〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた 作:肉と米と愛
「父様!外に行ってきますね!」
朝食を終えた後、俺はルーデウスのお下がりの服を着て外に出た。
庭を出れば、俺が恐怖していた外の世界。
しかし、今はもう怖くない。
ロキシーとルーデウスが、立ち止まっていた俺を外の世界へと旅立たせてくれたのだ。
「おはようございます!」
一度外へ出てしまえば、後はもう流れに身を任せるだけで良い。
道行く村人がいれば挨拶をする。
「おはよう」
そうすれば、その人は快く俺に挨拶を返してくれる。
これがこの世界の常識なのだ。
いや、元の世界でもか……
とにかく、外の世界へと飛び出し、人とのつながり方を知った俺の行動範囲は、飛躍的に広がった。
村を練り歩き、人がいれば挨拶をする。
たったそれだけのこと、しかし、それは俺にとってとても新鮮なものだった。
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その後数日は、ゼニスから貰った植物本を片手に、村の近くを散策していた。
目新しい植物を見つけては、その場に座り込み、本に書かれている植物を探し出す。
それだけでも、かなりいい暇つぶしになった。
この世界の植物は、前世にはないものがほとんどだ。
その中には魔力を纏うものや、魔物へと変化する植物なんてのもいる。
魔法以外にも、この世界にはまだ前世にはない未知なるものや事象が沢山存在するのだ。
「へへへ……」
そう考えただけで、興奮が収まらない。
「次はあそこだな」
俺は村の端にある巨大な樹木に向かった。
やや高い丘にそびえ立つその樹木は周りにあるどの木よりも大きく、生命の神秘を感じる。
あそこから村の全貌でも見てみよう……
俺は木々の間を抜け、巨大な樹木へと近づいていく。
ドカッ!
その瞬間、背中からもの凄い衝撃が走った。
俺は体勢を崩し、そのまま前に倒れる。
「痛い!」
何が起きたのか訳も分からず、反射的に後ろを振り返った。
そこには、緑色の髪をした子供が、前のめりに倒れていた。
「だ、大丈夫?」
俺が声を掛けると、その子供はブルブルと震えながら顔を上げた。
か、可愛い………!
服や髪が泥で汚れながらも、その子供は超がつくほど可愛い顔立ちをしている。
思わず俺の心が『キュン』となってしまった。
「いたぞ!あそこだ!」
その時、村の方からど太い声が聞こえてくる。
声の方向を見ると、少しぽっちゃり体型をした少年と、その後ろを追いかける子供達の姿が……
身長的に、ルーデウスと同じくらいか?
少年達が近づいてくると、緑髪の子供は俺の後ろに隠れた。
「ん?なんだお前」
「それはこっちのセリフです。誰なんですかあなた達は?」
緑髪の子供に、それを追いかける謎の集団。
なんだ、鬼ごっこでもやってるのか?
それにしては、俺の後ろに隠れている子は怖がりすぎだと思うのだが……
遊んでいるというのなら暇していたところだ。
是非混ぜて欲しい。
「お前に関係ないだろ!さっさとそこどけよ!ブス!!」
「ブ……ブス!?」
なんだとこの野郎。
自分でもこの顔、結構可愛いと思ってたのに!
生意気なクソガキめ!
生かしておけぬ!
俺は向かってきたクソガキ達に向け、片手を広げた。
「なにする……ぶはッ!?」
手のひらから放たれた水玉が、先頭にいたガキ大将っぽい男の顔面に直撃する。
男は放たれた水玉に驚き、尻餅をついた。
「や、やりやがったな!この野郎!」
それと同時に、後ろで構えていたクソガキ達が一斉に飛びかかってきた。
「えッちょ!」
ダメだ、魔術の特訓はしてても、武術はからっきしなんだよ俺……
走るクソガキ達に水玉をぶつけるが、多勢に無勢、俺はクソガキの一人に腹を殴られる。
「ぐへぇッ!」
おい……俺は女の子なんだぞ……?
本気のパンチを喰らわされ、俺はその場にうずくまった。
「ふざけやがって……おい!」
ガキ大将の合図で、俺はクソガキ四人に組み伏せられる。
目を開ければ、そこには敵意を剥きだしにした目が……
その目を見て、俺の中に隠れていたトラウマが一気に蘇る。
「は、離せ!」
「お、おい!こいつ力……!」
俺は必死に抵抗し、押さえつけられている四肢を動かそうともがいた。
「この!」
ボカッ……!
その時、ガキ大将の放った一撃が、俺の顔面に直撃した。
その痛みに、俺の動きが鈍る。
その隙を、子供達は逃さなかった。
「やっちまえ!」
ボコッ!
バコッ!
鈍い音が聞こえると同時に、俺の体中が激しい痛みに襲われる。
痛い……
痛い……
体が動かせない。
逃げれない。
その事実が、俺を更なる恐怖に陥れる。
嫌だ……誰か
助けて……!
「やめろ!!」
凄まじい怒号が聞こえた。
「な、なんだコイツ…!」
困惑するガキ大将の声がすると、俺を抑えていた腕が離れる。
しかし、痛みで体が動かせない。
「………ッ」
痛みに耐えながら、俺はゆっくりと目を開けた。
「離せ……!この……魔族が!」
視界にいたのは、ガキ大将の上に乗り、体をうずめている緑髪の子供だった。
「ソマルから離れろ!!」
周りにいる子供達が、ガキ大将から緑髪の子を引き離そうと、殴る蹴るなどの暴行を加え始める。
「や、やめろ……!」
俺はなんとかして声を張り上げようとしたが、結果として出た声は、ひどく掠れていた。
次第に視界がボヤけ、暗くなっていく。
ダメだ……
落ち……る……
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「……ああ」
意識が戻り、最初に覚醒したのは嗅覚だった。
良い匂い。
果実のように甘酸っぱい匂いが、俺の感覚を研ぎ澄ます。
薄らと目を開けると、真っ赤に染まった夕日が広がっていた。
「あ、起きました?」
ぼんやりとその空を眺めていると、隣で聞き馴染みのある声が聞こえてくる。
視界の端から顔を出したのは、やはり、ルーデウスだった。
「兄様……なんで…」
痛い……
「喋らない方がいいですよ。喉も腫れてるじゃないですか」
俺の意識が戻ったのを確認すると、ルーデウスは呑気に寝そべり始める。
「全く……ようやく外で遊び始めたと思ったら、早速喧嘩ですか。良いご身分ですね」
は……?
あれが喧嘩だと?
断じて違う。
あれは明らかなイジメだ。
「ちが……う」
「はい?」
「あいつら……イジメ……てた」
俺は今出せる最大限の声を振り絞って、誤解を訂正した。
それほどまでに、今のルーデウスの発言を、俺は許すことができなかったのだ。
「イジメ?ああ、シルフの事ですか?」
「シル……フ……?」
聞いたことのない言葉に、俺が反復をすると、ルーデウスは"ああそうか"と言いながら頭を掻く。
「あなたが助けようとしていたのは、緑髪の子のことでしょう?あの子はシルフ、あなたと同い年の少年ですよ」
シルフ……
中性的な顔をしていたけど、やっぱり男だったのかよ……
「それにしても、あの泣き虫のシルフが、ボロボロのルーディアを抱えて俺の前に現れた時は、流石に驚きましたよ」
「え……?」
俺が気絶してる間に、一体何が起きたんだ?
「詳し……く…ゲホッ!」
俺はその場で激しく咳き込む。
喉が、焼けるように痛い……
「あーあー言わんこっちゃない」
ルーデウスは特に焦るわけでもなく、俺をゆっくりと持ち上げ、背中に乗せた。
「そろそろ帰りますか。母さんのところに行けば、多分治してもらえるでしょう。面倒な事にはなりそうですが……」
面倒くさそうに悪態をつきながら、ルーデウスは帰路への歩みを始めた。
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「ルーディア!」
家の近くまで来ると、玄関のそばで座っていたパウロが、こちに駆けつけて来た。
「父……様……」
「全身傷だらけじゃねぇか!誰にやられた!言え!」
「そんなことよりも、まずは治療でしょう……」
興奮しているパウロに呆れながら、ルーデウスは俺を背負い家の中へと入った。
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その後、ゼニスやリーリャから手厚い看護を受け、俺の体はなんとか元通りになった。
「ルーディア、本当に大丈夫?」
「はい、だいぶ良くなりました」
自分の喉が戻ったのを確認し、安堵のため息が出る。
こういう時、治癒魔術は本当に便利だ。
「柄にもなく人助けなんてするから、そんなことになるんですよ」
椅子に座って夕食を食べるルーデウスが、冷たくそう言った。
「ルディ!なんで助けてやらなかったんだ!」
そんなルーデウスの姿を見て、パウロは机を叩く。
「それを言うなら、助けられなかったシルフに言ってくださいよ。俺はたまたま通りかかっただけなんですか」
「………クソ!!」
正論をぶつけるルーデウスに、パウロの怒りはさらに燃え上がる。
「ソマル坊のところへ行ってくる!」
「良いんです、父様」
俺は外へ行こうとするパウロの腕を強く掴んだ。
「なんでだ!お前だって悔しいだろ!」
「悔しいには悔しいですが、先に手を出したのは……私です。父様が関わるべきことじゃありません」
「そ、それは……」
俺がはっきりとそう言うと、パウロの言葉が詰まる。
正直、俺はもうこの件を忘れてしまいたかった。
そうしないと、また過去を思い出してしまうから……
また、同じ過ちは繰り返したくない……
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次の日。
いつものように目覚め、朝食をとる。
しかし、いつもとは違い、食欲が湧かない。
理由は、分からない。
分かりたくも……ない。
『………』
そんな俺を、みんなは黙って見ていた。
申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
イジメを止めようとしたのに、逆にイジメられた。
これじゃあ、前世と同じじゃないか……
その事実を噛み締めるたび、嫌悪感と無力感に襲われる。
"
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「……あれ?」
リビングで横になっていると、窓のそばで座っていたルーデウスが、突然声を上げた。
しばらくすると、ルーデウスは外へと出て行ってしまった。
まあ、そんなこともうどうでも良い。
外に出たら、またあいつらにイジメられるかもしれない。
大人しく家で過ごしてよう……
「ルーディア、お客さんですよ」
その時、外へと出て行ったはずのルーデウスが、玄関から顔を出して来た。
お客………まさか……あのいじめっ子達か?
その考えが頭をよぎると、俺は体から一気に血の気が引いていくのを感じた。
「失礼します……」
しかし、ルーデウスに連れられ、家に入って来た人物は、あのいじめっ子達のメンバーではなかった。
染めたのかと疑ってしまうほど緑色の髪に、整った顔立ちをした少年。
俺がイジメから救えなかった……シルフだ。
いじめっ子達ではないと分かり、一瞬の安堵するが、俺はすぐ新しい不安に駆られる。
"何しに来たんだ?"
助け切れなかった俺を、責め立てに来たのか?
絶対にそうだ……そうに決まってる。
「あ、あの……」
「はい……」
シルフはぎこちない笑顔を浮かべながら、頭を下げた。
「ルーディア……さん、昨日は助けてくれて、ありがとうございました」
「え……」
そしてシルフは、片手に持っていたピクニックバスケットを俺に差し出して来た。
俺はそれを、恐る恐る両手で受け取る。
渡されたピクニックバスケットは重く、ズッシリとしていた。
「これは……」
「お礼です。お母さんと一緒に作ったんだけど、おいしくなかったら、ごめんなさい」
バスケットの中には、色とりどりの料理が入っていて、食欲をそそる匂いが、俺の鼻を刺激する。
「その、僕、こんな髪だから友達がいなくて……」
「………」
「だから、君が助けてくれた時、本当に嬉しかった……です。だから………
これからも、その……僕と仲良くしてくれますか?」
そう言って、シルフは俺に手を差し出した。
いや、差し出してくれた。
後悔しかなかった前世。
イジメで不登校になり、そこから一歩踏み出せなかった人生。
今世で俺はまた、同じ過ちを繰り返そうとしていた。
また人生を投げ出そうとしていた。
だけど、彼の一言で………俺は………
気づけば、俺の視界はボヤけ、前にいるルーデウスとシルフが見えなくなっていた。
「うぅ……」
「え、どうしたの……!?大丈夫……?」
俺は目から流れ落ちる雫を止めようと、必死に目元を抑えるが、俺の目は崩壊したダムのように、止まることを知らない。
「うわぁぁぁぁぁん!!」
流れに身を任せ、俺は大声で泣いた。
今まで溜まっていたものを吐き出す為に、必死に泣いた。
「ルディ!大丈夫か!?」
俺の泣き声に、家族全員が集まって来たが、それでも俺は泣き続けた。
「シルフがルーディアを泣かせました」
「なに!?シルフてめぇこの野郎!」
「え……!いや僕は何も……!」
「違……違うんです……父様……!」
パウロがシルフの胸ぐらを掴むのを、俺は泣きながら止める。
「シルフは………シルフが……!」
うわぁぁぁぁん!!
言い終えることができずに、俺はまた大声で泣いた。
「やっぱりシルフ!てめぇじゃねぇか!」
「え……!?」
ルーディア・グレイラット。
この世界に来て初めて……
友達ができました。