「無様なものだ」
髑髏の騎士は小猫にボコボコにやられる一誠を見て思った。
その身に強大なドラゴンの力を宿そうと一誠自体が弱い。
宝の持ち腐れとはまさにこの事であると。
そして、あの紅いドラゴンの力を御せるとは到底思えないとも。
そもそも【人間の器】ではまず無理であろう。
悪魔とやらに転生した身体でも有り余り過ぎる力だ。
規格外の膨大かつ禍々しいドラゴンの力。
だが……もしその力を御しきる事が出来るのならば……
もはや、敵など居るまい。
激しく地面に転がる一誠を見下ろす騎士。
息も絶え絶えに立ち上がる一誠。
荒削りなケンカ殺法で果敢に挑むが結果は同じ。
幾度地面を舐めたのだろうか。
朝方の静けさは無く、日は高く上り燦々と大地を照している。
ボロボロの一誠がいつの間にか騎士に近づき訊ねた。
「髑髏のオッサン、聞きたい事があるんだ」
「なんだ」
「オッサンは何でそんなに強いんだ?」
「知らぬ」
出鼻をバッサリ斬られた一誠は倒れそうになった。
髑髏の騎士の強さの秘密を少しでも聞けたら……
何か修行の足しになるかもと思っていた一誠。
しかし……開始一言で会話が終わり、何も解らなかった。
だが一誠は諦めず、しつこく騎士に詰め寄った。
強さを求めるのは【己】の為か。
自身の【王】の為か。
紅い眼で一誠を暫く睨むと騎士は言った。
「何故、強さを求める」
「そりゃあ部長や皆を守る為だ!」
リアス・グレモリーの兵士として。
一人の男として大切な人を守る。
一誠は己が望む【力】はその為にあると言った。
初々しく、甘い理想の【力】。
迷いの無い眼で一誠は騎士を見ていた。
一方、一誠の中に同居するドライグはやれやれと溜め息をつく。
今代の使い手は……最弱。
その上、他人の為に力を求めるのかと。
先ずは少しでも自分を強くしてもらわないと困る。
漸く、意思疎通が出来るようになったのに……
あっけなく死んでしまったら洒落にもならない。
目の前の【規格外】を一誠越しに見て感じていた。
(守る為の力か……)
暫く騎士は一誠を見ていたが森の鳥達が騒ぎだしている。
そして騎士が腰の剣に手を伸ばすと……
まるで世界は停止したかの様に静寂に包まれた。
ドス黒い殺気が辺りを支配している。
泣きわめいていた鳥の声も聞こえない。
呼吸すらままらない程の圧力。
その静寂の中、騎士が動いた。
「笑止」
そう言った直後、剣を抜き一誠の眼前に切っ先を向けた騎士。
振られた剣が速すぎて何も出来なかった一誠。
解った事は今の一瞬で自分は死んでいたと言う事だけ。
騎士の覇気と殺意に一誠の心は恐怖に支配されていく……
逃れられぬ絶対的な【死】のビジョン。
今、自分が生きていられるのは騎士の気紛れにしかすぎない。
生殺与奪を握られる恐怖は何度経験しても半端ではなかった。
まさに格が違う。
雑兵が覇王に挑むと言うのも烏滸がましい。
髑髏の騎士と悪魔……
天と地程の差があると言う事を改めて確認した。
「【死】を前に貴様はどうする」
「お……俺は」
一誠は言葉に詰まった。
死を前に自分に出来る事などあるのか?
圧倒的な力の差を前に何が出来るのか?
身体は震え、汗が吹き出る。
当然、騎士の問いに答える事など出来るはずも無い。
今まで必死に、それこそ死に物狂いで修羅場を潜り抜けてきた。
たからこそ明確な解など出る訳がない。
只々、一誠は狼狽えるだけ。
騎士は剣を一誠の首筋にあて殺気を強め更に言う。
この騎士の言葉は後の一誠に大きな影響を与える。
戦う者としての【矜持】を垣間見たのだ。
騎士の行き様を確かに感じた……気がした。
「もがき、挑み、足掻く!
それこそが【死】に対峙する者の唯一の剣。
ゆめゆめ、忘れぬ事だ」
腹の底に響く、低い声だけが聞こえていた。
この死にもっとも近い世界の【支配者】の声だけが。
「もがき、挑み、足掻く……」
「死の運命、斬り開くは己の剣のみ」
そう言うと騎士は剣を腰に戻す。
今までの殺気が嘘の様に消え失せ、世界に活気が戻る。
ホッと胸を撫で下ろした一誠。
肺の中の空気を全て吐き出し、思いきり吸う。
自分はまだ生きている実感を噛み締めた。
毎回思う事だが騎士の殺気はやはり尋常ではない。
【超越者】
決して越えられぬ壁を超えた者。
はたしてこの騎士に敵う奴が存在するのであろうか。
一誠は冷や汗を感じながら思うのであった。
生か死か、究極の選択を迫られた時どうするのか。
死を前にして座して受け入れるか。
死に対し挑み、僅かな生の可能性を掴みとるか。
一誠は今までの事を目を瞑り思い出す。
狂った神父の事、レイナーレの事……
絶体絶命の時、自分はどうしていたかと。
壮絶な激戦を記憶を呼び起こす。
端正でも無い顔を歪めて「うーんうーん」と唸る一誠。
無理もない、トラウマを自ら掘り起こしているのだ。
小猫の辛辣なツッコミで我に返る一誠。
当初は騎士と一誠しか居なかったはずの広場だが……
いつの間にか騎士と一誠の回りにリアス達は集まっていた。
そして、その場に居た者全てが騎士の助言に聞き入っていたのだ。
【真の王】たる者の言葉に。
「己の持つ剣を力を精々磨く事だ。
後悔して死なぬ為にな」
「「「「「「はい!」」」」」」
学生らしく元気良く返事をした一堂。
柄にも無く喋り過ぎたと思った騎士。
まるで騎士見習いに指導する者の様だ。
だが何処か懐かしい感情が込み上げた気がした。
遠い記憶の片隅に埋もれた何かが。
黒歌は駒王学園オカルト研究部顧問である(暫定)
だが……今まで顧問らしい事を何一つしていない。
気が向いた時に小猫に仙術を教え、一誠にちょっかいを出す。
アーシアに大人の魅力を語り、リアスと朱乃にちょっかいを出す。
しかし……今日の黒歌先生は一味違う。
何故ならば……髑髏の騎士が居るからだ。
心から信頼する【王】が居るのだ。
いつもの様にだらける訳にいかない。
此処で私の存在価値を見せなければと気合いを入れる。
意気揚々と表に出た黒歌は一瞬、幻覚を見たかと思った。
若い悪魔達に何かを言っている騎士が見えた。
しかし、いつもの騎士の姿ではなく……
何かを懐かしむ壮年の騎士が見えた……気がした。
しかし、目の前にいるのはいつもの騎士だった。
あの髑髏の何を見間違えたのか。
疑念が残るが考えても仕方ない。
最高のドヤ顔で一堂の元へと歩いて行った。
「さぁ!特訓開始にゃ!
ビシバシ鍛えてやるから覚悟するにゃ!」
「姉さま……社長出勤」
小猫はドヤ顔でやって来た姉を即座に迎撃した。
騎士の前で全ての悪事(サボり)をぶちまけた。
そしてオカルト研究部員全員が揃えて頷いていた。
全ては身から出た錆び、自業自得だと……
慌てふためく黒歌だったが……
騎士の睨みと無言の圧力で見事撃沈。
大いに反省せざるをえなかった……。
「これも因果、いや……
我もまた螺旋を歩みし者と言う事か」
はしゃぐ若人達を見た騎士はぼやく。
騎士の独り言を聞いていた二人の悪魔……
一誠と祐斗は顔を見合わせた。
「何を言っているのか全く解らねぇ……」
「確かにイッセー君には難しいかもね」
「木場には解ったのかっ!?」
「いや、全然」
ズゴっと転けた一誠。
確かに騎士の小難しい話を理解出来る者のが少ないだろう。
すっかり話に聞き入ったいたリアスは重要な事を思い出す。
今後の悪魔と髑髏の騎士の関係に関わる事を。
ライザーとの対戦に先駆けて……父と兄から何か話があるらしい。
恐らくは他の上級悪魔へ顔見せか、或いは他勢力の牽制か。
いずれにせよ、不自然なタイミングだ。
「騎士殿、御迎えに参りました」
突如、地面に魔方陣が展開され中からグレイフィアが現れた。
まるで見計らった様なタイミングだ。
何かしらの意図を感じざるを得ないリアスだが……
どうやら騎士はこの事を知っている様な感じだ。
深々とお辞儀するグレイフィアを紅い眼で見下ろしている。
「下らぬ……だが義理は果たそう」
「ありがとうございます。
ではどうぞ此方へ……」
グレイフィアに導かれ魔方陣に入る騎士。
程なくしてグレイフィアと騎士の姿は消える。
そして、オカルト研究部員達の特訓は開始された。
次回 今度こそ髑髏のオッサン冥界へ行くの巻き
中々、纏まりませんでしたので冥界渡航が延期になってしまいました。
スミマセン……