〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた 作:肉と米と愛
外
この世界に来てから、俺は外の世界を避けていた。
庭へ出て、数歩歩けば外の世界。
しかしその数歩を、俺は踏み出す事ができない。
庭を出れば、思い出されるのは前世の記憶。
ある時には校門に全裸で磔にされ、ある時には家の前にクラスメイトが集まり、俺をからかい続けた。
思い出したくもない記憶が、何十年も経った今でも俺の心と体を蝕み、足枷となっていた。
とにかく、俺が外へ出るということは、自分の過去と向き合うということなのだ。
俺には……それが出来ない。
この世界に来て、後悔しない生き方をすると決めたのに、俺は外に出る事すら出来ない。
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そんなトラウマを抱えた俺を無視し、ロキシーは卒業試験は外でやらなければならないと言い出した。
試験で扱う魔法が、周りの家などに被害を及ぼす可能性があるからだという。
俺は必死に訴えた。
『試験の内容を変えよう』と……
しかし、ロキシーは断固として試験を変えようとはしなかった。
「この魔術だけは、ルーディアに見せておきたいんです」
ロキシーはやや興奮気味にそう言った。
師匠として、最後にいいところを見したいのだろう。
いい迷惑だ。
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必死の抵抗も虚しく、ゼニスとパウロにより、俺は庭へと放り出された。
庭では、ルーデウスが呑気に昼寝をしている。
「ルーディア、準備はできましたか?」
声がする方向へ振り向くと、そこにはロキシーと、彼の倍ほどある巨大な馬がいた。
「師匠、やっぱりやめましょうよ……」
「無理ですよ、パウロさんからわざわざ馬もお借りしたんですから」
ロキシーは馬を引き連れながら、俺の元へと近づいた。
嫌だ……
行きたくない……
俺は必死にロキシーから目を背ける。
「ははぁん……さてはルーディア、怖いんですね?」
「は……はい」
「馬が」
ロキシーは馬の頭を撫でながら、ニヤニヤと俺を見つめてくる。
「馬は怖くないです……!」
「そうですか、じゃあ一体何が怖いと言うのです?」
「そ、それは……」
外が怖い。
そんな事言ったら、ロキシーは笑うのだろうか?
いやいや、あの優しいロキシーだ。
彼に限ってそんな事はないはずだ……多分……
でももしかしたら、心の中で笑われてたり……
ああダメだ……
外の世界の事を考えれば考えるほど、どんどん卑屈になってしまう。
「ルーディア?」
ロキシーに名前を呼ばれ、俺は跳ね上がる。
「本当に大丈夫ですか?顔色が悪そうに見えますが……」
来た、チャンスだ。
ここで体調が悪いと嘘をつこう。
治癒魔術をかけられても、痛がってる振りをすれば、しばらく試験は延期になるはずだ。
その後のことは……ああもういい、考えるのも面倒だ。
「師匠、やっぱり私ーーー」
「あぁぁぁぁ……」
その時、庭で寝ていたルーデウスが目を覚ました。
ルーデウスはダルそうに立ち上がると、俺達の方を見る。
「ロキシーにルーディア、まだ行ってなかったんですか?」
「はい、ルーディアが中々外に行きたがらなくてですね……」
ロキシーがそう言うと、ルーデウスは頭をかきながら俺に近づいてきた。
「へえ、意外と歳相応なとこあるじゃないですか」
「………」
薄ら笑いを浮かべながら、俺を見下ろすルーデウス。
「……全く、仕方ないですね」
ルーデウスはため息を吐くように言うと、俺を軽々と抱き上げた。
なんて馬鹿力だ……!
「えっちょッ!」
慌てふためく間もなく、次の瞬間に、俺はルーデウスと共に馬に跨っていた。
「途中まで、俺もついていきますよ」
馬の上は温かく、とても不安定で、ルーデウスに掴まれていなければすぐに落ちてしまうだろう。
「いいのですか?今日もパウロさんとの剣術の稽古があるのでしょう?」
「いいんですよちょっとくらい。それに、俺も外に野暮用があるので」
ロキシーはしばらく考える素振りを見せた後、俺とルーデウスの後ろにつく形で馬に乗った。
「そういう事なら、途中までお願いします」
「え、いや師匠……!」
俺が言い終える前に、馬が歩き始める。
パカラッ
馬が一歩踏み出すと、俺は無意識に目を閉じた。
外……
考えるだけでも恐ろしいのに、今俺はそこに向かおうとしている。
あぁ、生き地獄だ……
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馬の歩く音を聞きながら、俺は恐怖で目を閉じている。
「ルーディア、目を開けないんですか?」
ルーデウスが不思議な声で聞いてきた。
「………」
俺は勇気を振り絞って、うっすらと目を開けてみる。
目の前に広がるのは、美しい畑と、そこで仕事をしている村人達。
時折、村人達から向けられる視線のようなものに、俺の心が針で刺される感覚に陥る。
見るなよ……
「ロキシー君に、ルーデウスじゃないか、こんにちは」
仕事をしていた村人の人が、元気な声で挨拶をしてきた。
『こんにちは』
後ろにいるルーデウスとロキシーは、さも当たり前のように挨拶を返す。
村人はそのまま俺達を通り過ぎ、また同じように仕事へ戻っていった。
え……これだけ?
呆気に取られる俺を置いて、俺達を横切る村人が、次々に挨拶をしてくる。
しかし、挨拶をするのは俺ではない、ロキシーとルーデウスだ。
そこで、ようやく俺は気づけた。
俺じゃないんだ。
村人から向けられる視線も、挨拶も、全て俺に向けられたものじゃない。
ロキシーとルーデウスに向けられたものだ。
ロキシーは一年前にここへ来た。
魔族という人族とは違う種族で、奇異な目を向けられていたかもしれない。
けど彼は、今では挨拶をされ、この町で認められる存在になっているのだ。
ルーデウスもそうだ。
いつから外に出始めたのかは分からないが、それでも彼は、見知らぬ人達とコミュニケーションを取っている。
そう気づいた瞬間、胸を締めつけていた何かが、少しだけ緩んだ。
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「じゃあ、俺はここで」
家を出てしばらくして、ルーデウスは村の端っこのところで馬から降りた。
「帰り道は……流石に分かりますよね?」
「馬鹿にしてるんですか?」
「いえ、ならいいんですが」
ルーデウスと別れを告げ、俺とロキシーの二人だけとなる。
「……ルーディア?」
馬の上で揺られているロキシーの声が背中から聞こえてきた。
「どうしました?」
「昨日の夜、ルーデウスと一体どんな話をしたんですか?」
『昨日の夜』それを聞いて、心臓が少し飛び跳ねた気がした。
「……見ていたんですか?」
少し恥ずかしくなりながらロキシーに尋ねると、彼は苦笑する。
「いいえ、しかし昨夜、寝ようとしていた時に、ルーディアとルーデウスの声が隣から聞こえてきましてね」
そうだ。
ロキシーの部屋は、ルーデウスの隣だった。
完全に忘れていた。
「今日のルーデウスを見ると、あなたが何かやってくれたんですよね」
「違いますよ。私はただ、兄様と一緒に寝ただけです」
俺がそう言うと、ロキシーが後ろから俺の頬を引っ張る。
「そうやって謙遜するのは結構ですが、たまにはもうちょっと偉そうにしてもいいんですよ」
「それも全部、ロキシー師匠のお陰です」
後ろの方で"そうですか"とそっけない返事が聞こえてきたが、いつの間にかロキシーの手は、少し熱を帯びていた。
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卒業試験の内容は、水聖級魔術である『
試験中、馬に落雷がぶち当たるというハプニングが起きてしまったが、試験は無事終了。
俺は水聖級魔術『豪雷積層雲』を獲得し、晴れて水聖級魔術師となった。
「僕のお手本より大きなものを出せなんて言ってませんよ」
試験を終え、近くの倒木に座っていたロキシーが呟く。
「やりすぎでしたか?」
「ええ、しかしまさか人族の女の子に、実力で負けてしまうなんて……」
卑屈な事を言うロキシーだが、彼の顔はどこか晴れていた。
「改めて、おめでとうございます」
「あなたは、『水聖級魔術師』です」
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翌日。
ロキシーが旅立つ時が来た。
もちろん、俺や両親は引き留めた。
もうしばらくいても良いんじゃないか?
なんなら、ここで暮らさないか?
しかし真面目なロキシーは、その申し出をやんわり断った。
早朝、まだ朝日も昇っていない時刻に、俺達家族はロキシーを見送った。
「ルーディア、最後に……」
ロキシーは俺の前に立つと、自身のポケットから、ある首飾りを取り出した。
「師匠、これは……?」
「僕の故郷のお守りです。卒業祝いを準備する時間がなかったので、これで我慢してください」
そう言いながら、俺の首にその首飾りをつける。
「大切にします!師匠!」
俺はロキシーに抱きついた。
今度は悪意もなく、ただ本心で。
ロキシーも顔を赤らめることなく、俺を抱き返した。
しばらく抱き合った後、ロキシーは静かに立ち上がる。
「……では」
そして、ロキシーは後ろを向き、新たな旅路へと歩みを始めた。
「ありがとうございました!!」
後ろを振り返ることなく、前へ進むロキシーに、俺は精一杯手を振った。
姿が消えた後もずっと……ずっと……
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「あれ………?」
次の日、着替えをしようとしていたところ、パンツの一つがなくなっている事に気付いた。
リーリャさん、ルーデウスのところに間違えていれちゃったのかな……?