髑髏の騎士は夜の駒王町を疾走していた。
目指す場所はリアス・グレモリー等の居城(学校)である。
堕天使を取り逃がし、あげくアーシアを拐かされてしまった。
その不義理の始末をつけるべくこの都市の統治者であるリアスの下へ向かっていた。
件の堕天使の焦り様を見るに残された時間は
あまり残されてはいないと考えるべきであろう。
堕天使の拠点程度、騎士一人でも制圧は充分可能だ。
むしろ制圧どころか一方的な蹂躙になるのは想像するに難しくはない。
だが単独での討伐は敢えてせず、何故リアスの下へと行くのか?
"一応"リアスとは眷族の契りをした騎士。
仮に堕天使を滅した、だがその事で新たな戦の火種を生み出す事を懸念したからだ。
三つ巴の勢力の均衡を崩し戦の焔を再燃させる事だけは仮住まいの身としては絶対に避けねばいけない。
無駄な争いを避ける為にこの場はリアスの判断を仰ぐ事が最善だと騎士は判断した。
黒い風と化した骸の馬はものの数分もせずに目的地へと騎士と一匹を運んで見せた。
比較的新しい建物ではなく木造の二階建ての旧校舎を見つけると魔力が集まる所へと歩みを進めた。
パンっと乾いた音が部屋に響いた。
リアスの平手打ちが一誠の頬に直撃したからだ。
一誠はビンタされても仕方ないと思っていた。
自分の言動がいかに軽率で馬鹿な事だと重々承知していたから。
部長は俺の事を本気で心配してくれている。
それが解っているからこそ、頬の痛みよりも
胸が、心の方がよっぽど痛かった……。
「すみません部長、でも俺戻ります。
友達を……アーシアを助けに行かないと!」
「駄目よイッセー!どうして解ってくれないの!」
リアスと一誠の押し問答が激化するなか高い魔力の気配と重たい金属音の足音が近付いてきた。
足音が部室の前でガチャリと止まり、開かれた扉の前には紅い眼をした髑髏が立っていた。
「ど、髑髏のオッサン!
アーシアは……アーシアどうなった!」
「我の不手際だ、あの娘は拐かされた」
「拐かされたって……
じゃあアーシアはっ!?」
「此処には居らぬ」
「見りゃ分かる!アーシアは何処へ……」
「奴等の気配を辿る事など容易い。
故にリアス・グレモリー
我は奴等を滅しに根城に斬り込むが問題は無いか?」
「問題大有りよ!下手すれば堕天使と戦争になるわ」
「泳がせた堕天使の娘はレイナーレなる者の独断の企みと言っていたが?」
「それでも確証が取れない以上
軽率な行動は控えて頂戴」
「我は外様だ、貴様の意見は尊重しよう
だがリアス・グレモリー
あまり時間は残されてはおらぬ」
時間が残されてはいないと言う事を聞いた
一誠は騎士のマント掴み食って掛かる様に
問いただした。
「時間が無いってどう言う事だよ!」
「酷く慌てながら儀式と言っていたがな詳しくは解らぬ」
「儀式……まさか神器を奪うつもり?」
「神器を奪う……?」
【神器を奪う】それは奪われた者の死を意味する。
魂の剥離と言うべき鬼畜の所業。
堕天使レイナーレはアーシアの持つ
【神器】が目当てだったのだ。
一誠はこれまでに無い程怒りに震えた。
あの心優しい女の子が……
何故、外道の犠牲にならなくてはならないのか。
こんな理不尽があるのか!
こんなクソッタレな事があるのかよ!
直ぐに助けに行かなければと扉に向かうが……
「部長!俺行きます!
アーシアを絶対助けな……ぐぁ!」
「自惚れるな」
騎士は部屋から飛び出そうとした一誠の胸ぐらを掴み顔近付くまで持ち上げた。
部屋の中に騎士の殺意と怒気が充満する。
呼吸すらままならぬ騎士の迫力にリアスも言葉をかけられなかった。
まるで魔王が其処に居るかの様な雰囲気だったと後に語る。
「身の程を知れ、小僧
今の貴様では矢弾除けにもならぬ」
「それでも俺は絶対に行く……
死んでもアーシアだけは逃がす」
髑髏の騎士と一誠が睨み合う。
並の者なら直視も出来ない深紅の眼を真っ直ぐ見据えている一誠。
内心死ぬ程恐かった一誠だがこの意志を曲げるつもりは一切ない。
だからこそ一誠は一歩も引かなかった。
騎士の手が剣に伸び、部屋に居る誰もが斬られると思った。
だが騎士は急に一誠を掴む腕を離しドスンと落ちる。
尻餅をつき訳も分からず一誠は騎士の方を見上げると
剣の切っ先が目の前に突き付けられていた。
「力無き正義は無力也……
今の貴様に一体何が出来る?」
「俺馬鹿だから……難しい事はわからねぇよ。
でもアーシアに言ったんだ友達なるって……
此処で逃げたらアーシアにさ、言えないだろ?
胸張って【友達】だってさ……
だから、俺が助けに行かなきゃいけないんだ!」
向けられた剣の刃を真っ赤な籠手で掴む。
籠手の宝玉が光を放ち一誠の身体に力がみなぎった。
掴まれた剣から金属音がギチギチと鳴りだし剣を騎士の方へと押し返す。
そのまま一誠は立ち上がり剣の切っ先は真上を向いていた。
一体、一誠の何処にそんな力があったのか?
信じられない光景を見て、皆驚愕していた。
「友の為に命を捨てる……か
ならば貫いて見せよ小僧、その強き意志を」
掴まれた剣を勢い良く振ると一誠は窓の外へ飛ばされた。
「嘘だろぅ!」と一誠は叫びながら落下していく。
だが落ちた先には骸の馬がおり、その上に見事に着地した。
しかし骸の馬には黒歌も乗っている。
無茶な体勢で落下した一誠の両手は……
黒歌の大きな胸にすっぽりフィットしていた。
反射的に手のひらを動かしてしまった。
いわゆるラッキースケベである。
決してわざとではない、事故なのだ。
一誠は柔らかい胸の感触をまじまじと感じた瞬間……
体内マグマが沸騰し鼻血がブシュっと吹き出た。
「あん♪スケベな奴にゃ。
騎士様が居なかったらぶっ飛ばしているけど
まぁ……今回はサービスにゃ♪」
初な少年の反応を楽しむ黒歌だった。
部室に残された者は急展開過ぎる展開に完全に取り残されていた。
リアスも当然呆気にとられ言葉を失っている。
朱乃もあらあらと何故か微笑んでお茶を飲んでいた。
騎士はリアス達の方を向き剣を腰に戻しながら言う。
「男には死ぬと解っていても
【進まねばならぬ時】がある。
負けると解っていても
【戦わなくてはならぬ時】がある。
小僧にとってその【時は】今なのだろう」
暫く眼を瞑り、大きく深呼吸したリアス。
眷族の強い意志と覚悟を見せられ熱いモノが胸の中で燃え出した。
イッセーが命を捨てる覚悟で戦うのであれば
王たる自分の成すべき事は何か?
イッセーにしてやれる事は何か?
瞑っていた眼を開き覚悟を決めた。
迷いの無い【王】の顔をした真の悪魔が其処には居た。
「私も覚悟を決めないといけないわね、朱乃」
「はい、可愛い後輩の為に一肌脱ぎましょう」
リアスは重たい腰をあげて朱乃と共に部室を後にした。
残された眷族【騎士】木場祐斗
黒歌の妹の【戦車】搭城小猫
二人の若き悪魔は騎士の元へ行くと深く頭を下げた。
「僕の名は木場祐斗、一誠君の為に僕も戦います。
剣を嗜む者として騎士殿の剣技を是非
お近くで拝見さて貰いたい。」
「搭城小猫です……私も行きます」
「好きにするが良い」
騎士達はは窓から飛び出し堕天使の気配のする方へ駆けて行く。
当事者の一誠は鼻血を出したまま気絶していた。
スケベだが本格的なエロ耐性値は低い。
悲しいかなイッセーよ……それは経験でしか克服出来ぬ。
強くあれイッセー、立派な大人になる為に。
骸の馬に乗っている黒歌は後方を走る小猫の方を見る。
何かを言いたそうなのだが中々一歩が踏み出せない。
それを見ていた騎士は不器用な奴だと思った。
普段のあっけらかんとした態度は何処へ行ったのだと。
騎士は軽く手綱を引き馬を揺さぶり黒歌を落とした。
見事に黒歌は小猫の前へと落ち、姉妹が向き合う形になった。
お互いに素直になれず気まずい雰囲気になるが突然黒歌が小猫に抱きついた。
「お姉ちゃんもう逃げないから……
白音の事、しっかり守るから……」
「姉さま……」
抱き合う姉妹を見るに多少は溝は埋まった様だと騎士は思った。
姉妹水入らずの状況だが悠長に眺めている時間は無い。
早く来いと骸の馬が軽く唸ると一跳びで黒歌は騎士の前の定位置に戻る。
黒歌も小猫も何処かスッキリとした顔になっていた。
だが何故黒歌は我の前に座りたがるのだ?
騎士は日頃から疑問に思っているが……
黒歌の満足そうな顔をみてその事について聞くのを止める。
髑髏の騎士は空気が読める男だ。
この時だけはこの娘の好きな様にさせようと思った。
その姉妹を見る騎士の顔は手のかかる【娘】を見る父親の様だったと一誠は思った。
顔は髑髏なのだが。
暫くすると古めかしい教会が見えてきた。
如何にも堕天使が好みそうな佇まいの教会だ。
骸の馬から降りた一誠と黒歌、そして祐斗と小猫。
各々の得物を構え突撃発起体勢をとった。
「小僧、この戦は貴様の戦だ
有象無象は我等に任せよ」
「一誠君、思う存分やってきて大丈夫だよ」
「イッセー先輩、あまり無茶しないで」
「死なない程度に頑張るにゃ」
「あぁ!行ってくる!」
一誠を先頭にグレモリーの眷族達は堕天使のいる教会へ一斉に突撃した。
キャプテン・ハーロックの名言を使用しました。
漢気溢れるハーロックは好きです。
状況的にもマッチしていたので……
反省しています。
たが後悔はしていません。