髑髏の騎士D×D   作:プライベートX

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騎士が良く喋るのは仕様です、悪しからずご容赦下さい……


冥府魔道

 「……何をしている」

 

 騎士は後ろから近付く黒猫の娘に振り返らず言った。

 気が付かれているとは思っていなかったのか、驚きの余りに背筋ピンッの状態で固まってしまった。

 最初はほんの軽い気持ちだったと彼女は後に語る。

 理由など、特に無い。

 ぶっきらぼうな不気味髑髏を少し驚かしてやろうと、浅い眠りから覚めた駄目猫は何故かそう思い立つ。

 横穴の入り口で仁王立ちして微動だにしない騎士へと、静かに迫る。

 抜き足、差し足、忍び足、猫の特技を遺憾なく発揮させて距離を徐々に詰めて……今に至る。

 そして、バレた悪戯程虚しく居心地の悪いものは無い。

 すごすごと肩を落としながら騎士の隣へと歩いていった。

 

 「完全に気配消してたのに……」

 

 「邪な気配、気が付かぬ訳がない」

 

 「邪とは心外だにゃ!抗議、断固抗議するにゃ!」

 

 「戯け、騒ぐと傷が開くぞ」

 

 ガチャリと鎧が音を立て紅い眼で黒歌を睨む騎士。

 魔に疎い者でも解る圧倒的な覇気、見る者全てが氷付く禍々しい見た目。

 当然、黒歌は肝を冷やし2~3歩後退りをしたのち、しゅんと耳と尻尾をたらす。

 その、あからさまにしょげた様子を見て、出来るものならば大きな溜め息を騎士はしたであろう。

 やれやれと頭を軽くふるとすっかり縮んだ黒猫娘に語りかけた。

 

 「……面妖な娘だ」

 

 「え?」

 

 「娘、名を聞いてなかったな」

 

 「ふふん、レディに名前を聞く時は自分からなのるべき、にゃ」

 

 凄いポーズ、凄いどや顔である。

 そして無駄に着崩れた服、それに比例して露出する肌。

 正に破廉恥、昨今の若者は理解出来ぬと騎士は早々に見切りをつけた。

 

 「生憎、名は捨てた」

 

 「訳あり?流石は伝説の騎士様って事かにゃ」

 

 「……名乗れぬならば構わぬ、破廉恥な娘よ」

 

 ドストレートな騎士の物言いに黒猫破廉恥娘は一瞬で氷ついた。

 しかも、自分に対する名称が"娘"から、"破廉恥な娘"に降格しているではないか。

 まぁ、破廉恥が服着て歩いている様な物だから強ち間違ってはいない。

 大概の男を魅了するであろうナイスバディ、特にその胸の破壊力は相当なものである。

 しかし残念かな、その美貌もスタイルも全く興味がない騎士からして見れば只の痴女でしかなく、何のタクティカルアドバンテージも無かった。

 

 「は、破廉恥娘って失礼にゃ!黒歌!私の名前は黒歌にゃ!」

 

 「羞恥の自覚はある様だ、感心すべきか否か……」

 

 「感心するべき!それに!これは私のアイデンティティーなのにゃ!」

 

 また、よく解らぬ言葉を使うものだと"黒歌"と名乗る娘を見て思う騎士。 

 

 "断罪の塔"で助力した娘も飄々としていたが、恐いもの知らずな所はこの娘とも似通った所もあると少し納得した。

 しかし、何故か嬉しそうな黒歌を邪険にも出来ず複雑な心境の騎士であった。

 そんな騎士の事などお構い無しに黒歌は様々な事を語り出した。妹が可愛い事、悪徳な主人を手に掛けた事、今や凶状持ちのお尋ね者になっている事など、只一方的に騎士に語っていた。

 時折、騎士は「そうか」と相槌を打ち聞き手に徹し、特に何かを言う事は無かった。

 

 「私、駄目なお姉ちゃんだから……きっと妹も愛想尽かしてるにゃ」

 

 黒歌は、弱々しく半ば諦めを含んだ愛想笑いを浮かべていた。

 

 「下らぬな」 

 

 騎士は心底呆れた様な感じで、辛辣な言葉を吐き捨てた。 

 

 「貴様が選んだ事だ、その結果を悔いているのか?」

 

 「そ、それは……」

 

 「度しがたい程、愚か也」

 

 図星を突かれた黒歌は、憤怒の表情で騎士を睨みつける。

 

 「貴方にっ、私の何が分かる!」

 

 「今更、過去は変えられぬ。ならば進むしかなかろう……貴様が選んだ"冥府魔道"を」

 

 突然、深紅の眼で黒歌を真っ直ぐ見据え剣を抜き顔の前に構える。

 全ての動作は洗練され黒歌はその姿に釘付けになった。 

 月の光が剣と鎧に反射して鈍く輝く、その姿は正に伝説の騎士に相違無いと感じさせた。

 

 「"冥府魔道"を歩みし者よ、騎士の礼を持って敬意を示そう」

 

 まさかの事態に黒歌は非常に混乱した。

 黒歌、スーパー大パニックである。

 様々な感情が頭の中から身体中を駆け回り、同時に爪先から頭のてっぺんまでマグマが上り噴火する。

 その顔は真っ赤になり、涙は溢れ、そして声を出して泣いた。

 誰にも理解されず、人知れず闘い、逃げる回る日々……

 その努力の全てが騎士の一言で報われた気がした。

 守ったはずの妹からも避けられ、いっそ堕ちる所まで堕ちようかと思っていた黒歌だったが踏み留まる事が出来たのは言うまでもない。

 感情が爆発し何も考えられずその場に座りこんでしまった。

 

 (邪な気配……、数は多いか)

 

 剣を反転させ地面に突き刺し洞窟の前に仁王立ちする騎士。

 その不動の構えの威容は堅牢な難攻不落の砦の如し、鮮血の様な深紅の眼で、眼前に広がる森をじっと睨みつけていた。

 程無くすると、薄暗い森の奥から無数の魔獣を従えた派手な悪魔が姿を現した。

 妙に気に障る薄ら笑いを浮かべ、此方を見ている。

 だか、攻撃を仕掛けてくる様子はなくジリジリと間合いを詰めてきているようだ。

 小賢しい事この上無い。

 この程度の数、この程度の獣程度、脅威ですらない。

 全く微動だにしない騎士に痺れを切らしたのか、醜悪な悪魔が遂に喚き散らした。

 

 「どうぉだ!この数の魔獣を前に声も出ないかっ!大人しくあの【はぐれ】を出せ!今なら優しい俺様がたっぷり可愛がってやるぜ?」

 

 己の下衆な欲望を隠しもしない様に、騎士はこの対象を生かすと言う選択肢を消した。

 

 「笑止」

 

 横穴の周りは魔獣に取り囲まれ、蟻の通る隙間もなく包囲された。

 口から唾液が垂れ、獰猛な獣の視線は全て騎士へと向けられている。

 絶望的な状況に加え、悪魔の最後の通告とも言える挑発に、騎士はたった一言だけ返答した。

 下級使徒にも劣る魔獣で、何処からあの自信を生み出しているのか。

 呆れ果て、剣を構える事すらしない騎士だった。

 

 「テメェ、自分の立場解ってんのか?良く見ろよ骸骨野郎!この魔獣の数が解らないのかよっ!!」

 

 「愚か、也!」

 

 騎士がそう呟いた直後、前方に展開していた狼の様な魔獣の首が飛んだ。

 ドス黒い血が遅れて吹き出し、鳴き声を上げる間もなく、魔獣の首は胴体と別れた。

 千切れた首は悪魔の前に落下するが、その状況を理解出来ず「へ?」と間抜けな声を出すが……

 それを皮切りに、自身が引き連れた魔獣達が次々と断末魔を上げ、臓物を撒き散らし、血の雨を降らせていく。

 その身は鋼の様な強度を誇る毛で守られ天使達の光の槍ですら易々と貫けない。

 そんな魔獣を次々と斬り伏せていく騎士を見て、悪魔は己の愚かさをこの時点で悟った。

 一分も経たずして、自信の源であった魔獣の群れは全て只の肉塊と化す。

 悪夢の様な光景に呆然としていると、いつの間ににか漆黒の騎士が目の前に立っていた。

 

 

 「俺、俺は純血の悪魔で、俺は……」

 

 「【二度は言わぬ】と言った筈だ」

 

 「た、たしゅけっ」

 

 

 騎士は命乞いに耳を貸す事なく、剣を振り落とした。

 ヒキガエルを潰した様な無様な断末魔を上げて(自称)上級悪魔の男は頭から縦一文字に斬られ絶命した。

 何事もなかった様に横穴に戻ると、落ち着きを取り戻したどこかサッパリとした表情の黒歌が立っていた。

 喜怒哀楽の激しい娘だと思うが、余計な事を口に出す程無粋ではない。

 お互い特に何も言わない微妙な間が流れる、が黒歌が急に騎士に抱きつく暴挙に出た。

 

 「……?何をしている」

 

 「あ、ありがとう……」

 

 「礼には及ばぬ、乗りかかった船、故な」

 

 「むぅ、美人に抱きつかれたらもっと嬉しそうにするにゃ!!でもってこの鎧痛いにゃ!」

 

 「全く、度しがたい」

 

 抱きつきながら拗ねる黒歌、全く動じない騎士。

 あまりの塩対応に業を煮やし、更に力を強めようとした時、洞窟の入り口付近に魔法陣が現れ、先程の悪魔とは比べ物にならない強い魔力の銀髪の給仕服を来た女が現れた。

 黒歌はその姿を見るなり、慌てて騎士の後ろに隠れた。 

 何故なら現れた給士服の女は"現魔王サーゼクス・ルシファー"の女王にして妻、グレイフィア・ルキフグスなのだから。

 大量の魔獣の人間界への移動を危惧した魔王の討伐の命を受け現れたのだった。

 

 「魔獣の気配は無く、大きな魔力を感じた所へ来て見ましたが、これは貴方が?」

 

 魔獣の屍の山と縦一文字に斬られた悪魔を見て騎士に尋ねるグレイフィア。

 

 「如何にも」

 

 「この場所がグレモリー家の管轄と知っての愚行ですか?」

 

 「降りかかる火の粉を払った迄の事」

 

 「……没落しかけているとは言え純血の悪魔を殺して何もなかったでは済まない話ですが」

 

 グレイフィアは魔力を溜め戦闘体勢を取る。

 今までとは全く格が違う猛者の圧力が辺りを包む。

 騎士もその猛者の気配を前にして漸く剣を抜き、その切っ先をグレイフィアに向け構える。

 一触即発の雰囲気は、静まりかえった再び森を修羅場へと変えた。

 

 (動いたら……殺られるッ!)

 

 グレイフィアは目の前の漆黒の騎士が剣を抜き構えた時、背筋が氷ついた。

 剣の切っ先が自分に向けられた瞬間、自分が死ぬビジョンが鮮明に見えたのだ。

 闘えば必ず死ぬ、敵にしてはいけない者を敵にしてしまった事に後悔をするが時既に遅し。

 だが、魔王の妻として、"女王"として、退く訳には行かない。

 攻める事も退く事も出来ない状況が続く中、只時間だけがゆっくりと過ぎて行く。

 

 「……参る」

 

 その瞬間は唐突にやった来た。

 特に合図など無かった。騎士は構えた剣を大きく引くと同時に一気に間合いを詰める。

 漆黒の暴風は目の前の敵を飲み込もうと猛進し、並みの悪魔では目視すら出来ない神速の剣線は、無慈悲にグレイフィアの胸へと迫った。

 

 「くっ、速すぎ……」

 

 その絶望的な速度で迫る剣を前に最早此処までかと悟り、目を瞑る。

 そして、直ぐに来るであろう衝撃と痛みを覚悟するが、何時までたっても来る事は無かった。

 痛みを感じる間もなく突き殺されたのか、と思い眼を開けると、其処には紅い髪をした最愛の夫であるサーゼクス・ルシファーが立っていた。

 そして、その心臓すれすれの所に剣の切っ先はあった。

 

 「お久しぶりです」

 

 「……あの時の小僧か」

 

 「ははは、覚えて頂けていた様で……」

 

 目の前で夫と漆黒の騎士が親しげに話す姿を見て更にグレイフィアはとても混乱していた。




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