〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた 作:肉と米と愛
床に散らばった料理を片付け、ルーデウスを除いた家族でテーブルを囲む。
「ルーディア、すまん。お前の誕生日パーティーだったってのに……」
パウロが俺に向かい頭をテーブルに擦り付けた。
「やめてください、父様は何も悪くないじゃないですか」
「ロキシーもごめんなさいね、わざわざこの村に来てもらったのに、あんな事言われるなんて」
「大丈夫ですよ、これも良くある事ですから。ですが……」
ロキシーは一瞬戸惑う表情をしたが、覚悟を決めたのか、大きく深呼吸をした後、ゼニスに聞いた。
「ルーデウスの言っていた、『忌み子』とはどういう意味なのですか?」
『忌み子』
その言葉に、ゼニスとパウロの表情が暗くなる。
「ああいえ、やっぱり今のなしで……」
二人の表情を見てまずいと感じたのか、ロキシーは咄嗟に訂正した。
しかし、パウロは首を横に振る。
「いいんだ。いつかは、ルーディアにも話さなきゃいけないと思っていたしな、いい機会だ」
「あなた……」
ゼニスは不安そうな目でパウロを見る。
「今言わなきゃ、一生言えないかもしれない」
パウロはゼニスにそう呟くと、ポツポツとルーデウスの話を語り始めた。
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『黒狼の牙』
かつて名を馳せたS級冒険者パーティー。
メンバーは六人。
剣士二人、戦士とシーフ、僧侶と魔術師が一人ずつ揃ったバランスの取れた構成だった。
そしてパーティーの中に、パウロとゼニスは所属していた。
最初は女癖の悪いパウロに、半ば無理矢理連れてこられたゼニスだったが、日を追うごとに仲を深め、いつの日か仲間という関係を超えるものへと進展した。
……いや、進展してしまった。
きっかけは、ゼニスの妊娠だった。
そもそも、冒険者として活動する中で、旅の仲間が妊娠してしまうのは決して珍しい事ではない。
そういう場合、そのメンバーの妊娠期間が終了するまで冒険者を休止するか、残ったメンバーで依頼を受けるのがメジャー。
しかしパウロは、パーティーを抜ける事を望んだ。
ゼニスと共に、残りの人生を謳歌したいというのだ。
もちろん、他のパーティーメンバーからは猛烈な反対を受けた。
パウロと他に関係を持ったメンバーの二人は特に。
ああだこうだと揉めているうちに、いつの間にかゼニスは出産を終えてしまった。
その子の名をルーデウス。
そして子供を産んだことで、パーティーを抜ける口実を失ってしまったパウロ。
そこで彼が考えたのは、逃亡だった。
逃亡前夜、パウロは残りのメンバーと激しく言い争いをしていた。そして夜中に酒を飲ませ、皆が寝静まったタイミングを見計らい、パーティーを抜け出した。
しかし、赤子を連れた長旅、S級の腕前があるとはいえ、簡単な道のりではなかった。
獰猛な魔物に襲われ、盗賊集団に目をつけられながらも、パウロとゼニスは必死に生き延びた。
そしてようやくロアの町へと辿り着くことができ、今に至ると言う訳だ。
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「父様、最低ですね……」
「………んん」
パウロから話を聞き、最初に出た言葉はそれに尽きていた。
ろくでもない男だとは思っていたが、まさかここまでとは……
ルーデウスがああなってしまっても仕方がない。
「まあ、冒険者同士が駆け落ちするというのは、僕も何度か見ましたが、子供を産んだ後に逃げるのは、初めてですね」
ロキシーも少しドン引きのご様子。
「後悔してもしきれないわ。あの子に、あんな重荷を背負わせちゃって……」
ゼニスは顔を下に向けたまま、動かなくなってしまう。
しばらくすると、彼女から啜り泣く声が聞こえ始める。
これは、なかなかに厄介だ。
ルーデウス、嫌な兄だと思っていたが、そんな過去があったとは……同情してしまう。
「とりあえず、今はそっとしておいてあげましょう。それが私達のできる唯一の気遣いよ」
喉の奥に骨が刺さったような感覚を残しながら、各々は自分がやるべき仕事へと戻っていった。
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真夜中。
気づけば、俺はルーデウスの部屋の前にいた。
パウロとゼニスはもう寝ている。
あんな事があったんだ、流石に二人も今日は我慢したんだろう。
暗闇に包まれた廊下、ルーデウスの部屋だけ明かりがついている。
コンコン……
他のみんなが起きないよう、静かに部屋をノックする。
数秒ほど経つと、部屋の扉が開いた。
「ルーディア、どうしました?」
ルーデウスはいつも通りの真顔で呼びかけてくる。
良かった、変に気を張られても困るからな。
「ちょっと眠れなくて、一緒に寝ちゃダメですか?」
俺は上目遣いで目をパチパチとさせながら、必死にアピールをした。
「ロキシーでいいでしょう?」
「私は、兄様がいいんです」
ルーデウスはしばらく考える素振りを見せた後、静かなため息を吐く。
「分かった……」
「ありがとうございます、兄様」
俺はルーデウスに最大限できる笑顔を作ったが、彼の表情は変わらない。
無愛想にも程があるだろ……
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ルーデウスの部屋は、非常にシンプルだった。
部屋の隅に置かれたベッドと勉強机。
俺と大して変わらないが……
唯一目を見張るものといえば、壁に飾られた一本の短剣だけだ。
「兄様、これは……?」
「ああ、これですか」
俺が剣を指差しながら聞いてみると、ルーデウスは剣をわざわざ取り外し、俺に持たせてくれた。
「重ッ!」
剣はしっかりとした重みを持っており、子供が持てるものとは到底思えなかった。
「父さんが五歳の誕生日にくれたんですよ。今のところ、飾りぐらいにしか役立っていませんが」
そんな重たい剣を、ルーデウスは軽々と片手で持ち上げると、元あった場所へと戻した。
「さっさと寝ましょう」
光が消え、部屋の中は真っ暗となる。
俺とルーデウスは同じベッドの上で、9の字になりながら横になる。
壁の方を向くルーデウスの背中は、弟……いや、妹である俺にとって大きな壁のようなものだった。
「兄様……?」
「……なんですか?」
ルーデウスはこちらを振り向かずに答える。
「あの、今言うのもなんなんですけど、母様から聞きました」
「そうですか」
ルーデウスはその言葉だけで、内容を察したようだ。
「その、兄様も、やっぱり大変ですよね?色々と旅して……」
「やめろ」
ルーデウスの冷たい声に、俺の体が固まる。
「知ったような口を聞かないでください。外の世界も知らないようなお嬢様」
「………」
思わぬ反撃にしばらくの間、静寂が続く。
どうする?
この世界に来たとはいえ、何十年の間、人の悩みなんて聞いた事がない。
どんな言葉を掛けてやればいい?
大丈夫だよ?
気にしないで?
前世の俺にそんな言葉を掛けられたとして、俺は変われただろうか?
否。
本人の気持ちも知らない他人からの励ましや助言なんて、意味がない。
変わらなかった俺が保証する。
だったら、なんて声を掛けたらいい?
このまま、本当に終わるのか?
兄の部屋で寝た。
そんな終わり方で、良いのか?
ダメに決まってる。
後悔しない生き方を選んだのは、俺自身だろ?
「兄様……」
俺はルーデウスの腹を、腕で絡める。
ルーデウスは特に反応せず、まだこちらを振り向かない。
「兄様がどう思ってるかは分かりませんが」
「私は兄様が好きですよ」
その言葉に、初めて、ルーデウスの体が一瞬震えた。
「確かに、ロキシー師匠を辛辣にあしらったり、誕生日の雰囲気を壊したのはイラってきましたけど、いつもの兄様は努力家でカッコいいです」
嘘ではない。
パウロに何度打ちのめされても、その度に立ち上がり、強くなって帰ってくる兄を、俺は素直に尊敬している。
ルーデウスはしばらく動かなかったが、突然こちらを振り向いてきた。
俺とルーデウスが互いを見つめあって、数十秒程が経っただろうか?
ルーデウスは布団から右手を取り出し、俺の頭へと近づけてきた。
良かった。
分かってくれたのか……
しかし、ルーデウスの手はそのまま俺の額へと向けられる。
バチッ……!
痛……!
ルーデウスに、デコピンをされた。
「妹の癖に、生意気ですね」
「痛っ……」
頭を抑え、悶え苦しむ俺の姿を見て、ルーデウスは俺に初めて笑みを浮かべた。
「でもまあ、ありがとうございます」
ルーデウスはそう小さく呟くと、また後ろを向いてしまった。
「いきなり何するんですか」
「………」
「………兄様?」
呼びかけても反応しない。
ルーデウスの体を揺さぶるが、それでも反応しない。
しばらくすると、ルーデウスの方から寝息が聞こえ始めた。
こいつ、寝つき良すぎだろ……
そんなルーデウスに呆れつつ、俺の心はどこか晴れた気持ちになっていた。
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「ロキシーにルーディア、昨夜は………すいませんでした」
早朝、家族で食卓を囲んでいる最中に、ルーデウスは俺とロキシーに頭を下げる。
「俺は魔術が使えないので、ちょっと嫉妬してたんです」
「そうだったんですか、僕はそんなに気にしてはないので、大丈夫ですよ」
ロキシーはルーデウスの行動に驚きつつも、にこやかな笑みを浮かべて答えた。
「ルディ……お前……」
パウロは口に運んでいたフォークを落とし、ゼニスは席を立ったままルーデウスを見つめる。
「ルディ!」
やがて、ゼニスはよろめきながらルーデウスに抱きついた。
「ごめんなさいね……あなたのことも、本当に愛しているのよ?」
「やめください母さん、暑苦しいです」
ルーデウスは抱きつくゼニスから逃れようと体を捻るが、パウロが登場した事で完全に逃げ場を失う。
「ルディ!お前ってやつは……お前ってやつは……!」
泣きじゃくるパウロの鼻水が服に付着するのを、不快そうな目で見るルーデウス。
俺はそんな三人の姿を見て、安堵のため息が出る。
兄は、俺が思っていた以上に大人だった。
間違いを認め、反省し、謝罪する。
俺がかつて出来なかった行動をやってのけたのだ。
素直に凄いし、尊敬しよう。
「ルーディア」
パウロとゼニスに挟まれたルーデウスを見ていると、隣に座っていたロキシーに話しかけられた。
「どうしました師匠?」
「昨日は言いそびれてしまいましたが、今日はあなたの卒業試験をする日なんです」
「卒業………?」
俺が復唱すると、ロキシーは小さく頷き返す。
「もう、僕から教えられるものはありません。ここらが潮時でしょう」
「そんな……私はまだまだ師匠に教わる事が……」
「ルーディア」
ロキシーは俺の肩を掴み、少し悲しそうな表情を見せた後、いつもの柔らかい笑みに戻った。
「もうあなたは、僕と遜色ないレベルにまで成長してしまいました。自分より劣る者を師匠と呼ぶのは嫌でしょう?」
「別に嫌じゃないです」
すかさず俺がそう言うと、ロキシーは視線を俺から背け、また悲しそうな表情に浮かべる。
「……ルーディアもいずれ、分かるようになりますよ」
そのままロキシーは、外へと出かけてしまった。