

 

 しばらくすると、彼女から啜り泣く声が聞こえ始める。

 

 

 

 

 

 これは、なかなかに厄介だ。

 

 ルーデウス、嫌な兄だと思っていたが、そんな過去があったとは……同情してしまう。

 

 「とりあえず、今はそっとしておいてあげましょう。それが私達のできる唯一の気遣いよ」

 

 喉の奥に骨が刺さったような感覚を残しながら、各々は自分がやるべき仕事へと戻っていった。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真夜中。

 

 気づけば、俺はルーデウスの部屋の前にいた。

 

 パウロとゼニスはもう寝ている。

 

 あんな事があったんだ、流石に二人も今日は我慢したんだろう。

 

 暗闇に包まれた廊下、ルーデウスの部屋だけ明かりがついている。

 

 コンコン……

 

 他のみんなが起きないよう、静かに部屋をノックする。

 

 数秒ほど経つと、部屋の扉が開いた。

 

 「ルーディア、どうしました?」

 

 ルーデウスはいつも通りの真顔で呼びかけてくる。

 

 良かった、変に気を張られても困るからな。

 

 「ちょっと眠れなくて、一緒に寝ちゃダメですか?」

 

 俺は上目遣いで目をパチパチとさせながら、必死にアピールをした。

 

 「ロキシーでいいでしょう?」

 

 「私は、兄様がいいんです」

 

 ルーデウスはしばらく考える素振りを見せた後、静かなため息を吐く。

 

 「分かった……」

 

 「ありがとうございます、兄様」

 

 俺はルーデウスに最大限できる笑顔を作ったが、彼の表情は変わらない。

 

 無愛想にも程があるだろ……

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 ルーデウスの部屋は、非常にシンプルだった。

 部屋の隅に置かれたベッドと勉強机。

 俺と大して変わらないが……

 

 

 唯一目を見張るものといえば、壁に飾られた一本の短剣だけだ。

 

 「兄様、これは……?」

 

 「ああ、これですか」

 

 俺が剣を指差しながら聞いてみると、ルーデウスは剣をわざわざ取り外し、俺に持たせてくれた。

 

 「重ッ!」

 

 剣はしっかりとした重みを持っており、子供が持てるものとは到底思えなかった。

 

 「父さんが五歳の誕生日にくれたんですよ。今のところ、飾りぐらいにしか役立っていませんが」

 

 そんな重たい剣を、ルーデウスは軽々と片手で持ち上げると、元あった場所へと戻した。

 

 「さっさと寝ましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 光が消え、部屋の中は真っ暗となる。

 

 俺とルーデウスは同じベッドの上で、9の字になりながら横になる。

 

 壁の方を向くルーデウスの背中は、弟……いや、妹である俺にとって大きな壁のようなものだった。

 

 「兄様……?」

 

 「……なんですか?」

 

 ルーデウスはこちらを振り向かずに答える。

 

 「あの、今言うのもなんなんですけど、母様から聞きました」

 

 「そうですか」

 

 ルーデウスはその言葉だけで、内容を察したようだ。

 

 「その、兄様も、やっぱり大変ですよね?色々と旅して……」

 

 「やめろ」

 

 ルーデウスの冷たい声に、俺の体が固まる。

 

 「知ったような口を聞かないでください。外の世界も知らないようなお嬢様」

 

 「………」

 

 思わぬ反撃にしばらくの間、静寂が続く。

 

 どうする?

 

 この世界に来たとはいえ、何十年の間、人の悩みなんて聞いた事がない。

 どんな言葉を掛けてやればいい?

 

 大丈夫だよ?

 気にしないで?

 

 前世の俺にそんな言葉を掛けられたとして、俺は変われただろうか?

 

 否。

 

 本人の気持ちも知らない他人からの励ましや助言なんて、意味がない。

 

 変わらなかった俺が保証する。

 

 だったら、なんて声を掛けたらいい?

 

  このまま、本当に終わるのか?

 兄の部屋で寝た。

 そんな終わり方で、良いのか?

 

 

 

 

 ダメに決まってる。

 後悔しない生き方を選んだのは、俺自身だろ?

 

 

 

 「兄様……」

 

 俺はルーデウスの腹を、腕で絡める。

 

 ルーデウスは特に反応せず、まだこちらを振り向かない。

 

 「兄様がどう思ってるかは分かりませんが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「私は兄様が好きですよ」

 

 その言葉に、初めて、ルーデウスの体が一瞬震えた。

 

 「確かに、ロキシー師匠を辛辣にあしらったり、誕生日の雰囲気を壊したのはイラってきましたけど、いつもの兄様は努力家でカッコいいです」

 

 嘘ではない。

 パウロに何度打ちのめされても、その度に立ち上がり、強くなって帰ってくる兄を、俺は素直に尊敬している。

 

 

 ルーデウスはしばらく動かなかったが、突然こちらを振り向いてきた。

 

 俺とルーデウスが互いを見つめあって、数十秒程が経っただろうか?

 

 ルーデウスは布団から右手を取り出し、俺の頭へと近づけてきた。

 

 良かった。

 分かってくれたのか……

 

 しかし、ルーデウスの手はそのまま俺の額へと向けられる。

 

 バチッ……!

 

 痛……!

 

 ルーデウスに、デコピンをされた。

 

 「妹の癖に、生意気ですね」

 

 「痛っ……」

 

 頭を抑え、悶え苦しむ俺の姿を見て、ルーデウスは俺に初めて笑みを浮かべた。

 

 「でもまあ、ありがとうございます」

 

 ルーデウスはそう小さく呟くと、また後ろを向いてしまった。

 

 「いきなり何するんですか」

 

 「………」

 

 「………兄様?」

 

 呼びかけても反応しない。

 

 ルーデウスの体を揺さぶるが、それでも反応しない。

 

 しばらくすると、ルーデウスの方から寝息が聞こえ始めた。

 

 

 

 こいつ、寝つき良すぎだろ……

 

 そんなルーデウスに呆れつつ、俺の心はどこか晴れた気持ちになっていた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 「ロキシーにルーディア、昨夜は………すいませんでした」

 

 早朝、家族で食卓を囲んでいる最中に、ルーデウスは俺とロキシーに頭を下げる。

 

 「俺は魔術が使えないので、ちょっと嫉妬してたんです」

 

 「そうだったんですか、僕はそんなに気にしてはないので、大丈夫ですよ」

 

 ロキシーはルーデウスの行動に驚きつつも、にこやかな笑みを浮かべて答えた。

 

 「ルディ……お前……」

 

 パウロは口に運んでいたフォークを落とし、ゼニスは席を立ったままルーデウスを見つめる。

 

 「ルディ!」

 

 やがて、ゼニスはよろめきながらルーデウスに抱きついた。

 

 「ごめんなさいね……あなたのことも、本当に愛しているのよ?」

 

 「やめください母さん、暑苦しいです」

 

 ルーデウスは抱きつくゼニスから逃れようと体を捻るが、パウロが登場した事で完全に逃げ場を失う。

 

 「ルディ!お前ってやつは……お前ってやつは……!」

 

 泣きじゃくるパウロの鼻水が服に付着するのを、不快そうな目で見るルーデウス。

 

 俺はそんな三人の姿を見て、安堵のため息が出る。

 

 兄は、俺が思っていた以上に大人だった。

 間違いを認め、反省し、謝罪する。

 

 俺がかつて出来なかった行動をやってのけたのだ。

 

 素直に凄いし、尊敬しよう。

 

 「ルーディア」

 

 パウロとゼニスに挟まれたルーデウスを見ていると、隣に座っていたロキシーに話しかけられた。

 

 「どうしました師匠?」

 

 「昨日は言いそびれてしまいましたが、今日はあなたの卒業試験をする日なんです」

 

 「卒業………?」

 

 俺が復唱すると、ロキシーは小さく頷き返す。

 

 「もう、僕から教えられるものはありません。ここらが潮時でしょう」

 

 「そんな……私はまだまだ師匠に教わる事が……」

 

 「ルーディア」

 

 ロキシーは俺の肩を掴み、少し悲しそうな表情を見せた後、いつもの柔らかい笑みに戻った。

 

 「もうあなたは、僕と遜色ないレベルにまで成長してしまいました。自分より劣る者を師匠と呼ぶのは嫌でしょう?」

 

 「別に嫌じゃないです」

 

 すかさず俺がそう言うと、ロキシーは視線を俺から背け、また悲しそうな表情に浮かべる。

 

 「……ルーディアもいずれ、分かるようになりますよ」

 

 そのままロキシーは、外へと出かけてしまった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。