〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた   作:肉と米と愛

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二面性

 

 夕食を終え、アルスを寝かしつけた後、私はリビングでルーデウスと話をしていた。

 

 ルーデウスは魔力災害により、中央大陸の紛争地帯に転移していたらしい。

 

 「酷いところでした。昼夜問わず剣を打ちつけ合う音が鳴り響き、最初の一週間はまともに寝ることすらできませんでした」

 

 紛争地帯。

 そんな危険な場所で、ルーデウスは何ヶ月も過ごしていたのか……

 

 「兄様も、よく今まで生きていけましたね」

 

 「ええ、ですが学ぶには十分すぎるほどいい場所でし………いや、俺のことはもういいでしょう」

 

 ルーデウスはそこまで言うと、首を横に振った。

 

 「それよりも俺が聞きたいのは……」

 

 そして、彼の視線がソファで寝ているアルスへ移動する。

 

 「あれは……あなたの子ですか?」

 

 「……はい、アルスって言うんです」

 

 天使のような寝顔で眠るアルスを見て、表情が和らぐ。

 

 「エリオットとの子供、ですか?」

 

 しかしルーデウスの言葉に、和らいでいた表情が一気に強張った。

  

 相手の名前を尋ねられたからじゃない。

 ルーデウスから彼(エリオット)の名前が出てきたことで、彼の姿をより鮮明に思い出してしまったのだ。

 

 「………はい」

 

 私の返答に、ルーデウスは表情を変えることなく、"そうですか"と呟いた。

 

 「それで、彼は今どこに?」

 

 「それは………」

 

 なんと言えばいいのか分からずに、言葉が詰まってしまう。

 

 彼はもう、私のそばにはいない。

 けれど、それをどう説明すればいいのだろう。

 

 「………」

 

 ルーデウスもそれ以上は何も言わず、顔を下に向ける。

 

 部屋にはしばらくの間、静寂が訪れた。

 

 キィ………

 

 「ルーデウス様、失礼します」

 

 嘘のように静まり返った部屋の扉から、サラが入ってきた。

 彼女の両手には、黄金に煌めく剣が抱えられている。

 

 「王竜王国から献上された品が、到着いたしました」

 

 「………」

 

 サラはルーデウスの前まで来ると片膝をついて、その剣を彼に差し出した。  

 

 「魔界の名工ユリアンにより作られた、王竜剣カジャクトに次ぐ名剣、『王竜剣アストリオン』です」

 

 「………」

 

 黄金に輝くその剣からは、美しくも恐ろしい気配が漂っている。

 

 王竜剣カジャクト。

 

 剣についてあまり知識のない私でも、一度は耳にしたことがある。

 それに加えて、あの王竜王国からの貢ぎ物。

 

 ルーデウス……この男は一体……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ルーディア」

 

 そんなことを考えていると、ルーデウスが下を向いたまま、私に声をかけてきた。

 

 「魔大陸を渡ったのなら、ミリス神聖国を訪れたはずです」

 

 「………ええ、ミリス大陸で一番栄えている場所ですから」

 

 「そこに父さんがいたはずです。あの人はどうしたんですか?」

 

 「………」

 

 パウロ。

 私の父親だった人。

 

 「ごめんなさい兄様、あの人とは………」

 

 パウロは私を信頼してくれていたのに、私は彼の期待に応える事ができなかった。

 

 だから、パウロと最後に会ったあの日から、私はもうグレイラット家の人間ではなくなったんだ。

 

 「………なるほど、そうですか、そうなんですね」

 

 ルーデウスは頷きながら、掠れたような声で笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バキッ!!

 

 次の瞬間、ルーデウスは持っていた『王竜剣アストリオン』を握りしめ、その刃を砕いた。

 

 ゾクゾク……

 

 それと同時に、ルーデウスからとてつもない『殺気』のようなものが溢れ出してくる。

 

 「全くどいつもこいつも、役に立たないクズ共が……」

 

 その圧倒的な威圧感の前に、私は恐怖し、硬直してしまう。

 

 「ああ、もういっそのこと、全員『処分』してしまおうか」

 

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 

 本当にこの人はルーデウスなのか?

 本当は見境なく人を襲う獰猛な魔物じゃないのか?

 

 そう錯覚してしまうほどに、彼から感じる『殺気』は凄まじい。

 

 「ちょっとお兄ちゃん!」

 

 ガクガクと震える私の背後から、夕食の片付けを終えたアイシャが現れた。

 

 「床に落ちた剣の破片を片付けるのは私なんだよ!?余計な仕事を増やさないでよ!」

 

 異様な殺気を放つルーデウスに臆することなく、アイシャは彼の横に立つと、顔を膨らませてそう言った。

 

 「………」

 

 ルーデウスの左腕が、アイシャへと伸びていく。

 

 やばい、アイシャが殺される……

 

 「兄様!待っ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハハ、すいませんアイシャ」

 

 しかし、ルーデウスの左手がアイシャの首に届くことはなかった。

 

 ルーデウスはアイシャの頭に手を置くと、顔を上げた。

 表情は嘘みたいに清々しい笑顔だ。

 

 「少し熱くなりすぎました」

 

 「もう!サラ姉も少しは止めてよね!」

 

 「………ごめんなさい」

 

 さっきまでの出来事が嘘だったかのように、部屋にはフワフワとした雰囲気が漂い始める。

 

 「………」

 

 訳が分からない……

 なんでアイシャは、あんなに恐ろしかったルーデウスにズカズカと話しかけられるんだ?

 

 彼と一緒に過ごしていたから、こういうことには慣れているのか?

 

 兎にも角にもアイシャの登場により、私は助かった……

 

 「ルーディア」

 

 安心して胸を撫で下ろす私に、再びルーデウスが声をかけてきた。

 

 「………はい」

 

 「怖がらせてしまって申し訳ありません。余計な心配をかけてしまいましたね」

 

 「いえそんな、全然大丈夫です……!」

 

 ルーデウスは椅子からゆっくりと立ち上がり、床に散らばった刃の破片を避けながら私の前に立つ。

 

 そして、傷一つない綺麗な右手で私の頬を撫でた。

 

 「あんな奴らのことは忘れましょう。あなたはもう、自分の好きなように生きていいんです」

 

 「………兄様」

 

 ルーデウスの優しい声で、私はようやく気づけた。

 

 そうだ。

 兄様は、何も変わっていないんだ。

 

 いつも何を考えているのか分からない。

 怒ると誰よりも怖い。

 だけど、私が生きていることを喜んでくれる。

 

 そんな、私にとってたった一人の兄なんだ。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 アスラ王国王都。

 

 これは、ルーディアがラノア魔法大学を訪れる数年前。

 アリエル王女がラノア王国へ旅立った後のことである。

 

 「ええい!離せ!儂をどこへ連れて行くつもりだ!」

 

 フィットア領の領主であるサウロス・ボレアス・グレイラットは、屈強な二人の護衛に両腕を押さえつけられながら、薄暗い廊下を歩かされていた。

 

 サウロスの叫び声が周りに届かぬよう、護衛達は人が滅多に通ることのない道を進んでいく。

 

 「ん?なんだここは!?」

 

 辿り着いた先は、王宮の隅にある小さな部屋だった。

 

 キィ…………

 

 護衛の一人が扉を開けると、サウロスは引きずられるように部屋へと連行された。

 

 部屋はサウロスが想像していたよりも広かった。

 正面には細長いテーブルが用意されており、その上には豪華な食事が用意されていた。

 

 「ようやく連れ出してきたようですな」

 

 そして、そのテーブルの横に座り、悪魔のような笑みを浮かべている男を見て、サウロスは顔を顰めた。

 

 「貴様は、ダリウス……!」

 

 アスラ王国上級大臣

 ダリウス・シルバ・ガニウス

 

 「やっとか、どこかで野垂れ死んでいるのではと少々心配したぞ」

 

 「グラーヴェル、貴様まで……!」

 

 そしてテーブルの奥で座る男は、アスラ王国第一王子

 グラーヴェル・ザフィン・アスラ

 

 両者とも、フィットア領で起きた魔力災害の責任をサウロスに押し付けた張本人だ。

 

 「発言は慎めサウロス。貴様が生きているのは奇跡に近いのだぞ?」

 

 「………このゲス共が!」

 

 しかし、グラーヴェルの言う通り、サウロスが今この時まで生き延びているのは奇跡に近いことだった。

 

 本来ならばサウロスは、フィットア領の魔力災害の責任を押し付けられた時点で、処刑されていたはずだった。

 

 それでも、ある『理由』から、サウロスは生き延びた。

 いや、生かされたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キィ……………

 

 サウロスがグラーヴェル達を罵倒していると、部屋の扉が再び開いた。

 

 「すいません。遅れましたかね?」

 

 薄暗い廊下から、深くフードを被った人物が部屋へと入ってきた。

 

 男は貴族らしからぬ服装をしており、サウロスは眉をひそめた。

 

 「いいえ、むしろ丁度よろしいタイミングです」

 

 ダリウスは食事の手を止めて立ち上がると、フードをかぶった人物に頭を下げた。

 

 「お久しぶりです。お互い顔を合わせるだけでも一苦労ですね」

 

 そう言いながらフードを下ろす男の顔を見て、サウロスは驚愕の表情を浮かべた。

 

 「馬鹿な……何故お前がここに……!」

 

 困惑するサウロスを無視し、男はグラーヴェルの前に立つと、右手に持っていた紙束を差し出した。 

 

 「約束通り、グラーヴェル様がお喜びになるような品を持ってきましたよ」

 

 「ほう………」

 

 グラーヴェルは差し出された紙束を受け取り、そこに書かれた内容を確認しようとした。

 

 「これはなんだ?」

 

 しかしグラーヴェルは数秒もしないうちに、戸惑いの声を上げる。

 

 それもそうだろう。

 何故ならその紙に書かれていたのは、文ではなく、人の『名前』だったからだ。

 

 アスラ王国で名の知れた貴族から、聞いたこともない人物まで、とにかく紙面には名前がびっしりと書かれていた。

 

 「ご覧の通り、『名前』ですよ。他の王子と王女につく貴族から、第一王子に不満を持つ兵士達まで、全ての名前がここに書かれています」

 

 説明を終えると、ダリウスは男に向かって拍手を送る。

 

 「なんと素晴らしい!これさえあれば、王都で我々に楯突く者たちをより円滑に処理できます!」

 

 「まあまて、ダリウス」

 

 興奮するダリウスとは対照的に、グラーヴェルは冷静だった。

 

 「やはり、どうにも納得できないな」

 

 椅子に座っていたグラーヴェルは男を睨みつけ、持っていた紙束を机に置いた。

 

 「これだけの名前を集めるには、それ相応の危険が伴ったはずだ。しかし、その見返りが、何の役にも立たん老いぼれ一人の命を救うことでは、釣り合いが取れん」

 

 そう言いながら、グラーヴェルが床に組み伏せられているサウロスを指差す。

 

 「………」

 

 「貴様、一体なにを企んでいる?」 

 

 「………ハハ」

 

 グラーヴェルの問いに、男はしばらく黙り込んだ後、突如として笑い始めた。

 

 「何がおかしーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒュッ!

 

 その刹那、グラーヴェルの首が男によって掴まれた。

 

 「ッ!!」

 

 「いいですか?王子様」

 

 男は気味の悪い笑みを浮かべ、グラーヴェルの頬を撫でる。

 

 「俺が何を企んでいようが、サウロス様を生かした結果、何が起ころうが、あなたには関係のないことです」

 

 サウロスを押さえつけていた護衛たちが動こうとしたが、ダリウスが片手を上げて制止した。

 

 「も、申し訳ありません! 今後、我々はあなたのことを詮索しないと約束しましょう!」

 

 「……と、ダリウス様は仰っていますが、グラーヴェル様はどうお考えで?」

 

 男に対する敵意は消え去り、グラーヴェルに残っていたのは、恐怖だけだった。

 

 グラーヴェルの顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。

 目の前の男が何者なのか、彼は知っていた。

 そして、決して逆らってはならない相手であることも……

 

 「分かった………私はお前に関与しない。アスラ王国第一王子の名において、約束する……」

 

 その言葉を聞くと、男はようやくグラーヴェルの首から手を離した。

 

 「ありがとうございます。これからもお互い、『いい関係』を築いていきましょう」

 

 男はグラーヴェルから離れると、今度は床に這いつくばるサウロスのもとへ向かった。

 

 「サウロス様、お久しぶりです。随分とやつれましたね」

 

 男がサウロスの前でしゃがみ込む。

 

 「何故お前がここにおる!答えろ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルーデウス!!」

 

 サウロスの怒号に、ルーデウスは薄い笑みを貼り付けたまま、彼の額に指をつけた。

 

 「やつれていても中身は変わっていないようですね。よかったよかった」

 

 「質問に答えろ!儂を解放しろ!」

 

 さらに暴れるサウロスを、護衛の二人は必死に押さえつける。 

 

 「落ち着いてください。あなたに危害を加えるつもりはありません。フィリップ様もヒルダ様もね」

 

 「!?」

 

 息子のフィリップと、その嫁であるヒルダの名前を聞いて、暴れていたサウロスの動きが止まった。

 

 「フィリップ達の居場所を知っているのか!?」

 

 「ああ………」

 

 ルーデウスは頭を掻きながら、"やってしまった"と小さく呟いた。

 

 「答えろ!フィリップ達はどこにいる!」

 

 「教えるわけないじゃないですか。それに、教えたところで、今のあなたに何ができるって言うんですか?」

 

 「この……ふざけるな!!」

 

 再び暴れ始めるサウロスを見て、ルーデウスは大きなため息を吐いた。

 

 「では、俺もやらなくてはならない仕事が残っているので、そろそろ帰らせてもらいます」

 

 「え、ええ……」

 

 出口へ向かうルーデウスを見て、ダリウスは密かに胸を撫で下ろした。

 

 「では、約束通りにお願いしますね?」

 

 バタン………

 

 ルーデウスは扉を閉め、静寂に包まれた廊下を一人で歩いていく。

 

 (………計画は順調だ。素晴らしいほどに)

 

 ルーデウスの口角が、不気味なまでに上がる。

 

 サウロスも、ダリウスも、グラーヴェルも。

 誰一人として、自分が何を進めているのか理解していない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (全員、俺の掌の上で踊らされているとも知らずに)

 

 

 

 

 

 




秒で壊された『王竜剣アストリオン』
もう出てくることはありません。
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