〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた 作:肉と米と愛
「はあ……」
シルフが魔術を特訓する姿を見て、俺はたまらずため息が出てきた。
「ごめんルーディア。やり方、間違ってたかな?」
「あぁいやいや!全然合ってるよ!大丈夫!」
シルフが悲しい顔をし始めるので、俺は咄嗟に訂正をする。
「そう、よかった……」
シルフの顔から悲しみが消えるのを確認すると、今度は安堵のため息が出てきた。
「ルーディア、最近また変だよ」
シルフが俺の隣に座り、借りていた杖を地面に置く。
「私は生まれた時から変だったらしいよ」
「そうじゃなくて、最近なんか元気がないっていうか………あ、もしかして、ルーデウスさんと喧嘩でもしたの?」
「そうだったら、まだ良かったんだけどねぇ……」
俺は体を伸ばし、地面へと寝転ぶ。
俺の最近の悩み。
それは最近産まれたノルンやアイシャの夜泣きがうるさいとか、そんな小さなことではない。
……まあ、うるさいのは少し勘弁して欲しいが。
俺が今悩んでいるのは、魔術に関する事だ。
この世界に来て、俺は様々な魔術を知り、実践した。
しかし、このブエナ村という小さな場所で学べる魔術は、ほんの一握りだ。
ロキシーという燃料が追加された事で、一時的なブーストが起きた。
ところが、ここに来てその燃料も底を尽きた……といった感じだ。
俺としては、もっと新しい魔術を学びたい。
「この村でできることも、もう少ないのかもしれないなぁ」
「……ルーディア、どこかへ行っちゃうの?」
シルフがきょとんとした表情を浮かべながら、俺の顔を覗き込む。
「そうだね、私の師匠が言っていた魔法大学っていう所にでもーーーー」
バサッ!
次の瞬間、顔を覗き込んでいたシルフが、俺に抱きついてきた。
シルフから漂う甘く優しい匂いが、俺の鼻を刺激する。
「シ、シルフ……くん……?」
「……だよ……」
「はい……?」
「どこにも行かないで……!」
顔を上げたシルフの顔は歪み、俺の頬に涙が落ちてきた。
「ルーディアがいなくなったら、僕は……僕は……!」
「分かりました!分かりましたから!」
俺は再び泣き始めるシルフの頭を撫で、気持ちを落ち着かせる。
「どこにもいかないから、とりあえず落ち着いて……」
「……本当?」
「本当だよ、もし行くとしたら、その時はシルフも一緒だから……ね?」
「………うん」
おいおい……
これじゃあ子供を宥めるお母さんじゃねぇか。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
その日の夜、珍しくルーデウスが俺の部屋に訪ねて来た。
「はい」
ルーデウスは部屋に入って来て早々、一枚の手紙を渡して来た。
「兄様、これは?」
「ロキシーからですよ」
ロキシー。
その言葉で、俺はルーデウスから反射的に手紙を奪い取る。
差し出し人は……ロキシー・ミグルディア。
間違いなくロキシーだ。
「じゃ、そういうことで」
ルーデウスは手紙を俺に渡すと、手をヒラヒラと振りながら自室へと戻っていった。
部屋のドアを閉め、ベットの上に座り、手紙を開く。
「えーと、どれどれ〜?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ルーディアへ。
ブエナ村での生活はどうですか?
時の流れとは早いもので、あなたと別れてから、二年の月日が経ってしまいました。
僕は今、シーローン王国の王都に滞在しています。
冒険者として、自由気ままに迷宮探索をしているうちに、その実績を買われ、いつの間にか王子様の家庭教師に雇われました。
家庭教師、ルーディアの時と同じですね。
もっとも、王子様はルーディアとあまり似ていません。
いつも僕をからかい、魔術の授業を抜け出し、とにかくやりたい放題されています。
ルーディア同様、才能はあるのですが、本人にはやる気がないご様子なので、こちらとしても、もうお手上げ状態です。
しかし、そんな失敗続きの家庭教師である僕も、最近になって水王級魔術を使えるようになりました。
正直、もうこれ以上は伸びないと思っていたのですが、本当、何事も挑戦ですね。
ルーディアはもう、水帝級レベルにまで到達しているのでしょうか?
何せ一つ教えると、教えた以上の事を二つ三つと自分で覚えていく天才ですからね。
それでも、もしルーディア、あなたが魔術に行き詰まりを感じるのならば、以前紹介したラノア魔法大学の扉を叩いてみてください。
招待状がない場合は入学試験がありますが、ルーディアなら余裕でしょう。
ではまた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「うぅん……」
手紙を読み終えた俺は、思わず悶絶してしまう。
ロキシーが俺を買い被りすぎているのだ。
もう水帝級まで行ってる?
馬鹿言ってんじゃないよ!
行き詰まりすぎて、これ以上前に進めないんだ。
もしこんな何の成長もしていない俺を見たら、ロキシーは失望するだろうか?
それだけは……絶対に避けたい……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
翌日、家族が揃う朝食のタイミング。
「父様。一つわがままを言ってもいいでしょうか?」
「おう、なんだ?」
パウロは持っていたフォークを机に置き、俺を見る。
「最近、魔術に行き詰まりを感じていまして。そのために、ラノア魔法大学へ入学したいのです」
「ほう……」
「しかし、シルフにはそんなところへ行かないでほしいと、泣きつかれてしまいまして……」
「この色女め、誰に似たんだ?えぇ?」
ドン!
ゼニスをニヤニヤと見つめるパウロの脚を蹴る。
「そこで、私とシルフを一緒にラノア魔法大学へ入学させてもらいたいのですが……ダメですか?」
俺の話に、笑っていたパウロの顔が、急に苦しそうな表情へと変わる。
「……ダメだ」
しばらくすると、パウロは息を吐くように、そう一言だけ呟いた。
周りに座っていたゼニスもリーリャも、同じ表情をしている。
「理由は二つある。
一つは年齢の問題だ。
ルーデウスぐらいの年齢なら、考えてやっても良かったが、まだ十歳にもなっていないお前を遠出させるのには、親としては心配だ。
二つ目は、金だ。
お前一人なら行かせてやれるが、ロールズんとこは金に余裕がないからな、シルフをそんなとこに通わせられる金はない」
ほうほう、パウロにしてはしっかりとした理由を持っているじゃないか。
「分かりました。では年齢の方は、何歳ぐらいまで我慢すればいいのでしょうか?」
「そうだな……俺としてはずっと家に居て欲しいんだが。十五……いや、十二歳になるまでは家に居ろ」
「何故十二歳なのですか?」
「俺が家を飛び出したのが、十二だからだ」
よく分からん理論だな。
しかし、親の許可を得て行けるとしたら十二歳、あと四年か……
「……分かりました、ラノア魔法大学の入学については、十二歳まで待つことにします」
正直、俺も少し早すぎると思っていた。
この世界の成人が十五歳だから、三年も縮まっただけでもいいだろ。
問題は金。
俺は問題ないらしいが、シルフの家庭では少し……というかだいぶ厳しい。
この話は俺が言い出したことだ。
シルフが身を削る必要はない。
俺が働けばいいのだ。
「ではその代わり、仕事を斡旋してください。できるだけ給与が高く、シルフの入学分も払えるぐらいのものを」
「……だがそれは、シルフの為にはなんねぇぞ?」
「元々私の我儘で言い出したことです。働く責任は私にあります」
「………」
話を聞き終えたパウロは上を向き、ゼニスとリーリャは難しい顔を浮かべている。
「そういえば父さん、フィリップさんの所に、大人でも手がつけられない『山猿』がいるとか、言ってましたよね?」
一人だけ呑気に朝食を食べていたルーデウスが、パウロに目を向けた。
「ああ、もう既に何人もの家庭教師が返り討ちに遭ってるって話だが……」
「ではその『山猿』の家庭教師に、ルーディアを紹介してみてはどうですか?」
「なんだと?」
ルーデウスの話を聞いていたパウロは静かな怒り声を上げ席を立つ。
「俺の話を聞いてなかったのか?大人ですら手をつけられない悪ガキだぞ?子供のルーディアがどうこうできる話じゃねぇ」
「どうどう、まあ落ち着いてくださいよ」
そんなパウロをおちょくりながら、ルーデウスは俺に向かって指を差した。
「いい機会じゃないですか。ルーディアに、金を稼ぐってのはどういう事かというのを教えてあげましょうよ」
「ふざけんじゃねえ」
感情を抑えきれなくなったパウロが、ルーデウスの胸ぐらを掴む。
興奮するとすぐに手が出る、パウロの悪い癖だ。
「ルーディアが酷い目に遭うかもしれないんだぞ!分かってんのか!」
「別に酷い目に遭うとは限りませんよ。それに、行くか行かないかを決めるのは、ルーディアじゃないですか?」
ルーデウスは怒りに震えるパウロを、面白おかしそうな表情で見ている。
こいつ……最近わざとパウロを怒らせてないか?
完全に遊んでるな……
「あなた、ルディを放しなさい」
「………ッチ」
ゼニスに諭されたパウロは、ルーデウスを睨みつけながら、掴んでいた手を離した。
「それでルーディア、あなたはどうなの?」
「え?私……ですか?」
「ええ、シルフと一緒に学校へ行きたい気持ちは伝わったわ。でもそのために、見知らぬ土地に自分の身を置く覚悟はあるの?」
覚悟。
高い給与で、それも大学入学費を二人分も稼がなくてはいけないのだ。
生半可な覚悟でいけば、必ず後悔してしまうだろう。
『山猿』
パウロとルーデウスの話を聞くと、相当暴れている問題児だ。
俺はソマル坊達クソガキ集団、あいつらよりも数段やばい奴を想像してみる。
あいつらの世話をするのを考えるだけでも胃が痛くなるのに、それ以上の奴か……
そんな奴の家庭教師なんて、真っ平ごめんだ。
「あります。やります」
俺は覚悟を決め、ゼニスの顔を真っ直ぐ見てそう言った。
でも、やるしかない。
何せ莫大な金が関わるんだ。
一筋縄でいかないことは分かっている。
そもそも、子供にそんな仕事が見つかるのかさえ疑っていた。
そんな時に舞い降りた家庭教師の話。
断る理由はない。
俺とゼニスはしばらく互いに見つめ合っていたが、やがてゼニスの顔が緩み、いつもの表情に戻る。
「なら、私から言うことは何もないわ。ルディの話、私は賛成よ」
「ゼニス!?」
パウロは信じられない顔をしながら、ゼニスに詰め寄った。
「本気か!?相手はあの『山猿』だぞ?」
「もちろん、私だってそんな危険な子がいるところに、可愛い娘を置くのは嫌よ」
「じゃあなんで……!」
「だからね……」
その時、ゼニスは突然席を立ち上がる。
そして、外へ出かけようとする一人の少年の腕を掴んだ。
「ルディ、あなたがルーディアを守ってあげなさい」
「………は?」