この頃は落ち着いた日々が続いている。
暖かいご飯、安心して寝れるねぐら(教員用宿舎)。
安定した職場に……心から慕える上司(なのか?)。
今日も今日で担当の部活の顧問として登山の監督をして……
「かぁ~労働は尊いにゃ!」
「自分で歩いてからそう言う事を言って下さい」
大きなリュックの上で寛ぐ姉に無表情で突っ込む妹。
最初こそは「白音の修行の為にゃ(キリッ」と言っていたが……
成る程、この姉の魂胆が見えてきた。
要するに私の修行に便乗して楽がしたい……と。
あれほど騎士様に「怠けるな」と言われたのに。
この姉にはどうやらお灸が必要のようだ。
余裕ぶっこいてお菓子を食らってる怠け者に天罰を。
フフフ……と暗い笑みをする小猫。
そんな事を知る由もない黒歌は昼寝をしていた。
「ぶ……部長、小猫ちゃんが怖いっす」
「あら?よそ見する程余裕あるのね。
凄いわイッセー」
同じく大きなリュックを背負った一誠。
額には大量の汗が流れ、呼吸は荒い。
基礎体力は日々のトレーニングでついてきていた。
しかし、登山と重いリュックを背負った状態ではまた違ってくる。
素人の一誠はリアスの叱咤と甘い激励を受けて突き進む。
バテては立ち上がり、またバテる。
そんな疲弊した一誠の横を華麗に通りすぎる木場。
リュックの重さを感じさせない動きは騎士故か。
おまけに食べられる山菜を手に持っている。
つまりは全然余裕だと言う事だ。
イケメンはどんな場面においても完璧にこなす。
何故ならばイケメンだから。
「お先に、一誠君」
爽やかに追い越して行く姿に奮起した一誠。
これまでにない怒涛の追撃!!
を幾度となくやったのち……合宿の目的地へと到着。
一誠の目の前に木製の立派な建物が見えてきた。
そこには既にリアスと一誠を除くオカルト研究部が集結していた。
クタクタになった一誠はその場にへたりこんだが……
直後、アーシアからお茶と笑顔と激励により復活。
現金な身体に中のドライグも呆れていた。
部長曰くグレモリー家の別荘だから好き使って良いとの事。
流石は悪魔の貴族……凄いお金持ちである。
宿泊部屋複数完備の温泉付き施設とは……
もはや、高級旅館かホテルと言って過言ではない。
この恵まれた自然と施設の環境。
レーティングゲームまでやるべき事をやるしかない。
休憩も程々にリアス達の特訓は開始された。
「不死か……」
独りごちる騎士はまた思考の海へと身を投じていた。
不死の名を冠するフェニックス。
騎士の記憶に鮮明に残る数多の激戦。
1000年の長きに渡る好敵手。
その名を【不死のゾッド】。
強者との闘争と戦に生きる使徒の猛者。
その巨駆に違わぬ怪力と2本の剛角。
戦と言う戦を渡り歩き、猛者を探す。
まさに【戦狂い】。
「奴と比べるのも栓なき事か」
ゾッドと若僧のライザーを比べる事を止めた騎士。
だが……想像してみて欲しい。
ゾッドとライザーの姿を。
どちらが強いであろうかを。
双方驚異的な再生能力を持つ魔獣。
ただ、見た目的にはゾッドの圧勝だが……
ライザーも騎士に斬り飛ばされた腕を短時間で再生させた。
この再生能力の速さは侮れない。
もっともゾッドの様な圧倒的な戦闘力があるとは思えないが。
「不死の名、侮り難し。
なれど挑むか……リアス・グレモリー」
騎士はリアス達の勝機は薄いであろうと感じていた。
リアスの眷族は強い、それは一誠を含めても言える事だ。
個々の能力はいずれも高く、実戦経験もある。
そして一誠の【赤龍帝の籠手】。
ドラゴンの力を宿した神滅具の力は語るまでもない。
だが……それは使いこなせればの話である。
確かに一誠は少しずつではあるが成長している。
しかし……相手が悪い、悪すぎる。
不死を語る手合いに取るべき手段は少ない。
ましてや、手駒の数的にも劣勢。
戯れとは言え、やる事は戦。
自らの意思で戦う事を選んだ友。
闘争とは縁の無い優しき心を持つ者。
その友の決意に幾ばくかの助勢をするべきか?
魔王の番は戦には参加出来ぬと言っていたが……
「奴だけでは、些か不足か」
剣に付着したドス黒い魔獣の血を払い、腰に戻す。
魔獣の骸……その臓物の中から一欠片のベヘリットを取りだし、食らう。
騎士の胎内に取り込まれるベヘリットだが……まだ足らない。
【喚び水の剣】
かつて力を発揮させる程の力は今はまだ無い。
しかし、この異界にもベヘリットの力で使徒へと転生した者は居るようだ。
その者は総じて【はぐれ悪魔】と呼ばれている。
力の快楽に溺れし哀れな者は夜な夜な人を喰らい、散らかす。
使徒とはぐれ、名は違えど本質は変わらず。
この駒王町と呼ばれる城塞都市に蔓延る異形の獣。
その魑魅魍魎を狩る騎士の姿はまさに死神。
騎士は来るべき時に備え、今は力を蓄える。
欲望に溺れた者の成の果てを狩りながら……
駒王町郊外のはぐれ悪魔を滅した騎士。
漆黒のマントを夜風に靡かせ闇へと消える。
魔獣のドス黒い血だまりの中央には……
ガリガリに痩せた老人の遺体だけが残っていた。
騎士は暗い森を風の様に吹き抜け進んでいる。
月の光も遮る樹林を幾つも越えた先……
切り開かれた山の頂上付近に建物が見えた。
中からは見知った者の気配がする。
馬の速度を弱め、建物に近付いて行く騎士。
駆けている最中は気が付かなかったが今宵は満月らしい。
街のにある地面の星の光も無い。
天上の月の淡い光だけが大地を照らしている。
建物の光が窓から漏れたテラスに人影を確認した騎士。
そこにはアーシアが夜空を眺めながら佇んでいた。
「はぁ……」
綺麗な夜空を眺めながら溜め息をしてしまった。
オカルト研究部の皆さんと特訓の為に此処まで来た。
特訓1日目が終わり、自分の出来る事の少なさを改めて実感する。
私の力は戦闘向きでは無い。
だけど傷を癒せるこの力は非常に貴重らしい。
私の潜在的な魔力の量は多い。
ポテンシャルは凄く高いって言われましたが……
今まで誰かを傷を癒す事はやれど、傷つけるなんて……
やった事が無いので、勝手が解らない。
でも、部長さんやイッセーさん、皆さんの力になりたい。
思いと現実を1日目にして実感させられた。
お風呂上がりの火照った身体を夜風が吹き抜ける。
直後にあの人の気配がしたのが解った。
気配の方に目を向けると骸の馬に跨がった騎士が居た。
「オジさま!」
「どうやら息災の様だな」
騎士の姿を見るや直ぐに建物から出てきたアーシア。
先程の憂鬱そうな雰囲気は何処へやら。
満面の笑顔で近寄って来た。
因みにこのアーシアの笑顔を見れるのは……
一誠と騎士だけがほぼ独占している。
もっとも騎士に向けられるアーシアの好意は子が親に向けるそれに近いものだ。
大人……いや、両親の愛を知らないアーシアは騎士が【父親】に見えているのかも知れない。
騎士本人にそんな自覚は無いのだが、羨ましい事この上ない。
「私……ケンカって苦手です」
「左様か」
月の光が照らす林内の開けた切り株に腰かけるアーシア。
その隣には騎士と骸の馬が立っている。
アーシアはどこか悲しげに騎士に語りだした。
騎士は言葉少なく聞き手に徹している。
確かにこの心根優しき娘に争い事は酷な事であろう。
しかし、自ら戦うと決めたアーシアに騎士は言った。
「己の魂に問い続けよ。
己の成すべき事は何かとな」
「己の魂に問い続ける……?」
「そうだ」
小難しい騎士の助言を必死に理解しようとするアーシア。
だが、そんなに簡単に答えなど出る訳がない。
己の魂に従い行動する、簡単な様で難しい事だ。
「今は良い」と言うと騎士は骸の馬にアーシアを乗せる。
夜も更けているので先程の建物の所まで送る為だ。
アーシアは騎士の身体の前に大人しく座っているが……
どうやら寝てしまっている様だ。
建物の光もほぼ消えているが入り口の前に人影が二つ。
其処にはリアス・グレモリーと一誠が待っていた。
一誠は待ちくたびれたのか疲労からか寝てしまっている。
ミイラ取りがミイラになっているとはこの事か。
アーシアが起きない様に馬から下ろす騎士。
その華奢な身体は羽の様に軽かった。
騎士のゴツゴツした鎧では柔肌に傷を付けかねない。
早めに寝床へ運ぶべきだリアスに伝え、準備させた。
抱いたアーシアに顔を向けると寝息が微かに聞こえる。
その顔は本当に穏やかな寝顔をしていた。
対焼き鳥戦、特訓初日。
次回、髑髏のオッサン冥界へ行くの巻。