「貴様……何者だっ」
腹の底から込み上げる恐怖心を抑え……
目の前の髑髏に問う。
俺は不死身のフェニックス。
斬られた腕も再生している。
だが何かがおかしい、おかしいのだ。
何故か?
不死身と言う絶体的なステータス。
それが、頼りなく思える程の圧力。
この魔力……まさか魔王?
「下郎に名乗る名など無い」
「な……なんだとっ」
剣を引き、構える騎士。
切っ先を向けられたライザーは大いに焦る。
斬られた理由も、名も解らない。
だが目の前の髑髏は剣を構えている。
この殺意は本気で俺を殺そうとしている。
何故、何故こんな事になった。
人間の娘にちょっかい出そうとしただけだ。
ただ其だけの事で……
「言ったはずよ、ライザー。
冗談では済まないって……」
「な……くっ、こんな事が……」
リアスとその眷族達はは心底可哀想な顔をしてライザーを見ていた。
騎士が剣の誓いをした【友】アーシアに手を出そうとしたのだ。
大惨事になるのは容易に想像出来る事態である。
それも騎士が警告無しに斬りつけた具合をみると……
相当怒っているのだろう。
雰囲気だけで解る。
表情は髑髏故に変わらないが。
「騎士殿、お待ち下さい」
グレイフィアが丁度良いタイミングで声をかけた。
もう少し遅ければライザーは見るも無惨な事になっていたと思われる。
騎士は構えを解かず、紅い眼だけを向け答えた。
「何用だ、魔王の番」
「騎士殿のお怒りはごもっとも……
なれど、どうか剣をお納め下さい」
「ならぬ」
「この馬鹿者に代わり私が謝罪致します故……
どうか、この場は私にお任せ下さい……」
「我は謝罪など求めておらぬ。
無抵抗な娘を手込めにしようと凶手を向けた。
止めようとした者を排除してだ」
「それは……」
「我はこの者の剣となると誓ったのだ。
故に脅威は後腐れ無く斬り伏せる」
「……全ての悪魔が敵になっても?」
「是非も無し」
リアス達は息を飲んだ。
騎士は全ての悪魔を敵に回す事も辞さない。
その覚悟と気迫に気圧される。
まさに王たる風格。
身軽い動作でソファーから跳ぶ黒歌。
ストンと体重を感じさせない着地で騎士の隣に降り立つ。
そして腕に仙術を纏わせ騎士と共に構える。
「騎士様の敵は……私の敵にゃ」
無言で黒歌の方を見る騎士。
目が合うと黒歌はウィンクして応えた。
王と従者と言うべきか、はたまた助手か相棒か。
随分と様になっている。
美女と髑髏の異色のコンビ。
いずれ冥界で知らぬ者は居ない程有名になるが……
それはまだ先の話である。
グレイフィアは騎士の剣の前に立っている。
とんでもない事態になっていると部屋に居る者全てが思っていた。
規格外と悪魔屈指の強者の睨み合いは暫く続いた。
だが、その終わりは唐突に訪れる。
「では、少々失礼して」
グレイフィアは騎士に深々とお辞儀をするとライザーの方を振り返る。
そしてライザーの顔面に渾身の右ストレートが炸裂した。
半端無い威力のパンチ。
因みにサーゼクスは割りと年中……
このパンチを食らっているのは秘密である。
魔王すらも反省させる鉄拳制裁。
ライザーは部室のドアをぶち破って吹き飛んでいった。
お約束だがしっかり「あべしっ」と言っていたのは言うまでもない。
「不足ならばもう一撃」
グレイフィアは拳を見せながら淡々と言う。
冷たい。只々冷たい。
握られた拳は騎士にも劣らない無言の圧力があった。
リアスと一誠は思った。
グレイフィアを本気で怒らせてはいけない。
あのパンチはえげつない……と。
無言で激しく首を振り拒絶の意思を表す。
それしかライザーには出来なかった。
【魔王の妻】に殴られる。
それがどう言う意味なのか、解らない程馬鹿ではなかった。
この段階で漸く、自分の置かれた立場を理解したライザー。
ライザーとて貴族。
己の浅はかな行動で危うく家は断絶。
そして悪魔界が危機に陥る所だった。
それを考えれば……
グレイフィアの拳一発で済めば安いものだ。
しかし不服そうな顔をしているライザー。
騎士はとりあえず剣を下げる。
グレイフィアの鉄拳制裁に一応の誠意を感じたからだ。
流石、魔王の番と言ったところかと思っていた。
そして振り返りアーシアの様子を見る。
多少は落ち着きを取り戻してはいる様だが……
マントを握る手はまだ震えいた。
黒歌と小猫がアーシアの隣で慰めている。
とりあえずライザーは命の危機から脱した。
しかし、ライザーにも貴族たるプライドがある。
そう簡単に人間に頭を下げる事が出来なかった。
終始、不服そうな態度は見る者をイラつかせた。
しかし、沈黙を貫いていたリアスがついに動いた。
手に持ったハンカチをライザーに投げつけたのだ。
「ライザー、貴方に決闘を申し込むわ」
「何だと……?」
「友人に対する侮辱、万死に値する事よ」
「お嬢様それはレーティングゲームをすると……」
「えぇ、そうよ」
毅然とした態度でリアスは言い放った。
グレモリー家は身内に対する慈愛の深さは有名である。
それはリアスが保護すると約束したアーシアにも当然当てはまる。
【友】を侮辱されたのだ。
戦うには十分過ぎる理由である。
リアスが決闘を決意したの其だけではない。
決め手はやはり騎士の態度だ。
王たる者とは斯くあるべきだと……。
そう強く思わせた。
「正気か?本気で俺に勝てるとでも?」
「勝つ……?勘違いしないで欲しいわ。
私は只、侮辱されたアーシアの為に戦うのよ。
消し飛ばしてあげるわ、ライザー」
「お嬢様のご意志しかと承りました」
リアスとライザーは互いに睨みあっている。
だがライザーは薄ら笑いをする余裕があるようだ。
殴られた頬はガッツリ腫れているが。
修羅場はすっかりリアスが持っていった。
寧ろ、一番穏便に済む方法になったと言うべきか。
危うく悪魔界が震撼する大惨事になりかけたのだから。
上級悪魔3人が今後について話をしている。
完全に置いて行かれた騎士の元に二人の人影が近付いた。
「ご無礼を承知でお尋ね致します」
見るからに剣士の格好をした娘が騎士に声をかけた。
その剣士の隣には何やら奇抜な髪型をした娘も居る。
左右の髪が渦を巻いている……
今時の若人の感性は理解出来ぬと思った騎士だった。
紅い眼を動かし、反応した。
「何用だ、娘共」
「貴方様は……その、【髑髏の騎士】殿であろうか……?」
「如何にも」
「なんと……やはり伝説は本当だったのかっ!
私はライザー様の眷族でありまして……
【騎士】カーラマインも申しますっ」
「私はレイヴェル・フェニックスです。
この度は兄が大変御迷惑お掛けしました……」
二人の自己紹介を受けた騎士。
無能な主の元にも多少は良識のある者は居る。
騎士は言葉少なく返答する。
二人は騎士の事を知っている様な口振りだった。
どうやら"例"の御伽話の影響だそうだ。
確かにドラゴンを退け、数多のはぐれを葬った。
だが此処まで影響しているとは思っていなかった。
所詮は御伽話だ、気にするまでもない。
そう思い特に気にしていなかったが……
認識を改めなければならないな。
やがてライザー達は現れた魔方陣の中に消えていった。
どうやら話がまとまったらしい。
騎士はリアス達の所へと歩いて行った。
「魔王の番よ、【レーティングゲーム】とは何だ」
「悪魔同士の戦争……と言った所でしょうか」
「……戦?」
「ですが本物の戦争と違い、死者は出ません。
仮に倒されてもゲームから除外されるだけ……」
「成る程、戦の名を借りた遊戯か」
「悪魔界は実力主義。
弱ければお話になりません。
ですが同族同士で殺し合いする訳にもまいりません。
だからこそのレーティングゲームです」
「……くだらぬ」
「ですが、このゲームの結果は重視されます。
特に今回の様な件に関しては尚更です」
「勝負にすら、ならぬと思うがな」
騎士は剣を抜くと眼にも止まらぬ速さで振り落とす。
床には真っ二つになった蝿がいた。
確かに騎士がレーティングゲームに参加しようものならば……
最早ゲームではない。
一方的な展開になるのは眼に見えている。
あの場に居たライザーの眷族誰一人として……
騎士の殺意に耐えられなかったのだ。
寧ろ、騎士と面と向かってメンチきれるのは魔王位か。
グレイフィアですら本気の騎士の前では……
正気を保つのがやっとである。
「騎士殿はゲームに参加する事は出来ません」
「当然だな」
「あ……あの」
そこにアーシアが遠慮しがちに二人に声をかけた。
「私もそのゲームに参加出来ますか?」
「レーティングゲームは基本的に眷族同士で行われるもの……
残念ながらアーシア様は参加資格がありません」
「自ら鉄火場と立つ必要は無い」
「私……力になりたいんです。
イッセーさんや部長さん……皆さんの力に。
お友達として、守られてるだけは嫌……です」
騎士は暫くアーシアの事を見ていた。
この娘から強い意志が感じられた。
目は口ほどに物を言う。
先程まで震えていた者とは思えない決意の強さ。
アーシアもアーシアなりに感じていたのだ。
自分の為に全て悪魔を敵に回す事も辞さないと言って貰えた事。
いの一番にライザーに殴りかかった一誠。
自分の名誉の為に決闘を挑んでくれたリアス。
この恩に報いる為に自分は何が出来るのだろうか?
確かに出来る事は限られている。
だが何も無い訳ではない。
ならば出来る事をやるしかない。
アーシアは決意していたのだ。
逃げずに戦う事を。
「リアス・グレモリー、我が渡した駒はあるか」
「えぇ、ちゃんとあるわ」
リアスは先端部が髑髏になった駒を騎士に渡した。
そしてその駒を騎士はアーシアに握らせた。
駒は紅く光ると手の中の駒の形は変化していた。
見ると髑髏の駒から"僧侶"の駒に変化しているではないか。
リアスも眷族としての繋がりを確かに感じていた。
アーシアは大変異の駒の力をへてリアスの一時的な眷族となった。
「これでも参加出来ぬのか?」
「少々強引ですが……
これならば参加は可能でしょう」
「友よ、その強き意志を我は尊重しよう」
「はい!私……頑張ります!」
「ゲームは10日後よ、皆気合い入れて特訓よ!」
リアス達の強き雄叫びが旧校舎に響いていた。
リアス・グレモリー。
初のレーティングゲームまで……
あと10日。
GWは攻めたい。
挑め!果敢に!
だが、やることは多い……