〜無職転生〜TSしたルーディアには兄がいた 作:肉と米と愛
エリオット・ボレアス・グレイラット
フィットア領の城塞都市ロアの町長である、フィリップ・ボレアス・グレイラットの三男である。
血筋だけをみれば、グレイラット家という上級貴族として生まれた、気高い青年という印象を与えるだろう。
しかし、彼と関わった人物は、全員口を揃えてこう言った。
「あいつは『山猿』だ」と……
少し気に入らないことがあれば癇癪を起こし、少しでも舐めた態度をとられれば、誰彼構わず暴力を振るう。
そのあまりの横暴さに、メイドは体調を崩し、家庭教師は次々と彼の元を去っていった。
無論、父であるフィリップもこれには頭を悩ませていた。
少なくとも今はいい。
自分の近くで活動をさせていれば、何か問題が起きたとしても対処できる。
しかし、子供とはいずれ旅立つものだ。
もしエリオットが自分の元を離れ、目も当てられないような大惨事を起こしてしまえば、長年、虎視眈々と狙っていたボレアス家当主の座を奪還する計画は、泡のように消えてしまうだろう。
「どうしたものか………」
父であるサウロス・ボレアス・グレイラットは、そんな今のエリオットを高評価していた。
『アスラ貴族はこれくらい気が強くないといかん!』
そう高らかに笑うサウロスの姿が、昨日の事のように思い出される。
数少ない理解者である妻のヒルダも、王都から一人だけ送り返されたエリオットを、これでもかと甘やかす。
これでは、エリオットの凶暴性は増すばかりだ。
そんなある日、フィリップの元に一通の手紙が届いた。
手紙の差出人は、パウロ・グレイラット。
フィリップの数少ない友人だ。
今はこのフィットア領のブエナ村で、村の安全を守る騎士として雇わせている。
そして、パウロが手紙を寄越してくる時は、決まって村に問題が起きているのだ。
川が堰き止められているだの、魔物が多発しているので村に騎士をもう一人派遣して欲しいだの、匿われている身にも関わらず、好き勝手なことを要求してくるのだ。
今回もその例に漏れず、きっとまた何か問題が起きたのだろう。
「こっちも手一杯だと言うのに……ん?」
しかし、手紙に書かれていた内容は、村のことなどではなかった。
「自分の子供達を、家庭教師として雇って欲しい……?」
相変わらず汚い字をした手紙には、そう書かれていた。
パウロの子供と言えば、彼がこのロアの町に匿って欲しいと頭を下げていた時に見た、ルーデウスという少年だ。
しかし手紙には、なぜか『達』がついている。
となると、彼は村に住むようになってから、また子供を授かったのだろう。
それは二人か、はたまた三人か……
下半身に全て注がれたパウロのことだ、三人以上の可能性もある。
いや……流石にそれはないか……
だが、人数がなんであれ、あのヤンチャなエリオット相手に、子供が家庭教師を務め切れるとは到底思えない。
怒鳴られるか殴られるかして、泣いてすぐ逃げ出すのがオチだ。
やるだけ無駄だろう。
そう思い、断りの手紙を書こうとした、その時だった。
「……?」
開けたはずの封筒の中から、もう一枚の手紙が落ちる。
落ちた手紙を拾い、書いてあった文字を読み上げた。
『追記、そのうちの一人は、水聖級魔術師の女の子だ。エリオットに喰われないよう、よく見てやって欲しい』
水聖級。
その文字を見て、思わず自分の目を疑った。
周囲の環境を変え、天候に多大な影響を与える聖級の魔術。
そんな実力を持つ少女が、パウロの子供だと?
嘘に決まっている。
家庭教師として雇われるよう、口から出まかせを言っているのだろう。
ルーデウスが長男だとして、彼の年齢がエリオットと同じ九歳。
それよりもさらに下の子が、水聖級の魔術師なんて、子供向けの絵本にだって、そんな設定はつけれない。
しかし、同時に興味が湧いて来た。
パウロがそこまでして雇ってみて欲しいといってくる子供達。
それに一人はエリオットと歳の近い少女だ。
エリオットは、まだ女の子とそこまで接点を持っていない。
もしあの子が女を知ってくれれば、あの凶暴性も、少しはマシになるかもしれない。
フィリップは途中まで書いていた断りの手紙を捨て、新たな紙を用意する。
「試すだけ、試してみようか……」
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ガタン!
慣れない馬車に揺られながら、俺はゆっくりと遠ざかって行くブエナ村を眺める。
もう後戻りはできない。
目指すは城塞都市ロア。
この世界……いや、前世を含めても初めて、俺は仕事をしに行くのだ。
いやぁ、胸が高鳴るね……!
「はあ………」
しかし、俺の目の前に座るルーデウスは、どうやら今の俺とは真逆の心境らしい。
「ルーデウス、何か不満でもあるのか?」
ルーデウスの隣に座っている、全裸同然の格好をした女が、不思議そうに尋ねた。
彼女の名はギレーヌ・デドルディア。
冒険者時代の、パウロの元パーティーメンバーだ。
今はロアの町で剣客として招かれているらしい。
ゼニスやリーリャを遥かに凌駕する豊満な胸に、鉄でも詰まってるんじゃないかと疑ってしまうほどカチカチな腹筋。
そして何より注目すべき点は、彼女の頭の上についたケモ耳と、お尻から生えた長い尻尾。
そう、何を隠そう、彼女は獣族なのだ。
ケモナーではない俺も、これには大歓喜!
「そうですね、愚かな妹に振り回された気分で、非常に不愉快です」
そうやって嫌味を垂れるルーデウス。
「振り回されたって、この話は兄様が持ち掛けたんでしょう?」
だが、今回ばかりは完全に自業自得だ。
ルーデウスはわざとらしいため息を吐きながら、俺と一緒にブエナ村を眺める。
「ルーディアに見捨てられたシルフが、浮かばれませんね」
「………それはもう仕方ないじゃないですか」
シルフには、このことを伝えないでおいた。
言ったらまた泣き出して、"行かないで"と泣きつかれてしまうだろう。
ごめんよシルフ、今は少し、互いに距離を置こう……
このまま、なんでもかんでも俺を間に挟んでいたら、それはシルフの成長の妨げになってしまうんだ。
シルフ、堪忍な。
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ロアの町に到着したのは、既に日が沈み始めた頃だった。
この辺りで一番大きな都市というだけあって、活気があった。
ブエナ村では決して見れなかったものが、ここではいくつも点在している。
人が行き交う露天商、その奥には馬屋や宿らしい店が並んでいる。
「もうそろそろ領主の館に着く、お前達も身支度を整えておけ」
『はい』
ギレーヌに促され、俺とルーデウスは外へ出る準備を始めた。
ついに領主と、その息子の『山猿』とご対面だ。
一体どんな化け物が出てくるのか……想像もつかない………