〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた 作:肉と米と愛
突然だが、最近の私にはある悩みがある。
『………』
それは、私の横で耳を赤くしている、白髪のエルフの少年が関係している。
彼はフィッツ先輩。
アスラ王国第二王女であり、ラノア魔法大学の生徒会副会長を務めているアリエル様の守護術師だ。
本来なら、そんな凄まじい経歴を持つ人と仲良くなれるなんて願ってもないことだ。
『………』
問題は、その彼が私に対して、好意を寄せているということだ。
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始まりは、学校に入学してから一か月ほどが経った頃。
午前中でやることが終わることに気づいた私は、午後に図書館で本を読み漁るのが日課になっていた。
読む本は大体この世界の歴史について探求するものか、魔術に関する内容だ。
前世でも本を嗜む方だった私にとって、まさに図書館は夢のような場所だった。
ルーデウスやサラは一日中忙しいし、ザノバも午後は人形観察に勤しんでいる。
静かに本を読む時間ができたと喜んでいた矢先……
「や、やあ。ルーディア……ちゃん……?」
私が図書館に来るのを知っていたかのように、フィッツ先輩が待ち構えていたのだ。
最初は偶然かなぁと気にしていなかったが、三回連続で顔を合わせたところで、彼が私の後をつけて先回りしていることに気がついた。
普通にストーカーだ。
もし彼がイケメンじゃなければ、私は迷わず彼をブタ箱にぶち込んでいただろう。
……というのは冗談。
別に後をつけられることに不快感はないし、相手が私に好意を寄せてくれているのは、素直に嬉しい。
本当の問題は別にある。
私にそんな気はないということだ。
確かに好意を寄せられるのは嬉しい。
フィッツ先輩はイケメンだし、男としての魅力もある。
私もできることなら、彼の気持ちに応えてあげたい。
だけど私にはもう、家族以外の誰かを愛したり、信頼する勇気がない。
また、あの時のように裏切られるかもしれない。
どれだけ相手を信じても、最後には見捨てられてしまうかもしれない。
そんな不安を抱えながら誰かを愛するくらいなら、恋愛なんてしない方がいい。
それに今は、私を大切にしてくれる家族がいる。
フィッツ先輩には申し訳ないけれど、これがお互いに幸せになれる道なのだ。
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「何か困ったことがあったらすぐに教えてよ!」
「あ、ありがとうございます……」
それでも、私は何故か彼からの好意を断ることができない。
彼を傷つけたくないという気持ちもあるし、何より、彼と過ごす時間そのものが嫌いではなかったからだ。
そうして曖昧な会話を繰り返し続けた結果、フィッツ先輩とは何とも言えない関係になってしまった……
今では窓際の席で、二人並んで本を読むような感じになっている。
あぁ、最初に恋愛に興味はないときっぱり言っておけば、こんなことにはならずに済んだのに……
これじゃあ断るのがもっと難しいじゃないか。
「………はあ」
隣にフィッツ先輩が座っているにも関わらず、私は深いため息を吐いてしまった。
「あ……ごめん……」
そのせいで、隣で話していたフィッツ先輩は押し黙ってしまう。
しまった……!
「そ、そういえばフィッツ先輩!ちょっと分からないところがあるんですけど!」
私は慌てて彼の横に詰め寄り、読んでいた本を真ん中に置いた。
「本当……!分からないところはどこだい!?」
ついさっきまで落ち込んでいたフィッツ先輩の表情が、みるみるうちに明るくなっていく。
か、可愛い……
そんな先輩を見ていると、何故か懐かしいような感覚に陥ってしまう。
いかんいかん。
咄嗟に話を振ったせいで、何を聞こうか考えていなかった。
とりあえず、真ん中に置いた『転移の迷宮探索記』という本について聞いてみるか……
「私、転移についてよく知りたいんですけど、この本だけじゃあよく分からなくて……」
「いいけど……なんで転移なんか知りたいの?」
フィッツ先輩は首を傾げ、不思議そうな表情で私を見る。
あまり不幸自慢みたいなことはしたくないのだが、仕方がない。
「………実は私、昔はアスラ王国のフィットア領に住んでいましてね。例の転移事件で、家族や友達と離れ離れになってしまったんです」
「ッ!! そう……なんだ……」
「その間に家族は見つかったようですが、まだ幼馴染が一人、どこにいるのか分からないんです」
幼馴染とは、シルフのことだ。
彼もまた、転移事件のせいで居場所が分からなくなっている。
行方不明者リストに名前が載っていたので、どこかで生きてはいるはずだが、未だにその足取りは掴めていない。
「だから、私からも何か転移について調べて、幼馴染を見つける手掛かりになればと……」
「なるほどね………」
私が説明を終えると、フィッツ先輩は右手で顎をさすり始める。
なんだか少し嬉しそうだ。
ガタ!
「そういうことなら僕に任せてよ、転移に詳しい人を一人知っているんだ!」
そう言って突然立ち上がるフィッツ先輩。
「本当ですか?」
「うん、転移っていうよりは、召喚魔術の専門家って言った方がいいのかな……」
召喚魔術ね。
転移魔術とは違うものなのだろうけど、何かしら共通点はあるかもしれない。
「ならぜひ紹介して欲しいです!」
ともかく、そんな専門家と呼べる人物がいるのなら、ぜひ会ってみたい。
仲良くなって損はないからね。
でも専門家って言うほどだから、恐らくは髭の生えたおじさんか、おばさんだろう。
私、仲良くできるかなぁ……
「分かった、じゃあ早速会いに行こう!」
私の不安などつゆ知らず、フィッツ先輩は見たことがないくらい嬉しそうな笑みを浮かべていた。
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「ここにサイレント・セブンスターがいるんだ」
フィッツ先輩に案内された場所は、図書館から少し離れた塔だった。
中には長い螺旋階段が続いていて、少しカビ臭い。
いかにも気難しい専門家がいそうな雰囲気だ。
どうしよう、本当に仲良くなれるのか不安になってきた……
「さっそく上に行って………ん?」
コツ……コツ……
フィッツ先輩が階段に一歩踏み出したその時、上の方から、階段を降りる音が聞こえてきた。
コツ……コツ……
乾いた石の上を歩く音が、段々とこちらへ近づいてくる。
やばい、もしかしてサイレント・セブンスターさん本人が降りてくる……!?
どうしよう、まだ何を話すかも決めてないのに……!!
コツ……コツ……
「あ……」
慌てふためいている間に、螺旋階段から降りてきた人物と目が合う。
「おや………?」
しかしその人物は、サイレント・セブンスターではなかった。
「兄様……?」
だってその人物は、ルーデウスだったんだから。
「ルーディアにシル……フィッツ。どうしたんですか、こんなカビ臭いところに?」
「いや、ただサイレント・セブンスターさんに一目お会いしたいなぁと思って……」
だけど、ルーデウスの様子が少しおかしい。
なんか焦っているような……そんな感じがする。
「兄様こそ、ここに何しに来たんですか?」
「俺ですか……?」
私の問いに、ルーデウスは少しの間黙り込む。
「………まあ、俺もルーディアと同じような感じです」
「へぇ……」
嘘だな。
あまりに白々しすぎる。
「じゃあ生徒会の仕事もあるので……さよなら」
「あっちょ!!」
引き留めようとする私を無視して、ルーデウスは塔からそそくさと逃げていった。
先ほどまで目の前にいたはずのルーデウスが、あっという間に遠ざかっていく。
「………フィッツ先輩、この後生徒会の仕事はありますか?」
「………ないね。基本的に生徒会の仕事は、午前と夕方だけだから」
なるほど、つまり今の発言も嘘か……
ますます怪しくなってくるな。
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長ったらしい螺旋階段を登り終え、私達はようやくサイレント・セブンスターの部屋に辿り着いた。
「はあ……はあ……」
もう私は酸欠寸前だ。
全く、こんな無駄に長い階段を登るなんて、頭おかしいんじゃないの……?
「大丈夫かい?」
額に少しだけしか汗をかいていないフィッツ先輩が羨ましい。
コンコン……
しばらくして、フィッツ先輩は私が呼吸を整えるのを確認すると、とうとう目の前のドアをノックした。
「はーい」
ドアの向こうから、若い女の人の声が聞こえる。
あれ?
思っていたよりも、若い……?
ガチャ………
ドアが開かれ、サイレント・セブンスターの正体があらわになる。
「どうしたの、忘れ物でもした…………の?」
部屋の中から出てきたのは、髪の乱れた黒髪の少女だった。
しかも、その格好は下着姿。
『…………』
お互いに予想もしなかった展開に、私達はしばらくの間見つめ合う。
「………たい」
そして、黒髪の少女が、そう呟いた。
「変態!!」
バチン!!
フィッツ先輩が平手打ちをされて、吹き飛ばされた。