〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた 作:肉と米と愛
「ーーーで、ここが医務室ね」
「はい!」
ルーデウスと感動の再会を果たしてから三十分。
私は今、サラという女性に学校内を案内してもらっている。
案内をしてもらっている私が言うのは、大変失礼かもしれないが、サラはとても無愛想だ。
『………』
私の前を無言で歩き、見慣れない部屋を見つけた時だけ軽く説明をする。
あちらから話しかけてくることはない。
かと言って話題を振ろうにも、何を話したら良いのか分からない。
でもこのまま何も言わずに終わるのは嫌だし………
そうだ……!
「あ、あのぉ、サラ先輩?」
「何?」
サラは私の方を振り向くことなく、前を向いたまま答えた。
顔くらい見てくれてもいいのに……まあいいや
「兄様とは、一体どんな関係なんですか?」
しかし私がそう尋ねると、彼女の足が止まった。
何かまずいことでも聞いてしまったのか?
サラはしばらく立ち止まった後、ゆっくりと私の方を向いた。
「……あの人は、私の命の恩人よ」
「恩人、ですか?」
そして彼女から返ってきた言葉は、私が想像もしていないものだった。
恩人?
あのルーデウスが?
「意外だった?」
「ええ、まあ………」
私の返答に、サラは初めて表情を和らげた。
「そうね、何年もあの人に会ってなかったあなたには、そう見えるかもね」
「………」
あ、今の言葉、少しムッときたぞ。
まるで、自分の方がルーデウスのことを知っていると言いたげな口ぶりじゃないか。
「私はてっきり、兄様の恋人かと思っていましたよ」
冗談混じりに私がそう言うと、サラの頬が少しだけ赤くなる。
「そんなわけ……ないでしょ」
なるほど、意外と単純なんだな、この人。
「それよりも、私からも一つ、あなたに質問して良い?」
サラは改めたように私を見つめ直すと、真剣な顔になった。
「え、はい。なんですか?」
「……あなた、私と前に、どこかで会った?」
「え……?」
サラ以前に会ったことがある?
いやいや、ないだろう。
自慢ではないが、私の記憶力はいい方だ。
出会った人の名前は大体覚えているし、顔も思い出せる。
だけど、彼女の名前に心当たりはないし、顔すら見たことがない。
完全に初めましてだ。
「ない……です。少なくとも、私は覚えていません……」
「そう……」
私の答えを聞いて、サラの表情が少しだけ安心したものに変わった。
「もしかして、どこかでお会いしましたか?」
「いいえ、気にしないで。ただの人違いよ」
「そう……ですか」
少し怪しい気もするが、私に身に覚えがないんだ。
気にしなくても大丈夫だろう。
「さあ、雑談は終わり。次は図書館へ行くわよ」
「はい」
気になることはあったが、私達は学校案内を再開した。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ラノア魔法大学の図書館。
そこはもう、素晴らしい場所だった。
『わぁ……』
私はアルスと一緒になって、思わずそんな声を出してしまった。
見渡す限り、本。
階段を上っても、本。
どこを見ても、本だらけだ。
ロアの町にあった書庫室とは比べ物にならないほど広い空間に、大量の本が置かれている。
「あう!」
見事に陳列された本に魅了されたのか、アルスが壁際に置かれた本に手を伸ばす。
「ダメですよぉアルス〜」
私は宥めるようにアルスを本棚から引き離した。
しかし、それがいけなかった……
「いやぁぁぁぁぁ!!」
アルスは駄々をこね始めた。
最近はこうやって、思い通りにいかない事があると、すぐ喚いてしまうのだ。
こうなったアルスは手強い。
一時間は泣き続けるのを覚悟しておいた方がいいだろう。
幸い、図書館には私とサラ以外に人はいないから、追い出される心配はない。
「仕方ないわね、少しここで休憩しましょうか」
サラも気を利かせてくれている。
ここは甘えさせてもらおう。
「ありがとうございます」
そうやってアルスを宥めようとした時だった。
「ど、どうしたの!?」
図書館の入り口から、サングラスをかけた白髪の少年が慌てて飛び込んできた。
この人は……アリエル王女の横にいたエルフの……
「怪我はないかい!?子供は無事かい!?」
初対面だというのに、白髪の少年はぐいぐいと私に詰め寄ってくる。
「だ…大丈夫です。ほ……ほら、アルスも泣き止みました」
その迫力に、喚いていたアルスも静かになり、目を丸くして少年を見ていた。
「あ、あの……どちら様で………?」
「え……あ……え……?」
少年は青ざめた顔で、後ろへと下がった。
「お、覚えて……ないの?」
「………アハハ、すいません。どこかでお会いしましたか?」
ドサ………
少年は近くの本棚にもたれかかり、そして……そして……
「オロロロロロロ」
吐いた………
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「全く、フィッツの奴、とんでもないことしてくれたわね」
夕日に照らされた帰り道で、隣を歩くサラが悪態をつくように言った。
「アハハハ……私もびっくりですよ。まさか吐いてしまうなんて……」
フィッツという少年が吐いた後、私たちはその後始末をする羽目になった。
お陰で帰りが遅くなってしまったが、仕方がない。
「そちらも大変だったみたいですね」
サラの横を歩いていたルーデウスは、屈託のない笑顔を浮かべながら、私の頭を優しくなでた。
あの不気味な笑みを浮かべていたルーデウスが、こんなにも綺麗な笑顔をするようになったなんて……感慨深い。
「ところで兄様、こんな離れた場所に、本当に兄様の家があるんですか?」
そんな他愛のない話をしている私達が向かっているのは、ルーデウスの家だ。
しかし、先程から見えてくるのは生い茂った雑草ばかり。
家の『い』の字もない。
本当にこんなところに彼の家があるのだろうか?
「フフ、そろそろ見えてきますよ」
ルーデウスの声が少し興奮気味になっている。
どうやら私に家をお披露目するのが待ちきれないようだ。
それにしても、ルーデウスの家、ルーデウス邸か……
一体どんな家に住んでいるんだろう……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そこから数分が経過して……
「着きましたよ」
ルーデウスの声に釣られて、私は顔を上げた。
「わぁ………」
両手でアルスをあやしていた私は、思わずアルスを離してしまいそうになった。
目の前に見えるのは豪邸。
お城とまではいかないが、一世帯……いや、ルーデウスとサラが住むには十分過ぎるほどにデカい。
私達が昔住んでいた家の二倍はあるんじゃないか……?
オマケに豪邸一個分くらいの庭もついている。
「すっご………」
「そうでしょう?ルーデウス様が格安だったこの家をリフォームしたの」
驚愕する私の横で、鼻を高くして説明を始めるサラ。
いや、あんたが買ったわけじゃないんかい……
「あッ!お兄ちゃん!!」
家に見惚れていると、庭の隅から小さな頭がヒョコっと飛び出してきた。
そして庭の門が開くと、リーリャに似た赤い髪の少女が飛び出し、ルーデウスの胸に飛びついた。
「アイシャ、ジーナス教頭から聞きましたよ。また学校を抜け出したんですって?」
「だって、みんな私よりも理解遅いし。私はお兄ちゃんのお世話がしたいもん」
アイシャ。
アイシャって………
「兄様……この子は……」
私がそう呟くと、赤髪の少女が、ルーデウスに抱きついたままこちらを振り向く。
「え?誰?お兄ちゃんの彼女?」
「違いますよ。彼女はルーディア、俺の妹……あなたの姉です」
「お姉……ちゃん?」
アイシャは首を傾げ、不思議そうな顔で私の目を見つめた。
リーリャとパウロの子供、アイシャ。
私の妹だ。
妹と言っても、ろくに接点もなかったけど……
「まあ、詳しい話は家の中でしましょう」
そうして、私はアルスを、ルーデウスはアイシャを抱えたまま、豪華な家の中へと入っていった。
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家に入ると、中も想像通り立派だった。
もふもふそうなカーペット。
魔石がいくつも埋め込まれた机。
そして、なによりも私の目を惹いたのは、壁に飾ってある赤竜の生首だ。
ハンティングトロフィーとでも言うのだろうか?
少し気味が悪いが……オシャレだ。
「アイシャ、ルーディアとアルスに夕食を準備してください」
ルーデウスは高級そうな椅子に座り、抱いていたアイシャを下ろした。
「そんなの無理だよ。今日はお兄ちゃんとサラ姉の分しか作ってないし」
「じゃあ、俺の分をルーディアにあげましょう」
「ダメだよ!」
アイシャが首を横に振り、ルーデウスの手を握る。
「私はお兄ちゃんとサラ姉のために作ったんだよ?会ったこともないお姉ちゃんと、よく分からない子供のために作ったんじゃない」
「アイシャ」
「お兄ちゃんが食べないならいいよ。だったら私が………」
「アイシャ」
ルーデウスは諭すような声で、アイシャの頬に手を添えた。
「ルーディアは過酷な旅を終え、ようやく俺達の元へ帰ってきたんです」
「でも………」
「今度出張へ行った時は、アイシャの大好きな花の種を買ってきますから、今日は、俺の我儘を聞いてください」
ルーデウスの説得に、アイシャはしばらく黙り込んだ後、何も言わず、頷きだけを返した。
その様子を見て、ルーデウスの表情が和らぐ。
「ありがとうございます。アイシャは賢い子ですね」
「うん……でもお腹が空いたらすぐ言ってね?家にある物で何か作るから!」
「ええ、助かります」
それだけ言い終えると、アイシャは部屋から小走りで去っていった。
「………」
アイシャ………
確かに、いきなり会ったことのない兄弟を連れてこられたら、迷惑だよね……
ごめんなさい……
「ちょっとルーディア、なんであなたが悲しい顔をしてるんですか」
俯く私を見て、ルーデウスは薄く笑いながら椅子から立ち上がる。
「……兄様、その、私、やっぱり邪魔でしたかね……」
「アイシャの事は気にしないでください。ここで過ごしていけば、いずれ分かり合えます」
ルーデウスはそう言ってくれるが、本当に分かり合えるのだろうか?
パウロとノルンの時みたいに、また私は、家族に迷惑をかけてしまわないだろうか……?
それに、今の私にはアルスもいる。
魔術しか取り柄のない私に、この家でできることなんてあるのだろうか。
やっぱり、寮を借りて生活した方が……
「兎にも角にも、ルーディア」
情けなく立ち尽くす私を、ルーデウスは優しく抱きしめる。
そして私の耳元で、小さく、しかし私に聞こえる声で、こう言ってくれた。
「お帰りなさい」
たった一言。
それだけだった。
「あれ………?」
だけどいつの間にか、私の頬からは涙が流れ落ちていた。
「ごめんなさい、兄様……ちょっと……」
「大丈夫ですよルーディア。あなたは今まで、頑張ってきたんでしょう?」
頑張った。
「………はい」
……そう、今まで私は、頑張ってきたんだ。
魔大陸に飛ばされ、そこを横断し、ミリス大陸へ渡った。
途中で冤罪をかけられ、大森林では死にかけた。
ようやく中央大陸に到着したと思ったら、また命の危機に陥った。
そうだ。
私はただ、家族に会いたかっただけなんだ。
ただ『お帰り』って、言って欲しかっただけだ……
「兄様、私……頑張ったんです」
「……そうですね」
「魔大陸に飛ばされました」
「………はい」
「何度も、命を失いかけました……」
「はい」
「それでも私、とっても頑張ったんです……」
鼻が詰まって、自分でも何を言っているのか分からなくなってくる。
「分かっていますよ」
それでも、ルーデウスは私の頭を優しく撫で、微笑みながら話を聞いてくれている。
「これから少しずつ話していきましょう。今までの事、そして、これからの事を」
丸くなったなルーデウス!
一体何があったんだ!?