髑髏の騎士D×D   作:プライベートX

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愛とは何か?

 冥界の不気味な空と大地は間違いなく誰もが地獄だ言うだろう。

大小様々な魑魅魍魎が昼夜を問わず闊歩する様は真に此処は異界であると感じさせた。

【幽界】における闇の領域【クリフォト】がこれに近いと言えよう。

怒り、悲しみ、妬み、憎しみ、負の感情が渦を巻き……

ある物全てを飲み込む。

【生】への渇望、【命】ある者への妬み。

肉体が朽ち果ても残留思念は消える事なく留まる。

それは人間だけはではなく、悪魔とて例外ではない。

溜まりに溜まった負のエネルギーは時として形を成し害を振り撒く。 

人はそれを【悪霊】または【幽鬼】と呼んだ……

 

「流石は冥界と言った所か」

 

 騎士は剣を抜き構えながら呟いた。

刀身に不気味な空の光が反射し鈍く輝く。

かつての戦場跡なのだろうか、荒れ果てた荒野に無数の幽鬼が漂っていた。

騎士からして見れば己も人の身を持たぬ人外である。

幽鬼に襲われる事自体が筋違いなのだが……

 

「是非も無し」

 

 まとわり付く幽鬼を一閃のもと斬り捨てた。

まるで水の塊に剣を叩きつけたかの様に弾けて消える。

手応えは無い、だが幽鬼は苦悶の表情と断末魔をあげて消えて逝く。

 

『身体欲しい……』

 

『帰りたい……』

 

『力を寄越せ……』

 

 自分勝手な願望に耳を貸す事無く、次々と斬り伏せていく。

人馬一体となった騎士の動きに幽鬼ごときが対応出来る訳もない。

突き刺し、薙ぎ払われ、打ち砕かれる。

流れる様な動作からは一瞬の隙などあろう筈も無い。

幽鬼の数は次第に減っていき、騎士は一跳びで距離を取った。

ジャキと鎧の擦れた金属を鳴らし、剣を構え直す。

切っ先からの殺気と騎士の紅い眼は、肉体の無い幽鬼すらも退ける。

形勢不利と思ったのか、ふよふよと空中を漂う幽鬼達は一目散に飛び去って行く。

飛び去って行く幽鬼達を騎士は紅い眼で追う。

そして、その先にある小さな気配を感じていた。

 

「肉ある者を見つけたか……」

 

 

 騎士は轡を返すと幽鬼達の後を追う。

不規則な突起の岩、底の見えない谷、深い森を風の如く進んで行く。

冥界の鳥達が哭き喚き空を旋回している。

森の開けた一角に幽鬼達が集まっていた。

昼間か夜かも解らないが光も届かぬ森、妖魔の類いにはうってつけだ。

幽鬼達が目を付けた者は小さくうずくまり泣いている。

どうやら子供様だが……何やら様子が変だ。

幽鬼達がいつまでも子供に取り憑こうとしない。

不可解な事ではあるが今はどうでも良い。

斬り残した者共を只、斬り捨てるのみ。

骸の馬の手綱を強く握り、速力を増す。

騎士は漆黒の風となり一気に広場を吹き抜けた。

うずくまる子供に手を伸ばさした幽鬼が弾け飛ぶ。

黒い塊が子供の前立ち塞がり剣を抜き言った。

魔王すら恐れをなす必滅の殺意を乗せて。

 

「 退け 」

 

 一言、たった一言だけで空気が変わった。

いかに残留思念の塊でも、その根底にある物は……

 

【恐怖】

 

 幽鬼達は本能に刻まれた【恐怖】を呼び起こされたのだ。

人外としての格の違いと言うべきか。

恐れを成した幽鬼達は蜘蛛の子を散らすかの如く飛び去った。

暫く剣を構えたまま、辺りを覆う。

邪な気配は無く、森は静寂に包まれていた。

すすり泣く子供の泣き声だけが森に響いている。

剣を腰に戻し、骸の馬から降り子供の前へと立つ。

騎士の殺気に当てられたのか、当初からの恐怖からなのか。 

泣き止む様子はなく、うずくまったままだ。

 

「小僧」

 

 騎士の低い声の呼び掛けにビクッと身体を震わせ反応した。

どうやら意識が無い訳ではなさそうだ。

おそるおそる顔を上げた子供は騎士の顔を見て再びうずくまった。

まぁ、確かに騎士の顔は恐ろしい。

何故なら、髑髏なのだから。

眼は紅いし、漆黒のマント、威圧的鎧……

完全にR指定と言っても過言でもない。

今更そんな解りきった事を言っても仕方がないが……

騎士としてもこの子供を捨て置く訳にもいかず、立ち尽くした。

 

「……僕は死ぬの?」

 

 蚊のなく様な声でうずくまった子供は騎士に尋ねた。

漸く落ち着いたのか騎士は溜め息をすると質問に答える。

 

「今の所は死なぬ」

 

「じゃあ……やっぱ死ぬんだ」

 

「命ある者いつかは皆死ぬ。

貴様等、悪魔とて例外ではあるまい」

 

 騎士はそう言うと子供の襟元を掴むと強制的に立たせる。

よくよく見れば身なりの良い服を着て、特徴的な赤い髪……

見覚えのある顔に似てなくも無い。

しかし幽鬼や妖魔が出る所でグズグスしているのも馬鹿らしい。

掴んだまま骸の馬に跨がり乗せると、有無を言わせず駆け出した。

 

「もしかして……貴方は【髑髏の騎士】様?」

 

「左様、我は髑髏の騎士だ。

魔王の縁者よ」

 

「縁者じゃないです。

僕はミリキャス・グレモリー。

お父様から良く御話しを聞いていました!」

 

「小僧、何故あの様な場所に独りで居た?」

 

「そ、それは……その」

 

「深くは詮索せぬ。

だが、年長者の忠告は良く聞く事だ」

 

「ご……ごめんなさい……」

 

「謝る相手は我ではない」

 

 広すぎる領地も考えものだなと思う騎士。

レーティング・ゲームが開始されるまで時間がある。

見知らぬ悪魔共と社交など御免だ。

気晴らしに遠乗りに出てみればこれか。

グレモリーの悪魔とは何かしらの因果を感じるな。

子供なりに反省しているのだろう。

今にも泣きそうになりながら項垂れている。

仮にも魔王の息子であろうに……

素直と言うべきか軟弱と言うべきか。

 

「小童、男が容易く涙を見せるな」

 

「でも……」

 

「男ならばドラゴンを見ても狼狽えぬ胆力を持て」

 

「ならドラゴンよりも恐ろしい……

騎士様を見ても平気なら大丈夫ですね」

 

 騎士を見ながら微笑むミリキャス。

少々泣きべそをかいているが……

まぁ、良いだろう。

ミリキャスの方をチラリと見た騎士は、何も言わずに顔を戻した。

男同士……なのか?何か通ずるものがあった様だ。

暫くするとグレモリーの城が見えてきた。

同時に尋常ではない気配も感じている。

この気配……魔王の番に相違あるまい。

ビリビリと感じる覇気は城に近付くにつれて強くなっていく。

ミリキャスも顔面蒼白になり、騎士のマントを握る手は震えていた。

大きな門を越えた辺りからグレイフィアの姿が見えてきた。

深々とお辞儀をしているが……間違いなく怒っている。

ミリキャスは骸の馬から降りたとたん、即座に騎士の背後へと隠れてしまった。

 

「重ね重ね、騎士殿には御迷惑をお掛けして……」

 

「童を捨て置く程、我も薄情ではない」

 

「ミリキャス」

 

 グレイフィアは騎士の背後にいる息子の名を呼ぶ。

だがミリキャスは前へと出ようとはしない。

騎士は振り替えると紅い眼でミリキャスを睨みながら言った。

 

「子を思わぬ親は居らぬ。

貴様もけじめをつけよ、男ならばな」

 

 観念したのか覚悟を決めたのかミリキャスは足取り重そうに前へと出る。

母の厳しい叱責を受けると思ったのか、近付くグレイフィアを見る事が出来ずに目を強く瞑っていた。

しかし、いつまで待っても覚悟した痛みがこない。

代わりに感じたのは母の匂い、抱擁されていたのだ。

揺るぎない安心感と罪悪感かミリキャスの涙腺は呆気なく崩壊した。

 

「あの森には近づいてはいけないと……

私達がどれだけ心配したのか…」

 

「ご、ごめんなさいぃ……」

 

 抱き合う親子を見て騎士は考える。

子を思わぬ親は居ない、魔とてそれは変わらない。

母は子の為ならばその身を盾に守るだろう。

父は家族の為ならば命を捨て戦うだろう。

我も理解出来ぬ力の根元……

これが【愛】なのか。

生涯、感じた事も思った事も無い感情。

人外に身を堕とし、冥府魔道を歩んできた騎士。

古き友の魔女は常々言っていた……

 

『貴方にもある、真心はちゃんとあるわ』

 

 特定の誰かを大切に思う事。

複雑な感情が入り交じり、己が何を考えているのかすら解らなくなってきた。

やはり深入りすべきではない事案である事は理解した。

兎に角、今はリアス・グレモリー、アーシアの初陣を見守るべきか。

騎士が早々に立ち去ろうとした時、グレイフィアに呼び止められた。

 

「お待ち下さい、騎士殿」

 

「なんだ」

 

「まずは改めて御礼を……」

 

「良い、原因の一端は我にもある」

 

「いえ、一人の母として御礼を言わせて下さい。

ミリキャス……息子を救っていただき、ありがとうございます」

 

「貴様等は本当に【魔】なのか……

存外、人間のが余程【魔】に近いのかもしれぬ」

 

 親子の【愛】の片鱗を見た騎士。

自分でも理解出来ぬ感情だが……

不思議と悪い気はしなかった。

 




ミリキャス登場。
我が息子も彼ほど素直なら……
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