"死"それは生命ある物全てが避けては通れぬ"生"の終着点。
古の権力者達は不老不死を追い求め、"死"から逃れるべくその方法を探っていた。
老衰、あるは事故、病気、殺人、人が死ぬ要素は意外に多い。
そして、人は"死"に直面したら誰もがこう思うだろう。
まだ俺は、私は"死にたくない"……と。
もし貴方が"死ぬかも知れない"状況に陥った時、どちらの行動を取るか。
1つ、諦めて、その死を受け入れる。
2つ、最後まで諦めず足掻く。
前者を選択する事を特別恥じる必要はない。
死を受け入れる事もまた、相当な勇気が必要なのだから。
だが、忍び寄る死の気配から逃れた多くの者は最後の瞬間まで諦めず足掻いた者が、生きる資格を勝ち取っている。
しかし、"死の恐怖"は生半可な意志や覚悟を容易く打ち砕く。
迫り来る"死の恐怖"は、"死"そのものより恐ろしいのだから。
そして兵藤一誠は生か死か、究極の二者択一を迫られる事になる。
それは髑髏の騎士が学校を去った後の出来事だった。
「……これもまた、因果」
日も落ちた駒王町を骸の馬で駆けながらぼやく。
騎士は生前の事を少し思い出していた。
"仲間"と過ごした、甘く満ち足りていた瞬間の時の事を。
“冥府魔道“を歩む前の事を思い出していた。
しかし、よもや異界で年端もいかぬ娘と契りをするとは予想だになかった。
(因果の流れは読めぬもの、か)
思考の海に意識を投じがちになるのは悪い癖だと思っていると、黒歌の気配を感じる。
その気配は前方の広場(公園)へ続いていた。
そして、この広場は人払いの結界が張られている。
抜け目ない配慮が出来る黒歌の評価を、騎士は一段階上げた。
公園の中央付近まで歩いていき、馬から降りるとガサガサと草むらから音がする。
すると草むらから黒猫が騎士の前に飛び出し、毛を逆立ている。
見るからに怒っている。
「……息災の様だな」
「全然っ!息災じゃない!レディに対する扱いについて話したい事が山程あるにゃ!」
「……?」
「解せぬって言いたそうね……解せないのはこっちにゃ!」
ヘソを曲げた黒歌は両頬を膨らませ怒っていた。
激おこぷんぷん丸、いやドリームか。
まぁ、馬から落とされた上にその辺を探ってこいと一方的に言われたら誰しも怒るであろう。
黒歌の憤りはもっともである。
「……貴様だからこそ任せたのだ。ある程度信頼できる者は貴様以外居らぬ故に、な」
「ず……ずるい、そんな事言われたら何も言えないにゃ」
先程までの怒りは何処へやら、黒歌の不平不満の炎は一気に鎮火した。
見て分かるだろうが騎士は冗談は言わない。
真顔で(髑髏だから表情はないが)言う時は言う、小難しい事から常人では中々言えない事も。
伊達に悠久の刻を過ごしてきた騎士ではない。
物言わせぬ迫力はかつての"覇王"そのものだ。
その効果なのか?思い込みが弱冠が激しい黒歌はコロっと落ちた。
非常に扱い易いものである。
黒歌と暫く問答をし、この周辺の状況が徐々に見えてきた。
簡単に言えば堕天使の一味が何かを企んでいるらしい。
具体的に何をするかは解っていない。
だが、騎士には全く関係のない事だ。
正直、堕ちた天使共が何をしでかそうと知った事ではない。
直接此方に干渉してくる、若しくは縁ある者でも関わっていない限りは。
街灯が夜の闇を明るく、美しく、儚い光で街を灯していた。
一見すれば平和そのもの。道行く人間も生気と活気で溢れている。
戦乱渦巻く"ミッドランド"とは比べる事すらおこがましく思える。
だからこそ、この奇妙な調和の取れた都市は正に"摩訶不思議"としか言えなかった。
「……此処は混沌に満ちている」
「急にどうしたにゃ?」
「……魔と人の共存、簡単な事ではなかろう」
「そうかにゃ?あんまり考えた事ないにゃ」
「……身に余る力は驕りを生み、力無き者は淘汰される。我の知る世界では魔に目覚めた者にとっては人間など只の"餌"。此処も、いや“悪魔“も“堕天使“も本質的には変わらぬ様だが」
「わ、私は人間なんて食べないにゃ!」
「……だからこそ混沌と言っている。相容れない者同士が共存、恐怖や強制的ではなく、自然と魔と人が生活しているのが不思議でならぬ」
「まぁ、あんまり無茶すると悪魔も堕天使も教会も粛清される、現に私もそうだったにゃ」
微妙な空気が流れるが騎士は街の方を向き立っている。
紅い眼は何かを懐かしむ様に輝る街を見ていた。
「……泰平の世でも血の臭いは絶えぬ、か」
髑髏の騎士は漆黒のマントを靡かせ歩き出す。
きらびやかに輝く街とは対照的な闇の中へ、濃い血と闘争の気配のする方へと。
その髑髏の後を黒猫が追う。
アンバランスな異形の者は骸の馬に跨がり闇へと消えた。
駒王町に潜む堕天使達は、まだ知らぬ。
その身に忍び寄る"死の気配"を。
「これも仕事!頑張れ俺!目指せハーレム!花園空間っ!」
一誠は妙なチラシを片手に夜の町を徘徊していた。
悪魔とて只永き時を怠惰に過ごしているわけではない。
人間が働く様に、悪魔には悪魔の仕事があるのだ。
リアス・グレモリーが駒王町を統治しているのもその1つである。
そして、下っ端転生悪魔のイッセーの仕事は……
ズバリ、チラシ配り及び契約である。
まるで社畜の営業の様だが気にしてはいけない。
労働とはすべからく尊いものなのだから。
もっとも契約と言っても、イッセーの身の丈に合ったものしか出来ないのは言うまでもない。
まぁ、イッセーは悪魔になって日が浅いから仕方がない。
この悪魔界で成り上がる為には、地道に進むしかないのだから。
そして、今日もイッセーは部長から渡された紙の住所を頼りに契約する人間の元へ向かっていた。
イッセーは基本的に四六時中、スケベな事を考えている(主に乳を中心に)が、今日のイッセーは違った。
先日出会った可憐なシスターの事を考えていた、いや心配をしていたのだ。
基本ド助平が標準のイッセーだが、なんだかんだ言っても責任感も正義感も強いイマドキの若者だ。
可憐なシスター、アーシアの事が気になって仕方がなかった。
部長は教会関係者には近付くなと叱責されたが、あの心やさしい少女に何の危険があるのか解らなかった。
そうこう考え事をしている内に目的の住所の家の前へ到着する。
何処にでもある普通の家にイッセーは弱冠拍子抜けをした。
「……此処で合ってるよな?」
手に持った紙の住所と名札を確認するが間違いなく此処で合ってる。
時刻は草木も眠る丑三つ時、家に灯りはなく静まりかえっていた。
夜中に戸を叩くのも気が引けるが、一誠は覚悟を決めてトビラを叩いた。
ガンガン!ガンガン!
木とガラスの衝突した音が家の中で響いているが、家主が出てくる様子は全くもってない。
流石に寝てしまったのかな?とダメ元でトビラに手をかけると
ガガガ……スゥ……
玄関は拍子抜けする程、呆気なく開いた。
契約の確認もせずに帰る訳にもいかない、変な使命感が一誠を突き動かしていた。
見ず知らずの他人家に勝手上がりこむ事に罪悪感を感じるが、とりあえず在宅確認だけでもと家に入って行く。
「お、おじゃましまーす……」
一応、挨拶をしてから家に上がるが、当然電気は点いてはいない。
(こんな真夜中に施錠しないなんて、無用心だなぁ)
不法侵入をしていながら家主の無用心さを心配するとは滑稽である。
ギィ、ギィ、と一歩踏み出す事に木がしなる音がする。
薄暗い少し長めの廊下を歩いていると突然、何かが身体を突き抜けた。
そして凄まじい違和感を感じた。
いや……第6感とも言うべきか。
この先は不味い、行ってはならぬと本能が身体に告げる。
心臓の鼓動は速く、呼吸は乱れ、冷や汗が吹き出す。
目の前の部屋へと近付くに連れて違和感は徐々に強くなっていく。
そう、其処には"何かがある"と。
この不快な違和感を払拭する為には進むしか無い。
一誠は意を決して違和感の元凶である部屋のドアを開いた。
「こ、こんな……事がっ!?」
一誠は家に上がった事を激しく後悔する。
何故ならば目の前に広がっていたのは…………赤
赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤
床一面、部屋中に血と臓物が散らばり飛び散る"地獄絵図"だった。
そしてこの家の住人達は皆、壁に打ち付けられ絶命していた。
まともな人間の死に方ではない。極めて猟奇的な惨殺だ。
一誠は濃い血の臭い、初めて見る死体と臓物に堪えられずに胃の中物を全て嘔吐した。
床に手を付き嗚咽するがまだ血と臓物は生暖かく手から伝わる内臓の感触……
正気を保つ事など出来そうになかった。
その時だった。
「おやおや~僕ちんお手製(悪魔ホイホイ)に獲物が掛かったぞぉ」
場違いな声量、場違いな言葉使い、そんな男の声が家中に響いた。
声の方へ顔を向けると其処には教会に居る神父の格好した男が立っていた。
只、普通の神父と違ってその手には剣と拳銃が握られている。
白髪で気味の悪い程笑顔の神父が其処には居た。
「いやぁ~悪魔崇拝者は成敗出来るし!死体は悪魔ホイホイに再利用!僕ちん天才過ぎて恐すぎるぜい。そんなホイホイに掛かったこのゴミクソ悪魔君、出すもん出してスッキリしてないでさっさと死んでくれよ」
「お、お前何を……」
神父は手に持った銃をおもむろに一誠に向け、引き金の指を引いた。
銃声もなく銃口から放たれた光の弾は咄嗟に避けた一誠の脚を貫いた。
今まで味わった事の無い、激痛が一誠を襲う。
悪魔である者の弱点、それは"光"。
"闇"に生きる者全てを浄化する"光"は悪魔にとって毒でしかない。
部長の言いたかった事をこの絶体絶命の状況で一誠は漸く理解した。
「おいおいおい~ゴキブリみたいに逃げるんじゃあねぇよ!気持ちわりぃなクソ悪魔」
心底汚い物を見る様な目で一誠を見る神父は拳銃を指でクルクルと回しながら近付いてくる。
そして一誠の眉間に銃を突き付け、満面笑みで死刑宣告をした。
「ふっ、零距離射撃は男のロマン!脳ミソぶちまけて死ねやクソ悪魔!」
中々投稿出来ずすみません……
早足で書いた為、改行と誤字が多いかもしれません。
見つけ次第直しますのでよろしくお願いします。